ようこそ!VRゲーム探偵事務所   作:逆月 燐

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前々から出来てはいたが、投稿するかどうかは悩んでいた。理由は本文と後書きを見たら、あっ……ってなって何か察する。
(出来ていたのはこの1話だけで、全体がすでに完成しているとは言っていない)


異世界(VR空間)チートハーレムものは真っ黒黒助だけで充分だ。

某日。≪アルブヘイム・オンライン≫、通称≪ALO≫の≪浮遊城アインクラッド≫一層、始まりの街の一室にて。

 

 

「ちょっとキョウダイ!この縄を早く解いてくださいよ!」

 

 

一人の猫妖精ケットシーのアバターが天井から吊られていました。

 

 

「嫌。面白いから。ね~」

 

 

「ね~」

 

 

面白いから、と言ったにも関わらず、我関せずといった感じで紅茶を啜っている火妖精サラマンダーの女アバター、キョウダイさん。

本当に面白がっているのはキョウダイさんの横にいる、闇妖精インプの女アバターである。

不気味なほどに指を動かし、涎を垂らしながら迫って来るインプ。

 

 

「なあに、新作VRエロゲーのモデルを作るためのデータ採取だよ~。恐くないよ~」

 

 

「超恐いよ!ルローさん!だいたいその理由毎回言ってんじゃん!」

 

 

何故か自信満々に返すルローさん。

 

 

「エロゲー業界はVR技術が開発されて以来、日進月歩で競争が激しいの!だから新作をバンバン出すの!バンバン出すとか何か卑猥!……まあ、VRエロゲーのパイオニアはうちなんだけどねっ!」

 

 

最後のドヤ顔うぜぇ。

 

 

「ハイハイ、よく稼いでいていいなぁと思いました」

 

 

「そーそー。だから日本の私立とほぼ変わらない学費クソ高国立大学で2留できるんだよね~」

 

 

日本の大学の学費は国立でもクソ高い。昔はもっと安かったらしいが……。グローバル化がどうのこうのって言うならまずは学費からやれよな。留学とか英語の授業増やすとかじゃなくて。

心の中で愚痴を零していたら傍観していたキョウダイが口を挟む。

 

 

「ルローさん。今年も留年でしょ?」

 

 

「当ったり前じゃん!一緒に卒業しようね~」

 

 

「ね~」

 

 

今年大学一年生のキョウダイと一緒に卒業、ということはルローさんはあと二回留年して大学八年生として卒業するということだ。まあ、親が会社を経営して尚且つそこそこ稼いでいるからなせる業なのだろう。……エロゲー制作という全く子供に誇れる仕事ではないが。

 

 

「おおっと、時間稼ぎには乗ってあげたからもういいでしょ?神への祈りももう済んだよね?」

 

 

「も、もうちょっと待って、ルローさん!まだ心の準備が……」

 

 

この言葉はむしろ逆効果だったらしい。ルローさんの笑みがより獰猛になる。

 

 

「そう?心の準備が出来たらミラちゃんは快く受け入れてくれるのかな?」

 

 

「あ、ああ。ただ心の準備が出来るまでに……そうだな……あと百二十年ぐらいかかると思うけど」

 

 

せめてもの抵抗は完全にスルーされた。

 

 

「心の準備なんてどっちでもいいよ。君の心の中で君自身が自覚出来る部分は一部に過ぎないからね」

 

 

「そうだよミラ。ほとんどのことは無意識で処理されるの。だから……」

 

 

「「ミラの体に聞けばいいだけだよ!!」」

 

 

クソッ、この京大コンビが……両方理系なのに論破されるとは……。

満面の笑みを浮かべたルローさんが近づいてくる。

そしてその手がゆっくりとケットシー特有の尻尾に触れて……。

 

 

「っあ……」

 

 

尻尾は本来人間には無い器官であるが、このゲーム内では何故か尻尾にも感覚がある。そしてそんな尻尾を触られた時、ぞわぞわした奇妙な感覚に襲われる。今の様に。

 

 

「今日も頑張って抵抗してね。早くダウンされるとつまらない……あー、でもそれはそれで面白いかも」

 

 

「傍観者としては長い方が良い」

 

