ibの世界に東方小説の主人公が乱入するようです※完結済   作:ホイル焼き@鮭

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あけましておめでとうございます!
想定より短くなり、今話をもちまして『Ibの世界に東方小説の主人公が乱入するそうです』の連載は終了いたします。今話をご覧になる前に、一つ警告があります。
今話では、凜くんの持つ能力――――それが、使われることになります。
知らなくても、読み進められるようにはしているつもりです。が、分からないという人もいるかもしれません。
なので、少しご注意ください。
念のため、彼の能力について書いておきます。

事象を理想的にする程度の能力。
事象とは、この世に存在する物事全て。
それら全てを、自分の思うように変化させる能力です。

理想郷の方よりも先に、未亜という少女の名が出ました。
あちらをご覧になってる方がいらっしゃれば、気に止めておいてください。
この小説では、大きな意味はないですので、この小説のみの方は、どうかお気になさらず。

長くなりましたが。この話が、自分からのお年玉です!



ED『幻想郷に、ようこそ』

凜は外に出る前に、ある細工をしていた。

ある推測をしていたからだ。

元の世界に戻った時、ゲルテナの世界で起きた記憶を、失っている可能性―――――――なぜそう思うのか?

凜は言った。

 

「こーいう異世界系には、つきもんでしょ?」

 

なので、凜は自分の体に字を書き、思い出せるようにしたのである。

凜が歩くと、ある絵画の前で、イヴとギャリー――――両名が逡巡していた。

なにかに迷うように――――顔を伏せている。

 

「(あは、愛されてるなぁ……いい子だよ、全く)やっほー、二人とも。ご無沙汰ー」

 

二人は凜に気づく。

ギャリーがハッとして、凜に詰め寄った。

 

「凜……っ!あなたねぇ……!」

「まぁ、言いたい事は分かってるさ。だからこそ言う―――――お前ら、んなとこで迷ってんじゃねぇ」

「え――――――?」

 

凜はギャリーの襟を掴み、その絵画の中に放り込む。絵画はぐにゃりと歪み、ギャリーを呑み込んだ。

その絵画には、外の世界――――明るく眩しく輝く、元いた世界が広がっていた。この絵画に飛び込めば、元の世界に戻ることが出来るのだ。

 

凜はギャリーを投げ終えると、今度はイヴに向き合う。

 

「さぁイヴちゃんも。行きな」

「凜………本気で、メアリーをここに置いていくつもりなの?そんなの……ひどいよ」

「そうだね―――まずは、そのつもりだけれど」

「凜が――――そんな人だなんて」

「思わなかったってか?まぁ俺は、ある程度非情な判断も出来るよ。これでもメアリーちゃんを見捨てるくらいのことなら、出来るくらいには大人なつもり」

 

凜はイヴを抱える。外の世界に放り投げるために。

イヴは泣きながら、凜を睨んでいた。

 

「………本気で、言ってるの?」

「………」

「私は……凜には、そんなこと―――――言って欲しくなかったよ」

「………あは。そうかい―――じゃあ最後に一つだけ、約束してあげる」

「………」

 

「メアリーは連れて帰る。俺がメアリーを助ける―――――何があろうと、絶対に」

 

「…………!」

 

「だから、君もそろそろ―――――」

 

「――――それでこそ、凜だね」

 

「………まぁ―――――任せな」

 

「うん。……絶対、助けて」

 

「あは。まぁ、善処するさ」

 

凜はイヴを外の世界に放り込む。

最後に残った凜は、手を見つめた。

 

「出来るかな――――いや、やるって、決めたんだよな」

 

イヴちゃんにも、約束したことだし。

さぁ、行こうか。

そうとだけ言って、凜は絵画の中に飛び込む。先程までの酷薄な笑みは、そこにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん―――――あぁ?立ちくらみか……?」

 

多くの人が美術品を鑑賞する中、凜はそう呟く。ふと、軽い倦怠感が体を取り巻き、妙に疲れたような感覚があったのだ。

 

なんだろうなぁ、疲れたのかな……。まぁ、ここにいてもつまらないしね。疲れるのも無理ないのかな。

 

そう思いつつ、右手の時計を凜は見る。

あまり時間は経っていない。もう少し居た方がいいか、と凜が思って―――――ふと、妙なものを目にした。

 

「あ―――――?」

 

“多くは語らない。ただ――――お前の『正しさ』を示せ”

 

