ようこそ!VRゲーム探偵事務所   作:逆月 燐

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大幅に投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
夏に色々あって忙しくて……やっと東方のやつを更新して次はSAOを、と思った矢先にパソコンがぶっ壊れるというアクシデントに見舞われさらに遅れてしまいました。
windows10のタブレットPCすごく使いにくい。officeは使い物にならないわ、google chromeすら対応してないわでかなり不便。
今度PC買う機会があれば無難にデスクトップかノートにしようと思うレベル。


史上最強の俺たちになろう(ただの買い物)

 紫煙漂う宵闇の空の下、このGGOという硬派なゲームの中ではかなり珍しい部類に入るアバターが6人歩いていた。

 すれ違う人たちの多くが――初心者だろうと玄人だろうと、二度見する程度には目立っていた。先頭を歩くのは不遜な態度の小学生と見紛う背丈の少年アバター。その後に二人のGGOではレアな部類に入る顔面偏差値の高い女性アバターが続き、身長2メートルほどと思われるハリウッドスターばりのイケメンを挟んで、また二人のこれまた整った顔立ちの女性アバターが列をなしている。

 前二人、キョウダイとルローさんはかなり話し込んでいるが、俺たちは割と無言でこのゲームの最重要都市である≪SBCグロッケン≫の街並みを眺めている。

 そのせいか、周りのアバターたちの会話が耳に届いてきた。

 

「おい、いつものアバター買取のおっさん、あまりの衝撃で動けてないぞ。商売のチャンスだろ」

 その相方らしきアバターが真っ向から否定する。

「そら無理よ。厳しいこと言ってやんなって。アバターの転売で生計立てている奴のリアルなんてお察しだぜ? あんな数の女性アバターとしゃべれるもんか」

 もう一人会話に参加してくる。

「それにあの構成見ろ。先頭の奴はまっすぐ迷わず歩いて時々後ろを振り返っているが、残りの奴らはnoob丸出しの歩き方だ。つまり、あのガキを中心としたパーティーかクランなんだよ。個人を引き留めるならまだしも、パーティー引き留めろってのは酷な話さ。経験者がいれば、商談の話にも乗らねぇよ」

 そう言えばALOにもアバターの転売屋いたな、と思い返す。

 

 チラリと見ると、最初に発言した男は何か言い足りなさそうに唸っている。

「しかし……」

 沈黙に埋められた言葉は、しかし、確実にこの一帯のアバターたちに伝わったようで、みな「あぁ」とか「やはり……」とか言っている。

 大丈夫。俺にもみんなが言わんとしていることはバッチリ分かった。さあ、答え合わせといこうじゃないか。

 せーの。

 

「イケメンは死ね」

「リア充爆発しろ」

「中央俺と代われ」

 

表現に多少の差異はあるものの、本質がエキベンへの嫉妬であるならばそんなことは些末な問題だ。

俺たちは熱い結束感を感じながら視線を交わし、頷き合う。

エキベンが不意にこちらへ振り返る。

「なぁ、この辺冷えてない?」

 あまり事情を察していないイクスさんが答える。

「さぁ、特に変わってないと思うけど? ALOもこんなものだったでしょう」

「そ、そうか? ……うーん」

 不承不承といった感じでまた前方に向き直る。

 

 見れば周囲より一際大きく、ネオンの眩しいコンクリート造りの武骨な建物が見えてきた。多くのプレイヤーたちが連れ立って吸い込まれていく様子は、土日の田舎のショッピングモールを想起させる。

 今まではチラチラとこちらを見遣る程度だったソヒコさんが完全にこちらを向き、後ろへ歩きながら話し始める。

「まあ皆VRゲーム自体は初心者じゃないからわかると思うけど、あれがこの街で最も大きなガンショップだ。個人レベルの店は他の場所に色々あるけど、まず最低限必要なもので、ここで揃えた方が早いものはここで揃えておく」

 完全にオープン状態のドアをくぐると、かなり天井が高く、奥行きも広い、開放感あふれる店内がお目見えした。

 店はジャンルごとに分けられているようで、それぞれの店の前に様々なアイコンが並んでいる。

 

