週末明けの月曜日。
俺は今日、男の時通っていた高校に転校生として行く事になっている。
ちなみに書類上、「神崎榛樹」は遠い親戚の家に行ったという事になっている。
その入れ替わりとして榛樹の双子の妹である「神崎榛名」こと今の俺がこっちに来たという事になっている。
今は担任が紹介をするということで職員室にいるんだが、正直に言ってかなり面倒くさい。
昨夜、姉ちゃんに女の子らしい言葉遣いや作法について長時間レクチャーされた。
一人称に私と言うことに少しばかり抵抗を覚える。
だがまあ、一人称が俺なんて女子は少ないし、目立つからな。
では俺が何を面倒くさがっていると言うと、今までは生徒どころか先生にすら話しかけられる事は稀にしかなかった。
しかしなんだ、今の姿だとかなりの先生が話しかけてくる。
コミュ障の俺が更に女言葉と笑顔で対応するなんて神経がすり減る。
「おーい神崎妹、今からSHRだから教室行くぞー」
「あ、今行きます!」
担任に呼ばれ、荷物を持って教室に移動する。
先生達であの話し掛けられようだ。
生徒なんか比じゃないだろう。
だが姉ちゃんには、
「愛想良く振舞うこと」
なんて言われてるから無視するなんて事できない。
確かに女子って闇深そうだもんね。
「お前らも知ってると思うが、今日は転校生が来る」
マジで!? とか 聞いてなーい とかが教室から聞こえてくる。
先生何も言ってなかったのね・・・。
「入っていいぞー」
先生に呼ばれ、学生鞄を股の前で持つ。
平常心、平常心、平常心、平常心。
男の時俺なら適当に済ませて席に座りぼっち状態に移れるんだが、今はそうはいかないからな。
深呼吸し、ドアを開け教室に入る。
途端、生徒達が一瞬で静まる。
喋っていた声が消え、視線が俺に集まる。
いやあの、男子ならわからなくもないんですけど、なんで女子まで見とれてらっしゃるの?
「神崎榛名です!宜しくお願いしますね!」
「神崎は神崎榛樹の双子の妹でな。
元は遠い親戚の家にいたんだが、兄がそっちに行くということで彼女がこっちに来たんだ」
ざわつき始める教室。
口々に話しているが、1つ気になるのがあった。
『ねぇ、神崎榛樹って誰だっけ?』
『ほら、いつも後ろで寝てたあれだよ』
『そうだっけ?』
俺の知名度低すぎだろ。
俺のスクールカーストはかなり下位に属してるのね。
いやまあ自覚はしてたんだけどさ。
「神崎は窓際の後ろの席に座ってくれ」
「はい」
席に向かう途中に視線が集まってくる。
好奇の視線が俺にとってはかなり気分が悪かった。
「疲れたー!」
やはり、1時間目が終わったら質問攻めされた。
幸運な事に、男の俺の知名度が低かった為、好みとかはそのまま引用しても問題はなかった。
だがまあ、この質問攻めは疲れるな・・・。
言葉遣いにも気を配らなければいけない為、更に披露が貯まる。
「にしても、姿かたちが変わっただけでこの対応の変わりよう。中身は同年代不信のぼっち神崎榛樹なんだがな」
所詮、人間なんて先入観と固定概念でしか他人を判断しないもんな。
かくいう俺も例外ではないし。
「おーい、神崎さーん」
振り返るとそこには恐らく地毛だろう茶髪を肩くらいに切った女子と
隣には恐らくハーフの金髪をサイドポニーにした女子がいた。
・・・えーっと、誰だっけ?
なんで覚えてないかって?
