ibの世界に東方小説の主人公が乱入するようです※完結済 作:ホイル焼き@鮭
再度、人形のぶら下がっていた通路へと戻って来た。
「ほら、このパネル………」
「ほー、確かにあるね。上にもなんか書かれてるな…………緑丸×赤丸+青丸………ねぇ」
「数字を入れろ………ってことかな………?」
「だろうね。よーしイヴちゃん、算数の時間だ。18×9+4はいくらかな?」
「えっと…………166」
「正解だ。計算も速いね、イヴちゃんは。よしよし」
「……………えへへ」
「1、6、6、と。よし、開いたね。先に行こうか、イヴちゃん」
「………………もっと」
「へ?」
「もっと撫でて」
「い、いや、別にいいけど……先に進まないのかい?」
「……………………」ムッ
「うーん…………まぁいっか。君にも俺にも休憩は必要だろうしね。おーよしよし、いい子いい子。イヴちゃんは気丈で可愛くて文句のつけようもない、いい子だねー」ワシャワシャ
「…………………♪」
まぁ、さっきの映像はグロかったし、精神的にも肉体的にも休憩が必要なんだろう。そう凜は判断して、しばらくイヴの休憩に付き合うことにした。
「それにしても、俺たちだけ、ってのも考えづらいな。多分、一人や二人、他の人が居ると思うんだが………」
「見つかればいいね」
「ま、大人が居れば楽だねー。俺も高3だし(学校行ってれば)、力が無いわけじゃないんだけど、やっぱ大人は必要だよねー」
「なんで?別に私は、平気だけど…………。凜さえ居れば」
「いやまぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさー。やっぱりなんだかんだ言って子供だけってのは危ないわけですよ。精神的にね」
「どういうこと?」
「子供ってのは常に親の庇護下にいる存在だからね。その支えが無いと、不安なのさ。不安になると立ち竦む、立ち竦めば、やられる確率は高くなる。だから危険だ、っていう話ね」
「でも、私は大丈夫だよ……?だって、凜がいるし……」
「……………あはっ、そうだね」
今のは、俺の事言ってたんだけどな。
なんだかんだ言っても、凜だって子供である。彼の場合、ずっとずっと、自分の能力(ちから)に頼ってきたのだ。幼い頃は他と違う自分の力を嫌悪したことも有ったが、今では自分の一部として、受け入れている力。ずっと彼を支えてきた力(それ)が無いというのは、凜も不安なのだ。それ故に、支えを欲している。チート主人公からチート取ったら主人公しか残らないだろう?主人公って……………主人公だろう?つまりそういうことである。
「ん、そろそろ休憩は終わろう。あんまりゆっくりしててもダメだろうしね」
「…………ん。分かった」
「おっけー、行きますか」
二人がパネルを入力して開いたドアを開け、中に入る。中には数種類の木と、一つのリンゴが生っている。
「リンゴ、ねぇ。イヴちゃんリンゴ好き?」
「………好きだよ?」
「へぇ、そう。俺嫌いなんだよねぇ……」
「なんで?美味しいのに……」
「いやー、あれって、良くお菓子とかで使われてるけどさぁ。基本的に美味しく作れないんだよね。だから、嫌いな食材だ」
「変な基準だね………」
「あは、そうだね。取り敢えず、このリンゴは持っていこうか。これも何かに使うんだろうし」
「うん」
部屋を出た。
「よし、結構探索は終わったな。あとはペロペロの絵が無かった方の通路だけだね」
「そうだね。そこでこのリンゴも使うのかも………」
「かもしれないねー。じゃ、行こうか」