「まずは防具類だ。相当特殊なものでない限りレアリティを気にする必要はない……と言うより、シールドみたいな特殊なものはこんなところに売られていない。今から買うのは迷彩数種類と≪対光学銃防護フィールド発生器≫ぐらいだ」

 オーソドックスなウッドランド迷彩、デザート迷彩や雪原用の迷彩などいくつかを購入する。もちろんバリバリの初期金額では賄えないから、GGOの特権たる≪通貨還元システム≫、もっと世間一般での呼称を使うって言えばRMT――リアルマネートレード、を生かしてイクスさんの本業である探偵事務所の経費から落としている。ルローさんは頑なに拒否して自腹だ。それだけの経済力があるので当然とも言える。

 貰ってばかりでは悪いので働きで返さなければならない。それにしてもあの菊岡、キリトには金出すと言っていたのだから、うまく事が運べばこちらにも報酬を出させることも出来るかもしれない。

 

 エキベンが迷彩類の支払いをしながら質問する。

「大会に出るだけなのに何でこんなに迷彩を買うんだ? フィールドの指定が無いってことか?」

「まぁそんなところだな。予選のフィールドはランダム。決勝はいくつものフィールドパターンを組み合わせた場所だ」

 初心者にも優しい解説だ。しかし、想定される現実は生易しいものではない。こちらが迷彩を着けるように相手もまた迷彩を駆使するのだ。それも歴戦の猛者が。それを数日の練習だけで対応できるようになるのか、という疑問がついてまわる。

 ……とはいえ、現実は現実でも仮想現実ならばどうにかなるだろう。俺たちはVRゲームという観点からすればプロフェッショナルなのだから。

 自分の中に湧出してくる不安を飲み下しつつ、ほかの店に歩いていく。

 

「さて、メインアームに入る前にまず別のモノを揃えよう。つまり、グレネードや罠の類だ」

 そんな解説がなくても店の入り口に掲げられた巨大なグレネードの絵を見れば嫌でも理解する。

「まあ絶対に持つ必要はない。むき出しの状態でぶら下げていたやつに弾が当たって自滅することも珍しくない。だが、一応素人もいることだし、解説も兼ねて、ね?」

 

 ソヒコさんは店の棚から典型的なグレネードを3個取り、ジャグリングを始める。

「君たちが≪グレネード≫と聞いてまず頭に思い浮かべるのはこれだろう。ピンを抜いて数秒後に爆発、そしてその破片によってダメージを与える。時間差で投げることも、投げ返すことも出来る」

 その後、1個戻し、隣の棚から2個取る。

「これはセムテックス。普通のフラググレネードとの違いは転がるか粘着するかってところ」

 お手玉を続けつつ、1個戻して2個、次の棚の商品を取る。

「これがスモークグレネード。要は煙幕。素人が使うと自分の場所まで見失うぜ?」

 また1個戻し、2個取ることを繰り返す。

「これがフラッシュバン。閃光だけじゃなくて音が出るものもある」

 ≪閃光≫と言えばSAOにも有名なのがいたな。確かにボス戦の時の指示とかミーティングの時の発言とかはかなり鋭く、よく通る声だったと思う。

 解説とお手玉はまだまだ続く。

「これは所謂火炎瓶。中々便利だな。森林マップを焼き払えるかどうか試したこともあったが、さすがに無理だった。草原はそこそこいけるぜ」

「無駄なチャレンジ精神ね」

「そりゃどうも。……お次はEMPグレネード。めんどくさい英語や仕組みのことを抜きにして言うと、機械系を一定時間ダウンさせる。俺たちは基本、さっきの店で買った≪対光学銃防護フィールド≫を装備しているから、レーザー使いの対人戦における切り札さ」

