デジモンリメンバー/第三章『暴食の僕/The Biggest dreamer』   作:sibaワークス

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全ての、明日を、貫いて。


第一話 あめのゆめ

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今から、100日前。

 

 

夕暮れの通学路を、タカトはいつも通り一人で歩いていた。

 

すると突然、空に劈く様な激しいホイッスルのような音を聞いた。

 

それは、自分のポケットから発せられていた。

タカトは、音の正体に気づくと慌てて、取り出した。

 

それは、彼が大切にしている。デジモンの携帯ゲーム。

しかし、いつもの仕様と全く違う、ホイッスルような、猛烈な高音、そして、画面からは、いつものプレイ画面の何倍も強い、激しい発光が起きていた。

 

 

――そして。

 

 

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 第三部

 

『暴食の僕/The Biggest dreamer』

 

 

 

 

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――都庁前。

 

 

激しい雨の中に、彼女はいた。

 

いつもアップにしていた髪は、雨に濡れて、顔にべったり張り付いている。

 

その為、一望した限りでは、彼女の表情は汲み取れなかった。

 

「レナモン!!」

 

彼女は自身の化身を呼んだ。

 

黄色い、160cmはある、人型のキツネに似たモンスター。

 

彼女のパートナーデジモン。レナモンであった。

 

レナモンは声に応えるように”彼女”の前に降り立った。

 

「ヤツが、”獣”だったのか――」

 

「行くよ――レナモン。 やっぱり、こうなっちゃったみたい。 ――これが最後のデジモンバトルだよ」

 

”彼女”の目の前には、数十メートルはあろう、巨大な体と、両翼を持つ、モンスターの影があった。

 

 

タカトはそれを、なすすべなく見ていた。

自分ではどうにもならない。

 

 

「こんなの、ひどい」

 

タカトは呟いた。

 

「仕方ねーよ。荷が重すぎらあ。でも、そいつぁ覚悟の上だ。」

 

 

それに応えるように、頭の中に誰かの声が響く。

 

――ああ、あの声だ。

 

誰の声かはハッキリと思い出せなかったが、タカトにはその声の主がなんとなく”理解”できていた。

 

「そんな、あんまりだよ。こんなのってないよ!」

 

声の余りにぞんざいな答えに、タカトは激昂した。

しかし、声はそんなタカトを嘲笑するように続けた。

 

「ハハッ、しゃあねえだろ? だが、諦めたらそれまでだ。お前なら運命を変えられるかもな。避けようのない滅びも、嘆きも、まだ覆せるかもよ?」

「――本当に?」

「ああ、本当は誰にもその”分岐”は可能だった筈だったんだからなー」

 

「僕でも――こんな結末を変えられるの?」

 

「ああ、だから、選べよ。 お前の無限大な夢の後を――”未だ嘗てない分岐”をよ? ぎゃはははははははははは!!」

 

高笑いを聞くと、タカトの天地がぐるりと回転した。

 

眼が、徐々にぼやけてくる。

意識が遠のいていく――それが消えようとする瞬間、タカトは”彼女”を見た。

 

そこにはカードを手にする彼女の姿があった。

 

「……だめだ、そのカードを使っちゃ……」

 

タカトは必死に、彼女にソレを伝えようとした。しかし、その声は届かない。

届きようがない。

 

 

「……『勝率80%』、カードスラッシュ!! 」

 

 

カードを、手に持つマシン、”デジヴァイス・アーク”でスラッシュする”彼女”。

刹那、デジヴァイス・アークは激しく光を放った。

 

『Victory……OVERRRRRRRRRRRRRR LOOAAAAAAAAAAAAAAD!!』

 

スキャンされたカードの効果を読み上げる――否、絶叫するような電子音声が響いた。

 

そして、デジヴァイスアークに呼応するように、レナモンの体もまた、激しく発光した。

 

「レナモン――究極進化――」

 

レナモンが呟く。

 

進化の光を放つレナモン――それを見つめていたタカトの目は太陽の光を直視したように眩んだ。

 

――そのままタカトの意識は、その光の中に消え去った。

 

 

意識が完全に消え去る最後の瞬間に見たものは。

 

――崩れていく、巨大な翼を持つデジモン。 

そして、ボロボロになり、消えていくレナモン。

 

――消えていく、”彼女”

 

最後に、燃え盛る炎に包まれ、消えていく――新宿の街だった。

 

 

 

 

 

 

 

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 『第一話 あめのゆめ』

 

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4月22日。

麗らかな春の朝である。

 