 

そんな二人の会話がどこか遠くのことの様に聞こえるほど頭がぼーっとしている。

ルローさんは尻尾の根元を右手でしっかりと掴み、左手を丁寧に上下させている。

優しく、何度も。

 

 

「これ他のケットシー仲間にも好評でさー、リピーター続出なんだよねー」

 

 

ふわふわとしていく意識を何とか繋ぎ止める。

 

 

「ならそのケットシーさんたちでモデリングしてくださいよ!」

 

 

ルローさんの手の動きが速くなる。

 

 

「その娘たち、私のリアルの友達なんだよね~。流石に友達に『エロゲーのモデル作るからちょっと体いじらせてね~』とか言えないでしょ?」

 

 

俺はどうなんだ、と言いそうになってようやく気づく。

俺、ルローさんのリアル知らないわ。

かの有名なデスゲーム≪ソードアート・オンライン≫から戻ってきて以来、俺は東京にある≪SAO生還者≫のための中高生向けの学校に通っている。

 

 

そして、キョウダイとはリアルからの知り合いで、キョウダイもSAOをプレイしていたが、キョウダイはSAO開始当初既に大学生だったためSAOから戻ってきて以来、紆余曲折を経てSAO開始当初に通っていた大学とは段違いの偏差値の京都大学に進学したのである。

そのキョウダイが連れてきた人物こそが浪人と留年のエキスパート、ルローさん。つまり友達の友達である。ここから分かる通り、ルローさんは「流浪さん」ではなく「留浪さん」である。

 

 

「それに……ミラのアバターは可愛いしね」

 

 

「~~ッ!!」

 

 

体が一瞬大きく震えて声にならない声が出る。

ALOを筆頭にこの手のVRゲームは一つのアカウントに付き一人のアバターしか作れない。そして、アバターの外見は自動で生成される。

このため、自分の思うアバターを手に入れるために大金を惜しみなく使う人も世の中にはいるのだ。例えば目の前の変態みたいに。

あぁ、意外と世の中って狭いなぁ。

良い外見のアバターは他のVRゲームでのプレイ時間が長いほど出やすいらしい。つまり、SAOから引き継いでいるということは、約二年間という途方もない数字で新規様に圧倒的な差をつけているということである。

 

 

「可愛いとかお世辞も大概に……」

 

 

その先が言えなかった。変な声が出そうで。

尻尾を握っていた手がいつの間にか胸元をまさぐっていたからである。

 

 

「お世辞でも冗談でもないよ。スタイルも良いし、ミラは可愛い。こう、本来はありえない快楽に溺れているところとか」

 

 

そう。ありえないのだ。本来男の俺がVRゲームの中で女性相手にリアルの俺ではありえない大きさの胸を触られて犯される一歩手前の状況になっているということは。

VRゲーム機の次世代機、アミュスフィアにおいて性別の判定が間違われることはほとんどない。さらに言えば、先代の棺桶兼殺人電子レンジ型新世代ゲーム機ことナーヴギアでは尚更ありえないことだった。何故次世代機で性能が落ちているのか……。

まあ、安全面の強化のために出力を失ったのが理由だと思うが文系の俺には詳細はわからない。

ともかく、俺はアミュスフィアに性別を間違われた数少ない……というより少なくとも俺の知っている範疇ではそんな奴は一人もいないから、唯一(多分)のプレイヤーである。

 

 

「溺れて……なんか……」

 

 

「偶に物欲しそうな顔で私を見ているのによく言うね」

 

 

「そんな……こ……と……」

 

 

言葉が途切れ途切れになる。心臓がいつもより強く脈打つ。

「さて、そろそろ本題に入りますか」

ルローさんが私の手を掴む。当たり前だが細い指だ。

そんな事まで意識して体が熱くなる。

私の手を取ったルローさんの手も、熱かった。

その手が見慣れた動きをする。手に力が入らず止められない。

見慣れたウインドウが出てきて、あまり見慣れない場所を押す。

 

 

