Fate/off the Record   作:十字

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「はっ、何だこのタイトルは?」

「あの女狐め、さては勝手に改変したな?」

「しかし、これはこれで上出来だ。実に品の無い……奴の本性を著した良いタイトルじゃないか!」

「……おっと、いかんな。俺の呟きなぞ読ませるわけにはいかん」

「ほら、早くページを捲れ。正義の味方でない衛宮士郎、苛められっ子の間桐慎二に次いで、三人目の主人公のお披露目といこう」


Note. 3 超絶美少女良妻狐キャスターちゃん<caster>

「みこーんっ!!! 最強美少女キャスターちゃんの大・登・場!」

 

真夜中二時の境内に響き渡る、とんでもなく異質な黄色い声。

召喚者である柳洞一成は、唖然とした表情でそれを見つめていた。

 

 

 

「……こんな時間に、女子が柳洞寺に何の用だ?」

「んー? 何の用とはどういうことです? 私を呼び出したのは他ならぬ貴方様ではないですか!」

頭頂部からぴょこんと狐耳を生やした少女(?)は涼しい顔でそう言い放った。

「そんなはずがあるか! 俺が呼んだのは英霊であって、面白おかしい漫画のヒロインではないのだぞ!」

「いやいや、いきなりそんな現実逃避に走らないで下さいよ。や、まあヒロインってところは合ってますけどね? それもヒロイン中のヒロイン、どう転んだってメインヒロインってやつです、ええ」

「何ということだ……まるで狐に化かされたような気分だ」

「あっはっはー。上手いことを言いますね、ご主人様?」

 一成が放心するのも無理はなかった。

 英霊とは、マスターに縁のある、あるいは同調するものが顕現するものだという。それが、堅実に、誠実にを主義として生きてきた一成の前に現れたのは、和服紛いを破廉恥に着崩し、獣耳と尻尾を生やしてピンク色のオーラを纏いながらきゃーきゃー叫ぶ少女だったのだから。

「何ですか、その顔は? こんな最きゃわサーヴァントを捕まえてきて、まだ何か不満があるとご主人様はおっしゃるのですか? もしかしてアレですか。女性に魅力を感じられない、同性ラブな感じの人ですか?」

「……容姿言動その他何もかもが気に食わん。そして勘違いするな、俺が女性に魅力を感じないのではない。お前に魅力がないというだけだ」

 えー、と不満そうな声を上げ、ずいっと顔を近づけてくるキャスター。

「大体、私は型月人気投票でなんと3位なんですよ? 魅力がないってのは無理がありません?」

「な、何を言っているのかまるでわからんが……」

 キャスターから顔を背け、辺りに目を泳がせる一成。と、落ち着いてきたことである疑問が浮かんだ。

「まず、貴様は何者なのだ? とても仏寺の関係者とは思えないのだが」

「んー。その勘は当たってますねえ。ま、ご主人様にはお釈迦様を呼ぶほどの徳は無かったってことですよ。でも大丈夫。このキャスターはちゃんと、そんなご主人様に尽くして尽くして、尽くしまくりですから!」

「いや、あのお方に来ていただけるとは流石に考えていなかったが……しかし、ならば何が拠り代になった?」

 キャスターの全力奉仕宣言を無視し、疑問を口にする。するとキャスターは、

「そうですねえ。確かにそこは少し謎……あっ、いや、あれですね、アレ!」

「あれ、とは何だ」

「ほら、あれですよ。あの石ころ」

 そう言って、今居る石畳の脇の砂利道を指差した。

「は……? 石ころ? ……ほお」

「……あっ。ご主人様、今『何だコイツ石ころで喚べる英霊なのかよ……』って顔しましたね!? 違いますよ! あの石ころは特別なんです! 霊装の破片とも呼べる代物なんです! それで、それがたまたま、超ラッキーなことここにあったって次第です!」

「何故そんなものが……」

「えー? ……そこはご都合主義ってヤツですよ。ツッコミを入れてはいけません」

 そう言ってドヤ顔で仁王立ちする女狐(一成の中ではこの呼び方で固まった)に、なおも面白くない感情を隠せない一成。しかし、いつまでも嘆いていても仕方ない。サーバントはそう簡単にチェンジできるような存在ではないのだから。

 諦めてお寺のほうに戻ろうと、身を翻した一成だったが、

「……それで。ご主人様は、かの聖杯に何をお望みで?」

 キャスターに呼び止められた。

「……」

 今までの、芝居がかったようなテンションの声ではない。むしろ、その逆。

 圧倒的上位存在が、こちらを試す対象として。

 柳洞一成の存在価値を問うかのように。

「私は、自らを召喚したご主人様を信頼致しましょう。貴方様の命に従い、その願望を満たすためこの身を捧げましょう。……ですが、それでもこれだけは問わねばなりません」

 先程まで女狐だと罵っていた相手に恐怖を覚える。粘つく、嫌な汗が全身を垂れていくのがわかる。

 しかし、それでも一成は断言した。

「魔術師達に……復讐を果たす」

「10年前、魔術師達は、聖杯戦争という儀式で全てを奪い去った。寺は半壊し、俺の家族は……殺された」

 キャスターに背を向けたまま、続ける。

「なればこそ、聖杯戦争にて復讐を果たす。ふざけた願望のために他を踏みにじろうとしている魔術師共から全てを奪い去る」

「……今回の参加者が、前回の聖杯戦争とは無関係であったとしても、ですか?」

「そうだ。これはこれから先、俺が生きていく上で成さねばならぬ宿命なのだから」

 対するキャスターの返事は無かった。背を向けている一成には、その表情を伺うことはできない。

 

 しばし、静寂が訪れる――

 

 そして。

「成る程。ご主人様は中々に非業の人生を送ってきたのですねえ。ではこのキャスター、喜んでご主人様の復讐の槍と為りましょう。……キャスターちゃん、バーサクモード発動です☆」

 帰ってきた女狐が一成の前にくるりと飛び込み、再びきゃーきゃーと騒ぎ出した。拍子抜けした一成はついにぺたりと地に膝をつき、天を仰いで呟く。

 神よ、と。

「どうしました、ご主人様? ついにこのキャスターちゃんの可愛さに、イロイロする前から腰砕けになっちゃいました?」

「お前のテンションの移り変わりにはついていけん……他陣営との戦い以上に労苦させられそうだ」

 するとキャスターはにやりと笑った後、ふっと目線を下げて言った。

「でも私も、ご主人様の不安定さに苦労させられるんだろうなと思いますよ?」

「何を……」

「だってご主人様、本当は復讐なんてしたくないって、顔に書いてありますもの」

「なっ……!」

 動揺する一成に、ふふっと微笑むキャスター。そして彼女はこう付け足す。

「ま、何にせよ主の思いに応えるのが、良妻というものですから」

 唖然として口を半開きにしたまま、月明かりに照らされたキャスターを見据える一成。

 

 目の前には、一人の神。

 その神は、彼が今まで信仰してきた対象に非ず。

 しかし、それ故彼を救えぬという道理もない。

 

 そうして、彼の。

 彼らの聖杯戦争は始まった。

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