ようこそ!VRゲーム探偵事務所   作:逆月 燐

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サブタイトルは適当。

書き始めてから4か月程経った東方のSSのUA数が書き始めてから約半月のこの作品のUA数に抜かれて嬉しいやら悲しいやら。
予想はしていたけど。


ひと目で、尋常でない量産型大学生だと見抜いたよ

「GGO――≪ガンゲイル・オンライン≫だッ!!」

 

 

俺の宣言に対する皆の反応は様々なものだった。

 

 

「コンバート……それにしても急だな。しかもGGOか。何かあったのか?」

 

 

冷静なルローさん。

 

 

「まあ、最近買ったこの部屋に荷物置いておけば安心してコンバートできるな、うん」

 

 

自己と所有物の保持に余念がないエキベン。

 

 

「っつーか、何かあったにしてもどうせ昔FPSゲームやってたからまたやりたくなったってのがオチでしょ?」

 

 

的確に真意を突くキョウダイ。

 

 

「……」

 

 

事情を知っているため無言で見守るイクスさん。

 

 

「まあ、諸君も思うところがあるはずだが、1回ぐらいこのVR空間で≪探偵≫らしいことをしてみようじゃないか」

 

 

「ほーん」

 

 

やる気が出て来たのか少し前傾姿勢になるルローさん。

それに対してエキベンは消極的だ。

 

 

「いやALOで十分楽しいし、≪探偵≫みたいなこともたまにやっているじゃないか」

 

 

「いやまあ……」

 

 

発言しかけた俺をキョウダイが手で制する。

 

 

「ふん。まあ確かにエキベンのような量産型脳内ハッピーセット童貞大学生は浮気調査みたいな依頼で大喜びだろうがね、やはりどこぞの見た目は子供、頭脳は大人って感じのやつがやるような依頼もこなしてみたいじゃないか」

 

 

もうさらっとエキベンをディスりたいだけじゃん。

 

 

「そうそう。エキベンみたいな貞操まで子供のチェリーボーイには到底理解し難い崇高な動機が我々にはあるのだよ」

 

 

狼狽えるエキベンに容赦ない追撃を加えていくのがこのギルドの最早定番化した流れである。

 

 

「お、オレは一回もオレが童貞だなんて言ってないぜ!」

 

 

あっ、これこの流れで言うと会話が小学生並に泥沼化するやつや。

俺の予感が見事に的中した結果、

 

 

「今言った!先生~!今ゼンが『オレが童貞だ』って言いました!」

 

 

「いや、それは弁解のために言っただけで事実と異なり……って何でこんな時だけ素直にオレのキャラクターネーム呼ぶの?兎に角……」

 

 

「ゼンが『大魔法使いにオレはなるッ!!』とも言っていました~!!」

 

 

「それは言ってない!むしろ魔法使いの話一回もしてない。オレ、都市伝説とか信じない性質なの!」

 

 

収拾がつかなくなってきたのでイクスさんに助けを求めてみた。

 

 

