ibの世界に東方小説の主人公が乱入するようです※完結済 作:ホイル焼き@鮭
二人が『深海の世』の水の中を通ると、生ぬるい不思議な感覚に見舞われながら、階段へとたどり着いた。そこには空気もあり、深海の世の水が宙に浮いているようにも見えた。
「やっぱり、おかしな世界だなぁ」
「ねぇ、凜」
「ん?なに、イヴちゃん?」
「入口、閉まってる」
「え、マジで?………あは、後戻りは出来ないってことね?面白い。ちゃっちゃと行こーか、イヴちゃん」
「…………うん」ギュッ
こころなしか、イヴが凜の手を握る力が、強くなった。後戻りできない状況は、精神的な圧迫を強めるからだろう。
「あは、そんなに心配すんな。ほら、飴でも舐めとく?常にお菓子くらいは持ってるからさ」
「……………ん、ありがと」コロン
凜がバックから取り出して手渡した飴を、イヴが口の中に入れる。
「……………~っ!?かりゃっ、かりゃっ、かりゃい……!?」
「………あは、当たっちゃったかぁ。俺特製、デスソースを練りこんだ『唐雨』(からあめ)。一つしかないのに、それを引き当てるとは、なかなかな強運じゃん」ニヤニヤ
「みひゅっ、みひゅぅ……!」
「ほい、お茶。2リッターしかないから大事に飲みなよ?」
今度はバックから水筒を取り出し、手渡す。それをイヴはひったくり、
「……………!ごくごくごくごくごくごく…………!ふぅ」
「あっは、一気に飲んだなぁ。結構大事なのに…………ってげはっ!?」
「凜の、バカ!」
さすがに怒ったのか、9歳の少女は全力で凜を蹴った。
「…………あは、見えてたのに当たるなんて………やっぱり、危機感を意識して持たないと、ダメだなぁ………。普段なら、思考回路をブーストしてるから関係なく反応してくれるのに。それに、イヴちゃん………よく、股間(ここ)を蹴れば痛がるって分かったね……」
「…………お母さんがホントのホントに怒ったとき、お母さんがお父さんにそうやってたもん」プイッ
「ごめんごめん、悪かったよ。まさか大量にある中で一つしかない唐雨を当てるとは思わなくてさ」
「許してあげない。それに、あのまま私に飴を食べさせて、いつ当たるか楽しみにしようとするつもりだったでしょ」
「…………うわぉ、当たってる」
「…………ふんっ!」
そっぽを向いてしまうイヴ。そりゃそうである。誰しもハバネロの数十倍は辛いものを舐めさせられれば怒る。
「ごめんごめん、悪かったよ。ほら、普通の奴あげるからさー」
「………………………………………………………………………」
「(あっちゃー、流石にやり過ぎたかな………。)」
「………………………何味?」
「(おっ?)いちごでもりんごでもレモンでもメロンでもブドウでも。好きなのをどうぞ?」
「…………………………メロンで手を打ってあげる」
「………あは、ありがと。なら、口開けて?」
「…………………………ん」コロン
「………………美味しい?」
「ん………悪くはない」
「それは良かった。こんなもんでも、舐めてりゃ少しは落ち着くってもんだ。食べたくなったり、不安な時は言いなよ?いつでもあげるからさ」
「…………分かった、凜にいじめられたらそうする」
「……あは、それも大事だねぇ?」ケラケラ
「(少し、警戒心が薄れてくれたかな?やっぱり、怖がられるのは居心地がわるいしね)」
命の危険性があるこの状況で、イヴがまだ冷静でいられたのは、凜のおかげだった。一人でないのもそうだが、彼がまるで友人と雑談している時のように、他愛もない話をしてくれる事が、イヴの心を落ち着けていた。それは凜も似たようなもので、常にイヴを気にかけているからこそ、この世界を楽しむことが出来ている。イヴが居なければ、恐怖に怯え………る事もなかっただろうが、ここまで楽しそうに動けは出来なかっただろう。
「ん……………あれは………バラかな?」
