ibの世界に東方小説の主人公が乱入するようです※完結済   作:ホイル焼き@鮭

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こっちの方は物凄くお久しぶりですね。
基本あっちの方を進めてるので、更新ペースはかなり遅いとは言いましたが…………流石に遅すぎますね。
なので、あっちを一旦止めて、こっちの方を進めて行きたいと思います。今決めましたw
4〜5話進めたら、あっちの方に戻りながら、チマチマやっていくことにします。


悲劇の少女

「ギャリー。調子はどうかな?」

「少し、頭が痛いけれど…………大丈夫よ」

「よし。それじゃ、早速この部屋をしらべてみようか」

 

ギャリーの顔色もかなり良くなってきていたので、三人は部屋をよく調べてみることにした。

部屋にはいくつかの椅子が転がっていたり、白くて大きなソファーがあった。

真ん中に大きな絵があるのが気になったので、三人は目の前で話すことにした。

その絵には、赤と青の絵の具で出来たベトベトの服を着た男女が、手をつないで描かれていた。顔も無造作に絵の具でグチャグチャであり、かろうじて目、鼻、口がわかる程度である。

 

「(んだこの絵は………。まるで子供が描いたみたいだな………)」

 

その絵には、『二人』という名が付けられていた。

思ったままの考えを、口に出そうとした凜だったが――――――

 

「ん?なに、イヴちゃん」

「…………この絵。私のお父さんとお母さんだ」

 

イヴがそう言うと、横で聞いていたギャリーは驚いた。

 

「えっ!イヴのパパとママなの!?」

「ふぅん?なるほどねぇ。はっはー、イヴちゃんの親だから何となく分かってたけど、美男美女だねぇ」

「うん…………何でこんな絵が……」ボソッ

「さぁ、それは分からないけれど………ま、外に出れば、普通に会えると思うよ」

「大丈夫よ、きっと会えるって!」

「うん………。ありがとう」

 

イヴがぼーっとその絵を見ている間に、凜とギャリーは小さな声で話し始めた。

 

「なぁ、アレ………イヴちゃんの両親に見える?」

「………見えるわけない、わよね……」

「あは、気丈に振舞ってはいたけど。流石に親恋しさは消せないよねぇ」

 

イヴの言い出したことは、2人にとっては考えにくい事だった。子供の落書きレベルの絵とはいえ、どこにもイヴとの共通点を感じ取れなかったのだ。

親が恋しくて、あんな絵ですらそう見えてしまうのだろう。

そう判断して、二人はイヴの元へ戻る。

 

「さ、イヴちゃん。他の所も見てみようか」

「うん……」

「あは、そんなに心配すんな。頑張るんでしょ?心配してちゃ力が出ないぜ」ケラケラ

「………!うん!」

 

他にも本棚が複数あったので、三人は中身を軽く調べる。

特に何も目立つ内容は無かった。

 

「何も無いわね………」

「ん、そうだね………でも、一つだけ、本があまり入っていない本棚があるね」

「そうね。この本棚位なら、動かせそうだけど………動かしてみる?」

 

凜はその本棚の右側に、窓がある事に気がついた。

 

「(そう言えば…………)」

 

凜はギャリーのバラを奪った、あの『青い服の女』を思い出した。そのバラを奪い返す際、彼女が窓を割って、凜とイヴを追いかけてきたことも。

 

「まぁ、まさかとは思うけどー。動かしておこうか」

 

ズズズ、と、その本棚を右側にずらす。

ちょうど窓を隠すように、本棚は動いた。

 

「あら、窓が隠れちゃったわね。まぁいいか」

 

 

 

 

▽☆◇

「さて、結局何も無かったね」

「……戻ろっか」

「えぇ、そうね」

 

三人はドアノブに手をかけ、ドアを開けようとする。しかし―――――

 

「あれ?鍵がかかってる………」

「おかしいわね………鍵は開けっ放しのはずだけど………」

 

ドンドン!