武装全解除のその先――衣服全解除。

眩い光とともに衣服のポリゴンが砕け、衣服がストレージに格納される。白磁のような肌が露わになり息を呑む。

自分のアバターなのに未だに見慣れない。

多分男アバターでも肌を晒すことはあまりないと思うけど。

ルローさんの両手が胸から横腹、太ももにかけてゆっくりと動く。焦らすように、ゆっくりと。

身を動かしても拘束されているため逃れられない。

その様子を見かねたようにキョウダイが口を開く。

 

 

「ダメだよ。いくら抵抗しても逃れられない。……その快楽からは」

 

 

スルスルと内ももを撫でる手。

その手が次には臀部を優しく撫でる。

 

 

「ひっ……」

 

 

呼吸が荒くなり、甲高い変な声が漏れる。

臀部からまた尻尾を触る。

さっきとはまた違った感覚にゾクゾクする。

そして背中を一撫でしていく。

一連の流れを数回繰り返した後、ルローさんが耳元で囁く。

熱くなった耳に息が吹きかかるだけでもぞわっとする。

 

 

「さあ、そろそろ始めようか」

 

 

キョウダイの気の抜けた声が頭の中で響く。

 

 

「今回は飛ばさないでねー。つまんないから」

 

 

このアミュスフィアは安全性を向上させるため、使用者の脳波や心拍数をモニタリングしている。そして一定の限度を超えると強制的にログアウトさせられるのだ。

過去、ルローさんに同じようなことをされた時、俺は強制ログアウトさせられたらしい。

キョウダイが言っているのはそのことだ。

 

 

「意識の残っていないアバターを一方的にやるのも面白いけどね」

 

 

ルローさんがさらっと恐いことを言った。

 

 

「もしかしてそれって前のこと?」

 

 

「ん?そうだよ」

 

 

ケロッとした顔で言いながら尻尾を掴む。

 

 

「んっ……」

 

 

全身から力が抜ける。ルローさんの指が恥部へと動く。

 

 

「入念に準備したからね~。心配しなくていいよ」

 

 

その後、快感で明滅した意識の中で私のリビドーが掻き立てられ、エクスタシーへと……至らなかった。

 

 

「はぁ……はぁ……あれ?」

 

 

現実を理解できていない私の頭に間の抜けた男の声が響く。

 

 

「ただいま~オレのハーレムたち!……って何してんの!?」

 

 

「いつものことだよ。空気読め、エキベン」

 

 

厳しいルローさんの言葉にもめげず、反論する茶髪の音楽妖精プーカの男アバター、エキベン。

 

 

「エキベンって呼ぶな!オレにはゼンっつーキャラクターネームがあるんだよ!後、VRゲーム内じゃ外から部屋の中の声聞こえねーから空気読めないの!窓でもあれば話は別だけどよぉ……ほら」

 

 

指差した先には遮光等級の最も高いカーテンがあった。

 

 

「だから無理なんだよ。分かった?」

 

 

返答の声は冷たい。

 

 

「分かっている。だが読め。君は現在形という言葉を知っているか?私が『空気を読め』と言ったのは君が部屋に入って来てからだ。確かに部屋に入る前のことも考えろという意味も込められているが君は本質が見えていない、だから駅弁大学止まりなんだ」

 

 

「ぐっ……」

 

 

少し意識がまともになった俺が引き継ぐ。

 

 

「とにかくこんな姿だからあんまり見ないで、ってこと」

 

 

天啓を得たように表情をするエキベン。

 

 

「流石先輩、ぱないっすわ~」

 

 

俺は高2なので実際は大学一年生のエキベンの方が年上だがVRゲーム歴では俺の方が長いので先輩と呼ばれている。

 

 

「分かったらさっさと出て行って。一時間で十分だから」

 

 

「はいはい。何でオレのハーレムはこうも厳しいのかねぇ」

 

 

エキベンが出ていくとルローさんが溜め息を吐いた。

 

 

「エキベンのせいで台無しだよ。まあ、ペース上げてやるから安心してね」

 

 

「え。それ全然安心することじゃな……いっ……」

 

 

再びルローさんの指が細やかに私の身体を撫で始める。指の一撫でが着実にじわじわと私の抵抗心を蝕んでいく。

 

 

「そういえばエキベンが来て手を止めた時露骨に残念そうな顔をしてたよね。おねーさん、見逃していないからね」

 