左の道を道なりに進んでいくと、花瓶に二輪のバラが差さっていた。真っ赤な色のバラと、群青色に透き通ったバラの2本。
「きれい…………」
イヴが二輪のバラに見とれている間、凜は花瓶の近くの張り紙に目を通していた。
「『そのバラと貴方は????、命の重さ、知るがいい』ねぇ。肝心な部分が読めないじゃねぇか。どうやら、バラは大事にしなきゃいけないってことみたいだが…………。よっと」
凜は試しに、群青色の方のバラを取り出し、花弁を1枚、ちぎってみた。すると、
「………うぐっ!?……~!?」
花弁を抜いた瞬間、凜に激痛が走った。身体に損傷はなく、あくまで危険信号である痛みだけ、頭に走ったのだ。
「凜………?どうしたの?」
「…………あは、何でもないよ?」
「そう?」
「(体に損傷がないのに、痛みが走った………。つまり、バラはもう一つの体、って訳か。なるほどね……………)………イヴちゃん、そのバラ、持っていこうか」
「…………うん」
「そのバラ、受け取ってもいいかい?バラは大事にしなきゃねー」
「うん、いいよ」
「ありがとう、イヴちゃん(この子の命を預かったみたいなものか。あは、さすがの俺も、命を預かったのは初めてだぜ。この世界、思ったよりも手強そうだね………面白い)」ニィ
深紅色のバラを花瓶から取り出し、鞄にしまい込む。
「さて、このテーブルはどけて………。良し、行っちゃう?」
「そうだね」
花瓶をどけて部屋に入ると、笑みを浮かべている女性の絵と、部屋の真ん中に青色の鍵を見つけた。あと張り紙も見つけたが、表に出ているのと似たようなものだったので特には。
「鍵みっけ。どっかで使うのかもしれないし、持ってくか」
そう凜が思って鍵を拾い上げると、急に女性の絵の目が開き、口の端がつり上がった。
「おー、怖いもんだ。でも、実害はないなぁ…………」
変化が訪れた女性の絵をペタペタと触り、調べ出す凜。
「や、やめとこう、凜………」
「ん?あー、ごめん、怖いよね?出よっか」
部屋を出て、元の廊下に戻ると、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせと、赤い血のような色をした字が、壁に浮かび上がっていた。
「あは、おお、怖い怖い。あ、そうだ、試したいことが有ったんだ」
群青色の方のバラを、さっき有った花瓶の水に浸してみた。すると、みるみる水が減っていき、花が成長して花弁が元通りになった。
「………ふーん、なるほど。花瓶の水に浸せば、バラの花弁の数は元通りになる、と」
一種の救済措置のようなもの、か。さっきから、どうやら俺たちに利する者がいるみたいだな。何と言うか、ゲーム的というか………。決して進めない訳ではない。ゲームとして成り立つには、まずクリアが可能である、というのが最優先だからだ。ゲームを作った奴と、誘導者が居るのは、決定的だろう。
凜はそんな事を思いつつ廊下を引き返して、しばらく廊下を進んだ。すると、青い扉に行きついた。
「ん、鍵が掛かってるな………」
「凜、さっきの青い鍵」
「あ、そっか、ここで使うのか。ちょっと忘れてたぜ。ありがと、イヴちゃん」
凜が頭を撫でてそう言うと、イヴは少し嬉しそうに微笑んだ。
「ほいっと、鍵開けましたとさ。じゃ、行こうか」
「………うん」
鍵を開け、青色の扉の先に入る。右の道と真っ直ぐの道で分かれている。
「手がかりもないし、直感で決めようか。イヴちゃん、どっちに進む?」
「………じゃあ、あっち」
右の道をイヴが示したので、二人はまず、右の道を行くことにした。廊下にはアリがいた事と、虫の絵が有ったくらいで、特に何もなく進んだ。
廊下を道なりに進んでいくと、緑色の扉に行き着いた。
「鍵がかかってないね、入ってみようか」
「うん」