ドアが強く、叩かれる。

 

「これは………ひとまず離れるぞ」

 

凜と2人はドアから大きく離れ、一気に警戒する。

しばらくドアは叩かれていたが、諦めたのか、音は鳴りやんだ。

ふぅ、と一息ついたが、今度は右上隅の付近の壁がドンドンと叩かれ始めた。

イヴはギュッと、ギャリーと凜の手を強く握る。度し難い緊張が、3人を支配し始めた。

 

「どうやら、入って来ようとしてるっぽいね………」

 

ドンドンと壁が軋み、遂には壊れてしまう。

そしてその大きな穴から、『緑の服の女』が現れる。その穴は、身長180センチ強のギャリーでも入れるほどだ。

 

「あそこから逃げるぞ、二人とも!」

 

緑の服の女は、そこまで俊敏では無いようだった。部屋の左端に緑の服の女を引き寄せ、一気に三人はその穴から脱出する。

しかし―――――――――危機を乗り越えたと思った三人を待っていたのは、更なる危機だった。

 

「…………なんだよ、この状況は…………」

 

混沌――――――としか、言い表すしかない状況だった。

大部屋の各所に配置されていた、赤い服の女や無個性といった作品――――――それら全てが、無造作に動き始めてしまっていたのだ。

 

「―――――らぁっ!」

 

どこかに脱出できそうな所がないか、三人は大部屋の中を走る。

『〜〜の服の女』などの作品なら、凜が無理やり蹴飛ばしてなんとか出来ない事は無いのだが、無個性はそうもいかない。

 

「相も変わらず、何で重心がないんだかな………!ルールに則っていない行動は、意地でも取らせないってか………!?凝ってらっしゃる事で!」

 

このままじゃ埒があかない。早く出口を探さないと、手遅れになる!

凜は慌てて、状況を判断する。

 

「(今まで入ったどこの部屋に行っても、追い詰められるだけだ。だからそれらはなし。でも、かといって、引き返すのもダメだ。戻っても意味なんてない。この時点で『詰み』になってるが、これがゲームである以上、クリア方法はあるはずだ……なら!)」

 

今まで確認してない側に逃げる!

走った。三人は走った。

女の絵を蹴飛ばし、真っ黒な手で追い縋る無個性達をかわし、大部屋内をぐるぐると回る。そうしなければ、バラを散らされ、その命すらも果ててしまうのだ。

 

「………!良し!ビンゴだ………!二人とも!もうちょっと踏ん張ってくれよ!」

「えぇ………!」

「……………うん……!」

 

凜達は唯一開いていた扉を見つけ、その中に飛び込んだ。ここ以外に出口は無かったので、何かしらの罠である可能性も否定出来なかったが、このゲームの特性上、そういう可能性は少ないだろうと凜は考えたのだ。

扉をすぐに閉め、一本道の中を走り続ける―――――どうやら作品たちは追ってきていないようだ。ゆっくりと足を緩ませ、荒い息を吐き出しながら止まる。

 

「っ、はー………なんとかなったか……」

 

凜はすぐに息を整えそう言ったが、ギャリーとイヴは懸命に息を整えていて、そんな余裕は無さそうだった。

見た目からも、ギャリーは運動の出来る方ではない。イヴに至っては9歳なので、当たり前である。

 

「…………はぁー。なんっなのよもう………」

「いやはや、ギリギリだったねぇ。いつ死ぬかと、胸がドキドキワクワクだぜ」

「何でそんなに余裕あるのよ………って、ワクワクはしないでよ!」

「ははは、ワクワクは嘘だけどね。少し蹴飛ばしすぎたせいで、足が痛い位はあるかな」

「運動が得意ってのはいいわねぇ………」

「よし。それじゃあ先に進もうか」

 

と、三人は先に進もうとしたが。

 

「…………?イヴちゃん?どうしたの?」

 

イヴの様子がおかしかった。顔色が悪く、目を閉じて魘されるような顔をしている。

これはおかしいと、凜はイヴを地面に横たわらせる。

 

「呼吸は安定してるし、脈もある。どうやら気を失ってるだけみたいだ。流石にショッキング過ぎたか…………」

「安心して、気が抜けたんでしょうね………。ここじゃ休めないだろうし、イヴには悪いけどもう少し先に進みましょうか」

「そうだね。じゃ、失礼して」

 

凜はイヴを抱えあげ、ゆっくりと足を運ぶ。あまり刺激してはいけないだろう。お姫様抱っこを何度もした経験が、役に立つ事があるなんてのはおかしいな、と凜は思った。

 