 キョウダイがシニカルに笑いながら質問する。

「それ食らったら自慢のレーザー銃もお釈迦になるんでしょ?」

「その通り。だからプレイヤー相手に光学銃で突撃するのはバカか変態のすることさ」

 そして次の棚へ。

「これはGGOで最もポピュラーなプラズマグレネードだ。火力は折り紙付き。まぁ、巻き込まれたら命はないと思え。最初に言った自滅が多いってのは大半がコレ。他のが少ないのは……単純に使用者が少ないからだろう。どうせ誘爆で死ぬなら火力の有るほうがいいだろう? イクス、その棚のやつ投げて」

「何個?」

 嗜虐的に笑うイクスさんに、苛立ち気味に答える。

「見ればわかるだろう⁉ 1個だ、1個」

 投げられたグレネードをリフティングし始める。もちろんジャグリングは途切れていない。

 

 それにしてもコレ……。

 全員の呆れるような視線を受けながらソヒコさんが解説する。

「各種グレネードのデカさにゃ色々あるが、最もイカレた風体の持ち主がコイツ。通称≪デカネード≫。正直実戦で見たことないけどな」

 

 そう言ってソヒコさんはデカネードを元の棚に蹴り込み、残りのグレネード類のピンに指を1本1本通していく。

 エキベンとイクスさんが一歩下がる。その様子を見て、手を振りながら、

「安心しな。そう簡単に抜けるほど柔じゃない。どうだい? イケてる結婚指輪みたいだろう?」

「中にダイヤが詰まっていたらね」

と肩を竦めるキョウダイ。

それに合わせてルローさんもコメントする。

「人生の墓場まで吹っ飛ばしてくれそうだねぇ」

 そう言いながらもルローさんはいくつかプラズマグレネードを購入している。

 

「そんなこと言うから少子化問題が一向に解決されないんだよ」

「解決出来ると思っているならおめでたいわね。社会保障云々とかの問題よりも、もっと根本的な問題があるのよ。自由恋愛が大手を振って歩く社会で結婚して、且つ、子どもまで残せるのはあなたの今のアバターみたいな外見の持ち主ぐらいよ。そこから収入とかの社会的ステータスを見て、最後の審判を迎えるってわけ。現代社会で理想の相手と幸せな結婚生活を送ることへの道のりは天の国への道のりほどに狭いものなのよ」

「おいおい、オレ、もしかしてオレのリアル並みに超イケメンアバターになっちゃってる?」

「たぶん全然違うでしょうね」

 イクスさんとエキベンも駄弁りながらそれに続く。

 

 しかし、俺はそこまで乗る気にはなれなかった。

 ……あれはVRゲームが発売される以前の頃、つまり、人々が据え置きゲームや携帯ゲームを至高と考え、満喫していた頃、俺も例に漏れず世界的に有名なFPSゲームをやっていた。調子のいい時は無双できたが、負け始めるとひどかった。

 丁寧に立ち回れば勝てる、しかし、素人的には所詮≪遊び≫だったので神経を張りつめさせてゲームをするということをあまり継続出来なかった。

 それ故、歩兵だけの回線ゲームよりはもっと幅広い戦略の取れるゲームの方が好きだった。

 さて、その時のグレネードキルを思い出してみよう。

 

 うん。無駄に投げて居場所を知らせることが多かったと思う。旗取るやつとかはキルし易かったけど。つまり、相手の大体の位置がわかっていれば、有効なのだ。走りながらグレネード投げようとした矢先に相手と鉢合わせして、いっそコントローラー投げようとしたことも多々ある。

 マップの決まっている試合でこれだ。オープンワールドに近いGGOで俺がグレネードを使いこなせるとは思えん。ゆえに不採用である。

 思い出して悲しくなってきた。何で自分の画面ではバリバリ撃っているのに、相手のキルカメラだと全然撃って無いの? マジでこの現象が一番の謎。電波のピン全部立っていてラグってはないはずなのに……。

 今や骨董品と成りかけている思い出の発掘を中断して、パーティーの後ろについていく。

 

「まだ店のもう半分にも商品はあるんだが、そいつらはグレネードランチャー専用の弾とか対空兵器の弾とかだから今買うべきものじゃないし、買っても使えない。そういうわけで次の買い物に移ろうじゃないか」

