音楽は好きだが、悪魔的で蝋人形になろうとかそういう表現はいまいち分からない。ウィンドウの中で一体の茶色く小さい海洋生物っぽいデジモンが首を捻った。
『まあ、地味にでも売れているのなら良い曲を作る……の、だろう……恐らく、多分』
『あ、プカモンがスゴい悩んじゃった』
めっずらしーともう一つのウィンドウにいるテリアモンが手を合わせる。そこに所長デスクの前に立つ杏子が口元に手を当てる。
「ジミケンとは、最近知名度が上がってきているミュージシャン『ジミィKEN』の愛称だな。尤も、少々気になる噂もあるが。
そういえばアミのデジモンは順調に進化を迎えたようだな。何よりだ」
『ああ杏子探偵、お陰様で。前の感覚も少しずつ取り戻してきたよ』
元ポヨモン、現プカモンが杏子に向かって丁寧にお辞儀をする。ウィンドウの中なのに器用である。
『でもジミケン、ってさ。ちょっとありがちなあだ名っぽい名前だよね』
「○○ケンは確かに割とあるかもね。でも、サクラやっぱり様子変だったな……」
アミは検証の途中で出会った同級生を思い出す。おっとりとして可愛い雰囲気が持ち味ではあるのだが、あれはおっとりというよりぼんやりだった。どうしたのか、どうも気にかかる。
「なんとかというそれのせいなのかもな、どうでもいいが。ともかく、アミはこのまま外で活動しても問題はないらしい。コネクトジャンプの瞬間を見られなければ一般人には違いが分からないようだ」
給湯室から食べかけのリンゴを片手にBが出てきた。さっきは桃を剥いて食べていた。Bとしてはジミケンには興味が一切持てないようで、名前すらまともに覚えようとしていない。
「何だかスケスケ怪人とか、研究所から逃げ出したとか、訳の分からない話が流れてましたけどね……」
『別にアミだと特定された訳ではないからいいのではないかな。それより、探偵業務をしているという説明は、もう少し……慎重に、人を選んでした方が』
「えっ、だって休学してる間も動き回るならちゃんと理由を言わないと」
「母親の耳に最終的に入ったらどうするつもりなんだ」
『しかも電脳ってつけるから周囲が困惑してるしね』
「……」
デジモンたちの指摘が耳に痛かった。杏子は微笑を浮かべたまま何も言わないが、それが逆に不安を煽ってくる。
「そうそう、タクミ。キミとアミに正式なEDENアカウントが用意できた。コネクトジャンプで“侵入”出来るとはいえ、それでは正式なサービスを受けられないからな」
「EDENでも職務をこなせるように、か。これからはそれでログインということか、分かったなアミ」
「了解ですけど、私が分かってないみたいな言い方はそろそろやめて下さい」
アミは一応頼んでみたが、Bはあっさり「なら分かってなさそうな顔をやめろ」と切り返してきた。えらい言われようだ、今回はきちんと分かってたのに。
「しかし、タクミもきちんと人間として認識されるとは。流石の“特別製”だな」
「……あれは頭の使い方を間違えている気がしてならん」
Bはどこか遠くを見つめながら、がり、とリンゴをかじった。前の言葉も加味するに、Bの現在の体質のようなものは生来的なものではなく、誰かが何かの目的を持ってBに与えたもののようだ。
誰が、一体何のつもりでBに与えたのだろう。
「さて……そろそろ時間だな。タクミ、食べ終わりそうか」
「後で分別する」
Bは芯だけ綺麗に残ったリンゴをつまみ、口の端をぺろりと舐めた。テリアモンとプカモンは挨拶を残してウィンドウを消したが、アミはなんのことかと首を傾げる。
「何か約束があるのですか?」
「——仕事の時間だよ、助手くん、助っ人くん」
Bがリンゴの芯をくずかごへと放り、見事にホールインワンを決めた瞬間だった。
「あの……暮海……探偵事務所は、こちらでしょうか……?」
どこかで聞き覚えのある声が、扉の向こうで聞こえた。
山科悠子。それが長い黒髪の憂いのある少女の名前だという。やはり病院で出会ったあの少女と同一人物のようで、アミとBを見つけた時には大層驚いていた。
「山科、な。一体何のつもりだか」