しばらく赤絨毯が引かれたきらびやかな廊下を進むと、下に繋がる階段と、一つの小部屋が見えた。凜とギャリーがその部屋の中に入ると、中には二つの本棚と、一つの花瓶と絵があるのみだった。

 

「ここなら一息つけそうね」

「だね」

 

凜はイヴを降ろし、地面に横たわらせる。

子供をこんな所で寝かせたくなかったが、まさかベッドのある部屋を探すわけにもいくまい。

ギャリーはその様子を見ると、自分のコートを脱ぎ、イヴにそれを掛けてあげた。

 

「あ、ずるいぜギャリー、そういう所でイヴちゃんの好感度を稼ごうとするなんてさー」ケラケラ

「ふふ、早い者勝ちっていう言葉を知らないのかしら?」

「あは、そいつは一本取られた」

 

と言うと凜は鞄からイヴのバラと自らのバラを取り出し、残った鞄に自分の制服の上着を被せ、それをイヴの枕にした。

 

「さ、イヴちゃんが起きるまで待とうか。本もあるし、何か手がかりがないか調べてみようかな」

「あ、それくらいアタシがやるわよ。凜も疲れてるでしょうし」

「あは、そんなの気にしない気にしない。2人でやった方が速いよ」

「アナタが倒れるのが1番怖いのよ?いいから休んでなさい」

「…………んー、まぁそこまで言うなら」

 

まぁ確かに、俺が倒れちゃ戦闘が危ないか。

倒れる気はしなかったが、ギャリーの好意に甘えることにした。武力行使の出来る凜が倒れるのが、1番考えたくない展開であることは間違いなかった。

 

「それじゃ、よろしくね」

「えぇ」

 

 

 

◇☆▽

 

そこは、とてもおかしな部屋だった。

部屋の端をクレヨンで塗りたくった、ともすれば子供の落書きのように見える部屋。その部屋には、ただ一つの扉しか存在していない。完全に無音な状況というのを、その部屋にいた少女……………イヴは初めて体験した。

 

「凜………?ギャリー………?」

 

ドンドンドン!

イヴが背にしている壁が軋む。

 

「………に、にげなきゃ………」

 

イヴは目の前の扉を開け、中に飛び込む。そしてすぐに扉を閉めたが、またも後ろの扉が、叩かれてしまう。扉の先にあったのは、先ほどと同じような部屋だけだった。

 

「凜………!ギャリー……!だれか………!」

 

イヴは叫ぶが、その叫びに答えるのは、ドンドンドンという物音のみ。この奇怪な状況に陥ってから初めて訪れる『一人』は、まだ幼い少女には残酷すぎた。

イヴは今、支えが欲しかった。凜とギャリーに、他愛のない話をして欲しかった。両親の、暖かな眼差しが恋しかった。

 

「…………うぅ……!」

 

次のドアを開け、そこに飛び込んでも、眼下に広がるのは殺風景で稚拙な風景と扉だけ。

あまりの恐怖に、自然とイヴの頬に涙が流れる。もはや何をするのが正しいのか、イヴには全く分からなかった。ただ、恐怖から逃げるように、次の扉へと手を伸ばすだけ。

 

「………ぇ……?うそ、扉が開かない……!?」

 

次なる扉を開けようとして、それは開かなかった。ドアノブを捻ろうとしても、びくともしない。

ドンドンドンドン!ドンドンドンドンドン!!

 

「ひぃ………っ!」

 

どんどんと、扉を叩く音は大きくなっていく。今にも作品たちが雪崩込んできそうだった。

 

「開いて、お願い………っ!」

 

そうイヴが叫ぶと、不意に扉が開く。考えるよりも先に、体が動いた。扉を開け、バタンと閉めて次の部屋へ入り込む。これでひとまず、作品たちから離れられるはずだった。

 

だというのに。

 

「…………ぇ」

 

扉を開けた先、それは今までのような部屋ではなかった。

そこには、『無個性』と『女の絵』、『白い生首のマネキン』が――――――居たのだ。

 

イヴは、作品たちに向かって逃げていたのだ。

怯えるイヴの反応を楽しむかのように、1歩ずつ、ジリジリとイヴに迫る、3点の作品たち。もう既にイヴは、悲鳴を上げることすらかなわなかった。

 