「皆、何だかんだ言いながら少なからずやる気はあるみたいね。先生、ゼンくんが現実だと、ちょっと髪染めて豚の鼻みたいなワッペンが付いたリュックサックを片方の肩だけで背負って、ロクに弾けもしないギターケース片手に男:女=2:1ぐらいの集団の外側から2,3番目ぐらいのところでやっぱり≪ウェイウェイ系≫や≪キラキラ系≫は違うな、と生まれから人生の岐路を分けた素質に疎外感と厭世観を持ちつつ愛想笑いを浮かべてたまに自分の得意な話題になると場を盛り上げることができるけど『でもオレがやっていることは、オレが参加した時にはもう出来上がっていたこのグループの中心に立っているカップルたちの引き立て役なんじゃないか?貧乏くじを引かされているだけなんじゃないか?だいたいあのイケメンに至ってはオレより後から来たのにもう女子と親しく話しているし』とちょっと矛盾したことを考えて憂鬱になる時もあるが、隣に立っている、若干古参で女子とも割と話すけど、でもやっぱり、彼氏彼女の仲には慣れていない少々恰幅の良いメガネが「俺も彼女欲しいー」って言っているから『あれ?オレまだワンチャンあるんじゃね?』って一念発起して手当たり次第に女子に話しかけ、その度にまあまあの手応えは得られるものの、そこからの進展は遅々として進まず、心が折れそうになっているところに優しく接してくれるのは可愛い先輩か、仲良くなるのと付き合うのとは別の話だな、って評価になるような容姿の女子で前者の可愛い女子には神によって予め規定されていたかのように彼氏がいて、『やべぇ、オレ悟ったわー。悟り開いちゃったわー。もうこれ真理。むしろ物理法則だわー。可愛い女子は男から人気がある。優しい女子も男子から人気がある。故にオレにさえ優しい可愛い女子には彼氏がいる。……っつーか、逆に男は女子を大体顔で選ぶ』という自分の頭の中ではソクラテスより早く発表できていれば歴史に名を残せたレベルだと思っている発表すれば発狂ものの文言をノートに書き留めて次の日にそれを見て、あまりの恥ずかしさに思わずベッドにダイブし、枕に顔をうずめて足をジタバタさせ、5分後には『でもまだネットにドヤ顔で投稿しなかっただけオレは賢明だ』となんとか自己肯定をしてふとSNSを見たら、グループの女子たちに「この46億年という時間、72億人という膨大な中からお前と出会えた確率は……」みたいな自分なら絶対世に出さないクソ寒いポエムが大うけしていて思わず世界の不条理さを嘆いて、ふと、この経験が音楽に生きるのではないかと勘違いして、すっかり週に2回手に取れば多い方の存在になってしまった、あの中学校の頃に勇気を出して自分のお小遣いを極力切り詰めて楽器店で買った、嘗ての相棒を再び手に取ってみるが、そもそもオレ楽譜読めなかったという現実に打ちひしがれ、大学に入学して優しい気さくな先輩方に誘われて入った軽音楽サークルのことを想えば、そういえばあのサークルほとんど練習しないで駄弁ってちょくちょくご飯食べているだけなのに自分より上手い奴は偶に演奏する度女子からもてはやされ、反対に楽器を持っていないし触ったこともないボーカルの奴も女子からモテていて、その他のメンバーも一様に意識が低く一向に練習せずそれゆえ全く上達せず、新勧の時に心のなかで嘲笑した『テニスラケットを握ったこともない部員もいるぐらいなのでどんな初心者も歓迎でーす』と言っていた何のために存在しているのか見当も付かない……いや、付くには付くけど否定したい現実を伴ったテニスサークルの二の舞に過ぎないじゃないかと思いつつも現状に甘んじて、ここでもワンチャン棚から牡丹餅を待ち続け、待ちぼうけ、永久に訪れない機会に思いを馳せながら、大講義室の後ろの方の机の下で、SNSへ躍起になってメッセージを送るか、無料のゲームアプリを漫然とやりながら延々と壇上で教授が話し続ける講義を、話している内容がレジュメの内容とほぼ同じだから筆記試験もきっと大丈夫だろうという気持ちで聞き流しているような大学生だ、ってことは分かっているから1回ぐらいGGOで探偵のようなことをしてみない?」

 

 

イクスさんが話している内容は辛辣で、随分長かったけど、ゼンの回想に合わせて声の調子を変え、緩急をつけて謳うような話し方だったため、思わず聞き入ってしまった。

生じた沈黙からいち早く抜け出したのはキョウダイだった。

 

 

「先生!ゼンは中二病でギターに手を出したのではなく、大学デビューの為に『母ちゃん、オレ地元の国公立に進学するんだから下宿代が掛からないし、進学祝いも兼ねてギター買ってよ~』と言った可能性が高いと推測されます!」

 

 

イクスさんは机の上で手を組み、冷静に答える。

 