扉を開けて中に入ると、一本道の渡り廊下で、次の部屋に繋がっていた。だが、間に大きな穴が空いており、進むのを不可能にしていた。
「んー、これくらいなら霊力で突破できそうだね。イヴちゃん、ちょっと離れてくれる?」
「………………うん」
凜が穴に向かって走り出す。
「…………ほい……よっと!あ!!霊力ないの忘れてたーーーー!!!!ギャアァァァァ━━━━━━(|||゜Д゜)━━━━━━!!!!!!」
途中で自分の霊力が無いのに気づき、足を止めようとするも、時すでに遅し、体は既に穴に向かって飛んでいた。
「落ちて………!たまるかぁぁぁぁぁ!!!」
体をひねり、イヴがいる側の崖をギリギリ右手で掴む。
「うぉぉぉぉぉぉっ!ファイトー!イッパーツ!」
気力を振り絞り、右手の筋肉をフル活用して体を上げようとする。体重70キロの無駄に筋肉がついた体を、右手一本で上げきった凜。
「はー、はー、し、死ぬかと本気で思ったぁ………!」
「…………凜、おっちょこちょい?」
「…………うぐ…………はぁ、返す言葉もない………」
というか、見たところ三、四メートルだから、普通にやればいけるか。そう凜が、再度穴に挑戦する事を考えてみる。
「重心を考えて………足のバネを上手く使えば………。ん、いけそうだ。よし。イヴちゃん、ちょっとそこで待っててくれる?あっち側見てくるからさ」
「………凜、また落ちちゃうんじゃ…………」
「う、うるさいなぁ………。ちょっとうっかりしてただけなのに…………。大丈夫、ちょっと鍛えてれば越せないことはない穴だよ」
「でも、さっきは落ちかけた」
「うぐ………!うー、大丈夫ったら大丈夫なんだよ!」
「……………………ホントに落ちちゃ、やだよ?」
「………………………………あは、わかってるよ」
イヴの目が、恐怖に染まっているのを、凜は感じた。それもその筈、彼女を今まで支えてくれた両親の居ない今、頼れるのは凜くらいなのだ。今凜が居なくなることは、彼女にとって最も考えたくないケースなのだろう。
「すぐ帰ってくるから、飴でも舐めてて?不安になったらとにかく何か甘いものだ」
「…………うん」
凜はイヴに自分の鞄を預けると、跳躍モーションに入り出した。姿勢を低くして加速し、最後の2歩を小さく踏み込み、最後の一歩は体重を深くつま先に伝えて足のバネを一気に押し込み、飛び込む。
「(……………………いける)」
逸らした上半身を一気に倒し込み、着地する。無事、向こう側へと渡れた。
「おっけ、こっちの扉も閉まってない。いけるね」
凜が扉を開けて出ると、そこには一枚の絵と、一体の『無個性』の像、そして緑色の鍵だった。
「これ絶対使うよなぁ。よっと。鍵も取ったし、さっさとイヴちゃんの所へ――――――」
鍵を取り、背中を向けて歩き出した瞬間、『無個性』の像が凜の背へと迫っていた。
「……………っ!?マジで……?くっ。……………!?」
今の凜は高校生相当の腕力しかない。金属で出来ているであろう『無個性』の像を壊すことは不可能だ。しかし、そこに立っている以上、ある筈である重心を崩すことくらいは可能なのだ。重心が中心にあればそのまま蹴り飛ばせばいいし、腰の後ろにあるのならば足を蹴りつけて横に倒せばいい、といった風に。そして、重心がどの位置にあるかなど、東方の世界で鍛えられた凜には容易いこと。それを見抜いてしまえば、逃げることなど容易なのである。しかし。
「こいつ…………重心がない!?」
それらは、全て『無個性』に重心があればの話。それが存在しなければ、ただの高校生である凜に、逃げる以外の選択肢などない。
「まさか重心がないとはたまげたなぁ………!しゃーなしだ、三十六計逃げるが勝ちってね!」
素早くこちらに向かってくる『無個性』に背を向け、扉を開けて元の部屋に戻る。もちろん『無個性』も素早く追いすがってくる。