「(誰か………たすけて………っ!)」

 

イヴは目をギュッとつむり、そう心の中で叫ぶ。

そんな叫びが、通じたのだろうか。

不意にイヴの頭に、大きな声が響いた。

 

「イヴちゃん――――――!」

 

 

 

 

 

「イヴちゃん?イヴちゃんッ!?しっかりしろ!」

「………………はっ―――!?」

 

イヴは凜の声に起こされ、目を覚ました。

先程までの稚拙な部屋ではない。本棚があり、花瓶があり――――――そして、凜とギャリーがいる。

 

「ったく、起きたか。ビックリしたよ、いきなり冷や汗びっしょりで泣き出してさ――――――って、うわぁ!?」

 

イヴは飛び上がり、安堵したように微笑む凜に抱きついた。その温もりを離さないように強く、強く。暖かなその温もりが、イヴのはやまった鼓動を落ち着けていく。

 

「あは、いきなりなに?寒かった?まぁ、そんなに冷や汗かいちゃ寒いか」

「……………おはよう、凜」

「ん?あは、おはよう。いい夢は―――――残念ながら見れてなさそうだけど」

「ん、そうだね………」

「……………………ええっとー………そろそろ離れてくれないかな?」

「………………もうちょっと」

「………うーん。相当怖い夢でもみたのかなー…………」

「ダメ…………?」

「…………………あは。ダメじゃないよー。よしよし」ナデナデ

「………ん………」

 

しばらくそうして、イヴは凜に抱きついて過ごすのだった。強く刻まれた恐怖の傷を癒すように………………。

 

 

 

☆▽◇

「あら、イヴ起きたの?」

「うん」

「あら、汗びっしょりじゃない。何か怖い夢でも見たの?」

「…………うん。でも、大丈夫」

「そう。あ、そうだイヴ。そのコートのポケットに、飴が入ってるから。良かったら食べて」

「……………ん、ありがと」

「あは、残念だったなギャリー。飴の一つや二つ、俺は常備しているんだ。その手法では好感度は稼げないぜ!」ケラケラ

「あら、そうなの?もしかして、いらなかったかしら」

「………ううん。ありがとう、ギャリー」

「それなら良いんだけど」

「………………辛子入ってないよね?」

「入ってるわけないでしょ!?」

「………………ジー………」

 

イヴは、凜の方をジト目で睨む。凜はケラケラと笑っている。

 

「あは、根に持つねぇ。心配しなくても、鞄の中には一つしか入ってないからねー」

「………どうだか」

「クスクス!まぁ、信じるか信じないかは、だけどね」

「????」

 

ギャリーは2人の会話の意味が分からなかった…………。

 

「それで、ギャリー。何か手がかりはあったかな?」

「いいえ、何も。やっぱり、先に進むしかないみたい」

「ま、こんな所で都合よく情報手に入るほど、ヌルゲーではないか。そも、命かかってるゲームな時点で、どんな鬼畜ゲーより鬼畜だぜ」ケラケラ

「言葉と表情が連動してないじゃないの………全く」

「あは。それは仕方ないよー、こういう状況だと、逆に気楽に接したくなる性分なんだ」

 

そんな調子の凜に呆れつつも、暖かな眼差しを、ギャリーは向けていた。

子供に対して思うことではないかと思うが、イヴや自分に対して安心させるよう、そんな態度をとっている凜に、ある種の尊敬の念を抱く。

 

「んー、何考えてるかしらないけどー、考えすぎじゃないかなー。そこまで考えるタイプじゃないよ?素だって、素」

「なっ、モノローグを読まれた……ですって……?」

「………ふざけてないで、早く行こう……?」

「んー、巫山戯てるのは俺じゃなくて作者(あのバカ)なんだけどなぁ………あは、ごめんごめん、行こっか」

 

三人は部屋から出る。

そして階段を降り、紫の色の大部屋に出る。

そのまま大部屋内の廊下を進んでいると、ガタガタ!と一つのドアが揺れ始めた。

不審に思い、ドアについていた覗き穴に目を通す。何もない。

 

「ほっとこうか」

 

特に危害も無かったので、三人は先に進む。

歩いていると、やがてポールとロープで区切られた区画が廊下の左側に現れた。

 