人形の通路を出て、ペロペロの絵がない方に進むと、壁の表面から赤い唇が出ているのを凜は見つけた。
「うわお、なにこれシュール………」
「一応調べてみよう」
「お、おぉ、そだね…………(何だこの子、ちょっと積極的になってない?)」
イヴはひとまず赤い唇の前に立ってみた。
「はらへった くいもの よこせ」
「……………なるほど、ここでリンゴを使うんだ。凜、かばんからリンゴ出して?」
「はい、リンゴ」
凜が鞄からリンゴを取り出し、イヴに手渡す。
「そのくいもの よこせ」
「はい、あげる」
イヴが唇にリンゴを食べさせると、むしゃむしゃとリンゴを食べる音が鳴り響いた。その音が止むと。
「うまい これ」
「おまえら きにいった こことおす おれの くちのなか くぐっていけ」
そう唇が喋ると口が大きく開き、道ができる。かなり大きく唇が開いているので、170cmを超える凜でも通ることが出来た。
凜達が唇の中をすぎると、廊下に出た。壁にはギロチンカッターのような絵が掛けられている。
「なんだこの絵。不吉だな………」
凜が歩きながら見ていると、絵の中のギロチンがどんどんと上がっているのが分かった。
「まさか…………」
絵の中にギロチンが見えなくなったその瞬間。突如ギロチンが天井から凄まじいスピードで落ちてきた。あまりの死の恐怖に、全く反応出来なかったイヴだったが、
「………下がるぞ、イヴッ!」
あの凜が、そんな一般的な反応を返す訳が無い。凜はお遊びとは言え、何度も戦ってきた者なのだから。たとえチートがない今であろうと、恐怖で体が竦むはずもない。
凜はイヴの手を掴み、当たるギリギリで下がり、間一髪ギロチンを躱す。思考が止まり、あと一瞬でも反応が遅れていたら、凜とイヴは真っ二つにされていただろう。
「…………っ、はぁー………。今回のはかなりギリギリだったな……………危ねぇー……。っと、イヴちゃん、大丈夫かい?勢い良く掴んだからね、どっか怪我とかしてないか?」
「う、うん、へ、平気………」
「よかった。んし、問題ないなら先に進もう。……………うおっ、本物の鉄じゃねぇか………当たったら即死だな、こりゃ……………」
ギロチンの絵の廊下を抜けると、赤い廊下の部屋に出た。隠し通路が有ったりはしたが、何事もなく廊下を進んでいき、新しい部屋へと出た。
凜はひとまず調べて見る事にしたが、なにも起こらない。
「うーん、こんなとこでゲーム終了じゃあ無いだろうし………ん?」
凜が『赤い服の女』という絵画を調べると、いきなり動き出し、バラの入ったカバンを狙い始めた。
「ふーむ、『無個性』の像もそうだったけど、この絵も動き出すのか。そして、俺たちの体は狙わず、バラのみを狙う。なるほどね………お、鍵あるじゃん、取っとこうか」
凜が自分の鞄を上に掲げる。それを傷つけんと、赤い服の女が視線を上に向け、その細い手を上にあげる。凜はその持ち上がった顎を蹴り付けた。
「ギャァァァァ!」
赤い服の女が上に吹っ飛ぶ。
「よいしょー、今の内っと」
凜は赤い服の女が上に吹き飛んでいる間に鍵を回収し、真ん中の鍵がかかっているドアの鍵穴に差し込み、鍵を開けた。そのまま中へ。
「ふいー、一匹ならなんとかなりそうだなぁ。バラしか狙わないなら、イヴちゃんが襲われる心配はないしね」
「こわいけど、少し安心かも……」
「まぁ、それでもさっきみたいな直接的なトラップもあるかもだし、注意しないとね。取り敢えず、本が一杯あるし、調べてみようか」
ドンドンドン!!!