 

「なるほど。しかし、その主張にクリアなエビデンスはあるのですか?」

 

 

この部屋でさっきまで小学生並の口論があったとは思えない意識の高まり方だ。逆に恐い。そろそろイングリッシュでディスカッションをスタートさせるのではないだろうか。

 

 

「強いて言うならエキベンは音楽妖精プーカをやっていてスキルのためにギターを使っているが高校に入ってからギターを始めたリアルの知り合いの方が上手かった。それとエキベンが卒業祝いや進学祝いでどこかに旅行したという話をしていなかった。つまり、何か別のものにお金を使う余裕があってもいい」

 

 

「脆弱な論理ね。全て可能性の域を出ないわ。確かに演奏のクオリティの件は証拠能力があると一瞬思いかけるものですが、やはり個人のセンスというものがあるでしょうし、VR空間と現実世界では演奏の勝手や体の動きやすさなどが違うかもしれません」

 

 

続いてルローさんが挙手して発言する。

 

 

「では、エキベン高校からギターを始めていた説、はどうでしょう。もしエキベンが楽器を初めて触ったのが気まぐれに始めたALOであり、ALOでインセンティブを受けたとすれば、ALOのサービス開始は今から約2年前、つまりエキベンの高校生活が始まって1年ぐらいであり、整合性が取れます」

 

 

「ほう」

 

 

イクスさんは視線だけで続きを促す。それだけか、と。

 

 

「リアルのエキベンがALOの影響を受けたことは断言できます。何故ならばエキベンのアバター、≪ゼン≫はそのプレイヤーにかの高名な≪黒の剣士≫と匹敵するほどのハーレムを築けるのだとさえ錯覚させてしまうほどのスペックでなければならず、況やそんな完全無欠のアバターを操る自分自身は尚更ハイスペックでなければならないという謎の自負が芽生えたからであり、楽器に手を出すのは当然の帰結であると考えられます」

 

 

「うむ。面白いわ。それ、採用で」

 

 

採用しちゃったよ……。

エキベンを見れば、ソファに座ったまま青ざめた顔で体をブルブルと震わせていた。

そりゃ、あれだけのことを言われたらああなるよな。

同情の視線を向けつつ、場の収拾に掛かる。

 

 

「まあ、皆。そんな事はゼンのアバターを見れば誰でも察しがつく事だから置いといて、本題のGGOの話に移ろう?ね?」

 

 

ついにエキベンはその場に崩れ落ちた。

 

 

「見れば……誰でも……?」

 

 

うわ言のように何か言っているが気にしない。

 

 

「そうだね。それで、GGOの詳しい話って?」

 

 

もうゼンのリアルには触れないという、優しさ。

しかしまあ、ゼンのおかげでGGOへのコンバートがほぼ確定したのでその点は感謝しなければならない。

一瞬心の中でゼンに黙祷を捧げ、午前中に聞いて来た菊岡の話を伝える。

GGOで起きた不審な事件の事、≪死銃≫を名乗るプレイヤーの事、そして菊岡からの挑発。

細部までかなり詳しく再現して話した。

 

 

「ふーん。そいつを倒したとしても、それはゲーム内のことであって、そいつは依然として活動できる。ならばどうやって現実的な制裁を加えるか……」

 

 

もう≪死銃≫を倒すことが前提になっているルローさん。気が早すぎるような。

 

 

「GGOに行ったとして、例の≪死銃≫と出くわす保証はどこにもないしな。つーか、超恐いんすけど。撃たれたらどうすんの?」

 

 

当然自分が撃たれた時の心配をするゼン。まあ、それが至極全うな考え方だと思う。とりあえずフォローをいれておこう。

 

 

「お偉いさんの官僚と、この手の機械に強いSAOの伝説的プレイヤー、キリト君は“ただ撃たれただけ”では死なないという見解を示しているし、俺も何となくそう思う。ただ、ダイブ中は完全に無防備だから、誰かが傍にいた方がいいと思うね。キリトも菊岡が用意した場所からダイブするらしい」