「どうする?行ってみるかい?」

「中に本棚があるわね………一応調べてみましょうか」

「………うん」

 

中に3体、赤と青、黄色の『無個性』が存在するのが若干気にかかったが、三人はひとまず区画の中へ。

ガシャン。

 

「うそ、閉まっちゃったわよ!?」

 

さっき入ってきた入口が、突如閉じてしまった。それと同時に、黄色の『無個性』が動き始める。

区画の中は入り組んだ迷路のようになっていて、無個性はそこまでこちらに近づく速度が速いわけではなかった。動きも緩慢だ。

 

「まぁまぁ、あの子はひとまず置いといて。あの本棚の所に行ってみよう」

 

三人は上手く無個性を誘導し、区画の左側に無個性を引き付けてから、一気に本棚がある区画の右側へと移動する。無個性に追いつかれるまで、かなりの時間はありそうだ。幸いポールの高さはそこまででも無く、無個性の位置は分かった。

 

「『日誌』」

「『ヒトの想いがこもった物には 魂が宿ると 言われている』」

「『それならば作品でも、同じことができるのでは、と 私は常に考えている』」

「『そして今日も私は、自分の魂を 分けるつもりで作品作りに没頭している』」

「うそ、これだけ………?出口の場所くらい書いときなさいよね……。さっさと出ましょ、二人とも!」

「あは、そだね。しかし、どうにも出口はないようだけど」

「………あっちに3つ、ボタンがあるよ。どれか押せば、出口が出来るんじゃ………?」

「そうみたいね、だけど………どれを押せば良いのかしら」

「ふーむ………」

 

凜はまた、イヴの直感に決めてもらおうとした。しかし、少し思い当たるフシがあり、しばし考え込む。

 

「(赤、青、緑のボタンか。そして中にいるのは、赤、青、黄色の無個性。順当に考えりゃ、赤のボタンを押せば赤の無個性が動く、みたいに連動してる可能性が高い。だから、緑のボタンを押せば開く可能性が高い。だが――――――)」

 

青のボタンのすぐ隣には、青の無個性が存在している。これでは何も考えずに青のボタンを押した場合、すぐに無個性が動き出してゲームオーバーになってしまう。このゲームの特性上、こういった頭を巡らせるミニゲームで、即死を用意しているとは思えない。誰が開いたか分からないこのゲームは、限りなくフェアなゲームだ。こちらにかなりの救済措置が存在している。恐らく――――――――青だ。

そう凜は結論づけ、ギャリーとイヴとともに青のボタンへと近づき、そのボタンを押す。

 

「べネ♪良し、早く出ようか」

 

ガシャリ、という音とともに、出口が出来る。上手く黄色の無個性をまきながら、出口へとたどり着く。

 

「脱出完了ってね」

 

一件落着した所で、三人はまたも通路を進む。道沿いに進んでいると、突き当たりにたどり着いた。そこには、一つの鏡と扉があった。

扉にはパスワードロックがかかっており、その上に一枚の絵が掛けられていた。

 

「これって………美術館の大広間にあった……」

「あぁ、確か深海の世だっけね。それを入れるっぽいか」

「『しんかいのよ』だね、分かった………」

 

イヴがひらがなとカタカナの文字が表示されているタッチパネルに触れ、しんかいのよ、と入力する。すると、ガチャン、と扉が開く音がした。

 

「ビンゴだね。中に入ろう」

「えぇ。…………それにしても、良く覚えてたわね、作品名。アタシ、忘れちゃってたわ」

「まぁ、記憶力には自信があってね………」

 

三人が中に入ると、中には、6つの本棚と、一枚の絵が飾られていた。

一応全ての本棚を調べたが、特に気になるものは無いようだった。

 

「ふむ、『決別』ねぇ」

「なんか嫌な絵ね………」

 

その『決別』という絵は、赤と黒の2色だけで描かれており、まるで赤黒い血潮を連想させる。見ていて気持ちのいい絵ではなかった。

 

「ま、そういった絵も趣深いってもんじゃないの?いとおかし、だ」

「そんなもんかしら…………」

 

三人がその絵を眺めていると、突如異変が起こった。

部屋が漆黒に染まり、辺りが全く見えなくなってしまったのだ。

 