そんな文。

確かに、凜の鞄にはペンはあるが――――自分で書いたのだろうが、凜には覚えがなかった。水性らしく、少なくとも朝の時点ではなかった筈だった。しかも意味がわからない。

 

「いや―――――なにか。なにか―――忘れてるような」

 

なにか大事なことを忘れているかのように、気持ちの悪い感覚。

それと同時に、妙な光景が頭に浮かぶ。

 

赤黒い廊下。紫の廊下。奇妙な作品。赤いスカーフ、ボロボロのダメージコート、黄色い造花――――――――――少女の、泣き顔。

 

頭の中の少女は、何か言葉を発する――――いつの間にか凜は、それに耳を澄ませていた。

 

――――――だから、お願い。

私を――――――助けて。

 

「―――――ッ!」

 

凜の頭に電流が走る。

あのゲルテナの世界。真っ暗な美術館で会った少女――――――――あちらの世界に、残してきた少女のことを―――全て思い出す。

どうやら、凜の読みは当たったらしい――――それに関して、凜は自分の勘に感謝したかった。

 

「(流石俺、ってことかな。あはっ、さすおれさすおれっと)」

 

ギャリーとイヴは、どうしてるのか。

恐らく自分と同じく、記憶を封印された状態で、この美術館にいるのだろう。

と、凜は予想を立てる。

 

一瞬、凜はギャリーとイヴにコンタクトを取ることを考えた。しかし、凜は首を振る。

 

「(後回し、だな。これから俺がする事に―――――彼らは必要ないのだから)」

 

凜はふー、と息を吐く。まずは、スキルが使えるか、試してみなければならない。

筋力を向上させる。問題なく、自分の能力は使えるようだと、ひとまずは安心する凜。

 

事象を理想的にする程度の能力―――――あちらの世界で制限された、あのばかげた能力は、相も変わらず健在だった。

その後向かうのは、もちろんのこと、あの大きな絵画だ――――――こちらの世界にも、元の世界に戻る時に飛び込んだあの絵画は存在している。

あちらのものとは細部は異なるが、こちらとあちらを繋ぐ絵画であることに変わりはない。

凜はその絵画の前に立ち、ゆっくりと息を吐く。

 

「ふー…………始めるか。事象を――――理想的に」

 

凜はその絵画に触れる。そしてイメージ。

頭の中に、あちらの世界を――――ゲルテナの世界を思い浮かべる。そこに確かに存在するものとして。それが事象である限り―――凜に干渉出来ないはずがない。

 

「おい、君!作品には手を触れないように」

「…………あー、そうだよねぇ、ここ美術館だもんねぇ。そりゃ言われるか――――」

「?何言ってるんだ、さっさと手を離せ」

「消えて」

 

凜はスキルをまず、ここにいる人間に使った。

凜と他の人間との間の『距離』を、数倍にはね上げる。声を掛けてきた警備員が、数メートル先に吹っ飛ぶ。そのまま壁に叩きつけられ、気絶した。

それを見ていた他の人間が、大きく悲鳴を上げる――――――しかし、凜はまるで意に介さない。

 

再び絵画に向き合う。

ゲルテナの世界に、再度手を触れるイメージを再度持つ。そこにある、確かにあると信じて。

もはや向こう側の世界は、凜にまるで見向きもしない。

構うものか。

この世界を――――壊す。

 

ゲルテナの世界には、ルールが存在している。この世の定理と題されるそれが、この世界とあちらを切り裂くものなのだ。

ならば―――――それを壊せばいい。そんなルールは、凜には認められない。

 

そのルールが及ぶ効力とやらを、極限まで小さく―――――弱く。そして、世界そのものの破壊を。

それだけを願い、能力を使う。それだけで、普段は叶うはずだった。

しかし――――――それは、簡単なことではなかった。

 

「づ――――あぁぁああぁあ!!」

 

頭が軋む。能力を扱うための精神力が、失われていく。

そう、相手は世界。世界というのは、決して失われない―――――一個人に、なんとかなるものでもないのだ。

それは、世界を管轄する者達が定めた、絶対的なルール―――――根源のもの。

 

「がぁ……っ!ちく……しょうが…!」

 

それでも凜は諦められない。世界そのものから受ける抵抗など、あるのならば消せばいい。

痛みも。精神の摩耗も。

全てを消し去り、強く願い続ける。

 