ソファに腰掛け、静かに話をする悠子をアミの横に立つBが見やる。引っかかるものがあるといった様子だが、やはりアミに何かを語ってくれるということはなかった。
「探偵さんには、消えてしまった父……『山科誠』を探し出して……欲しいんです」
悠子の依頼は結構重大だった。どうしてだか分からないが、父親が行方不明になってしまったという。
「悠子さん、色々大変なんだ……大企業で働く人とかって狙われやすかったりするんでしょうか?」
「寧ろお前の方が分かっていて然るべきじゃないのか、ジャーナリストの娘」
「企業内情とかはお母さんの専門外なんですけど」
Bもこのしばらくでだいぶ人間世界の知識を得ているようだ。あまり人間や他人に興味は湧かないと言っていたような記憶がアミにはあるが、ジャーナリズムには興味があるのだろうか。
「父の、基本的な情報はこちらに……データを送ります」
杏子の情報についての質問に、悠子はデジヴァイスを動かした。しかし送った本人がが言うには、EDENのアカウントくらいしか手がかりになりそうなものは無いという。
「アカウント情報を問い合わせると……現在も、アクティブな状態なんです……でも……」
呼びかけても一切反応してくれない。そこまでを語る悠子はやはり憂いに満ちた顔をしていて、杏子の目を見ていながらも不安定さが見え隠れしていた。
父を見つけだして欲しい。頼んでくる悠子は真面目そのものだった。
「……わかりました。お引き受けしましょう」
そんな悠子を前に、杏子は快諾の姿勢を取った。拒む理由はこの探偵には無いようだった。
俯きがちによろしく頼んでくる悠子。だが彼女をBが無感動な目でずっと観察している。そんなにじろじろ見ては失礼じゃないだろうか、アミは後で注意することを決めた。
「連絡先を教えて頂けますか?」
「……」
進展があればすぐに教えると伝えた杏子に、悠子は更に物憂げな顔をして、その表情を見せないかのように手を顔へ添える。そして、しばらくしたらまた来る、連絡の必要は無いと断ってきた。
「それでは……これで、失礼します」
用件は終わったとばかりに悠子はソファからしずしずと立ち上がる。取り乱した様子は一切無く、とても落ち着いた動作で扉へと歩いていく。
すれ違いざま、ちら、と悠子はアミたちへ目を向けた。だが何を言うでもなく、静かに扉を開いて出て行った。
「……なるほどな」
「妙なことだ」
納得した様子の杏子と、不思議がっているB。どちらも何かを掴んでいるようだが……
「さて、助っ人は今回はどうするかな。これの他にはまだキミに任せる案件は来ていないのだが」
「そうだな。これに関しては処理に回ってもいい」
結局どちらもアミに語ってくれることは無かった。自力で分かるようになれということなのか。
杏子の調査の結果、山科誠のアカウントは最近巷を賑わせている「アカウント狩り」に遭っているとのことだった。挙動があまりに不自然かつ奇怪な現象が起きており、何者かが乗っ取って勝手に使用している可能性が高いのだそうだ。
組織的に行われることが往々にしてあり、そうであるならいくらか情報があるはずだ。ということで、EDENでまず聞き込みをすることになった。そういえば病院の時はBがあっさり場所を特定してくれたからきちんと実践をしていなかったので、良い機会と言えばそうだった。
幸いなのかそうでもないのか、Bは聞き込みについてはアミに一任してきた。恐らく聞き込みというものに興味がないのだろうが、いずれ行う仕事に響いたりしないのだろうかと若干の心配も抱いた。
ともかくアミが出来る限りの交渉能力を駆使し、キーワードを使っての情報収集を行って、最終的に辿り着いたのは——
「ここが、クーロンのレベル2かあ」
「全体的な雰囲気は変わらないねー」
デジモンの力を借りてファイアーウォールを突破し、ゴンドラによって運ばれたその先、廃れた青の地面と空間の中でアミはテリアモンとプカモンを連れて周囲を見渡す。レベル1よりもかなり広くて明るく、そこかしこで見かけるデジモンも強いものになっているのが確認できた。