「わっ、なに!?停電!?イヴ、凜!居る!?」

「………うん」

「居るも何も、イヴちゃんとは手ぇ繋いでんじゃん」

「ほっ………。そう、ならいいわ……。あんまり動かないでね?」

「しかし、何も見えないねぇ………。残念ながら、幻想郷にはライターなんて発火器具、普及してないんだよなぁ………」ボソッ

「あ、アタシ、ライター持ってたんだった。忘れてたわ」

 

そう言うとギャリーは、コートのポケットをまさぐり、ライターを掴む。

何度か発火ミスを起こしたが火がつき、辺りが少し、明るくなる。

それと同時に、部屋の停電がなおり、全体を見通せるようになった。

 

「なんだ、ライター要らなかったわね。…………………え?」

「………ギュッ」

「なんだ、こりゃ」

 

再び明るくなった部屋内は、先程までとは激変していた。クレヨンのような濁りのある筆跡で、『たすけて』『しにたくない』『やめて』『こわい』『いやだ』――――――と、無造作に記されていた。

『決別』と記されていた絵のタイトル欄も、『や め ろ』と書き換わっている………。

 

「……………んー。なるほどね…………ギャリー。これからはあんまり、作品の近くでライターを使わない方がいい」

「………………どうやら、そうみたいね………。ハァ…………ホント、きっついわ…………精神的に」

 

これは作品たちの意思表示なのだ。

そう凜は考えた。

『女の絵』『無個性』などが顕著な例だが、この世界において、作品たちには意思が存在する。害する意思がないにしろ、だ。

作品は主に、絵画である――――――。火を恐れるのは、至極真っ当。それが、あのような状況を作り出したのだ。

 

「まぁゲーム上の演出にとやかく口を出さないって事で!もう一回戻ってみようぜ?」

「えぇ、そうね」

「………ん」

 

気分を入れ替え、三人は部屋の外に出る。

するとそこでも、異変が起こっていた。

壁から床にかけて、赤色の文字が刻まれていた。

``お客様に申し上げます。当館内は火気厳禁となっております。マッチ、ライターなどの持ち込みはご遠慮くださいますようお願いいたします。万が一、館内でそれらの使用をスタッフが発見した場合、´´

 

「要約すると、火気厳禁って事だね。『館内でそれらの使用をスタッフが発見した場合、』で止められてるとこが、なかなか面白いんじゃない?」

「アタシはそんな風には思えないわ………」

「あは、気にしない気にしない」

「………そうね。もはや、気にしても仕方がないか」

「そーそー。取り敢えず、戻ってみよう」

 

三人は、1度通ってきた道を戻ってみることにした。すると、今まで紫1色だった廊下に、ある一つの変化が起きていた。

 

「これは…………赤い足跡、かな?随分と急いでたみたいに飛び散ってるけど。それに」

 

先程まで確かに壁だった部分が、黒い扉へと変わっていた。

赤い足跡は、そちらの方へ続いている………。

 

「わかりやすい事で」

 

三人は、その足跡が続いている扉を開け、次の通路に入った。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ウフフ、ソンナにイソイデドコイクカトオモッタラ。キミがカレラにアッテ、ドウスルツモリ?

 

少女の頭に、異質な声が響き渡る。驚くほどにクリアで、おぞましいその声は、耳を塞ごうとも、どれだけ聞きたくなくても少女の耳に響き、少女の脳に行き渡る。

 

―――――――五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いウルサイウルサイ!

 

そんなこと、少女にだって分からなかった。

自分が『招いてしまった』彼らに会って、何がしたいのか。責任を持って、彼らを元の世界に帰すのか。それとも三人の内誰かをこの生なき世界に閉じ込め、自分が輝かしいあの世界に行くのか。考えなどまとまらないまま、少女は走る。

 

ただ、眺めていただけだった。

ただお友達になって、一緒に楽しく過ごしてみたかっただけだった。お話してみたかっただけだった。優しく接して貰って、冷たい自分の心を暖めて欲しかっただけだった。

叶うはずもない夢を見る事さえ、私には許されないのかと―――――――彼らをここに連れてきた、作品達(こえのぬし)への憎悪が増幅する。この世界へと招く要因となってしまった、自分にも。

そんな憎しみを嘲笑うかのごとく、頭に響く声は大きく、楽しげになっていく。

 

――――――――アァメアリー、カンガエナシでカワイソウなメアリー!ドウスルノ!?アハハハハハッ!