凜の能力は強大で―――――少しずつだが、ゲルテナの世界へと、影響を与えられた。

いつしかズブリと、凜の手が絵画へと沈む。

それは、世界が壊れかけている象徴――――世界の持つ抵抗力が、弱まってきている何よりの証拠だった。

それと同時に、凜に与えられる抵抗は激しさを増す。まるで、攻撃を仕掛けられた蜂達のように。

傷つければ傷つけるだけ―――――その力は、強くなっていくのだ。

 

「…………ぎぃ……っ!はぁ…っ、はぁ……っ!!がぁぁあっ!!」

 

凜の目の前が明滅する。

手も、気を抜けばダランと垂れ下がりそうだった。

足がガクガクと震える。

痛みは消しされる。精神力だって保てる。

しかし――――無くなる訳では無い。

痛めばそちらに気を回さなくてはならないし、しかし一瞬だって、世界から気をそらすことは出来ない。

そんな状態を長時間―――――途轍もない疲労が、凜の体に溜まり始める。

 

大きすぎる疲労に、何のためにこんな事をしているのか―――――わからなくなってしまっていた。

 

「(なんでこんな事―――してるんだっけ―――――あぁ、頭が痛い。俺ってこんな、熱血漢だったかな――――あほらしい)」

 

ピキリと、世界の壁が軋む音が響く。

あと少し。

あと少し、凜が耐えられれば。

世界に干渉することが出来る。

メアリーを――――――助けられる。

しかし―――――心の諦念からだろうか。

凜は両膝をついてしまう。

 

「あ――――――」

 

立たなくては。立たなくては、そうでなければ――――――――どうなる?

 

「(何も、変わらない――――なら、立つ、必要、ないんじゃ)」

「―――――――凜!!!!!!」

「あ――――――?」

 

おぼろげな瞳を、凜は向ける。

自分の名を呼ぶように、こちらに駆け寄る少女を――――――見る。

 

「イヴ……ちゃん……?」

 

イヴだけではない。

ギャリーの姿も、そこにはあった。

周りの人間が、近寄るなと騒ぎ立てる。

二人は構わず、凜の元へと走る。

 

「ぐ―――――なんで、二人とも―――記憶は」

「このキャンディが、教えてくれた」

 

そう言ってイヴが取り出したのは、ギャリーが手渡したレモンの飴と、凜の差し出した唐雨の包み紙だった。

記憶のトリガーとなるものさえあれば、2人も凜の様に、記憶を取り戻すことが出来る。

ギャリーは恐らく、イヴ自身がトリガーとなったのだろう。

 

「ダメだよ、凜――立たなきゃ!メアリーを、助けるんでしょ……っ!」

 

「イヴから聞いた時は、信じられなかったけど………でも、そんなに必死な顔されちゃ、信じるしかないじゃない。メアリーを、助けるつもりなのね。なら、膝ついてる暇、あるの?」

 

「今、凜がなにやってるのか分かんないけど――――凜は、絶対に助けるって言った。だから―――絶対に、メアリーを助けて!」

 

2人が、そう凜を鼓舞する。

彼らに出来ることなど、何も無い―――――そう凜は決めつけ、1人で解決しようとした。

それは、けして間違いではない。彼らにゲルテナの世界と凜に、干渉することは出来ない。

しかし―――――凜に、確かな力を与えてくれた。

 

「(あぁ―――――そうだね。俺はメアリーちゃんを――――メアリーを)」

 

あの少女を。

悲痛を嘆く少女を。

泣き虫で、わんぱくで、姦しく、沈みやすい――――――自分を好きだと言った、少女を。

助けるために――――――こんな、あほらしいことをしているのだ。

だから―――――こんな所で、立ち止まってられない。

 

「全く――――っ、こんな週刊少年ジャンプみたいな声援で、女の子を救うために戦うとか――――ガラじゃないんだよ、全く」

 

だから。

 

「小うるさい仲間(バカども)がうざいから――――今すぐ、助ける」

 

凜は立ち上がる。

1度膝をついてしまったからだろう。先程より数段上の倦怠感が凜を襲う。

そんな事、今の凜には全く関係の無いことだった。

 

「これでも俺は――――言ったことは、守る方なんだよくそったれがぁぁぁぁぁっ!!」

 

ズブリ!

