深淵の異端者   作:Jastice

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第6話 ライフリングを設計した人はまさしく革命をもたらしたと言っていい

「すぅぅぅ――ッ……」

 

 緩やかに深呼吸。肺が限界になるまで溜め込んだ酸素を集中の原動力とし、引き金(トリガー)に指をかける。

 

「――――ッ!!」

 

 引き金が引き絞られた時、炸裂音が俺を中心として響き渡った。

 衝撃を肩で吸収。微弱な抵抗とは裏腹に鋭く発射した音素弾は目標に向かって飛んでいく。

 弾丸は光の速さと同等の威力。遠方へ奔ったその光は予め設置していた的を見事撃ち抜いた。

 

「……まだまだだな。本物には届かないか」

 

 俺が手に持つのは譜業店で要望通りに改造され、一般の物とはかけ離れた形状をした譜銃。

 銃砲身(バレル)は三倍にもなり、銃床(ストック)は鉛の固定具を付けてバランスを保たせる。

 

 そんな譜銃から発射する音素弾は大口径の大きさにまで引き上げられており、連射性を失った代わりに飛距離を倍以上にも高めた代物。

 

 俺はこの作品を『狙撃譜銃』と命名した。

 

 この世界では狙撃という物は弓矢が主力という認識が強い。

 確かに、譜銃より弓矢での威力は物理面で勝る。

 それに比べ、音素弾は弾というより熱の塊。物理的硬度はまったくない。

 こいつはあのライフルの弾と比べて重力、風、湿度等、様々な要因に大幅に干渉されるので、基本的に命中は期待出来ないし、威力もかなり半減するので使い勝手が悪すぎる。

 

 しかし、それは飽くまで通常の譜銃の場合に限る。

 こいつは狙撃という技術面に特化している。だが、まだ照準は元より装着している照準器(サイト)しかないから、自分の目を使って合わせるしかない。

 その上、銃本来の『癖』が強いから自身の勘に頼らなくてはいけない部分もあった。

 

 

 銃砲身に施す筈のライフリングも刻まれていない――。

 

 弾の威力もかつてのライフル銃に届かない――。

 

 

 まだまだ欠点は数多く並べられる。

 

「良くて2、300mが限界ってとこか…」

 

 これでもかなりレベルアップしたんだが、俺には満足できなかった。

 やはり自然に前世の物と比べてしまう。核兵器なんていう決戦兵器を作り上げるような世界だったからな、悪く言うなら。

 けど、弾の制限がないのが譜銃における一番の頼もしさといえる。

 

「実験はこれで終わりにしておくか」

 

 これにて、本日の実験は終了。丁寧に部品を分解し、一つ一つ専用の革布の指定の場所に収納していく。

 ここは人がめったに近づかない空地だから、こういう私情で利用するには助かる。

 潮風で部品が傷まないか心配になるのを除けば、だけどな。

 

 

 相変わらず入り組んだ道という道を進み、ようやく街地へと戻ってくる事が出来た。

 狙撃譜銃は皮布を巻き、ベルトを細工して背中に背負えるようにしている。

 形が形だから変な視線を浴びたくないので、こうしている。

 そんなんで街中を歩いていると、広場で多くの男女が集まって雑談しているのが目に入った。

 道中、帰路を歩きながら意識を雑談に向けてみた。

 

「もうすぐガイラルディア様も三歳になられるのね」

「今度の誕生祭はどのような出し物があるのかしら?」

「そういやジグムント様が後ほどここフェレス島へ視察に参られるらしいぞ」

「ホントか!? そりゃあ大変だ、店に戻った方が良いな」

 

 確かに珍しいな。

 

 

【ジグムント・バザン・ガルディオス】

 

 マルクト帝国領ホド島を統治するガルディオス伯爵家当主にして、フェンデ家当主が扱う古流剣術アルバート流の派生――シグムント流の使い手。

 たしか二人の子を授かったんだっけ。

 その片割れが確かガイラルディア・ガラン…。

 

 ま、んな事俺には大して関係ないがな。

 それより、早く【栄光を掴む者】についての手掛かりを見つけないと今後の整理がつかない。

 アホらしいが、ホドでの図書館行きを逃したために資料が少なすぎて、正直困っている。

 誰かの家から古代イスパニア語関連の書物を譲ってもらうしかもう手立てがない。

 さらにはっきり言えば――。

 

 

 ――金がねぇんだ……。

 

 

 

【金欠狙撃手】

 

 

 

 いやだぁーッ! こんな肩書きは絶対いやだあぁぁぁッ!!!