ここからが本格的なハッカーの溜まり場でもあるようで、人も結構いる。刺激しなければ喧嘩をふっかけられたりはしないだろうが、しかし今回は事情が事情だ。少しは気をつけねばならないかも分からない。
「アミ、あの仮面持ってるな」
後ろから現れた人間姿のBが、片手に持った仮面をひらひらと振っている。白地に紫の星と黒の模様がついた、目つきの悪い品だ。アミは頷いて、手の中に同じ仮面を実体化させる。
「うーん、どうなってるか分かるから、って渡されたけど……これどこでどう使うのかな」
「そうだな、それらしい輩を見かけたらとりあえず見せてみればどうだろうか。恐らくは何らかの反応があるはずだ」
「渡してきたあのザクソンハッカーはどういうつもりなんだろーね。持っててもアカウント狩りはしてないみたいだったけど」
プカモンの推理に納得しつつ、テリアモンの疑問からアミは少し考える。
「前に会った、ユーゴ……ってザクソンのハッカーは、誇りとかなんとか色々言っててやりそうにない人だったんだけどなあ。ザクソン、どうしちゃったんだろ」
「ふむ。となると、どちらか——まあ恐らくは狩っている側だな、それが掟に反して活動をしているということだろう。ザクソンと言えど全構成員をまとめあげるのは至難の業か」
プカモンが平たい前肢を組み思案する。以前のハッカーから得た知識は本当にかなりの多さのようだ。
「群れればそれだけ統率の困難が発生する。当然のことだ」
Bは冷ややかに口にして、アミへ目線を送ってきた。あまり悠長にもしていられない、捜査開始だ。
開けた空間をアミは進む。階段の上、道の隅、あちこちに人がいるが、特にアミたちを咎めることはしてこない。今回のアカウント狩りと関係がないのだろう。そのまま道なりに移動して、角を曲がる。
そこで突如目の前に、デジモンが一体飛び出してきた。
「うらぁっ! おいそこのデジモンたち、オレと戦え!!」
緑の肌をして簡素な服をまとった、二足歩行のデジモンだった。アミがキャプチャーを起動すると、「ゴブリモン」と名前が表示された。
「そらよーっ!!」
出てきた勢いそのままに、ゴブリモンは飛び上がり片手に握った棍棒を頭上へ掲げる。
「うわ、乱暴」
いちはやく反応したのはテリアモンだった。空中の相手を迎え撃つように自らも跳躍し、距離を詰める。ゴブリモンが獰猛に笑い、当然のように棍棒を振り下ろした。
「ほいっとね」
「っと!?」
テリアモンは半回転を決め棍棒を空振りさせる。そしてがら空きになったゴブリモンの背中を、長い耳で殴りつけた。
ゴブリモンが苦鳴を漏らし地面へ転がる。テリアモンが耳を振りかぶって追撃をかけようとするが、咄嗟にゴブリモンが反転して棍棒を力任せに薙ぐ。
テリアモンは攻撃を止め体を反らし、棍棒を避ける。その隙にゴブリモンは立ち上がろうとする、だが、
「こちらにもお気づきかな」
待機していたプカモンが泡を吹きだし、ゴブリモンの顔に見事に命中させた。
「ぎゃっ!! お、覚えてろよぉ!!」
軽くいなされたゴブリモンは、勝機のなさを悟ったか道の外へ消えていった。
「二人とも、お見事!」
「うーん、やっぱり手が多いと便利だね。お疲れプカモン」
「良い立ち回りだったよ、テリアモン。以前のスパルタが効いているのかな」
テリアモンとプカモンがハイタッチして、アミの元へ戻ってくる。ダメージも負わずに片付けられたのはかなりの成果だ。
「同格相手にこの程度なら、前回のようなことでも無い限り道中は問題ないだろう」
Bもそれなりに認めているらしい評価をくれた。ただ、アミを見て、
「お前も指示が追いつくようにな」
「り、了解です」
釘を差すことは忘れないのだった。テリアモンが「ツンツンだー」と茶化す声に一瞬怖い目線が飛んでいた。
「だいぶ強くなったし、テリアモンもそろそろ進化するかな?」
アミは再び歩き出しながら、横をちょこちょこ歩くテリアモンを見下ろす。テリアモンは口元に手を当て、小さく首を傾げる。
「経験は不足しているように思えないしな。あと少しかもしれない」