入ってきた側のドアが強く叩かれた。
「お?へー、なるほど、あれでは壊せないのか。ま、なんとなく予想はしてたけど。でも、ドアは開けられないのね。人のカッコしてるのに」
二人は取り敢えず気にしないで、本棚を調べてみることにした。
「ふーむ……脱出に役立ちそうな本はないなぁ………ん?本がひとつだけ飛び出てる………。ダメだなぁ、本はきちんと綺麗に直しとかないとね」
そう言って凜が本を押し戻すと、ガチャりと鍵の外れる音が響いた。
「「え」」
凜が次の部屋に通じているドアのドアノブを回してみる。鍵はかかっておらず、簡単にひねることが出来た。
「ここ鍵かかってたんだね………。まぁ、手がかりもないみたいだし、先に進もうか?イヴちゃん」
「………そうだね」
二人が先に進むと、花瓶と『永遠の恵み』という絵画が有り、2つに分かれている廊下に出た。
「さて、また分かれ道だ。イヴちゃん、どっちがいいと思う?」
「右、かな……」
「おっけー、右に行ってみよう」
二人が右への通路に行くことして、行ってみると…………。
「……………!」
「う、うぅ………げほっ、がはっ」
廊下に倒れ、呻き声をあげている男性を見つけた。二十歳前後程に見える端整な顔立ちをしている。
「って、ぼーっとしてる場合じゃない」
凜が駆け寄って、声を男性に掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ぐぷっ………ごほっがはっ」
「ちっ、聞こえてないな」
「何があったんだろう………」
「…………この人、バラを持ってない。もしかして、バラを傷つけられてるんじゃないか?」
可能性があるとしたら、さっき行かなかった左の通路か……?そう思った凜は、急いで引き返すことにした。
「凜、待って。この人、鍵を持ってる」
「本当?………………確かに、鍵を持ってるな。ちょっと失礼しますよ………っと」
凜は倒れている男の掌の中から鍵を取り出した。小さく、一見しただけでは見つからない程の大きさだった。
「もしかしたら、何かに使うのかもしれないな。お手柄だ、イヴちゃん!」ナデナデ
「…………ぶい」
Vサインをするイヴ。それに和んでいた凜だが、事は一刻を争うという事を思い出し、取り急ぎ左の通路に進んだ。
左の通路の部屋には、花瓶と注意書きが2枚、『青い服の女』という絵画のプレート、ひとつの小部屋が有った。
「"そのバラと貴方は一心同体、命の重さ、知るがいい”」
「"そのバラ朽ちるとき、貴方の命も朽ち果てる”………………ねぇ。俺達の花瓶のところにあった奴と似てるな。となると、あの人はここで『青い服の女』に襲われた、って事だろうね」
しかし、見たところ誰もいない。つまり、まだ見ていないこの部屋に居る、って事か………。
そう凜は結論づけて、小部屋の中に入ることにした。扉には鍵がかかっていたが、先ほどイヴの見つけた小さな鍵を差し込むと、鍵が開いて、中には入れるようになった。二人は目を合わせて、そのまま中に入る。
「っ、居る居る…………。よし、油断しているすきに……………ってやっ!!」
青い服の女がライトブルーのバラを千切る事に夢中になっているすきに、凜はその頭に飛び膝蹴りを繰り出した。青い服の女が吹き飛び、青いバラから手を離す。
「よいしょ、今の内にバラを回収!逃げるぜ、イヴちゃんっ!」
「うん………!」
「ガァァァァッ!!」
イヴを抱き上げ、青い服の女から逃げる凜。青い服の女は俊敏に凜達を狙ったが、ドアが開けられず、窓を割る手間がかかった為、容易に逃げ出すことが出来た。
「ふぅー、上手く逃げ出せたねぇ。後は、この青いバラをこの花瓶の水に浸して…………よし、元に戻った。俺より枚数が少ないのは、やっぱり俺が普通よかは鍛えてるからかな?」
「なんにせよ、これであの男の人も楽になってるはずだ。行こうか、イヴちゃん」
「うん」
二人が右の通路に戻り、呻き声をあげていた男性の様子を見てみると…………。
「あら?苦しくなくなった……?」