「それで、次は何を買うの?」

 

「ん? まぁ、君たちに馴染みのあるやつだね」

 

 その言葉にはピンと来なかったが、店先のショーケースには確かになじみ深いものが鎮座していた。

 キョウダイは獰猛な笑みを浮かべて、

「確かにナイフ系は必要だよね~」

 店内では様々なタイプのナイフ類が並んでいる。

「この手のゲームでは伝統的にナイフの威力が高めに設定されてある。接近戦はもとより、投げたり、射出したりすることができるものもある。基本は弾切れの時や、リロード中に接近された場合などに仕方なく使うものだが、一部にはナイフをメインに戦う≪ナイファー≫と呼ばれる酔狂な連中もいる。しかし、基本的に銃の方が有利なのは揺るがない事実だから全員に銃を必ず一丁は装備してもらう」

「え~」

 キョウダイが不満の声を上げる。

「≪ナイファー≫連中も予備のハンドガンぐらいは持っている。それに、レア武器がほしい奴がいたらモンスター狩りに行くことにしているからそっちの準備のためにも持っておけ」

 

「ん~、ALO最強のナイフ使いの腕を存分に発揮したかったけどね、そういうことなら仕方ないね。……じゃあ、このスぺツナズ・ナイフとサバイバルナイフ購入っと」

 俺とキョウダイ以外の動きが止まる。

 ソヒコさんが眉根を寄せて質問する。

「ALO最強? 聞いていないぞ、そんなこと」

 ルローさんもそれに続く。

「大きな大会とか出たことないし、ねぇ」

 残りの二人も何度か頷いている。

 キョウダイはけろりと返す。

「まあ実際にALOの有名なナイフ使いたちとやりあったことはないけど、そこまで競争の激しい分野じゃないし、多分最強だと思うよ? SAO伝説のダガー使いともタイマン張って退けた人間だし」

「ぬかせ。どうせ、あの≪黒いの≫と今戦っても勝てるんだろう?」

 キョウダイは買ったばかりのナイフを弄びながらただ肩を竦めるばかり。

 どうやらこれ以上は質問に答えないようなので俺は店の奥へ商品を探しに行く。

 

 一時は呆然としていた皆も、思い思いのナイフを探しに行き始めた。

 かなり種類がある。

 しかし、その中でも割と目立つものがあった。

 

「うわ、ポン刀あるじゃん」

 

 思わず独り言が出た。その脇差程度の長さの刀の下には派手な装飾のついた軍刀もある。

 そういう時代を意識したい人たちのためのものだろう。銃火器がようやく伝来してくる時代の代物だけど。

 とはいえ、ALOどころかSAO時代からの刀ユーザーとしては、これを採用しない手はない。脇差と軍刀のどちらを選ぶかずいぶん悩んだが、ALOやSAOでは珍しかったので軍刀を採用した。

 使い勝手が良ければALOでも誰かに作ってもらおう。

 上に置いてあった脇差とは、修学旅行で小学生が買っちゃう無地の木刀と本格的に作り込まれた模造刀みたいな木刀ぐらいには値段の差があったので一瞬躊躇ったが、購入ボタンを叩き込んだ。

 ウインドウを操作して装備する。武具は装備するまでが購入だ。

 見目煌びやかな装飾を施された≪海軍制式軍刀≫は、おそらく現実的に考えると儀礼用のものをモデルにしているに違いない。

 一兵卒に要求されるのはこの刀みたいな華美さよりは、向こうの脇差みたいな剛健さだろう。

 しかしまあ、儀礼用のものが実戦に耐えられないということはあるまい。

 鞘から抜き放つと、天井の白色灯の光を刀身が照り返す。

 どうやらこいつもやる気十分らしい。それを確認すると、鞘にしまって、ほかの皆を探す。

 

 そう遠くない位置に皆が固まって何かの商品を見ていた。

 ルローさんに呼ばれたNPCがショーケースから短い筒のようなものを取り出す。何だあれ?