 

無意識的に体が強張った。

 

 

「そんなこと……あっ、激し……ッ~~」

 

 

今まで傍観者に徹していたキョウダイが立ち上がった。

 

 

「私も手伝う」

 

 

「おっ、珍しいね。サンプルとして手伝ってくれるのかな?」

 

 

「違う」

 

 

「ケチ~」

 

 

キョウダイは私の顎に手を掛け、自分の顔の方へと引き寄せる。

そして、キョウダイは私の耳を甘噛みしながら乳房を鷲掴みにする。

サラリと流れるキョウダイの髪が肌に擦れるだけでも身悶えする。

 

 

「~~ッ」

 

 

頭の中だけでなく、目の前まで真っ白になった。

体の芯の熱いものだけが感じられる。

 

 

「トロンとした表情のミラちゃん可愛いなぁ。うへへ。涎垂れてるよ。それも可愛いけど」

 

 

もう何を言っているのか識別出来ない。

キョウダイが口元を舐め、その流れでキスしてくる。

 

 

「んん~~ッ」

 

 

長い口づけが終わると、顔の向きを力任せに変えられ、ルローさんともキスをした。

私の全てを吸い尽くそうとするような荒々しさだった。

朦朧とする意識の中、それでもどうにか抗い続けてきた。でも、もう限界だった。

意識を覆い尽くす快楽の波に、もう抗うことは出来なかった。

抵抗する気力も力も失い、だらしなく手足が投げ出される。

やがてオーガズムに達し……。

 

 

最後に意識に残ったのは「ただいま~」という女性の声だった。

目覚めると誰かに膝枕され、頭を撫でられていた。

 

 

「あっ目が覚めたのね。ふふっ、やっぱりミラちゃんは可愛いわね」

 

 

緑色の髪をして温和な笑みを浮かべた鍛冶妖精レプラコーンの女性アバターが視界いっぱいに入った。

 

 

「あ、ありがとうございました。イクスさん。イクスさんは優しいですね」

 

 

慌てて起き上がろうとした俺の頭を優しく抑えるイクスさん。優しい。

 

 

「いいのよ。またひどいことさせられていたのでしょう?」

 

 

猛烈に抗議する声が飛んでくる。

 

 

「ひどいことじゃないです!気持ちイイことです!体験してくれたら分かるって何度も言っているじゃないですか!」

 

 

「遠慮しておくわ。ミラちゃんで代用してね」

 

 

「ハイッ!!」

 

 

前言撤回、イクスさんマジ鬼畜だわ~。

キョウダイの声が続く。

 

 

「だいたい、ひどいことをするのはミラの方ですよ!リアルでは私よりも薄っぺらい胸板なのにアバターになればいやと言うほど現実を叩きつけてきますからねっ!」

 

 

「あら~。それはひどいわね」

 

 

「イクスさん、それキョウダイが勝手に被っている被害だから気にしないで!」

 

 

そんなやり取りを続けていたらエキベンが帰って来た。

 

 

「ただいまー。もういいだろ?」

 

 

「オッケー。問題なし」

 

 

ソファに腰掛けながらエキベンが感慨深く呟く。

 

 

「やっぱハーレムってぱないわー。あの≪黒の剣士≫にも負けてないわ~」

 

 

「いやそれはないでしょ。ただ男アバターがギルドに一人しかいないってだけだよ?厳密にアバターの中身まで考えたら男二人だし。それに誰もエキベンに好意を寄せてないのが致命的だよね。つーか、そんな大言はまずデュエルで勝ってから言いな」

 

 

ぐはっ、とのけ反るエキベン。

ちなみに≪黒の剣士≫というのはSAOをクリアに導いたキリトという奴のあだ名の一つである。元SAOプレイヤーならほとんど知っている存在で、SAOをやっていなくてもキリトはALO内の定期的な大会で上位に名を連ねているから有名である。