「どうも、お加減はいかがですか?」
「貴方は………?はっ!な、何よっ!もう何も持ってないわよっ!」
「いえ、俺達は貴方からバラを奪った『青い服の女』の様な、作品じゃ有りませんよ?」
「もしかして………美術館に居た人!?」
「えぇ、その通りです」
「やっぱりそうなのね!?良かった!アタシ以外にも人が居た!」
キャッキャと嬉しそうに喜ぶ男。まぁ大人であろうと嫌な環境にいればそうなるだろうし、仲間が居れば喜ぶだろう。それにしても喜びすぎだが。
「はぁ、ご期待に添えて大変恐縮では有りますがー。取り敢えず、自己紹介しませんか?」
「っ、ええ、そうね。少し動転してたわ、ごめんなさい」
「んじゃ、まずは自分から。高橋 凜です。高3の18歳です」
「……………イヴ」
「凜に、イヴね?アタシの名前はギャリーよ。貴方達が助けてくれたのよね?ありがとう」
「いえ、礼には及びません」
「…………うん」
「そう?何にせよ、同じ境遇の人が居たのは嬉しいわ。でも、子供だけでここまで来たの?」
「まぁ、そうですね」
「そうなの。大変だったんじゃない?」
「いえー、そんな事もないですよ?ほら、バラも無事ですし」
「あらホント。凄いのね………」
「あは、恐縮です」ケラケラ
「でも、子供だけじゃ危ないでしょう?アタシも付いてってあげるわ」
「もちろん、大歓迎です。いいよね、イヴちゃん?」
「…………うん、いい」
「ほれ、ギャリーさんにも手ぇ繋いでもらいな?」
「………………ん」
イヴの凜と繋いでいない側の手が、ギャリーの手と繋がる。両腕が暖かな手で包まれる事が、これ程までに安心するのかと、イヴは思った。
「よし、行くわよ、二人とも!」
そう言って二人の手を引き、ずんずん先に進むギャリー。その先にはペロペロ絵画。ペロペロ絵画が地面に向かって唾を吐く。
「ギャーっ!!!」
びっくりして尻餅をつくギャリー。その後ろには冷ややかな凜とイヴの視線。
「(この人………………頼りになるのかなぁ………)」
「(この人も、おっちょこちょい?)」
「い………今のはちょっとびっくりしただけよ!本当よ!」
「とにかく!こういう変なのが居るから気をつけなさいよ!」
気をつけるのは貴方のほうじゃないですか?
そう思いつつも、その言葉に頷いて先に進む凜だった。
先に進むと、青い無個性の像が有り、先への道を塞いでいた。
「邪魔ですね、どかしましょう」
無個性の像を押し、ずらす。壊すことや吹き飛ばすことが出来なくても、ずらすことくらいは凜にも可能だった。恐らく、凜より細身のギャリーでも動かせるだろう。そのまま中へ。
「うわあ、わきわきしてる………黒い手のようなものがわきわきしてる…………」
黒い手が蠢いていたのと、花嫁と花婿の絵画が存在していたくらいで、何もなかったので次の部屋へ。次の部屋には色々と部屋が有った。まず三人は、目に付いたドアを開けてみることにした。
「ここは…………」
入り組んだ道の部屋、迷路である。数体の無個性も居るようだ。
「これは…………見つからないように動く必要が有るみたいね」
「でしょうね。しかし、少し前の無個性と違って、相当近づかないと判別は出来ないみたいだ」
無個性にすれ違わないように注意して進むと、張り紙を見つけた。
「迷路を出るコツは、壁に左手をついて出ること………はぁ、良くある奴ですね。平面の迷路なら、これで脱出する事が可能なんでしたか」
「ここじゃ役立ちそうにないコツね………。そんな事してたらあの化物にやられちゃうわ」
「ですね。しかし、ずっと思ってたんですけど………」
「ん?何かしら、凜?」
「なんでそんな口調なんですか?」
「………あー…………なんでかしら。気づいた時にはこの口調だったし、よく覚えてないわ」
「はぁ、そうなんですか………」
「まぁ、どうでもいいじゃないそんな事。それより、凜は随分と敬語が上手なのね。びっくりしたわ」
「まぁ、高校生ですからね。ある程度当然の嗜みというか……………ん?どしたの、イヴちゃん?」