「どんなのになるのかな! 面影残ってるといいけど」
「アミってボクの今の姿がお気に入りな感じ?」
「可愛いしだっこも出来るから割とそう……ん?」
と、頭を軽く小突かれた。顔を上げるとBがアミを見て、小さく先を指さしている。Bの指を辿れば、道の先を数人のハッカーが塞ぐように立っているのがアミの目に映った。
「あれって、通行止めでしょうか?」
「だろうしな。している理由は推して知るべしか」
アミはBと共にハッカーたちへ近づく。
「おお~っとぉ!? お~っとおっと、おっとっとぉ!?」
向こうもアミたちを見つけるなり、胸を張り出し柄の悪い声で威嚇してきた。
「ちょいと待ちやがってくださいよぉ? ここは絶賛、通行禁止中なんですよぉ……
どっか行きやがってくださりますぅ?」
でないと狩っちゃうよぉ? と不気味な笑い声を上げ、じろじろとアミたちを睨んでくる。まあ通行止めをしているあたりで怪しいこと山の如しではあったが、
(やっぱりアカウント狩りの人たちみたいですね……)
(大っぴらに口にして、頭の回路どうなってんだこいつら)
アミは思わずBと顔を見合わせてしまった。相手がだんと足を踏み鳴らす。
「なぁ~にひそひそおハナシしてらっしゃいやがりますかぁ!? ……あ?」
Bが件の仮面をハッカーの目の前に差し出す。すると相手はBと仮面を交互に見て、「おやおんやぁ!?」と奇っ怪な笑みを深くした。
「ぬわ~んだぁ、キミたちも仲間なんじゅわ~ん! もぉ~ん、だったらちゃ~んと仮面つけときなよぉ~ん!」
ハッカーが怪しげなテンションのまま体を揺らし、横に退く。他のたむろしているハッカーたちもケラケラ笑いながら道を開けた。
なんというか、言葉がうまく出てこない。
「……じゃあ、行きましょうか」
アミはそそくさとハッカーの横を通過する。が、並んだ所でずい、とハッカーが顔を近づけてきた。
「でないとボクちんら……キミのこと間違って狩っちゃうかもしれないんだゾ♪……うぇへ♡」
不意に誰かに腕を捕まれた。アミは硬直しかけていた状態から、素早く振り向いた。
「行くぞ」
見上げれば、堅い表情のBがアミの片腕を握っていた。そのまま道の先へ引っ張られ、ハッカーたちがどんどん離れていく。
「た、タクミさん?」
「面倒だ、全く」
Bは面白くなさそうな顔をしていた。
引きずられるまま道を進み、曲がった所でアミはようやく離された。掴まれていた場所は案外と痛くなかった。
「どうしたんですか?」
「さっさと終わらせる。長引かせると碌なことになりそうにない」
Bはそれだけ口にして、今し方通ってきた方向を見やった。ようやくテリアモンたちが追いついてきた。
「ちょっと、どしたのさB。アミに近づかれてヤキモチ?」
「お前は頭がいらないようだな、風通しを良くしてやろうか。このままだとまずいかも知れない」
「斬新な貶し方だ。気付かれているのか」
テリアモンの冗談を切って捨てたBはプカモンの言葉に首肯し、すぐさま先へと大股で進み出す。アミたちは慌てて後を追った。
しばし進むと再びガラの悪いハッカーたちが通行止めをしていた。案の定分かりやすく威嚇されたのだが、
そこをBは、誰もが止める暇もなく突っ切っていった。
「あれってアリなの!?」
アミはハッカーたちに仮面を見せて退いてもらい、Bの後を走って追う。かなり全力に近い早さを出しているのだが、それでも背中を見失わないようにするのが精一杯だ。
「プカモン。気付かれてるって、こっちの正体?」
「正体とまではいかないが、仲間ではないことを見抜かれている可能性がある。どうやら掟に反している自覚がたっぷりなようだな」
皮肉げな顔をしたプカモンを、テリアモンが走りながら見つめる。
「プカモンの前の人って、そういえばハッカーだっけ」
「善とも悪とも言い難い輩だったがね。ただプライドだけは一等で、こういうことは美学に反するとしなかったよ」
それもどうかと思いながらアミは道を走る。中途で猫型のデジモンが数体飛びかかってくるが、
「はいはい、ごめんねっ」