全身黒ずくめの装備を身に纏っていることからこんな黒絡みのあだ名が多い。SAO時代から際立つのがユニークスキルの二刀流である。

そんな有名人にも関わらず、俺はほとんど話したことがない。キョウダイもほとんどないらしい。リアルの高校が同じだが、俺は文系、奴は理系なのでやはり接点がない。

しかしまあ、何故キリトというアバターがこんなエキベンみたいな多くのプレイヤーのやり玉に挙げられるのか。

それは至極単純な理由である。――キリトの周りには可愛い女性アバターが多い、その一点である。

世の中って単純。お願いだから受験数学もこのぐらい単純にならないかなぁ。

 

 

その後、適当にモンスターを狩ってお開きになった。

リアルで用事のあるルローさん、キョウダイ、エキベンが順番にログアウトした。

 

 

「ミラちゃんはまだ残るのね。じゃあバイバイ」

 

 

「うん。バイバイ」

 

 

いつもは皆と同じタイミングで抜けるのに、何故今日、イクスさんは最後まで残っていたのか。その些細な疑問を口には出さなかったが、答えはすぐに分かった。

 

 

「今日はミラちゃんがうわ言のように『しゅき、大しゅき!気持ちイイのぉ!』って言っていたのが見れて良かったわ。また見せてよね」

 

 

「ちょっと!それ明日には忘れてくださいよ!むしろ今すぐ!」

 

 

そんな事口走っていたのか。ものすごく恥ずかしい。

イクスさんは悪戯っぽい表情だけ残して消えていった。

 

 

ギルド名を≪VRゲーム探偵事務所≫としているがまあ、依頼みたいなものはほとんどない。

だいたい、探偵業をしようと思ってこんな名前にしたわけではない。

SAO時代終盤に入っていたギルドの名前を受け継いでいるだけだ。それまではソロプレイをしていた。

ギルドマスターはもういない。メンバーも随分散ってしまった。

もう取り戻すことが出来ない。だからこそ受け継いだのだ。

大きく息を吐いて目の前に立ちはだかったモンスターに刀を振り下ろした。

 

 

次の日、教室では妙な噂が流れていた。

 

 

「おい聞いたか?≪ガンゲイル・オンライン≫で死人が出たらしいぜ?」

 

 

「マジ?SAOじゃあるまいし、デマじゃね?そもそも今時VRゲームで死人とか珍しくねーよ。ロクに食わずにゲームやってる廃人だろ」

 

 

「それがただの死人じゃないらしいぜ。何せ画面のアバターに銃を撃った奴がいて、その後に撃たれた奴がログアウトしたのを何人も見たらしいぜ。あり得るか?」

 

 

「偶々だろ?んなもんありえねーよ。つーか死んでるかどうかわかんねーじゃん」

 

 

「だよなー。でもトッププレイヤーだったらしいぜ、そいつ。そんな廃人様を誰も何日も見かけてないとなるとなぁ。……まあ、GGOやってないからどうせ関係ないけど」

 

 

流石歴戦のSAO生還者たちである。死人ごときではガタガタ言わない。むしろ格好の話の種としか思っていない。

まあ、SAO生還者に限った話ではない。彼らも言っている通り、今や度の過ぎた廃人が死ぬことは珍しくない。まあ、死ぬようでは廃人の風上にも置けない、という主張もあるが、俺は文字通り人間をやめてからが廃人の始まりだと思う。今回噂に成り得たのはおそらく偶然の賜物だろう。

人の噂は流れるのが速ければ忘れられるのも速い。

だから放課後にはそんな噂のことなど忘れていた。

 

 

放課後、一通のメールが届いた。

曰く、

 

 

「例の男が動いた。今すぐ指定した場所に来い」

 

 

とのこと。

指定された場所にタクシーで行く。そして、名前からしていかにもオサレ系です、という、一介の男子高校生が一人で行くには敷居が高すぎる銀座の喫茶店に足を踏み入れた。

店の中を見回していると、こちらに手を振っている女性が見えた。

そのボックス席の後ろのボックス席には眼鏡の痩身の男が一人でメニューを睨んでいた。

 

 

この男こそメールでの「例の男」菊岡誠二郎。≪SAO事件≫を機に発足された≪SAO事件被害者救出対策本部≫を前身に創設された、総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二別室、省内での名称は通信ネットワーク内仮想空間管理課、通称≪仮想課≫のエージェントである。