「迷ってる時間はない、一気に飛び込む!」
再度大穴の前で跳躍し、イヴの元へと着地する。無個性に同じ真似は出来ないので、そのまま凜を追い掛けて下に落ちてしまった。
「…………凜……!」ホッ
「あは、待ったかい?まぁ待ってないだろうけどね」
「…………けっこー待った」ムン
「あは、そいつはごめんよ」
今度はイヴが自分から、凜の手を握り始めた。
「…………………待った」ギュッ
「………………そんなに?」
「………………うん」
「…………悪かった、軽はずみに離れるべきじゃなかった。不安にさせちゃったみたいだ」
「………………ううん、謝らなくていいよ。だって………凜の命は、ここにあったから」スッ
「………それは………俺のバラ?」
「帰ってくるって、このバラが教えてくれてたから」
確かに、バラは凜と繋がっており、それは言いかえれば凜の命そのものだ。深紅と群青の色をした二つのバラは、同じ場所にある。分かれてなど、いない。その事実が、イヴの支えにもなっていたのだ。
「……………あは、一本取られたなぁ。良し、行っちゃう?」
「…………うん………!」フンス
□ ◇ ▽
来た道を戻って最初の分岐路に到着。
「『はしにちゅうい』ねぇ」
「どういうことかな?」
「真ん中を歩けってことだろうね」
ちょうど道の真ん中にある柱を基準にして、真ん中を歩いていく凜。手が引っ張られているので、イヴも後ろからそれについていく。
「…………………ひっ………!?」
突然黒い手のような物が飛び出してきて、凜達に向かって行く。
「大丈夫、ゲームは攻略法がある物だ。それを守る限り、傷つくことはないように出来てる」
凜達に触れる事無く、黒い手の伸縮が止まり、そのままブラブラと揺らされ続ける。
「………すごいね」
「ここが誰かに作られたゲーム盤である事は理解した。ゲームである以上、俺達にも勝ち目はある。それを掴むだけさ」
「………………良く分からない」
「あは、だろうね。分からなくていい。1つ言えることは、君は生きて帰す。それだけだ」ニタッ
そう言って、いつもの通り笑う凜。けれど、それは自身のことより、自分の事を優先した発言のようにイヴは感じて。少し、不安になった。だからだろうか、イヴは強い語気で矢継ぎ早に喋り出した。
「…………そうだね。でも、凜も一緒に帰る」
「………………あは、当たり前の事言うもんじゃないぜ?こんなとこで野垂れ死ぬつもりはさらさらないさ」
「うん、ならいい………」
「あは、変な子だねぇ」
先程手に入れた緑の鍵で扉を開け、次の部屋へと進むと、猫のような形をした地面と、魚みたいな窪みを見つけた。
「うーむ、これが鍵穴なんだろうね。となると、鍵を探さなきゃか。イヴちゃん、右と左、どっちに進む?」
「どっちでもいい」
「なるほど、オーケー。じゃ、まずは右から行くか」
右の扉を開き、中に入る二人。中には数点の美術品が存在していた。人の顔をした石像や、先程凜を襲った『無個性』などだ。とりあえず二人は、部屋の中を調べて見ることにした。
「うーん………別に何もないな。ここはハズレか…………ん?こんな所に穴が…………これも何かに使うのか?………………ん?」
石像の一体が赤く目を光らせ、動き出した。
「………………ギュッ」
「あー、なるほど、ここに引っ掛けろ、って事か。んじゃ、こっちに誘導して…………」
穴のある場所に石像が来るよう、体を置く二人だが…………。
「………………遅いな………」
予想より遅かった。
「あー、めんどいなぁ………。ん?重心がある……?まぁ、無い方がおかしいんだろうけど…………………なら、話は別だねぇ?」ケラケラ
笑いながらそう言い、凜はいきなり石像に向かって跳び始めた。
「え?」
当然ながら、イヴは驚く。隣でいきなり飛び出したらびっくりするだろう。