 俺が近くに寄ると同時に、世界的SF映画をオマージュ……というよりパクったと言った方が正しく思えるほど、イメージと寸分違わぬ音がして、筒の先から一定の長さの光の棒が出現した。どうやらNPCに見せてもらっているらしい。まあ、ショーケースでこの持ち手の部分だけを見せられても、解説なしではサプレッサーか何かのようにしか見えない。

 ルローさんが軽く口笛を吹く。

 エキベンも感心したようで、何度も様々な角度から観察している。

 ソヒコさんは肩を竦め、その様子を見てイクスさんは笑っている。

 

 キョウダイは……視線をずらすと、購入ボタンに手を触れているのが見えた。早いわ。

 景気の良い効果音がして、キョウダイが例の筒を持つ。

 手元を操作すると、青みが掛かった紫の光で剣が形成された。慣れた様子で片手直剣ソードスキル≪バーチカル・スクエア≫を虚空に刻む。光剣だからか、けっこう残像が見える。

 それを見て、ソヒコさんが感嘆の声を漏らす。

「意外と速いな。レンジが短い代わりに威力はアホみたいにあるらしいからな。使いこなせれば強いだろうよ」

「うおー、マジかっけー! 俺も買うわ、その≪カゲミツG4≫ってやつ」

意気揚々とウインドウを開いたエキベンの手が止まる。眼は見開かれ、唯でさえハリウッド調の白い肌は異様に青白くなった。喉の奥から絞り出したような声が漏れる。

 

「……何だこれ、たけぇ」

こんな状態でもイケメンボイスなのが腹立つけど、一応エキベンの横からそのウインドウを覗く。この2メートル近いアバターの後ろから覗き込むことなんて出来っこない。

「うへぇ……」

画面には今まで見た中では最高の金額が書かれてあった。さっきの脇差と軍刀ぐらいの差で悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどだった。これを即決するキョウダイ……。一応他人の金ですよ?

俺の視線に気付いたキョウダイが軽く笑う。

「SAOの後半以降ってさ、あんまりお金の心配しなかったじゃん? それがALOにも引き継げたし……要するに金額を見る習慣が消え去っていたんだよね~」

「まあ確かにALOだったら俺も無視して買ってただろうな。でもこれリアルマネー絡んでるし、さ」

キョウダイが後頭部を掻きながら出資者たるイクスさんに頭を下げる。

 

しかし、イクスさんは些かも気を害していなかったようで逆に首を傾げている。

「んー? 確かに今まで見た中では高いけど、現実のお金で換算すると大した額じゃないと思うけど……ゼン君も欲しいなら買っちゃいなさい。……というより、遠慮されると居心地悪くなるから買いなさい」

エキベンは何度も頭を下げつつ購入する。早速取り出してキョウダイとチャンバラしている。店の中、つまり街の中なので、勿論ダメージが入ることはないが、エキベンは悲鳴をあげつつ後退している。ダメージはなくとも衝撃は伝わるからなぁ。

 

イクスさんの視線がルローさんに移る。

ルローさんは首を何度か横に振る。

「せっかく銃の世界に来たんだから、銃を大事にしたいよねぇ。出来ればレア武器ってやつを取りに行きたいかな」

 

次に、イクスさんの視線が俺の方に向く。

俺は腰の≪海軍制式軍刀≫を掲げて意思表示する。

「さっき買ったばかりのこいつに失礼だと思うからね。それより、イクスさんは? 買わないの?」

 

「私もルローみたいに銃を使っていきたいと思っています。別にレア武器じゃなくてもいい……というよりうちのメンバーで旅行に行った時に、コイツの提案で射撃場へ行ったことがあるから、あの時に撃ったやつがいいかな」

コイツ、とはソヒコさんのことらしい。そういう銃の選び方もあるのか……。

「ああいうのはここに入っているような店にも置いてあるよ。これで皆ナイフ類は準備出来たと思うからメインの方を買いに行こう。ルロー、レア武器取りに行くためにも武器が必要だからちゃんと選べよ。サブウエポンは3階だからその後だ」

「はーい、教官」

間延びした投げやりな返事が返ってくるが、気に留めるような者はいない。

 