 

 

 

 

 そのまま俺が苦悩していたのも過去の話。

 予定通りにホド領主はやって来た。

 護衛としてナイマッハ家当主――ペールギュント氏を筆頭に幾人かの護衛兵を連れて、だ。

 街はただ今、歓迎のためにパレードという現状がお似合いだ。

 

 お、ノワール達もいた。ウルシーは親父さんに屋台で売られてるぶどう飴をおねだりしてるし、ヨークは何やらノワールを肩車して膝をがくがくさせている。

 相変わらず下っ端扱いされてんな、あいつら……。

 

 一方、俺はお気に入りの高台にいた。

 やはり見晴らしがいい。街全体を殆ど見渡せるし、良い所だとハッキリ言える。

 

 ん? ガルディオス伯爵が子供を二人連れて船から出てきたな。

 たぶん、女性の方はマリィベル・ラダン・ガルディオスだろう。

 確か歳の離れた姉だと聞いていたから間違いないだろう。

 となると、来てないのはユージェニー夫人か。

 

【ユージェニー・セシル・ガルディオス】

 

 キムラスカ王国セシル公爵家の出身で、和平の証としてガルディオス伯爵のもとに嫁いだ方らしい。

 今でもキムラスカ出身だからと、何かと反発をしてる派閥がマルクト首都グランコクマにいると黒い噂が流れているらしいが、今のところガルディオス伯爵が上手く受け流している。

 その事に関しての心配はあまり必要なさそうとの見解だ。

 でも影響を考えてか、ユージェニー夫人自身は今回の視察参加は拒否したそうだな。

 マルクト貴族の間で何やら裏で流れる噂が関係しているとか、ハッキリとした真相は定かではない。

 

「ユージェ二ー夫人はキムラスカよりの間者(スパイ)との事らしい」

 

 これが本当かどうかは俺には分からない。

 だが、ガルディオス伯爵は愛妻者と評判で、婦関係も良好であると聞いているから、その噂は世迷い言として俺は取らせてもらうとしよう。

 さて、そろそろこの視察も終わりに向かってるから帰るとするか。

 

「……ん?」

 

 一瞬見間違いかと思いたかったが、なるほどなるほど……。

 馬鹿な事を考える輩というのは世界を超えてもやはりいるらしい。

 

「流行ってんのかねぇ……」

 

 背中に背負った狙撃譜銃を取り出し、部品を丁寧に、且つ手早く組み立てていく。

 照準は実験の際に覚えた癖が頼りだが、この距離ならば問題はない。

 今回は精密性を考慮して、主に地面に伏せた伏射(プローン)と呼ばれる姿勢を用いる。

 二脚(バイポッド)はまだ作っていないから、銃床のみを地面に接面して固定。

 

「あんたも仕事としてやって来てるのかもしれないが、今日は娯楽が少ないフェレスのせっかくの祭りだ。あの馬鹿三人組もこの楽しみを堪能している」

 

 初期動作となった深呼吸を開始。

 増した集中力と視力を駆使し、目標に向かって――。

 

「……発射(ファイヤ)」

 

 幸い、パレードの音楽が鳴り響く。

 銃声はこの騒音の一つとして誰も気にしまい。

 一秒以下のタイムラグで生じた着弾。

 まずは標的が手にしていた物を破壊、

 

 続けてフォンスロットを開いて音素を集束し、次の弾丸を形成。

 

「……第二狙撃(セカンドショット)」

 

 慌てふためく標的が次の行動に入る前に無効化する。

 狙うは利き腕、潮風が吹き始める。

 右に銃口を微調整し、予め狙った射線に標的が重なる瞬間(タイミング)を狙うように――。

 

「……発射」

 

 第二射の発砲音もまた、パレードの音楽によってかき消される。

 

「よし、撤収」

 

 さて、騒ぎになる前に逃げるとしよう。

 後は護衛の騎士達が仕事をしてくれる。

 

 

 

 

 

 この日、フェレス島でのガルディオス伯爵来訪の影では一人の暗殺者が捕縛される。

 男の手には長弓が握られ、番える矢の矢じりにはテオルの森で採取できる神経系の猛毒が塗られていたと報告された。

 しかし、不思議な事に護衛騎士達が現場にたどり着いた時には、暗殺者は血を流した腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら慌てて逃げようとしていた。

 更には、その傍には木端微塵に壊された長弓の残骸が転がっていたらしい。

 有無を言わさず、暗殺者は捕えられ、後に判明したのは彼に依頼した人物はマルクトで近頃勢力を伸ばし始めている子爵であったとの話。

 

 この余談として、暗殺者の腕に付けられた傷は譜弾によるものと判明したが、調査した所、譜銃を扱う者の姿を見たという証言はどこにも出てこなかったとの事だった。

 

 ――ガルディオス家の暗殺を未然に防いだ義侠者。

 

 名乗り出る事のなかった最大の誉れを得るべき人物をガルディオス関係者達はそう呼ぶ事となる。

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