エリートコースという観点に立てば、新しく出来た省庁に飛ばされた、つまり出世レースに脱落した、とも言える悲しき人物である。

様々な話で聞いたが、彼の尽力のおかげで全プレイヤーが病院に収容されたらしい。

そこは感謝しなければならない。飛ばされたとはいえ真面目に働くってステキ。

そして俺は待ち合わせていた女性の前の席に座る。

 

 

「やあ未來ちゃん。今日は来てくれて嬉しいよ。まあ、ここは奢るから何でも注文してくれ」

 

 

目の前の女性が爽やかに言う。名前にちゃん付けは……もう慣れた。

 

 

「どうも、沙奈さん。これも経費で……いや」

 

 

ここで区切った俺の言葉を沙奈さんの横にいた男性が引き継いだ。

 

 

「正確には沙奈さんの親のクレジットカードで支払われる、だな。俺は中野染彦(なかの そめひこ)だ。ま、スタッフの一人さ。よろしくな、少年」

 

 

差し出された厳つい手を握り返す。

 

 

「俺は本橋未來(もとはし みらい)です。よろしくお願いします」

 

 

「いつ聞いても女の子みたいな名前よね」

 

 

沙奈さんの笑みに中野さんも同調する。

 

 

「体も細くて華奢だから尚更なぁ」

 

 

「よく言われます」

 

 

事実よく言われるし、名前だけだと間違えられる。

小学生の時には夏休みのプールで書類の名前で間違われ、女子更衣室へと案内され、中学生の時には名前負けしていると言われ、高校生の時には最初のホームルームで返事をしても別人と思われて五分ぐらい変な時間が流れた。

今パッと思い出したのはまあ代表的なもので、些末なものはもっとある。呼びやすい、と言う人も居れば、呼びにくいから名字で、という人も居る。

俺は今でこそそこまで抵抗はないが、名前で呼ばれにくいように自己紹介の時、「本橋っす。よろしく」みたいな感じでフルネームを言わなかったり、ある程度仲良くなっても名字か名前かの呼びやすい方に「さん」をつけたりしている。呼びやすい渾名が有ればこの限りではない。

気付けばウエイターが立っていた。

俺が三品、沙奈さん、中野さんが二品ほど注文してウエイターが去っていく。

 

 

「君控えめだね」

 

 

中野さんは言外に「ただ飯だからもっと頼めば?」と言っているのである。しかし、

 

 

「そう言う割に二人とも控えめな注文ですよね?」

 

 

俺の質問に二人はテーブルを見てから笑った。

 

 

「ん?ああ、そう見えるよね。未來ちゃんが来る前に一旦お皿下げてもらったし」

 

 

「あの時マジでテーブル埋まっていたからなぁ」

 

 

会計の数字とか見たくないです。別に俺の懐は痛まないけど、良心が痛む。

 

 

「おーいキリトくん、こっちこっち!」

 

 

聞き覚えのある無遠慮な声がして、店内が一瞬静かになる。

菊岡の待ち合わせの相手は、かの有名なキリトくんだった。

まあ別段驚くことではなかったし、むしろ予想通りだった。

過去から彼らが接触していることはよく知っていた。俺たちは適当に会話しながら彼らの話を盗み聞く。

 

 

何だかんだ言いながら本題へと進んでいく。≪強さ≫とか≪力≫とかごちゃごちゃ言っているが、甘い。もう一歩踏み込んだ方が良い。

菊岡はともかく、SAO経験者のキリトにはもう一歩踏み込んで欲しかった。

≪強さ≫とか≪力≫を目の当たりにし、それを手にし、そして何をもたらしたのか。

キリト、お前は知っているはずだ。

 

 

「大脳生理学のセンセイに話を聞きに行ったがね、チンプンカンプンさ。……ずいぶん遠回りしたが、今日の本題はそこなんだ。これを見てくれ」

 

 

何か資料を出しているのだろうが、当然こちらからは見えない。

どうせ説明があるから分かるはずだ。

菊岡の話を要約するとこうだ。

 

 