凜はそのまま飛行をして、ちょうど石像の真上で宙返りを行った。そして頭の裏に着地し、そのまま力を込めると、石像が前にぐらめき、倒れた。頭が地面に叩きつけられ、思い切り割れる。
「…………………すごい……!」
「さっきはダサいことやっちゃったからねー。少しはカッコイイこともやっとかないと、バランス取れないでしょ?」
「でも、凜。あぶない」
石像の頭の破片は盛大に飛び散っており、もう少しでイヴにも触れるレベルだった。
「………………あは。派手にやり過ぎた…………うん」
散りばった破片の中に、魚の尾っぽのようなものが見つかった。
「んーと、これをあれにはめるのかな。となると、頭がある筈だねぇ。さっきの左側の道がそれかな。なるほど、だからどっちでもいい、か。やっぱ、子供の直感ってのは恐ろしいねぇ。行くか、イヴちゃん」
「そうだね。そう言えば、凜って独り言多いね。なんで?」
「ん?そーしないとストーリーが進まないでしょ?あと、作者が三人称に慣れてないんだよ。俺に喋らせときゃ、地の文でカバーしなくて済むからねぇ」
ぎくっ。
「大変だね、凜も」
「あは、分かってくれる?結構大変なんだぜ、主人公ってのも」
そ、そそ、そんな事を喋っているあいだに、左の部屋に着いていた凜達。
「ん?」
"かくれんぼ、しよ?”
黒い棒人間の絵の前を通ると、いきなり黒い棒人間の絵が消えて、文字が現れていた。
「おー、凄い凄い、気配でまるわかりだ」
左端から二つ目の下カーテンを開く。すると、黒い棒人間の絵が潜んでいた。見つけた瞬間、カーテンの横に字が現れた。
"みつかった けいひん あげる"
部屋の中心の壁に飾られていた『板前の腕』の前に、魚の頭が現れる。
「これで鍵を開けられるね。戻ろうか、イヴちゃん」
「うん」
元の猫の部屋に戻り、魚の鍵穴に鍵をはめる。
"にゃーにゃーにゃーにゃー!”
猫の声が響くと目が覚醒して、額の先の壁が開いていき、新しい道が出来た。
「あは、可愛い可愛い。じゃ、さっさと行きますかね」
道を通り進んでいくと、黄色い部屋にたどり着いた。
左右に分かれており、左側には真っ青な舌を垂らした、気味の悪い絵が展示されている。
中央にも、奥に続く道があるようだ。
「おっと」
左側を調べていると、いきなり青い唾が飛んできて、凜の鞄に当たりかけた。
地味にイライラしたらしく、凜は青い絵(ペロペロの絵と言おう)の前に立って睨みつける。
「おいおい、この鞄高いんだぜ?それを汚そうとか………。あ?舌引っこ抜いてやろうか?ん?」
「そんなに睨んでないで、先に行こう?」
「んー、そだね。命拾いしたな?おい。次唾はいたら引っこ抜くからね?」
気を取直して、ペロペロの絵の横の額縁を調べてみた。
「……………9、ねぇ。赤い文字で9か。何かに使うんだろうねぇ」
次に真ん中の廊下を行こうとすると、2人はすぐ近くの壁に紙が貼られているのに気づいた。
「忘れたころに…………ねぇ」
「どういうこと?」
「うーん多分、初志貫徹ってことさ」
先ほどと同じような廊下だった。
2人が真ん中を歩くと、黒い手がまた現れる。
「なるほど」
「そういやイヴちゃん、意外と賢いよねー。初志貫徹とか、9歳じゃあんまり知らないんじゃない?」
「お父さんとお母さんが、小さい頃から勉強しなさいって………」
「ほー。確かに、おっさんとかもっと若い内に勉強しとけば、って言うもんねぇ。ちょっと俺には必要ないけどね、勉強」
「なんで?」
「んー…………まぁ、それが必要ない場所にいる、って事さ。後は、それを必要としないだけの物があるって事かな」
「それって、いい事?」
「いんや、良くないだろうねー。自堕落になっちゃうよ?やる事がないとね。やる事が有るってのは、幸せなもんだぜ?ないと暇で暇でしょうがない」
「…………そうなんだ」
「あは、そうそう。そんなとこに居ちゃ、俺みたいになっちゃうぜ?」ケラケラ