松田家の二階にある小さな子供部屋では、目覚ましが鳴り響いていた。

 

「ハッ!?」

 

タカトは、ベッドから飛び起きた。

「夢……オチ?」

余りにリアルで濃密な夢に、呆然とするタカト。

なんだか、とても怖い夢だった気がする。でも――。

「デジモンだったよな……アレ」

タカトは不思議と、その夢に嫌な感触は持たなかった。

むしろ、胸の中に湧き上がっていたのは、とても珍しいものを見たときのような、興奮。

「……でも。夢か……夢だったのかな?」

酷い寝汗を拭いながら、タカトはその身をベッドから完全に起こした。

 

 

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東京都新宿区――淀橋小学校付近

 

 

 

 

「けどさータカト、目が覚めた時は自分んチの部屋にいたんだろ?」

「だって見たんだ!ぼく! ホントにあんなリアルな夢って……!」

登校時、通学路を歩きながら、タカトは友人のヒロカズとケンタに、夢の内容を熱弁していた。

 

雨の中、巨大なデジモンの影が現れたこと。

そして、一人のテイマーがデジヴァイスでデジモンを進化させたこと。

 

「でも、どんなデジモンだったかは覚えてないんだろ?」

「うん……よくは覚えてないけど、体にさわった雨の感触、雨が冷たい、って感じ、覚えてる」

「……まさかお前。冷たい感触って」

「……まさかタカト、小五になったってのに、お寝しょしたんじゃ……」

「なっ、何?」

「タカト、マジおねしょした?」

「しっ、してないってば! なんだよ、どうしてそんな話になっちゃうのさ!」

顔を真っ赤にして、ムキになるタカト。

ソレを見たヒロカズとケンタは、余計に面白がってタカトをからかった。

「タカトおねしょー」

「ガキみたいな夢みるからさ! アニメの見すぎだろ?」

「待てよ! 二人とも! うわぅ!!」

ムキになって走ったせいか、道端の石ころに躓いて、タカトは派手に転んだ。

その時である、

 

 

カラカラ。

 

と、ポケットの中から、何かが飛び出した。

 

「あれっ!?」

 

飛び出したものを慌てて拾おうとするタカト。

それは恐らく、彼の宝物である、デジモンの携帯ゲーム機であった。

「やばい!」

 

ころころとソレは道路を転がっていった。

 

「おい、なにやってんだよ、タカト。 遅刻しちゃうぞー」

「先行ってるから急げよ」

「わっ、待ってよ! ……っ?」

 

タカトは、急いで地面に落ちた何かを拾い上げた。

 

「え……!?」

 

それは。

 

「これって」

 

それは、見慣れぬ、マシーンだった。

 

大きな液晶画面があるところは、デジモンの携帯ゲームによく似ていた。

しかし、いくつかボタンが増えており、側面にはカードをスキャンするための、スラッシュ型のカード・リーダーがついていた。

そして、それは、タカトにとって見覚えのある形だった。

「夢の中のあの子が持っていたものだ……」

じっとソレを見つめるタカト。

 

あのテイマーの少女。 これはもしかして……デジヴァイス?

大好きな、あのアニメ番組『デジモンNEXT』の主人公、工藤タイキが持っているような――。

 

その時、

「え……?」

 

学校から始業のチャイムが聞こえた。

 

「あっ、えっ?ままままずいっ!」

まずい、このままでは遅刻だ。

タカトはソレをポケットに詰め込むと、猛スピードで学校へと駆けていった。

 

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五年二組教室――の外。

 

 

遅刻のバツとして、廊下にタカトが立たされている。

――始業時間に間に合わなかったのだ。

 

「ハァ……」

タカトは溜息をついた。

「……松田啓人(タカト)くん」

「は、ハイ!」

そんな様子に担任の浅沼先生が釘を刺してきた。

「こら、遅刻しておいて、ちゃんと反省してるの? 」

「は、ハイ! 反省してます!」

タカトは気をつけの姿勢を取り直した。

教室からはクスクスとクラスメートが笑う声が聞こえた。

「ハァ……」

浅沼先生が呆れたようにため息をついた。

まだとても若い女の先生なのに、いつも疲れているような顔をしている先生だ。

「ちゃんと、反省してね」

「は、はい……」

 

まだ五年生になったばかりなのに、こんな目にあうなんてついてない。

(そういえば……)

どうしてこんなことになったのか。

思い返せば、あの変な端末、デジヴァイスらしきものを拾ったからだ。

(ポケットにはデジモンゲームを入れてたはずなのに……僕のデジモン、どこにいっちゃったんだろう)

ポケットから取り出そうとしてハっとなった。浅沼先生がちらちらとこちらの様子を伺っている。

 

こんなおもちゃみたいなもの、見つかったら没収される。

 

と、思ってポケットに突っ込んだ手を抜こうとしたのだが……。

 

(あれ?)