再度絵画へと、凜の能力が干渉を再開する。

頭痛。疲労。凜を阻害する何もかもを、彼は意に介さない。ただ、メアリーを救うことだけしか、頭にはなかった。

やがて、パリンッ!という音が鳴り響く。

世界の壊れる音――――――世界が、極度に不安定になった証拠だった。

 

「(今なら―――――行ける!)」

 

それを確認した後、凜は絵画の中へと消える。グニャリと絵画が歪み、その中に凜を迎え入れた。

ギャリーとイヴは、その絵画へと近づく。

そっとイヴが手を突き出すと、グニャリと歪む。

 

「…………」

 

イヴはそれを見ると、その中へと入ろうとする。

が、ギャリーはその肩を掴み、首を振る。

 

「今のアタシたちが行っても、凜の邪魔になるだけよ。それに――――」

「イヴ!」

 

絵画の周囲を一定の距離を置きながら取り巻いていた群衆の中から、ある美男美女が絵画へと――――――イヴへと近づく。

 

「お父様やお母様が心配するわよ。だから―――――あの子に、任せましょう」

「……………うん」

「イヴ、その人は……?」

「…………私の将来のだんなさま」

「「「!?!!?!?!?!??!!」」」

「………冗談。………あは」

 

 

 

 

 

 

 

崩壊した世界は、キラキラと白く輝いていた。

美術品。廊下。クレヨンの家。

全てはキラキラと輝き、崩れ落ちていく。

まっさらな空間の中を、凜は歩む。ただ1人――――泣き虫な少女を、迎え入れるために。

 

凜は念のため、スキルが使えるかを確認する。こちらの世界では、凜の持つ能力は封じ込まれていた。

能力など、使用を前提とされていない力は、振るわれないようにされる―――――それは、世界の持つ『強制力』という力だ。

 

しかし、もうこの世界は世界としては壊れかけ―――――その能力も、限りなく弱まっていた。

問題なく能力が使えることを確認すると、再度凜は歩き出す。

 

少し歩くと、凜の行先に、ある女性が立ちはだかる――――――その女性には、見覚えがあった。

 

「―――――っ!?未亜……っ?」

「いや、違うな」

 

女が発する声音は、明らかに女性のものではなかった。深みを帯びた男性の声。

 

「驚かせてすまないね。なにかに擬態をしないと、こうして前に出ることが出来ないんだ」

「――――――なるほど、ね。あんたがゲームマスター――――――ワイズ・ゲルテナか」

「―――――素晴らしい。良く分かったものだ」

「ずっと、気にかかってたもんでね。メアリーがゲームマスターでないなら、この場所のゲームマスターは誰なのか―――――」

「しかしそれだけでは、私だと分からないと思うが。ワイズ・ゲルテナは故人なのだから」

「そんな事を言い出したら、この世界自体が非現実だろ……。まぁ、当てずっぽうだよ。強いて言うなら、あの日誌」

「ん?」

「『魂を分け与えるつもりで作品作りに没頭している』―――それならその魂をかき集めれば、ワイズ・ゲルテナの残滓程度は作れるのではないかなってね」

「…………なるほど。私の思う以上に君は、思慮に富んだ人物のようだ」

「そりゃ良かったね。それで?何のつもりで出てきてるのかな――――返答しだいでは」

「いや?ただこの世界を壊した君と少し、話がしたいだけさ」

「…………はぁ、あっそ。まぁいい。解決編にでもしてあげるさ」

 

勝手についてくるゲルテナを、凜は黙認して歩み続ける。彼は延々と、凜に話しかけた。

 

「君は、なぜ作品たちが君たちのバラを狙うと思う?」

 

「さてね。俺らを殺せば、メアリーがあちらの世界に問題なく渡れるから――――とか。俺はそんな理由かと思ってたよ」

 

「――――――近いな。本当に君は思慮深い、私の好みのタイプだ」

 

「その姿で好みと言うな。気持ち悪いからさ」

 

「すまない。私は最も心に強く刻まれた存在にしか擬態出来ないものでね。気を悪くしたのなら謝ろう」

 

「いいよ別に。続きどうぞ」

 

「その見方は、確かに正しい。彼らの行動は、全てメアリーのため―――――当然だな。メアリーは彼らにとって、妹なのだから」

 

「ま、そういう言い方は出来るかもね」

 

「ここで観点を変えよう。こちらにおけるバラとは、どういうものなのだろう?」

 

「魂、かな。ライフポイントでもいいけれど」

 

「その通り、バラとは魂だ。君たちとバラは一心同体で、散れば死ぬ」

 

「そうだね」

 

「そう、彼らの欲するはバラ――――魂なのだ。メアリーのバラ、見たことがあるかな?」

 