「凜………………なんか、変」
「へ?いや、別に何も変じゃないでしょ?」
「今は、そう。でも、さっきは変だった………」
「えーと………………あー、もしかして、敬語の事かな?」
「変なの、嫌」
「……………んー、そんなこと言われてもね………………」
「別にアタシは構わないわよ?年もそんなに変わらないし。アタシが21だから」
「………………いえ、そういう訳にはいかないですよ」
「ふふ、子供が変に遠慮してるんじゃないわよ。そんなに気を遣わなくていいってば」
そう言って、微笑むギャリー。一方凜は、目を丸くして、独り言をつぶやき始めた。
「子供…………子供、か………。そうだな、確かに俺は18で、子供だ。子供として扱われるのは…………いつぶりだろう………?」ボソリ
たとえ年上であろうと、彼の実力や、その能力を認め、対等に接されてきた。何十、何百と年を重ねた者たちであろうと、だ。それは彼にとっても心地よい事ではあったけれど………。自分があくまで子供である事を、忘れさせる原因でもあったのだろう。
「(そうだね、子供だ。子供、子供ね……………ははっ。ま、こんな世界でくらい、無邪気に大人を頼ってもいいかも、ね………?)」
「?凜?どうしたのかしら?」
「いえ、なんでもないですよ?それでは、お言葉に甘えて。ギャリー、でいい?」
「…………?ええ、勿論。改めて、宜しくね、凜」
「こちらこそ」
話しながら進んでいくと、三人はキャンパスを見つけた。キャンパスには"赤い絵の具からまっすぐ南へ”と書かれている。
「絵の具っていうと………さっきの壁紙の近くで見つけた奴かな?」
「ここに来るまででも見つけたわよ?」
「多分、複数あるんだろうね」
三人は取り敢えず、見つけたら南下してみる事にした。何度かハズレに引っかかり、無個性たちに追いかけられたが、順調に進んだ。俊敏な無個性は恐怖だが、やられなければ問題はないのである。
「ふぅ。これか」
南下した先にスイッチを見つけた三人。
「取り敢えず押してみよっか」
「ちょ、何か起きたらどうするのよ?」
「おっとギャリー、ビビってるのかい?こーいうのは押さなきゃ進まないって相場が決まってるのさ。ねー、イヴちゃん?」
「……………うん、凜の言う通り」
「べ、別にビビってはないわよ?ただあんた達があまりに無鉄砲だったから、少し注意をしただけよ?」
「あは、それならいいけどさ。ポチッ。ま、早いとこ脱出しようか、迷路から」
そこまで広い迷路という訳でもなかった為、普通に迷路を出ることが出来た。
「次はあの部屋に行こう」
テキトーに入る部屋を凜が決め、中に入る三人。奇怪な状況に瀕しつつも、物怖じせず歩き回れる凜は、イヴにとって、もしかしたらギャリーにとっても、頼れる存在だった。
「えーと…………何だろここ、椅子とキャンバスだらけ。真ん中に変なのあるし、見てみようかー」
椅子を上手くどけていき、真ん中のテーブルに辿り着く。
「これは……………目薬かしら?」
「みたいだね」
「目薬なんて、何に使うのよ……」
「いやー、そりゃ目に指す為でしょうよ」
「いやまぁ、そうでしょうけど」
「まー細かいことは気にしない。いらない物じゃないだろうし、持っとこうぜ」
「…………………うん」
「じゃ、出ようか。ほかに何もないみたいだし」
椅子の部屋から出る。
三人が探索のため、迷宮があった部屋の左横の通路を通ろうとした時。目玉が大量に地面に現れた。
「ギャーーッ!?なんで目玉が地面にあるのよぉっ!?」
「いや、待てギャリー。良く見てみろ」
「……………なにかあるの?正直見たくないんだけど………」
見たくは無かったが、凜の蒼い瞳が今までにないほどに真剣だった為、チラリと視線を向けるギャリー。
「白目がピカピカに光ってるよな?」
「……そうね」
「黒目がキラキラ輝いてるだろ?」
「…………そうね、キラキラしてるわね………それがどうしたのよ」
「………………………………………………可愛いと思わないか?」キリッ