 

 

「そうだな。あのデスゲームじゃあるまいし」

 

 

そこまで言ってゼンはハッと口を閉ざし、俺とキョウダイを見る。

 

 

「別にそこまで気にしちゃいないよ。もっとやりたいとさえ思っていてALOにアインクラッドが実装された時はうれしかったぐらいだし」

 

 

キョウダイは浮かない顔をしている。

イクスさんとルローさんがその背を撫でる。

 

 

「別にSAOのこと自体はそんなに気にしてないよ。私が言うのもアレだけど馬鹿で親に無理矢理入れさせられていたFラン大学から今の大学に移れたのはSAOの後に起きた須郷とやらの人体実験のおかげでそれには感謝すらしてる。……今回の件に何かが引っかかっているだけなの。SAOがまだ終わっていないことはつまり、ミラ、あとは解るよね?」

 

 

キョウダイの沈鬱とした視線を受けてその意図を理解する。

剣が銃に変わろうが、ゲーム機の本体が変わろうが、プレイヤーの本質だけは変わらない。

この事件にはどこかデスゲームの残像がちらついている。その根源はSAOである。ならば、SAOプレイヤーが引導を渡さなければならない。

どこか掴み切れていない様子の3人にそれとなくヒントだけを伝えるキョウダイ。

核心には触れない。それは、人間知らない方が幸せなこともある、という一般論かもしれないし、SAOプレイヤーにしか解らない秘密を持ちたい、というエゴイズムなのかもしれない。

 

 

「キリトと菊岡は事件の本題に入る前に≪強さ≫とか≪力≫について少し話したらしいね。私が引っかかっているのはそこ。このVRMMOでは他所の分野よりは随分楽に手に入れられるもの。だから“そんなもの”に溺れているうちはまだ救いようがいくらでもあるの。でも、≪アレ≫に魅入られたものには救いの道は無い。≪アレ≫に惹かれた者には≪アレ≫以外何も無い。どこまで行ってもどこに向かおうともそこには≪アレ≫しかない。なのにキリトがそこに言及しなかったのは≪アレ≫を忌避しているのか、菊岡に対する優しさか……まあ、目を逸らしているならまだ健全よ。そうでしょう、ミラ?」

 

 

今度は私が沈鬱とした表情になる番だった。私がキリトと菊岡の話で抱いた違和感を、その場にいなかったキョウダイでさえも手に取るように理解している。

だからこそ尚更SAOプレイヤー間の秘密にしなければならない。≪アレ≫自体はシンプルで容易に想像がつくものだが、実感することは難しい。でも、その一端にさえ触れて欲しくはない。

私の長い沈黙を慮ってイクスさんが場を纏める。

 

 

「兎に角、一度コンバートしてみましょう。そして、第3回≪バレット・オブ・バレッツ≫出場を目指しましょう!」

 

 

ん?今聞き慣れないワードが聞こえて来たんですけど?

いや、やっぱり聞いた事あったわ。≪ゲームコイン現実還元システム≫が採用された唯一の≪プロ≫が居るゲーム、GGOのトッププレイヤー達が集い、覇を競うGGO最大の大会ですよね?

第2回の優勝者が殺されたから第3回を優勝しておびき出そうって発想だろうけど、

 

 

「それ超キツくね?今調べたけどあと1週間ぐらいしかないよ?」

 

 

というゼンの言葉に全てが集約されるわけである。

 

 

「大丈夫よ。ちょうどアメリカサーバーに武者修行に行くような知り合いがいたから、その人にコーチをしてもらおうと思っているわ」

 

 

つまり、中野染彦さんのことだ。

 

 

「まあ、話してもいないリアルのことを8割以上当てて来る人たちに比べれば≪死銃≫なんてやつはちょろいもんだぜ」

 

 

エキベンのこの言葉には先程までの哀愁が重苦しいほど詰まっていた。

むしろ残りの2割は何なんですかねぇ?