「ふふ、それはヤダな…………」
「でしょ?って、地味に傷つくなぁ…………」
「でも、楽しそうだね」
「…………………あは、そうだね。じゃあ、ここから無事に帰ったら、一度案内してあげよう。きっと楽しめる筈だ」
「…………楽しみにするね。じゃあ、指切りしよう?」
「指切り?あー、ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った、って奴かい?なんだか照れくさいなぁ。まぁ良いんだけど」
二人は指を絡ませ、一斉に声を出した。
「「ゆーびきーりげーんまーん、うっそついーたら、はりせーんぼーんのーます、ゆーびきった!」」
「………………うわぁ、予想以上に恥ずかった………」
「…………約束、だよ?」ニパッ
「………………………。はっ!そ、そうだね…………」
「?どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「変な凜」クスッ
「(………………俺としたことが、あんな9歳の女の子に硬直させ(ピヨらせ)られるとは………。イヴ……恐ろしいコっ!///)」
地味に照れる凜。他愛もないことを話しつつ、先に進んでいくと、またもふた方向に分岐していた。右側の道を行くと人形が数体、ぶら下がっている所にたどり着いた。2人が取り敢えず、全部の人形を調べてみると、一体に文字が刺繍されていた。
「…………………ふーむ、緑で18、ね。あっちの方も調べてみるか」
2人は次に、分岐路の逆側に進んでみた。
「"ウソつきたちの部屋”ね。取り敢えず入ろうか」ガチャッ
中に入ると、様々な色の服を着た絵画が6枚、展示されていた。それにドアが1つ。
「……………………ふむ、絵画の下に字がある。読んでみようか」
ひとまず凜は、緑の服を着た絵画の下の字を読んでみた。
「"石像の正面に立って 西に3歩 次に南へ1歩 そこが正解”ねぇ」
立て続けに、茶色、黄色、青色、白色、赤色と読んでいく。
「"石像の正面に立って、東に4歩 次に北に2歩 そこが正解”」
「"白い服が言っていることは本当だよ”」
「"本当のこと言ってるのは 緑の服だけだよ”」
「"石像の正面に立って 東に2歩 次に南へ2歩 そこが正解”」
「"黄の服に同意!”」
「んー、奥も見てみようか」
奥の部屋に行くと、そこには石像があった。石像を調べてみると、文字が書かれていた。
「"一人だけ、仲間はずれがいる”」
「……………元の部屋に戻ろうか」
元の部屋に戻ってきた二人。
「…………………意味がわからないね」
「いやー、ま、良くある謎解きだねぇ。最近ではちょっと見ないなー」
「分かるの?」
「まぁ、ね。ここはウソつきたちの部屋だから、一人だけ正しいことを言ってる奴が居るんでしょ?それは茶色だね」
「なんでそう思ったの?」
「茶色だけ、賛成したり賛成されたりしていない。つまりぼっちくんだ。賛成するってことは、同じ意見を言うって事だ。つまり、それが合ってたら、一人だけの数に合わない………つまり、ぼっちくんである茶色が、正しいことを言ってるのさ」
「…………なるほど。頭いいね、凜」
「はは、これは簡単でしょ。イヴちゃんでも理解できたんだから」
二人は奥の部屋に入り、茶色の服の言う通り行動した。
「東に4歩、北に2歩、だったっけね」スタスタ
「…………剥がれそうなタイルがあるよ」
「それだろうね。よっと…………。青で、4だね。なんに使うか分からないけど、覚えていた方が良さそうだ」
「そういえば、さっき人形がいっぱいあった所に、パネルみたいなのが有ったよ。そこで、この数字を使うんじゃない?」
「………………え、ホントに?行ってみようか…………ん?」
ズシュッ!ザシュッ!ゴスッ!ドガッ!ブスッ!ギャァァァァ!