「―――――ないね。と言っても、微かに記憶にはあるから、恐らく持ってたんだろう。いや――――メアリーがホントのバラを持ってるわけないな。あるとすれば―――造花か」

 

「あぁ。メアリーのバラは造花だ。これは彼女に、魂がないから―――――私の分け与えた、偽りの魂のみ」

 

「そりゃあ、そうだろうな」

 

「――――メアリーには、魂がない。魂がないから、外の世界には出られない。君は勘違いをしていたが――――その問題さえ解決出来るのなら、たとえ何人が外に出ようとも構わないのだ」

 

「――――――それが、この世の定理の真の意味――ってことか」

 

つまり。

存在を交換するというのは、魂を交換するという意味―――――だったということだ。

 

「なんとなく、あんたの言いたいことは掴めた。つまり作品が俺達を狙うのは、魂を奪うため――――――そしてそれは、メアリーに『魂』を分け与える為だってこと」

 

「……………本当に素晴らしい人物だ。君のような生徒を、私も弟子に持ちたかったものだな―――――ヒントの出しがいがあるというものだ」

 

「………不器用な事だね。そうと先に言えば、メアリーだって別の道を歩めたかもしれないのに。壊れるくらいなら、狂気に落ちた方が―――まだマシなんだし」

 

「だからこそ、だ。メアリーを外に出してあげたいからこそ、彼らは狂ったように振舞った。メアリーに嫌われ、心置きなく、この世界をあとにして欲しかったのさ」

 

「……………そっか。俺はメアリーに、彼らを心の奥底から嫌うなんて事ができるとは―――思わないけれどね」

 

 

「ねぇ、ゲルテナさぁ」

 

「何かな」

 

「独り言、言ってもいいかい?」

 

「……あぁ。構わない」

 

「メアリーという作品は、まだ未完成だった」

 

「………」

 

「明らかに1人だけ。感情や、表情―――――喜怒哀楽がはっきりしている。これはあんたの分け与えた『魂』ってやつが、彼女に多く注がれているからだ」

 

「そうだ。彼女は特別だ」

 

「だけれど、その状態はあんたの望むところじゃなかった―――――最終到達地点が、他にあった」

 

「…………」

 

「―――――完全なる、命を生み出すこと。そしてそれはかなわなかった。メアリーという存在は、だからこそおかしく、特別な作品なんだよな」

 

凜は鞄の中にしまい込んだままだった、自分とイヴのバラを取り出す。

イヴのバラは、既になんのつながりもない。

しかし凜のバラだけは、蒼く輝いていた。

 

「この世界は、メアリーを完成させる為の場所だった。誰かを迷わせ。命を奪い。メアリーの魂を、補強するために出来た場所。メアリーを――――完成させる場所」

 

凜は、こちらの世界に来た時にバラが2本、差さっていた花瓶を見つける。

そこには、黄色に輝く1輪のバラがあった。

凜は黙ってそれを抜き取る。

 

「あはは――――見てくれよ、ゲルテナ。花弁が3つしかないぜ?随分とお粗末だよな」

 

「そうだな。しかし―――綺麗な花だ」

 

「あぁ。本当に」

 

 

「ったく、俺の出番はなかったってことだ。泣かせるよな―――」

 

「その割に、随分と嬉しそうだが?」

 

「――――――意外と俺は、こういうのが好きなんだよ」

 

「ふっ、それはそれは」

 

「ぶっ壊して、悪かったかな?」

 

「いやいや。どちらにせよ、私の願いは叶ったのだ。いずれこの世界も、なくなる定めさ」

 

「―――――――そう言ってくれるとありがたいかな」

 

 

「さて、そろそろ着くけれど」

 

「ふむ。それでは私はここで、お暇するか」

 

「やっぱり、会っていかないんだね」

 

「もはや、合わせる顔がないさ。メアリーには、伝えてくれ―――――君を愛していた。いつ何時も、君の事を忘れた事など、なかったと」

 

「自分で伝えなよ」

 

「すまない。知らなかったかな?私はこれでも、恥ずかしがり屋なのだよ」

 

そう言ってゲルテナは、すぅっと霞のように消えていく。崩壊していく世界の中、派手に散るのではなく―――――――――この世界の主は、儚く消えていった。

 

「……………そんな事、俺が知ってるわけないじゃないか。気持ち悪いなぁ、全く………あは」

 

 