 

ポケットには、もう一つ、見慣れぬ異物が入り込んでいた。

 

 

それは、一枚のカード。

デジモンのカードゲームで使うものによく似ていた。

しかし、それらはほとんど白無地となっており、

本来モンスターの名前や設定が書かれている欄や、

イラストが描かれているべき項目は全て空白となっていた。

 

そして、更に、そのカードの隅には、アルファベットの文字が何やら書かれていた。

 

「A……D……V……? これって……」

 

タカトは昨晩の夢を思い出す。

そういえば、夢の中に出てきたあの少女は、デジヴァイスに何やらカードを通していたではないか。

(と、いうことは、これはデジヴァイス用のカード……!?)

なら、このカード……。

(これって、自分でモンスターを書き込めば……ってこと!?)

タカトは胸の高鳴りを感じた。

タカトはいつも持ち歩いている色鉛筆を手にすると、カードに自分の夢想したモンスターを描き始めた。

 

 

「色は、赤だ。一番強いんだもん。成長期の最大攻撃力はアグモンに匹敵。でももっと強い。必殺技は……」

タカトの筆は止まらなくなっていた。考え込む事などなかった。

 

彼は思うがままに、無我夢中で筆を進めていく。

 

すると。

 

「それ、怪獣?」

 

誰かが声をかけてきた。

「何言ってんの。これはデジモ……(はっ)」

 

……見上げると浅沼先生が無表情にカードを見下ろしていた。

 

「タカト君、やっぱり、真面目に反省してくれてないのね……」

 

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 

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放課後のガランとした教室に、タカトだけが残って原稿用紙に向かっている。

窓の外からは、下校始める児童たちの声が聞こえた。

「反省文、きょうぼくは遅刻をしました、ちこくはとてもわるいことだと思います。 つぎからはぜったい……」

と書きかけたところで、タカトはポケットから、例のデジヴァイスらしきものをとりだした。

 

「カード、先生に没収されちゃったけど」

反省文書き上げたら返してもらえるだろうか。 返してもらったら、あのカードに続きを書こう。

そして……カードが完成したら、このデジヴァイスに……。

どうなるんだろう? いったいなにがおこるんだろう?

 

そう考えると、タカトの頬は自然と緩んだ。

 

すると、「ワン!」と声が聞こえた。

 

「わっ」

 

タカトは思わず身じろいだ。

 

タカトの顔の横に、奇妙な犬のぬいぐるみの顔があった。

「わんわん。まじめに反省文書かないと怒られるワン!」

タカトは首をすくめ、ゆっくり振り返った。

可愛らしい少女が、タカトのすぐ後ろに悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。

「な、なんだ加藤さんか、おどかさないでよ」

 

同じクラスの加藤ジュリだった。手には先ほどの奇妙な犬のマペットをはめている。

……空想に耽っていた為、近づくジュリに気がつかなかったのだ。

ジュリは愉快そうにくすくすと笑った。

 

「笛の忘れ物~ワン!」

ジュリは自分の机の中からリコーダーを取り出して、ランドセルにしまった。

 

「それからね。 これ、浅沼先生が」

 

ジュリはタカトに、書きかけの――先ほど先生に没収されたカードを差し出した。

「あっ、……ありがとう」

 

なんだか、ジュリにカードを見られるのはとても気恥ずかしかった。

 

タカトは急いでカードをポケットにしまった。

「先生がね、急用ができたから、提出は明日でいいって――それ、なんのカード?」

「え、えーと」

どう説明していいかわからなかったので、タカトは言葉に窮した。

「あどべんとって、書いてある。 私先生に意味を聞いちゃった!」

神様が降りてくる、降臨とかそんな意味だって、とジュリは言った。

「A・D・V・E・N・T……アドベント?」

「もしかして……デジモン?」

「えっ」

「よかったら、今度教えてね――ワン!」

 

そういうとジュリは教室から駆け出していった。

 

タカトはその様子を少し名残惜しそうに眺めていた。

「加藤さん、デジモン、興味あるのかな……」

だったらとってもうれしいな。なんせ今の僕は……。

タカトはカードをもう一度眺めると、デジヴァイスを強く握り締めた。

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夕刻。

高層ビル群が夕日を背に浴びて、まるで影絵のように陰影を切り取っていた。

都庁の裏、そこは未だ東京の古き町並みを残していた。

 