 

―――――――黙れ!

 

響き渡るその声から、それでも懸命に耳を塞ぎ、頭を抱えながら走る。俯いたその顔は、前など既に見ていなかった。

目の前の扉が開き、柔らかな感触に、少女ははじき返され、尻餅をつく。

 

「わっ………!?」

「―――――っと――?」

 

少女は、頭に鳴り響く、甲高くておぞましい声でも、自分の声でもない、少し低い声に顔を上げる。

少女の目は見開かれ、その声の主を見上げた。

少し外側に跳ねた蒼色の髪に、青色の瞳の男―――――――後ろには、髪の毛が少しウェーブがかった男性と、少女と同年代位の女の子もいる。

少女が願ったばかりに、呼び出されてしまった三人が、そこにいた。

呆然としていた少女に、蒼髪の男が話しかける。

 

「っとと、悪い。立てるかい?」

 

男―――――――凜は、少女に向かって手を差し出す。こちらを心配するような、優しい声音の声が、少女の耳に残る。呆然としたまま、少女は小さな手で凜の手を掴んだ。

大きく、力強いその手は、少女をスッと引っ張りあげた。

少女はぼーっとしたまま、凜の蒼い目を見つめる。

 

「(……………………ふむ)どうかしたの、嬢ちゃん?」

「え……………あ」

 

少女は我に返り、1歩後ずさる。この人たちにあって、何をすればいいのだろう。

少女は、その事がまだ全く分からなかった。

 

「んん、そこなお嬢ちゃん、1人かい?」

「う、うん」

「んで、君も美術館に居たら、気がついたらこんな所に、って感じかな?」

「う、うん………。そう、そうなの。気づいたらここに………」

 

少女はつい口を滑らせて、嘘を言ってしまった。気づいたらここに、などではなく、凜達を招いたのは自分であるのに。

凜は少し逡巡する仕草をとったが、すぐにニヤリとしたいつもの表情に戻ると、少女の頭に手を載せながら言った。

 

「そう。子供ひとりでこんな場所か。辛かったし、寂しかったよね。よく頑張った」

 

少女は、自分の頭に伝わる暖かさがよく分からなかった。ただ、凜の手が優しく頭を撫でる度に、頭に鳴り響く異形の声が、ゆっくりと薄まっていく気がした。胸がなんだか、ぼんやりと火が灯ったように、あたたかくなる。

 

「うーん、実に柔らかいねぇ………。ふわふわだぜ。じゃ、行こうか」

「え?」

「1人じゃ辛いし、寂しいし…………なんだか壊れちゃいそうでしょ?みんなでいれば、辛くないし、寂しくないし………なんだか暖かく感じると思うんだ」

 

凜は優しくそう言うと、少女に目線を合わせ、少女の手を両手で握りながら言う。

 

「俺は高橋 凜。凜って呼んでくれ。嬢ちゃんの名前は?」

「………メアリー………」

 

少女………メアリーは、相変わらず浮かない顔でそう名乗った。

 

「そっか。メアリー、だね?なんだか外人名多いなぁ、ここ外国なのかなぁ。いやでも、使ってる言語は日本語だし………。まぁいいや」

 

「よろしくね、メアリーちゃん」

 

「………………!」

 

よろしく。

その言葉は、メアリーの心に染み入った。

凜は、メアリーが何をしたのか知らないのかも知れない。メアリーの正体を知らないから、そう言ってくれてるのは分かっていたけれど…………。それでも。

メアリーは嬉しかった。今までの孤独だった自分を、凜が受け入れてくれたようで。よく頑張ったと、褒めてくれているようで………。

 

「そうだ、こっちも紹介するよ。でかい男の方がギャリー」

「ギャリーよ。よろしくね、メアリー」

「んで、ちっこい方がイヴちゃん」

「……よろしく」

 

そう言って、凜がメアリーに2人を紹介してくれた。2人が言った『よろしく』も、メアリーの心の奥に染み入り、胸をあたたかにしてくれる。

友達という存在がいなかったメアリーにとって、それはとても………とても嬉しいことだった。なんだか幸せすぎて、妙な気恥ずかしさを感じてしまう。

 