仕方ないじゃん、話さないから。
「どうしたの?えーっと・・・」
「あたしは唐沢歩美(からさわあゆみ)!それでこっちは」
「鶴見椛(つるみかえで)よ。よろしくね神崎さん」
「うん!よろしくね、唐沢さん!鶴見さん!」
「午前中は質問攻めにあってたから、人が少なくなった昼休みに話し掛けてみようかなって思ってさ」
「疲れているようだったらごめんなさい」
「ううん大丈夫!話し掛けてくれて嬉しいよ!」
この子らめっちゃいい子だな。
それに本心じゃない事を返すと心が痛んでくる。
「男子のがっつき方が異常だったわね」
「そういえば男子によく質問されたような・・・」
「まあ、あまり気にしなくてもいいんじゃない?男子なんて可愛い子見かけたら話し掛けるくらい単純なんだから」
「えー、でも、唐沢さんと鶴見さんの方が可愛いよ〜」
「いやいや、神崎さんのが可愛いっしょ」
可愛い子を見かけたら話し掛けるくらい単純か・・・。
俺がこの学校にいて、可愛い転校生がこのクラスに来たらなんて反応をしていただろう?
恐らく無関係を貫いていただろう。
「にしても、神崎さんのお兄さんも何か一言くらい言ってくれれば良かったのだけれど・・・」
「急に決まったことだから仕方ないよ。ごめんなさい・・・」
「いやいや、榛名が謝ることじゃないって!」
「でも、迷惑をお掛けしてしまったみたいですし・・・」
鶴見椛が言っていた言葉は俺に悪印象を与えない為の保険だろう。
だってこいつとは一度も話をしたことがないのだから。
「というか歩美、もう下の名前で呼んでるわよ」
「あ、ごめんね神崎さん、つい癖でさ」
癖で初対面の相手を下の名前で呼ぶ!?
なんつーか凄くフレンドリーな子だな。
「ううん、大丈夫だよ! 私も歩美ちゃん、椛ちゃんって呼んでいいかな?」
「ぜんぜんおっけー!」
「私も構わないわ。その方がお互いに楽でしょうから」
初日はまあまあ好印象を残すことが出来たかな?
今日の感じを見た限り、今までの高校生活は送れなさそうだな・・・。
話し方といい、仕草といい、慣れない事はするもんじゃないな。
これはストレスが貯まりそうだ・・・。
放課後、唐沢と鶴見に遊びに行くか誘われたが、引越しの片付け云々という口実で断らせてもらった。
もちろん引越しの片付けなどあるはずもなく、家に帰ってこの重圧から開放されたいだけであった。
「きゃっ!」
「おっと」
どうやら前を見てなくて男子の背中に当たったみたいだ。
なんか変な声も出たし・・・。
なんか、女子目線の男子って大きく感じるな。
「ごめんなさい!」
「大丈夫だよ。それより、怪我はないかい?」
優しい言葉と共に微笑みかけてきたこのイケメンを俺はよく知っている。
名前は秋津翔(あきつしょう)。
学内人気男子TOP1 の超モテる輩である。
聞いた話によると、どの女子に告白されても断っているらしい。
女子に告白されるとか羨ましいなこんちくせう。
いや違う違う。
「怪我がないのならよかった」
爽やかな笑顔で手を差し延べてくる秋津。
なるほど、学内人気男子TOP1 なだけあって優しさも持っていると。
なにこのキメラ・・・。
「あ、ありがと…」
ええい、顔を赤らめるな俺!
こいつは俺らスクールカースト最低ランクの敵だ!
「どういたしまして」
だからその爽やかスマイルを今すぐやめろ!
惚れてしまうだろ!
待て待て待て、男に惚れたらただのホモになるだろう!
いや、今は女だから自然なのか?
なんで俺、自分にツッコんでるんだろう・・・。
にしても一刻も早くここから離脱をしたい。さっきからこいつに手は握られてるし、周りの女子から手を離せっていう目線が凄い。
「あ、あの…手を……」
「ん? ああ、ごめんね。可愛かったからつい握っちゃってたよ」
なにこいつ!?
平然とこんなこと言えるの?
もうやだイケメン怖い。
「君、見たことないけど転校生かな?
俺は秋津翔だよ」
「えっと、私は神崎榛名です…」
「よろしくね神崎さん!」
「よろしく、おねがいします」
逃げたい逃げたい超逃げたい。
今すぐ走り去りたい。
頼む、誰か助け舟をくれ!
「じゃあ俺は部活だからもう行くね。
また明日!」
「あ、うん。また明日…」
意外にも助け舟をくれたのは秋津本人だった。
でもまあこれでやっと帰れるよ。
おそらく今日は人生で1番疲れた日だろうな。
帰って寝ることにしよう。