「ε=\__〇_ ズコー!思わないわよッ!思うわけ無いでしょッ!」
「……………………かわいい」
「イヴッ!?正気!?」
「……………うん。でも………ひとつだけ、かわいくない」
「お?」
イヴが差している方向には、確かにひとつだけ、キラキラしていないものがあった。充血している目玉である。
「これは………。なるほどね、こーいう仕掛けか。良く出来てるもんだ」
凜は何かに気づいたのか、その目玉に向かって歩き出した。目玉の所にたどり着くと、おもむろに鞄から目薬を取り出し、目玉に一滴垂らし出す。
「…………………ぐっ!?ま、眩し………」
目玉に目薬が浸透し、その目玉が強く輝き出す。その輝きは周りの目玉とは一線を画す程だった。
すっかり綺麗になった目玉が閉じて動き出し、壁の中のある一点を見始める。
「これは…………………」
凜がその壁を押すと、ズズッ、という音と共に壁が沈み、隠し通路が出来上がる。どうやら目玉はこれを示す為のファクターだったようだ。
「ふむ。ほれ見てみろギャリー、いいことらしき物があっただろう?」
「いや、結果論ではそうだけど………」
「とりま行ってみようぜ」
隠し通路の中に凜が行ったので、それについていく2人。中には赤い宝石の様な物があったので、それを拾い、隠し通路から出た。
「ガラス玉、ねぇ。テキトーにはめる場所を探してみようかぁ」
「そうね」
「…………ん」
「そいやさぁ、ギャリーって21って言ってたけど。大学生かなにか?」
「そうね、美大生よ」
「へぇ、美大生。響きがいいよね、美大生ってさ。って事は、将来はデザイナーとか、画家とかになるの?」
「そうね、そのつもりだけど。まぁ世の中、上手くはいかないだろうけどね」
「ま、そうだろうねー。世界は世界を中心にして回ってるからね。何事も自分次第だ」
「うふふ、子供の癖にいい事いうのね」
「21だってまだ子供だろ?」ケラケラ
「む…………ふふ、確かにね」
「…………おっと、この額縁、穴が空いてる。これにあのガラス玉をはめるんだろうね。よっと」
「あら、隣の額縁が落ちたわよ?」
「ホントに、良くできた仕掛けだねぇ。何何…………『大きな木の後ろに………』、ね」
「まだ調べてないところに、あるのかな………?」
「そうなんだろうね。それにしても、このゲーム…………なかなかにヌルゲーだなぁ。意図が分かり易い」ボソッ
「?凜、なにか言った………?」
「うん?いや、なんでもないけど?それより、ギャリーに聞きたいなぁ?美大って女の子一杯でしょ?美人さんとか居るんじゃないのー?」
「あら、それは美大に対する偏見ね。意外と男も多いのよ?」
「ま、確かに芸術家って男が多いね。ワイズ・ゲルテナもそうだし」
「そうね、だから美術館に来たって言うのに………なんでこんな事になっちゃったのかしら」
「それは神のみぞ知るところ………いや、ゲルテナの知るところだね」
「ゲルテナの?」
「ここにある作品は、いずれもワイズ・ゲルテナの著作ばかりだ。ともすれば、この美術館はゲルテナの世界………そう言えると思わないか?」
「ゲルテナの、世界………」
「彼の魂が今俺たちがいるこの世界を作り、動かせ続けた。そう考えられないかな?」
「そ………それは…………」
ありえない。心の底ではそう思っているけれど、今自分がこの変な世界を見ている事を考えれば、強く否定もできない。ギャリーはそんな気持ちから、凜の荒唐無稽な発言を否定できないでいた。ギャリーがたじろいでいると、凜はふと、息を漏らして言った。
「…………………ま、今のは仮説だし、なんとも言えないけど。ここがどういった所なのか。それを少し考えることは有意義だと思わない?脱出のヒントになるかもよ?」
「…………………そうね、良く考えれば………こんな世界、おかしいものね………」
「まぁ、目的自体は変わらないけどねぇ。脱出が最優先であることは間違いないし。取り急ぎ重要なのは、前に進むことだけだし」
「……………まだ18なのに、凄いわね、凜は。アタシなんか、脱出のことで頭がいっぱいだったのに」