「……よ、よろしく……!」

 

不器用なその声を聞いて、凜達は優しく微笑む。自然とメアリーの口も、綻んでいた。

頭に響く声は、既に聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

メアリーと凜達が出会い、4人になった所で。

既に賢明な方なら気づいているかもしれないが、実は凜は、メアリーが『作品であること』に気づいていた。

 

「(物凄く人間らしいけれど………)」

 

メアリーには、人間である限り確実に存在するモノが無かったのだ。

 

「(重心――――――俺が見つけられないほど、精巧に隠されているわけないし)」

 

そう。メアリーには、重心がなかった。重心がないということは、どこにも体重をかけない、もしくは全てに均一に力をあたえなければならない。そんな事は不可能だ。

それと、非常に感覚的な事なのだが…………。

 

―――――――助けて。

 

あの時の悲痛の声に、メアリーの声が似ている気がした―――――――というのもある。

それに気づいてなお、凜がメアリーの正体を告発しようとしなかったのは、メアリーにこちらを害する意思がない事や、後ろめたさのようなものを抱えている事が、何となく分かったからだ。何か深い理由があるのだろう、と。

 

「(ならば敢えて、排除する必要なんてない。それに、作品である彼女が味方してくれるのなら、楽にこの先を進められる可能性もある。それに――――――女の子を蹴り飛ばすのは、趣味じゃない)」

「ねぇ、メアリーちゃん」

「なに?」

「好きな食べ物とか、ある?」

「……………ない」

「そっか、ないか………。良し、ないなら作ろうか」

 

凜はカバンをガサゴソと漁り、中から数種類のアメを取り出した。

 

「いちご、ブドウ、パイン、レモン、メロン、りんご、オレンジ。口が寂しいところでしょ?舐めときなよ」

 

凜はその取り出したアメの袋を、メアリーの両手に握らせる。メアリーは、ぼーっとそれを眺めている。

 

「……………」

「ありゃ、甘いものは嫌い?チョコもあるけど、溶けてそうでやだなぁ」

「う、ううん、そんなことない……!」

 

メアリーはしばらく固まっていたが、やがてアメを1つ取り出し、舐め始めた。

何か感動を噛み締めるように、メアリーは目をぎゅーっと閉じて微笑んだ。

 

「………アメって、こんなに美味しいんだ」

「あは、レモンが気に入ったのかな?欲しくなったらいつでも言ってね」

 

凜はメアリーにそうウィンクしながら言うと、ギャリーに楽しそうに話しかける。

 

「あは、ギャリー。君今内心、可愛い女の子増えて超ラッキー!とか思ってんでしょ?」

「あのねぇ。そんな事、思うわけないでしょ?」

 

ギャリーは呆れた口調でそう返す。

しかしそんな言い分などどこ吹く風で、ニヤニヤとした、実に楽しそうな表情でケラケラ凜は笑っている。

 

「あは、こーのロリコンが。メアリーちゃん、イヴちゃん?20以上の男は女に飢えてるからなー、気ぃつけなきゃ食われちゃうぜー?」

「…………えっち」

「イヴ!?ち、違うからね!?」

 

ギャリーはあたふたと、イヴに対して言い訳をする。イヴはすっかり信じ込んだようだった。そんなイヴの様子に、いたくショックを受けたギャリーは、凜に向かって言う。

 

「凜〜?アナタねぇ、敬語は外していいって言ったけど、年上に対する敬意を無くせとは言ってないわよ〜!?」

「あははは!さぁ、知らないなぁ?なーイヴちゃん、俺とギャリー、どっちを信じるー?……………」

 

わーきゃーと騒ぐ3人を見ていると、メアリーは心がどんどんと暖かくなっていくのを感じた。この3人と一緒にいれば、あの煩わしい声が聞こえることも、心が壊れる事もない。

根拠は無いけれど…………メアリーは強く、そう思い。

クスッと笑って、三人の輪に入るのだった………。

 

 

 

――――――メアリー

異質な声は、メアリーにはすっかり聞こえなくなっていたが―――――――。

少し、嬉しそうだった。

 

 

 

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