突如、異音が鳴り響いた。
「今のは…………悲鳴?戻ってみよう、イヴちゃん」
「そ、そう、だね……」ギュッ
イヴと凜が手を繋ぎ、元の部屋に戻ってみると……………。
「………………ぁ………!?」
「これは…………悲惨、の一言に尽きるね」
そこにあったのは、凄惨な光景だった。茶色の絵が赤い液体でズタズタにされており、その他の絵画にも赤い液体が大量に着いている。
「………………ん、これ絵の具だね。一見血に見えるけど。あとは…………茶色の絵以外は凶器を持ってるか。アイスピック、ナイフ、分厚い本、金槌、ドライバー、ね。なるほど、これで茶色をぶっ殺したから返り血が着いた、って演出なんだね、凝ってるなぁ」ケラケラ
「…………な、なんで…………」
「ん?何、イヴちゃん?」
「なんで凜は………そんな風にこれを見る事が出来るの………。普通だったら………怖いはずなのに」
「……………えーと………。まぁ、これが人間ならね、かわいそうだな、とか思ったりはするけど………絵だし」
「そういうことじゃなくて!………………そういうことじゃ………なくて………」
そう言って、俯いてしまうイヴ。
「…………………そうだねぇ、なんで怖くないか………か。そだね………………イヴちゃん」
「………………なに……?」
「怖がることは、止まることだ。いや違うな………。怖がって、止まることがダメなんだ。怖いってのは大事な気持ちで、なくしちゃダメなものだけど、そこで足を止めちゃダメなんだよ」
「さっき俺は、もしかしたら俺達を襲ってくるかもしれないから調べた。怖がって、調べずに戻ろうとして。動き出したらどうなる?もしかしたら死んでしまうのかもしれない。止まるってのは、そういうことだ。だから、俺は怖くても動くし、止まるなんて事はしないね」
守るべき子も居ることだしー?ケラケラと、どうでもいい事を話すかのように、彼は言う。いつだって笑っていて、大事な事を、当然の事、皆が知っている事のように話す。それが彼であり………今のイヴの支えだった。
「……………………わかんない」
「あは、そいつぁ残念。まぁ分かっても分からなくても、別にいいんだけど――――――――」
「………………でも………なんか、分かった」
「…………あは、どっちだよって。まぁ、動けるならいいや。さっさと君の見つけたパネルまで行こうぜ?」
「そうだね、行こう………!」
イヴが凜の手を、グイグイと引く。いきなり積極的になったイヴに、少し戸惑いつつも凜は返す。
「……………お、おぉ……。なんかいきなり元気になったなぁ………。まぁ、元気なことも善きことなり。やっぱり子供はこうでなきゃね」ニカッ
いつものニヤニヤとした、実に楽しそうな笑みではなく、年相応の、晴れ晴れとした微笑みを、この時の凜は浮かべた。
「色々と面倒なことにはなってるけど、この子と会えた事だけは、喜ぶべきなのかも………知れないね?」ボソッ
「?ねぇ凜、何か言った?」
「いやー、なんでもないぜー?っとと、引っ張るの止めなって!君意外と力強いな!?」
「えへへ………早く行こう、凜!」
「………………はいはい、分ーかった分かった。まったく…………あはっ、子供は苦手だぜ」ケラケラ
嘘つくなよ、ホントは大好きだろ?照れんなってー、このこのー。
「おいこら地の文。き、貴様は何を言っている……!」