前回のGGO≪ガンゲイル・オンライン≫の公式大会、第2回BoB≪バレット・オブ・バレッツ≫優勝者ゼクシードこと茂村保氏がネット放送局≪MMOストリーム≫の人気コーナー、≪今週の勝ち組さん≫に出演中に死亡した。死因は心不全。ここまではよくある、廃人が体調管理を疎かにして死亡した、という事件だが、この事件が特殊なのはゼクシードが死ぬ直前にとある酒場の一角でゼクシードが映るパネルに向かって銃撃した男が確認されているということだ。

これだけではただの噂に近いが、この事件から数日後、≪薄塩たらこ≫というキャラが街頭演説中に乱入してきた男に撃たれ、その数秒後に死亡したという事件も起こっている。こちらも死因は心不全。

両者を撃った人物は同じ。そして≪シジュウ≫、≪デス・ガン≫と名乗っている。

 

 

菊岡とキリトが原因について討論しているが真相にはたどり着けなかったようだ。

まあ、官僚様と理系様ですら分からなかったことが俺には分かるとは思わない。

 

 

「じゃあこれで話は終わりだ。結論――ゲーム内からの干渉でプレイヤーの心臓を止めることは不可能。≪死銃≫氏の銃撃と二人の心臓発作は偶然の一致。じゃあ、俺は帰る。ご馳走様」

 

 

帰ろうとするキリトを菊岡が慌てて引き止める。

 

 

「わあ、待った待った。ここからが本題の本題なんだよ。ケーキもうひとつ頼んでいいからさ、あと少し付き合ってくれ」

 

 

「……」

 

 

「いやあ、キリト君がその結論に達してくれて、ホッとしたよ。僕も同じ考えなんだ。この二つの死は、ゲーム内の銃撃によるものではない。ということで、あらためて頼むんだが……ガンゲイル・オンラインにログインして、この≪死銃≫なる男と接触してくれないかな」

 

 

ここからは見えないが、菊岡はおそらく、あの人の良い、胡散臭い笑顔をしていることだろう。

 

 

「接触、ねぇ?ハッキリ言ったらどうだ、菊岡サン。撃たれてこい、ってことだろう、その≪死銃≫に」

 

 

「いや、まあ、ハハハ」

 

 

キリトは拒否しているが、さっきまでの会話で「ゲーム内で撃たれても死なない」という結論に合意していたキリトに拒否権はほぼ無かった。

キリトは、プロが多いから嫌だ、とか飛び道具は苦手だ、とか言っていたが報酬の話に入ってその姿勢をぐらつかせた。

そして、キリトは菊岡がこの件になぜ固執しているのか、という疑問を口にする。

菊岡の答えは、VRゲーム規制推進派に対抗するため、というものだった。GGOの運営会社≪ザスカー≫はアメリカに席を置き、且つ、ほとんどの情報を公開していないため菊岡にも調査できず、真相を探るには直接≪死銃≫と接触する以外に道はない、ということだ。

 

 

「とまあそんな理由で、真実のシッポを掴もうと思ったら、ゲーム内で直接の接触を試みるしかないわけなんだよ。もちろん万が一のことを考えて、最大限の安全措置は取る。キリト君には、こちらが用意する部屋からダイブしてもらって、モニターしているアミュスフィアの出力に何らかの異常があった場合はすぐに切断する。銃撃されろとは言わない、君の眼から見た印象で判断してれればそれでいい。――行ってくれるね?」

 

 

もうキリトに拒否権はない。数秒経って、答えが返って来た。

 

 

「……解ったよ。まんまと乗せられるのはシャクだが、行くだけは行ってやる。でも、うまくその≪死銃≫と出くわすかどうかはわからないぞ。そもそも、実在さえ疑わしいんだからな」

 

 

確かに、ただの噂の可能性は未だに捨てきれない。シュレーディンガーの猫みたいなもんだ。

 

 

「言わなかったっけ?最初の銃撃事件のとき、居合わせたプレイヤーが音声ログを取ってたって。データを圧縮して持ってきている。≪死銃≫氏の声だよ。どうぞ、聴いてくれたまえ」

 

 

まあ、俺たちが聞けるわけがないが、≪死銃≫なるプレイヤーが存在していることはわかった。

キリトが店から出ていった後も、菊岡は十五分ほど端末で何やら作業をしていた。

その菊岡が去った後、俺たちは≪死銃≫についての話を始める。

 