やがて。

あの赤黒い廊下へと、凜は帰って来た。

他の場所がパラパラと白く崩壊していく中、この場所だけが輝きを受け入れず、黒く停滞したまま残っている。

廊下へと割り込んできた凜に対しても、メアリーは見向きもしなかった。

ただ廊下の奥、二つの扉の前で―――――泣くのみだった。

 

「(全く―――――まーた泣いてんだから)」

 

凜はメアリーの元まで歩く。

真後ろに立っても、メアリーは全く反応しなかった。ただ、泣くのみ。

なんと声を掛けようかと、凜は一瞬逡巡する。

 

「………ぐす……っ。う、うぁぁぁ……っ!ぱ、パパ……なんでなの……っ。凜……りん……好き……好きぃ……っ!」

「………///」

 

凜が照れてしまった。男の照れ顔とか誰得?

 

「(あー、俺らしくない……もう、いいよ)メアリーちゃん」

「……っ、ぐす……っ!」

「反応しねぇ……。よし。すー…………メ!ア!リー!ちゃん!」

 

ビクンと、メアリーが飛び跳ねる。

そして恐る恐る、という風に振り返り、凜の姿を捉える。

メアリーの表情が、驚愕に染まった。

 

「ふぇ……っ!???り、りん……?」

「……………いやっほー、『また』会ったねぇ。―――――メアリーちゃん。助けに――――来たぜ」

「な、……なんでっ?もう……行ったはずでしょ!?これ以上私に……っ、優しくしないでよぉ……っ!」

「あはっ………うっせぇガキンチョだよ全く。言ったはずだよ――――俺が、君を助けるってさ」

 

凜は手に持った黄色のバラを、メアリーに手渡す。

メアリーはわけがわからず、そのバラを受け取る――――――その瞬間、奇跡が起きた。

とくん、とくん。

メアリーの胸が、優しく拍動する――――まるで病人のように白かった手は、血色を帯びて朱に染まる。

魂が―――――命が。

メアリーに注がれる。

 

「な、なに……っ!これ……?」

「今この瞬間、『メアリー』は完成した―――――ゲルテナ(あいつ)も、見れば良かったのに、な」

「こ、答えてよっ!」

「えー、既に解説された事をもう一回ぃ?お前なぁ、読者様の気持ちも考えてから発言しろよ!」

「な、なんで怒られなきゃいけないのさっ!もう、もうっ!」

「………やれやれ。君という存在は、未完成だった――――それが今、完成したんだよ」

 

というか、詳しくは『彼ら』から聞いた方がいいよ。

きっと――――――誰よりも、君の事を案じてくれていた、はずだからね。

凜はそう言って――――――メアリーを連れて、廊下の奥に残された左の扉を開ける。

そこは、賑やかで楽しいお茶会――――ではなく。

ただ多くの作品たちが――――――こちらを、見守っているだけだった。

 

「み、みんな……っ!?」

 

―――――――やぁ。メアリー。随分―――遅かったね、フフ……。

 

作品たちの内の一つが、そう穏やかに話し始める。メアリーに語りかけていた時のような狂気は既に、口調から失われていた。

 

「彼らが俺達のバラを襲ったのは、メアリーのバラを作るため――――君の魂を、作るためだった」

 

―――――――全く、その男には困ったもんだよ。強すぎて、全くバラを奪えなかったじゃないか。

 

「おっと、そいつは勘弁だな。言ってくれりゃあ、もう少し手心を加えたかもしれないぜ」

 

「私の――――魂?」

 

―――――――メアリーを完成させるための、足りないピース――――それが今、作り上げられた。

 

「な……っ。みんな……なんで……そんな事………1度も」

「言わなかったって?違うな―――――言いたくなかっただけさ」

 

――――――――ちょっと黙ってて。メアリーと―――話してるんだから。

 

「へいへい」

 

――――――――言えなかった。だってそんなこと言ったら、メアリー、外に出ようとしなくなるでしょ?そんなの――――望んでない。

 

「………わたし……っ!そんな事知らずに、みんなのこと……っ!ごめん――――ごめん……っ!!」

 

――――――――いいんだ、メアリー。だって、私たちは――――家族なんだから。

涙ぐむメアリーの元へ、あの青い人形がやってくる。

メアリーに向かって――――――手を、振っていた。

 

――――――――これでキミは、外に出られる―――――さぁ、メアリー。……行っておいで。

 

「………ずるいよ、みんな……。こんなに、お膳立てされたら―――行くしか、なくなるじゃない……!」

 

俯きながら、メアリーは言う。

嬉しくて、仕方がなかった。

冷たいだけだと思っていた廊下の中で。

たくさんの愛に――――包まれていた事が。

作品たちはそんなメアリーを見守りながら、今度は凜へと向き直る。

 

――――――――これからは―――アナタが、メアリーを守ってあげて。不幸にしたら――――絶対に許さないから……!