その街の中にある、小さな商店街、「けやき橋商店街」

タカトの家はそこにあった。

 

ベーカリー・マツダ。

 

タカトの父が数年前、知り合いの老人からタダ同然で譲り受けた店舗だ。

 

タカトは店舗の脇にある細い路地を抜けて、家の裏口から中に入った。

 

「323円のお釣りですねー。毎度どうもありがとうございまーす、あ、お帰り」

店頭で接客をしている母が、声をかけてきた。

「ただいまお母さん今日は学校とーっても楽しかったよ!」

タカトは店番をしている母にも聞こえるように大きな声で言った。

 

事務的なタカトの態度に、母は少し顔をゆがめた。

 

そんな様子をつゆしらず、タカトは店の奥でパンを焼いていた父にも

「ただいまー!」

と一声かけ、靴を脱ぎ捨て、さっさと二階の自室へと向かってしまった。

「こら、タカト! もう」

母は顔をしかめながら、二階に上がっていくタカトを見ている。

「なんだ?」

「別に。毎日きちんと親子の会話ってしないとねって」

父が言うと、少し機嫌悪そうに母が言った。

「タカトおかえり~」

そんな様子に父親は階上に向かって言った。

「はーい!」

元気は良いが、やはり事務的な答えが返ってきた。

 

 

 

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「爬虫類型、ウイルス種! はかい的なところを持ちながら、根はやさしい、悪魔のようで、それでいて正義のデジモン」

タカトは夢中になって、無地のカードに自分の考え付くかぎりのモンスターの設定を書き込んだ。

片手には買ってもらって以来、ほとんど使うことのなかった辞書をもち、難しい漢字や、設定に使えそうな言葉を拾ってはカードに書き込んでいた。

 

「名前は……うーんと、そうだギルモン!」

 

ギルティ。意味はわからないが、かっこよさそうな言葉だと思って、そこから名前をとった。

ゲームなどでもよく使われているし、怪しさと名前のトゲトゲしさが、自分の考えるデジモンにぴったりだと思った。

 

「できた」

 

タカトは自分で作ったカードを見た。

 

我ながらいい出来だ。

 

「よし……」

いよいよだ。 この不思議なデジヴァイス、そしてカード。

この二つが合わさったとき、何が起こるのだろうか。

夢の中のように、デジモンが現れるのだろうか。

 

おぼろげに覚えている夢の中の少女を真似て、タカトはカードをスキャンした。

 

「ギルモン! カードスラッシュ!!」

 

 

…………。

 

 

何も起こらなかった。

 

階下からは母親の

「早くお風呂に入りなさい」

という声が聞こえてきた。

 

「……あれ?」

 

 

タカトは急に気持ちがしぼんでいくのを感じた。

 

「……」

 

そういえば、なぜ自分はこれが本物のデジヴァイスなどと思ったのだろうか。

不思議な夢と、自分がこれをなぜかもっているという、この不可思議な状況がそうさせたのではあるが。

 

「……」

「ターカート! お風呂はいっちゃいなさい!」

「……はーい」

 

タカトはとりあえず返事をした。

 

 

タカトはデジヴァイスの画面を見た。

 

そこには『ERROR』とかかれていた。

 

「え……と、どういう意味なんだろう」

タカトが言葉の意味を計りかねていると、表示が変わった。

『execute a program forcibly』

 

「え……あ?」

 

また意味のわからない言葉が出た、と思ったその時。

 

「mode/incubate」

デジヴァイスから、音声が発生された。

「もーど、いんきゅべーた?」

 

そして、デジヴァイスが、一瞬光を放った。

「わっ」

タカトが驚きの声をあげる。

そして、画面が切り替わった。

「タマゴだ! ……デジタマ!」

 

なんと、デジヴァイスの画面の中には、胎動する卵が表示されていた。

 

「何かが、生まれようとしているんだ……この中で」

 

タカトの顔は再び希望に包まれた。

 

 

 

 

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朝になっても卵はかえらなかった。

 

タカトは学校にもデジヴァイスを持っていき、一日中、いまかいまかとそのときを待ちわびた。

その為、タカトは浅沼先生に反省文を提出した直後にもかかわらず、授業中上の空でいた。

 

……そして、タカトは先生から指されたことにも気づかず、空想に頭をめぐらせていたため、また宿題をふやされることになった。

 