 

 

「じゃあ、決まりだね。明日の午後8時にGGOでコンバートした時に着く街、≪SBCグロッケン≫に集合!」

 

 

気合いの入った返事から間の抜けた返事まで、メンバーの個性が表れていた。

 

 

薄い赤みを帯びた赤褐色の空が延々と広がっていた。これが、最終戦争後の地球とかいう世紀末救世主の到来を待つ世界のような空気感の設定を下支えしているわけである。いつでも同じかと思われるが、やはり時間によって明るさが違うようだ。先日中野さんから見せてもらったGGO内のスクリーンショットよりも暗い。

廃墟のような見た目の高層ビル群にケバケバしく光るネオン。夜風に乗って土煙が舞っていた。

コンバートでのキャラ作成が終わり、俺が放り出されたのは大きな通りに続く建物の中だった。

 

 

「みんな遅いなぁ」

 

 

まだ約束の時間まで15分ほどあるので、皆が遅刻しているわけではないが。

アミュスフィアが生成した私のGGOでのアバターの声はALOのものとほとんど同じで聞き慣れた高めのアルトだった。

次々と生まれるアバターたちが初々しく駆け回る……とこの世界で言うと違和感があるのは生れ出るアバターの大半がゴリゴリのマッチョ体型、しかもほとんどが男だからである。いや、それでもVRゲームの先輩風を吹かしているSAOプレイヤーとしては、新規の皆が楽しそうにしているのは嬉しいことだよ。

アミュスフィアが馬鹿正直に感情を読み取り、表情へ転化させる。

 

 

「ふふっ」

 

 

思わず笑い声も出てしまう。

ちょうどその時、同じ建物にいた新規のグループから叫び声が聞こえて来た。

 

 

「ぐああぁっ!!」

 

 

何だろう?ダメージを受ける要因なんてないのに。

見れば、一人のプレイヤーが先輩らしき人物に抱きかかえられていた。あっ……。

 

 

「おい、どうした!しっかりしろ!」

 

 

「先輩……俺、GGO始めて良かったです。天使に……天使に会えたよ。我が生涯に、一片の悔いなし……」

 

 

「おい、目を覚ませ!もっと楽しいことがこれからお前を待っているぞ!こんなの始めたうちに入らないぞ!だいたい天使って……」

 

 

建物内をぐるりと見渡した先輩と呼ばれた男と目が合ったが、私はすぐに目を逸らした。

 

 

「ああ、GGOには珍しい女性アバターがいたな。だが、ひとつ残念なお知らせがある」

 

 

残念なお知らせ?気になったので目を逸らしたまま盗み聞く。

今までよりもゆっくりとした口調で喋る。

 

 

「俺と目が合った瞬間、向こうが気まずそうに目を逸らしたんだ。まるで……ホモのカップルを見たかのように、な」

 

 

「ぐああぁっ!!」

 

 

本物の断末魔が聞こえた。……済まない。

 

 

「ミラ、アンタ耳と尻尾以外変わらないのね」

 

 

後ろを振り返ると、ALOの時から敢えて変えていないサラマンダー特有の赤い髪のカラーリング……と言うより誰が誰だかわかりやすくするため、ALO時代と髪のカラーを統一するように言っていたのであるが、ともかくキョウダイが立っていた。

 

 

「キョウダイもあんまり変わってないね」

 

 

「そりゃどーも。あのアバター気に入ってたからね。……さて、アバター作りに金を溶かしまくったルローさんはコンバートではどうなるかな?」

 

 

「新しくアカウントを作る、なんて言わなければいいけど」

 

 

周りを見渡していると、外から一人の女性アバターが入って来た。長い黒髪を靡かせ、電子タバコを吹かすその立ち姿、既視感しか感じない。

その女性は俺たちに気付くと手を軽く挙げ、颯爽と歩いて来た。

 

 

「ルローさん、またソレですか?」

 