エスカレーターで上の階に上がっても、景色的には変わり映えしなかった。

他の客の邪魔にならないように通路の端に集まる。

「このフロアには銃をメインに売っている店が多く入っている。一軒ずつ回っても良いが、欲しい武器が決まっている人がいるなら退屈するだろう。と言うわけでこれから一時間、自由に見てもらって、一時間後にそこのベンチに集合することにする。その前に大雑把な武器の種類と、その店がどの辺にあるのかだけ説明しよう」

 

 そう言って、近くの案内板の方まで移動する。

 地図の中央には赤い点と「現在地」という赤い文字が大きく書かれている。

 その地図の北の方を指さし、

「この辺にあるのは所謂アサルトライフル。様々な距離に対応できるが、距離によっては他の武器の方が強いことも多い器用貧乏な武器だ。概して初心者向けと言える」

 次いで地図の東側。

「この辺はサブマシンガン。有効射程距離は短いものの、近距離においては高い連射速度で圧倒できる。相手の懐にいかに突っ込めるかが重要だな」

 逆に西側。

「反対側はライトマシンガン。まあ射程が長く、装填数も多いことはもう今更語らなくてもいいだろう。ただし、銃自身もそうだが、弾薬まで含めるとかなりの重量になる。移動速度にペナルティが付くかどうかは君たちの筋力値次第だ。それと、むやみやたらとばら撒いても、当たらなければ意味はない」

 ソヒコさんの指は滑らかに地図の南の方へと流れてゆく。

「このあたりに置いてあるのはショットガン。ショットガンは使用する弾薬によって運用方法が大きく変わるものもあるが、基本的に射程が短く、近距離での遭遇戦に強い。特にノックバック効果が発生すると相手の行動を制限することが出来、一方的に倒すことも夢ではない」

 そして最後に、現在地を示す赤い点の周辺をなぞる。

「その辺にショップが見えるから、言わなくてもわかるだろうが、スナイパーライフル関係はここだ。さて、このゲーム、≪弾道予測線≫なるシステムがあるのだが、スナイパーライフルをメインに担ぐと、射手の姿が見られない限り、初弾はその予測線が出現しない。そしてその火力はずば抜けて高く、ボディ2発、ヘッド1発が基本だ。関連スキルで威力を底上げしたり、対物ライフルを使ったりすると、ボディでもそうとう末端でさえなければ確定1発で倒せる。正に魔弾の射手ってやつだ。ただし、それ相応の立ち回りが求められるけどね」

 

「ところでソヒコは何を使っているのかしら」

「俺はスナイパーライフルだな。まあ実戦の機会がきたら見せることになるだろう。それでは各自自由行動とする。とりあえずエキベンは俺についてこい。多分一番の素人だろう?」

「うっす。お世話になります」

「私も付いて行っていいかな? さっき言った銃、私名前知らないから」

 

俺とキョウダイとルローさんは目配せをする。

「何か買いたいモノある?」

 ルローさんの質問にそれぞれ答える。

「俺はゲームでお世話になっていたアサルトライフルを買いに行こうと思う」

「私はド定番のカラシニコフかな。アサルトライフル扱いでしょ、多分」

 俺たちの回答を受けて少し考え込み、

「色々迷うから先に決まっているもの買って私の武器選びに付き合ってよ」

 

 そういうわけで俺たちはアサルトライフル専門のショップに行き、さっさと買い物を済ませる。正直銃に関しては素人同然なのでゲームに出てくるぐらい有名なやつしかわからない。そして、有名なものは店の目立つところに置いてあるのですぐに買えるってわけ。

 俺たち二人の買い物が5分と掛からずに終わったため、ルローさんの買い物に付き添うことにする。

 ルローさんは何度か商品を手に取っては首を捻りつつ棚に戻すことを繰り返して店の中を歩いている。

「何かアサルトライフルって気分じゃないな……」

「んじゃあ、別の武器も見てみる?」

 店を変えて先ほどと同じように歩き回る。

「何かこれ重いなぁ。私のステータス、脳筋アマゾネスみたいなのじゃないんだけど」

「これ軽すぎ……何か頼りない……」

「ん~これもイマイチ。特に外見とか」

 俺たちも様々な武器を手に取ってみる。自分の武器を熟知することは当然だが、相手の武器の特徴も知らなければならない。ただ相手するだけよりも自分で使ってみた方が発見も多い。