 

「染彦、あんた例の≪死銃≫って奴のこと、知っているの?」

 

 

コーヒーを一口啜ってから返す。

 

 

「ああ。殺された奴らはGGOじゃあとんでもなく有名だからな。俺も一度手合せしてみたいと思っていたものだ。まあ、サーバーが違うから実現しなかったが」

 

 

何か今、変なワードが聞こえたな。

 

 

「ええと、サーバーが違うってどういうことですかね?今≪死銃≫のいるサーバーが一杯ならキリト君も追いかけられないんじゃ……」

 

 

菊岡はそこまで馬鹿では無いだろう。という意味も含まれていた。

 

 

「ん?俺が自らアメリカサーバーに接続しているだけさ。ま、サブアカウントを日本サーバーにも作ってはいるが、やっぱりあっちの方が刺激になって面白いからな。あんまり育ててない」

 

 

「あ~そうだったっけ?まあ、今回は協力しなさい」

 

 

中野さんは頼りがいのある笑みを浮かべる。

 

 

「それも仕事だからな」

 

 

その笑みが俺の方にも向けられる。

 

 

「お前ら全員ビシバシしごいてやるから覚悟しとけよ」

 

 

やっぱりそうだったか。まあこうなることは織り込み済みだ。それに、本音を言うとGGOもちょっとやってみたいな、と思っていた節もある。

 

 

「はい……ん?全員?」

 

 

唐突に湧き上がって来た疑問に沙奈さんが笑顔で頷く。

 

 

「そう。うちのギルド、≪VRゲーム探偵事務所≫全員でね」

 

 

その後、中野さんとスケジュール調整をして、遅くとも三日後にはGGOを始める、ということになった。

会計のため、沙奈さんを先頭にして歩いていく。

店員は笑顔で対応した。

 

 

「ここの会計はもう済んでおりますよ?数分前にお帰りになられたお客様が皆様の分もお支払して行かれました」

 

 

俺たちが疑問符を浮かべる中、店員の言葉が続く。

 

 

「その方から皆様当てに伝言を授かっております」

 

 

一息置いて、メモ用紙を機械的に読み上げる。

 

 

『これは手付金だ。この言葉だけでこちらの意図は十二分に伝わったと思う。健闘を祈るよ、探偵クン』

 

 

店員は元の笑顔に戻った。

 

 

「この度は当店をご利用いただきまことにありがとうございます」

 

 

店外へ出た後、第一声を放ったのは中野さんだった。

 

 

「菊岡誠二郎。存外に侮れないな」

 

 

「ああ。奴に乗せられるのは癪だが……」

 

 

俺の言葉の続きは沙奈さんに取られた。

 

 

「面白そうだからいいじゃない」

 

 

その日の夜、≪VRゲーム探偵事務所≫が借りている部屋で私は声高らかに宣言した。

 

 

「諸君!転向だ!!」

 

 

キョウダイとルローさんは首を傾げ、エキベンは悪態をついた。

 

 

「転校?いやっすよ。また受験勉強とか高い学費払うのとか」

 

 

「駅弁風情がッ!転校じゃない!コンバートだッ!!」

 

 

聞き慣れたVRゲーム用語でようやく意味を理解したらしいエキベン。

 

 

「それにしても急っすね。んで、どこっすか?先輩」

 

 

アミュスフィアは私の感情を馬鹿正直に読み取り、アバターの笑みを深めていく。

 

 

「GGO――≪ガンゲイル・オンライン≫だッ!!」

 




描写が雑なところがあって申し訳ありません。あれ以上書くとR-18指定を戴きそうなので敢えて雑にしました。「利用規約」の「R-18の内容が含まれる作品を、警告タグ「R-18」を設定せずに投稿すること」の「R-18の内容」が具体的にどんなものかわからなかったのでこんな微妙な感じになりました。
キャラ紹介のためのものなのでああいうことはこの1話しかやりません。

しかし、文章作品に年齢制限を設けることはいかがなものか。まあ、アカウントが惜しいのでこれ以上は控えますが。
これでも18禁だと思う方は、かの有名な村上春樹の『ノルウェイの森』でも読んで、どうぞ。
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