 

「…………あぁ。安心して―――任せてくれ」

 

短くそう返す凜を見て、作品たちは一斉に頷く。

そして――――笑顔で、メアリーを見送ろうとする。

 

―――――――その男のせいで、この世界の寿命もそう長くはない。大好きだよ、メアリー。さよならだ。

 

背後の壁が、白く崩れ落ちる。

キラキラと、ゲルテナの世界が消えていく。

メアリーという作品の完成をもって。

ゲルテナの未練で作られたこの世界が、消えていく。

 

「うん……。あのね、お姉ちゃん、お兄ちゃん」

 

――――――――なんだい?

 

「わたし―――――好きな人、出来たよ」

 

――――――――それはそれは。はっはっはっはっ。ねぇ、アナタ。ぶっ殺していいかなぁ?

 

そう言って作品たちは一斉に凜を見る。

メラメラと殺意に燃えた目を見て、さしもの凜も動揺する。

 

「それさすがにとばっちりじゃないかな!?」

 

――――――――冗談だよ。メアリーなら、この程度のやつ、すぐに落とせるさ。なんてったって―――――私達の自慢の、妹なんだからさ。

 

「うん……!あと……教えて、くれたんだ!泣いてもいいけど――――最後に笑わなくちゃ、いけないんだって!だから――――わたしね――――笑うよ!」

 

メアリーは最後に、満面の笑みで作品たちに笑いかけた。涙で目が腫れていても――――どんなに、悲しくても。

メアリーは笑う―――――それは、何も感じていないわけじゃ、なくて。

最後に笑わなきゃ――――終われないから。

 

―――――――本当に、いい子になった――――それだけは、アナタに感謝してあげる。やっぱりメアリーは、笑顔が1番、可愛いからね。ウフフ……。

 

「うんっ!本当に――――本当にっ!ありがとう――――大好き……だよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

メアリーは大きく手を振って、部屋を後にする。名残惜しくて、見ていたくて――――背後に彼らが見えなくなるまで、ずっと、ずっと手を振り続けた。

そして、前を向く。

ふらふらと覚束無い足取りの凜の手を、ぎゅっと握りしめながら。

 

「なぁに?疲れちゃったの?」

「あは―――――まぁ、ね。君を助けるのに―――――随分と能力を使ったから。気ィ抜いたら、多分ぶっ倒れそうなくらい」

「そっか―――――うふふふっ」

「なんだよメアリーちゃん、俺がボロボロでそんなに嬉しいの?やんなっちゃうなぁ」

「違うよ――――ただ―――嬉しかっただけ。私のために―――頑張ってくれて」

「―――――助けるって、言っちゃったしさ。あは、超絶後悔してるぜ――――こんなガキンチョ助けるために、頑張るハメになっちゃった」

「もうっ、せっかく感謝してあげよーと思ったのにぃっ!可愛げないんだからさっ」

「あは、性分なもんでね。――――まぁ、たまにはこういうのも」

 

悪くない。

そう言って、凜は頬を掻く。

 

「あ、凜、照れてる?」

「照れる要素どこにあるのかな」

「私みたいな可愛い子と、手つないでること?」

「自分で言うなよ―――――って、似たようなこと良く言われたな……。本当に、いらない影響与えすぎたかなぁ」

「あはは、あはははっ!」

 

メアリーは笑う。

先ほど交わした作品たちとのやり取りを感じさせないほど、朗らかに笑う。

 

「ねぇ。凜はさ」

「ん?」

「わたしのこと――――好き?」

「ラブで?」

「うん」

「ノットラブだな。俺ガキに興味無いし」

「えーっ!?」

「いや、驚くなよ。なに、ラブだと思ってたの?」

「だって、あーんなに優しくしてくれたのにっ!?こーして、私を助けに来てくれたのにぃっ!?」

 

面白いぐらいメアリーが激昂するので、凜は笑いを堪えられなくなった。

腹を抱えて、いつも通りの笑みを浮かべる。

……………やがて、凜とメアリーは、あの絵画の前へとやってくる。

 