 

 時間ギリギリで、漸くお眼鏡に敵うものが見つかったらしい。

「これ! 良いね、買った!」

 

 俺たちはその装備を見て呟く。

「コレ、ゲームで良い思い出ないんだよなぁ……強すぎて」

「強武器は正義、はっきりわかるんだね」

 俺たちのネガティブな感想もどこ吹く風、ルローさんは鼻歌を歌いながらスキップしている。

「このゲームは勝ったもんが正義だからね。強武器を敬遠する厨二病は帰って、どうぞ」

 

 待ち合わせ場所には、もう三人とも集まっていた。

「けっこうギリギリまで考えていたんだな。良いことだ」

 ルローさんが頭を掻きながら対応する。

「そうは言ってもレア武器ドロップするまでの繋ぎなんですけどね」

 その言葉にソヒコさんは鷹揚に頷く。

「君たちはもうフィールドを元気に走り回ることが出来る。しかし、サブの武器も持っておくべきだ。リロード中に襲われた時の対応、弾切れ時にはそれ一つで対応できるものを持たなければならない……たまに持たない人もいるが、持っておくことをお勧めする」

 

 3階まで上がって各自好き勝手にハンドガンをチョイスする。

 ここではそこまでの時間は掛からなかった。

 

 待ち合わせ場所のベンチに俺たちが全員座ると、ソヒコさんは前に立って高らかに声を上げる。現在は座っている状態なのでソヒコさんのような小学生アバターでもギリギリ見上げる形になる。……エキベンは元の身長が高く、それに比例して座高も高いのでまだ見下ろす立場である。

 しかし、見た目の小ささを微塵も感じさせないほど一挙手一投足に威厳が満ちている。

 傲慢ささえ感じる自信に満ちた不敵な笑顔で、

 

「さあ、諸君。これから≪総督府≫でエントリーを済ませたら――」

 

 公共のベンチとは思えないほどふんぞり返っている俺たちを代表してイクスさんが尋ねる。

「済ませたら?」

 

 その小学生アバターは瞑目し、一呼吸置いた後、その本性と獣のような鋭い犬歯をを剥き出しにした。

 そして大勢のアバターでごった返す通路の方に向き直り、

 

「狩りの時間だnoobども‼」

 

 その言葉とともに俺たちは各々叫びながら立ち上がる。

 背中越しでも感じる射貫くほどの殺気は、この少年アバターの力を知らしめるには十分すぎた。そのアバターに睨まれているプレイヤーたちの一部は本能的に後退ったが、大半のプレイヤーは動けてすらいない。

 

 BoBはこんなプレイヤーがゴロゴロいるのだろうか……。

 そう考えると≪死銃≫関係のことを抜きにしても、否応なく血が滾ってきた。

 ……ところでnoobってその辺のプレイヤーに言ってんのか俺たちに言っているのかよくわからないんだけど、そこんとこどうなの?

 俺たちがこのゲームの初心者なのはれっきとした事実だけど、そう解釈すると雰囲気が台無しになるんだよなぁ。

 

 まだ見ぬ敵を求めて、自然と腰に差した軍刀に手が伸びていた。

 軍刀は沈黙を守り続けている。静かな闘志を燃やしながら。

 




東方よりSAOの方が競争緩いし、オリキャラに寛容なのでまあこっちの方がアクセス数多いのは自明かな、と。母数の数って大事だと思う。某大手小説投稿サイトで何か書きたいと思っても投稿しない原因の一つ。……この更新速度だし。

さて、最近買った某ゲームでピョンピョン撃ち合っていますが、まだこの作品では銃の名前すら出ていません。レア武器探しの回を一回挟んでBoBに入っていく予定です。

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