 

「ああ、コイツを買いに少し外に出ていたわけよ。まあ、時間には間に合っただろ?」

 

 

キョウダイが口を挟む。

 

 

「高いのによく買うよねー」

 

 

「まあ高いのは仕方がないさ。リアルで流行るきっかけになって欲しくないだけだろう。しかし、リアルのと違って体に悪影響がないんだぜ?中毒性も含めて、な。だからコレを買うのはただの物好きで、私もその中のひとりってだけさ」

 

 

「まあ、似合っていますけど」

 

 

そりゃあ、ね。と言って大きく煙を吐く。

 

 

「お待たせしてしまって申し訳ありません、協力してもらう人と打ち合わせしていたので……」

 

 

ライトグリーンの髪と、丁寧なアバターは間違いなくイクスさんだ。

 

 

「別に全然気にしてないよ。それに、ほら……」

 

 

ルローさんの言葉とともに周りを見渡す。そして時計を見る。

10分過ぎているが、奴がいない。

血眼になって茶髪のチャラ男を探す俺たちに男の人が声を掛けて来た。

 

 

「ヘイ、マイハーレム!遅れて申し訳ないね。他のソフトをやるのが慣れてなかったものでね」

 

 

即座にキョウダイが振り向いて叫ぶ。

 

 

「何がヘイ、マイハーレムやねん!ちょっと西洋風のゲームになったからってすぐに影響されおってぇ……え?どちらさま?」

 

 

声を掛けて来た男を見て次々と俺たちの小言が止み、別のざわつきが広がる。誰だこいつは、と。たぶんアイツなのだろうが認めたくない、全員がそう思っていたはずだ。

目の前のハリウッド映画のアクションスターみたいなスーパーイケメンは心なしかALO時代よりもイケメンボイスで俺たちに弁明する。

 

 

「いやいや、ちょっと手間取ってただけだから。まだ例のコーチ来てないからセーフっしょ?それなのに他人扱いとか傷つくわー」

 

 

喋り方のウザさが俺たちを現実に引きずり戻した。

 

 

「エキベンだけALOとアバターが全然違うね」

 

 

「うぇ?そうなの?後で見ておこう、何かさっきの反応で超ビビったから!」

 

 

「ああ、見ておけ。絶望するぞ」リアルとのギャップに、というルローさんの最後の方の言葉はエキベンには聞こえなかったらしい。

 

 

「おいおい、どんな残念な顔になっちゃったんだ?っつーか、視線も随分高くなったな」

 

 

ああ、自分のリアルの顔の方が優れていると思いこんでいる。全くの逆なのに。

 

 

「それにしても、例のコーチはどこだ?てか、どんな人?」

 

 

「そういえば外見的な特徴をほとんど聞いていなかったわね」

 

 

メニューウインドウを呼び出してイクスさんがメッセージを打とうとした時、声を掛けられた。

 

 

「皆さん本当に目立ちますね。遠目にもすぐわかりました」

 

 

「ん?どこだ?」

 

 

身長が2メートルはあろうか、というアバターになったエキベンでは直ぐには見えなかったらしい。

その、思春期に入るか入らないか、というような年齢にしか見えない童顔の少年アバターを。私を含めた女性アバター陣の誰よりも小さい。まさか、この人が……。この人がGGOにはゴロゴロいそうな外見だった、あの中野さんだというのか。

 

 

「え?マジ?」

 

 

エキベンの驚きにも無理はない。リアルの中野さんを知らないキョウダイとルローさんはともかく、イクスさんの驚きはひとしおだった。

 

 

「はあ、あなたにそんな趣味があったなんて……」

 

 

「趣味じゃない、勝手に作られただけだ」

 

 

怒る姿も少しませた小学校高学年の生徒みたいだった。

 

 

「……取り乱して済まない。俺が今日から君たちを指導する、ソヒコだ。よろしく。こう見えても運営から生活できる程度のカネはもらっている方のプレイヤーだ」

 