「出る前にさ。伝えときたい事があるんだ」

「なに?」

「お前の父親。会った」

「…………え?」

「未練から出来た、残滓のようなもんだったけどね。伝言――――――愛してた。いつ何時も、忘れたことなんてなかった……ってさ」

 

凜は最後にゲルテナが浮かべていた笑みを思い出す。

ひどく―――――慈愛に満ちた顔だった。

 

「………ったく、幸せもんだよ君は――――この世界は全員。君を愛していたって言うんだから」

「……………うん。あはは、おかしいね……少し前まで、あんなに悲しかったのにさ。今は―――すごく、幸せだ」

「世界なんて、案外、そんなもんだよ」

 

メアリーの手を握りながら、凜は絵画に背を向け、ゲルテナの世界へと向き直る。

メアリーも、それにならう。

 

「ほら、最後に言っておきな」

 

「うん……!今まで、本当に――――ありがとぉぉぉぉぉっっ!!」

 

そう叫んで、メアリーは絵画へと飛び込む。

その目に涙はやはり、浮かんでいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

凜とイヴ、ギャリー、そしてメアリーの4人―――――ゲルテナの世界で共に生きた仲間は、ある場所へと足を踏み入れていた。

草木が萌ゆる、眩しい場所――――――風が、さわやかに吹いていた。

目の前で行われているのは、それよりももっときらびやかな――――――弾幕ごっこ。

 

「恋符!「マスタースパーク」!」

「今更効かないんだよなぁ!兆弾「リフレクター」!」

 

巨大に輝く極光が、うっすらと輝くオーロラのような物体に吸収され、跳ね返る。

そんな非日常な光景に、イヴとギャリー、それにメアリーは――――心の底から、引いていた。

 

「えぇー………なにこれ……」

「…………綺麗……」

「すごーい!りーん、がんばれー!」

 

失礼、引いてるのは、ギャリーだけだった。

イヴとメアリーは子供特有の純粋さからか、単純な美しさに心をのまれるのみのようだ。

 

やがて黒いエプロンドレスの魔法使いのような格好をした少女が空から墜落すると、凜はイヴ達の元へ帰ってくる。

 

「はっはー、まだまだ甘いんだよなぁ、魔理沙。力のゴリ押しじゃあ、勝てないぜ?」

 

戻ってきた凜に向けて、ギャリーは叫ぶ。

 

「何かあるんだろうとは思ってたけど……予想外すぎるんだけど!!」

「あは―――――まぁ、細かいことは気にすんな!」

「気にするわよ!」

「頭の固いヤツだなぁ……。嫌だねぇイヴちゃん、メアリーちゃん。君らはこんな大人になっちゃいけないよ?」

「…………大丈夫。………任せとけ」グッ

「ねぇねぇ凜、さっきのもっかいやって!」

 

イヴはドヤ顔でサムズアップして同意し、メアリーに至ってはもはや聞いてすらいなかった。

それを見てギャリーは、ガクッと肩を落とす。そして叫ぶ。

 

「ねぇ凜!気のせいかしらっ?日に日にアタシに対する扱いが酷くなってる気がするんだけどっ!?」

「んん?いやぁ、そんな事ないよね?」

 

そう笑って、凜はイヴに語りかける。

 

「…………うん。だんなさまはうるさいね、凜」

「あはっ、ホントだよねぇ。あははははっ!」

 

イヴの冗談に、凜は手を叩いて笑う。

 

あの世界から帰ってきて以来、イヴはよく冗談を言うようになっていた。

もしかしたら自分の影響なのかもしれないと、凜は少し反省しかけた。

しかけるだけでしないのだが。

以前よりよく笑うので、悪いことだけでもないとも思うからだ。

 

そんな2人の様子を見て、メアリーはぷくーっと頬を膨らませる。

凜の左腕を掴み、腕を組む。

 

「3人ばっかり楽しそうでズルイ!私も入れてっ!」

「いや、少なくともアタシは楽しくないんだけど……」

 

そうギャリーがぼやくが、メアリーは全く聞いていなかった。ギャリー、哀れ。

凜はその様子を見て、苦笑いで答える。

 

「はいはい。じゃあ、これからどうしようかな?っと、言い忘れてた」

 

凜はメアリーを振り払い(メアリーは離れようとしなかったが)、イヴ達に向き直る。

普段通りのニヤニヤした笑いで。

高橋 凜という人間は、いつでも。

笑っていた。

 

「―――――幻想郷へ、ようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ご覧いただきまして、ありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう!
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