「……………あは、まぁ、うん。そうだね…………」
「2人とも、なんの話………?」
「おっと」
「ごめんなさい、イヴ。少し分からない話しちゃったわね」
「イヴちゃんは小難しい事は分からなくていいさー。そうそう、育ちの良さそうなイヴちゃんだけどー――――――――――」
難しい話をやめ、再び他愛もない会話に戻る。今は、この環境に不釣り合いなほど、いつもするような会話を続けたいと、三人はそう思っていた…………。
「さて、後はこの部屋だけだ」
「ここに、『大きな木』があるのよね?」
「……………たぶん」
部屋の中に入ると、等身大の彫刻が数点あった。その中の1つ『感情』という作品の前に移動する。
「感情。これが『大きな木』かしら?」
「これしか該当しそうなのはない。間違いなくこれだろう。後ろ後ろ……………ギャリー、うしろうしろー!」
「アタシは志○けんか!」
「あはっ♪お、なにか見っけー。これは………指輪、かな?」
「…………あら、結婚指輪じゃない。どうしてこんな所に…………」
「……………最初の部屋の、アレじゃない?」
「あ、あのわきわきしてた手か。確かに、花嫁と花婿の絵も飾られてたし、ありえるな………」
「イヴ、すごいじゃない!」
「……………………ぶい」
「よしよし、ホントにいい子だねぇ、イヴちゃんは。まぁ、いつかは思いついたとは思うけど」ケラケラ
「もう、野暮なこと言っちゃダメよ?」
「………………むぅ」
「あはっ♪ごめんごめん。さ、行こうぜ?」
三人は部屋を出て、花嫁と花婿の絵が飾られていた部屋まで戻った。
「ねぇねぇイヴちゃん、結婚指輪ってどの手のどの指にはめるか知ってる?」
「…………………甘く見ないで」
「あは、流石に知ってるかー。そしてイヴちゃん、なかなか難しい表現使うね…………」
「左手の……………」
「うんうん」
「小指!」カチャッ
「はいぃ?」カキンッ
イヴが小指に指輪を差し込むと、カキンッと指輪が弾かれて床に転がった。
「………………むぅ、おかしいな」
「…………ちょっと、イヴ?何してるのよ…………」
「だって、お母さん小指に指輪してる…………」
「なんでだよ…………」
「サイズが合わなかったとか、かしら…………」
「もしそうだとしたら、イヴちゃんのお父さんェ………」
「いい?イヴ。結婚指輪は、左手の薬指にはめるのよ?指輪ははめる位置によって異なる力を宿すと言われていて、左手は信頼、薬指は幸せなの。だから、信頼と二人の幸せの願いを込めて、左手の薬指に指輪をはめるのよ(諸説あります)」
「………………………そうなんだ」
「へぇ、俺も知らなかった。じゃ、左手の小指だとどう言う意味になるのかな?」
「そうね、小指なら……………深まる愛情、かしら」
「深まる愛情、ねぇ。それはそれで、いいかもしれないね」
「…………そうね。愛の深さを指輪として止めちゃうより、ずっと深めていく…………みたいな感じで、ロマンチックかも………」
「あっはっは。良かったなイヴちゃん、君の両親はいつまでも仲良しだってさ?」ナデナデ
「…………………うん」
嬉しそうだが、どこか浮かない表情を浮かべるイヴ。
「(ふむ……………。少し、安易に両親の話をしたのは不味かったか。無理もないことだけど、思い出しちゃうと寂しくなるもんね)」
「凜、…………早く、行こう?」
「…………ん、そだね。よいしょっと」
凜が左の黒い手の薬指に、銀色の指輪をはめると、浮かない表情をしていた花嫁と花婿の絵が笑い、花嫁の絵からブーケが飛び出てきた。
「ブーケトス完了。何に使うのか知らないけど、頂いとこう」
「さて。これからどうしようか。取り敢えず、全部の部屋は見たと思うんだけど」
「……………いえ、まだあるわ」
「?そうなの?」
「ちらっとだけど、見たわよ。でも、危険そうだったから行かなかったけど」
「ふぅん?ま、これ以上行けるところもないんだし、そこ行ってみようか。いい?イヴちゃん」
「……………うん」
「おk。じゃ、行こう」