 

予想以上のプロだった。

そして、一人一人挨拶をし始める。

 

 

「ミラです。よろしくお願いします」

 

 

「ゼンです。皆からはエキベンと呼ばれていますが、好きな方で呼んでください」

 

 

「タマヅサです。基本的にキョウダイと呼ばれています。なので、以降キョウダイを使ってもらえるとありがたいです」

 

 

「トミタエです。まあ、ルローと呼ばれることの方が多いですね。そっちの方が呼びやすいと思います」

 

 

ソヒコさんは苦笑する。

 

 

「まあ、皆硬いね。俺は上下関係なんて気にしないし、寧ろ、トッププレイヤーを引きずり降ろしてやるってぐらいの気迫が欲しいね」

 

 

「ちょっと、私の自己紹介はまだだけど?」

 

 

「このぐらいの勢いは欲しいね。指導のやりがいもある」

 

 

敬語じゃなくてもいいと分かるや否や盛大な手のひら返しを始める皆さん。

 

 

「ふーん、キョウダイよ。よろしく」

 

 

「私はルローね。よろしく」

 

 

「先輩マジパナイっすわ!激アツだわー」

 

 

釣られてソヒコさんもその童顔に似合わないふてぶてしい顔つきになる。

 

 

「良いねぇ。ああ、君はエキベン、だったね」

 

 

「やっぱ、こうなんのか……」

 

 

仕切り直すようにソヒコさんが手を叩く。

 

 

「≪バレット・オブ・バレッツ≫――BoBはソロの遭遇戦であって、チーム戦ではない。しかし、この頭数を揃えたのは、BoB本戦に進む確率を増やすためだ。予選では何が起こるか分からないし、優勝候補筆頭と当たれば俺もどうなるかわからん」

 

 

ここでルローさんが手を挙げる。

 

 

「そもそも何でBoBに出るの?≪死銃≫って奴を探すのが目的なのに、さ」

 

 

「ああ、それなんだが、殺されているのは名だたるトッププレイヤーばかりで、接触するためには取り敢えず名を売ることが手っ取り早いと思ったからだ。もう一つ理由があって、BoBが生配信されていることを利用して、大会中に≪死銃≫が何かするかもしれないからだ。普通の奴は殺人を生配信しないさ人前に出ることもほとんどないだろう。だが、周知の通り、奴は普通じゃない。だからやりかねないんだよ」

 

 

「他人に自分の力を見せつけたいかまってちゃんだ、ってことか?GGO内じゃ、BoB本戦に出る事自体が一種の箔押しみたいなものだからBoBにも出れない雑魚プレイヤーとは思われたくないと奴が考えるなら、本戦に出てきてもおかしくはない」

 

 

「まあ、トッププレイヤーに本物の殺意を抱けるのはそいつらにギリギリで競り負けるぐらいの力は持っていないと、ね。普通の人はトッププレイヤーを見ても上手い、と思うだけだ。どこかで絶対に、あるいは多分、こうあることは出来ないと考えているからね」

 

 

「言われてみればそうだな」

 

 

ソヒコさんはここでもう一度仕切り直しのために手を叩く。

 

 

「千里の道も一歩から、って言葉もあるし、まずは装備を整えようか。ついてきて」

 

 

小学生のようなアバターを先頭に歩くGGOではかなり異色のアバターたち。

そのグループの後ろの方を歩く。

 

 

「私だけ自己紹介できてないじゃない……」

 

 

「いや、する必要なかったでしょ。リアルでも雇い主なのに」

 

 

「それはそうだけど……」

 

 

少し不満そうなイクスさんを宥めつつ窓から見上げた空は、やはり紫煙が燻っていた。

 




前書きに書いたような事を予想できた理由は、多分皆さんも薄々感じていることです。
詳しくは次回の前書きか後書きかに書きます。
ご指摘、感想等あればよろしくお願いします。

というわけで、拙著『東方鏡魔暦』もよろしくね。
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