テリアモンが前へ出て竜巻を発生させ、一気に散らす。その合間をアミは走り抜け、道の隙間を飛び越えショートカットした。
そして先の分かれ道の前方に、Bがいた。だが、
「あら。この子?」
Bの横にもう一体、ピンクと黄緑色のデジモンらしき存在が浮いていた。
「来たか。この先の行き止まりで取引しているらしい」
アミの方に向き直ったBが、片手の親指を立て道の一方を示す。いやそれも大事だが、アミの視線はBの横に固定されていた。
「ベル、あの子私が気になるようだけど」
デジモンの一言にアミはぶんぶん頷いた。しかし一方のBは腕を組み、若干不思議そうに首を捻る。
「お前から説明すればいいだろう」
「あら自己紹介しろって? やだ、初対面の子たちに恥ずかしいわ」
「……」
恥じらうようにふよふよもじもじするデジモンに、Bは絶対零度の眼差しを向けた。だがデジモンは埴輪のような顔のままくすくすと笑い声を上げ、怖がる様子など一切見せない。
「うふふ、私はそうね、ララモンと呼ばれているわ。
ベルの……、」
「昔なじみ」
「ちょっと特別な関係かしら……って、あらやだ」
中途で言葉を被せたBにデジモン——ララモンがちょいと近づく。
「ベルってば、ちゃんと紹介出来るじゃない」
「つまらんハッタリを混ぜようとするな腹黒が」
「最初からきちんと紹介すれば手間じゃなかったのよー? 相変わらずせっかちさんなんだから」
「やめろ。その言い方やめろ。怖気立つわ」
ララモンは本気で引いた様子になったBを目にしつつも、口元へ手を当て笑う。
「……えーと、べる? べるって、Bのこと?」
「何だか安心するなあ。Bにもこうして親しくする間柄の存在がいたのだな」
「……」
テリアモンとプカモンの一種暢気な感想を聞きつつも、アミはBとララモンが並んだ光景を、どうしてかじっと見ていた。なんというか、目が離せなかった。以前もこんなことがあったような気もしている。
(悠子さんの時と、同じ?)
そこまで思い至るが、どうして目が離せないのかは分からない。ただ目の前の情景に心惹かれるというか、何だか目に焼き付けておきたい衝動があるというか、気持ちがまとまらない。
「それにしてもベルってば、だいぶ素敵な子に当たったわね。羨ましいくらいの美形になっちゃって」
「——は、はあ」
ララモンの不思議な発言でようやくアミの遊離していた心が戻ってきた。Bは特に何も言わず、顔を逸らしていた。
「ところで、あなた。名前は?」
「アミです」
「そう、アミね。ちょっとお仕事があるみたいだけど、その間ベルを借りていいかしら?」
突然の頼みにアミはきょとんとした。ララモンはゆっくりとアミの目の前まで漂ってきた。
「大丈夫、あなたのフォローにもなるはずだから。ベルならさっさと片づけて戻ってこられるから、ね?」
ララモンの謳うような語り口に、アミは自然と耳を傾けていた。さっきまでは分からなかったが、透き通ってどこか甘やかな美しい声をしている。
少し考える。ギガドラモンのような事態は稀だろうし、緊急の時にBへと縋る癖がついてはいけないはずだ。いつも一緒に行動はしないとも本人が言っているし、何よりアミ自身がいけないと思う。
デジモンという支えがありつつ、自力でどうにかする力をつけなければ。
「いつまでもタクミさんに頼れませんしね。分かりました」
「ありがとうね! じゃ、行きましょうベル」
アミの快諾にララモンはぺこりと礼をして、Bの方を見やる。
「どうせあなたもこういうつもりだったんでしょう?」
そして告げられた不可思議な言葉に、Bは小さく鼻を鳴らした。
「奥の取引をどうにかしておけ。お前らはそれでいい」
それだけを口にして、Bはララモンと一緒に走り出した。段差を飛び越え、間隙を蹴り、あっという間に元の道へと消えていった。その動作が明らかに人間離れを起こしていることには気が付いていないようだ。
「それじゃ、ボクたちはボクたちのお仕事だね」
「ああ。アカウントをどうにか、だな」
アミは見上げてくるテリアモンとプカモンに目を合わせ、強く頷いた。
何が来ても、どんとこいだ。