だが、今日だけは、タカトは平気だった。

 

 

 

――放課後

 

 

下校の時間になるやいなや、真っ先にタカトは教室を出た。

普段一緒に下校し、遊んでいるヒロカズやケンタにすら目もくれなかった。

 

それだけタカトは急いでいた。

 

 

誰にも見つからない。公園の片隅にまでタカトは来た。

ポケットからデジヴァイスを取り出す。

 

誰にも秘密だった。

自分だけの。

 

期待に胸含まらせ、タカトは画面を覗き込んだ。

 

「もう、そろそろ生まれてるかな……あっ!!」

 

 

タカトは画面を見て驚きの声を上げた。 卵が割れている。

 

「やった!やった! 生まれたんだ!僕のデジモン!!」

 

満面の笑みを浮かべ、画面に食い入るタカト。 しかし……。

 

「……あれ?」

 

画面の中には割れた卵のカラしかない。

 

「……中身は? 僕のデジモンは?」

 

すると、タカトの疑問に答えるように、画面の表示が変わった。

『SEARCH MODE』

画面には、地図のようなものと、矢印が表示されている。

 

「もしかして、これって探せって事? ということは……」

 

 

僕のデジモンに、逃 げ ら れ た って 事?

 

「た、大変だ……!!」

 

本物のテイマーになるはずが、生まれたばかりのパートナーデジモンに逃げられた。

「こ、これ、この方向にいるってことだよね?」

タカトは大慌てで、矢印の差す方向へと走り出した。

 

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東京の雑踏。

その影。

路地裏。マンホール。ビルの屋上。

そのどこにも、彼はいた。

 

彼は、時として、そのどれかに”形をなす”

 

「妙だな」

彼は呟いた。

                            

「妙だぜ、これは――ぎゃはは。 もしかすると”キ”たか?」

 

彼は愉快そうに笑った。

「今度はどんな分岐なんだ?」

 

彼は、その道化師のような、悪魔のような姿を揺らして、

踊るように別の暗闇へと消えていった。

 

 

 

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西新宿駅近くの高架下。

 

一人の少女がヘッドフォンでつまらなそうに音楽を聴いていた。

しかし

「――また、来る?」

 

少女は、何かの気配を感じて歩き出した。

手には、青い縁取りのされたデジヴァイスが握られていた。

 

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都庁近くのマンション。

 

自室でコンピューターいじりをしていた少年がふと窓を見上げる。

そして、彼もまた、何かの前兆を感じてデジヴァイスを眺める。

「大きい、今までで一番――でも、成長期――?」

彼はデジヴァイスを手にすると、自室を後にした。

 

 

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やっぱり、何かが起ころうとしている。

タカトはデジヴァイスから奇妙な予感のようなものを感じていた。

カラダがざわつき、胸の鼓動が早くなる。

 

都庁近くのオフィス街。

タカトは仕事帰りのサラリーマンの群に逆流するように街を抜けていく。

ただひたすら矢印の指す方向を目指して。

建物の存在を可能な限り無視し、最短距離をとった。

狭い路地を抜け、駐車場を横断し、人がいない建物の敷地内は無断で通った。

高い段差は配水管を昇降棒のように伝って降り、下水溝をにおいをこらえて潜った。

 

ピコーンピコーンと、デジヴァイスから発せられる電子音が、この先に潜む何かを知らせていた。

 

電子音は徐々に大きくなり、目標との距離が近くなってきているのをタカトに感覚的に教えていた。

 

 

 

「……!」

 

タカトがたどり着いたのは、ビルの取り壊された跡地だった。

土台も破壊され、地下にポッカリと大穴が開いており、

恐らく解体工事中の、むき出しの配水管やインフラケーブルがそのまま放置されている。

そこはさながら、異界への入り口だった。

 

工事の足場として作られた鉄階段をくだり、タカトは穴の底を目指した。

矢印は其処を指している。

「霧……?」

 

穴の底は、水蒸気のようなもので覆われていた。

不思議とこの霧は、肌に触れるとピリピリと静電気のようなものを感じた。

 

ピーっと、デジヴァイスが一際大きな音を上げた。

 

居る。

 

ここに、居る。

 

 

タカトは、霧の中、よく目を凝らして辺りを見回した。

「あっ」

影が、あった。

 

大きさは1メートル位だろうか。

 

まるで、映画に出てくる怪獣のような。

 

とがった耳。 ざらざらとした質感の肌。大きな瞳。

そして、真っ赤な体色。巨大な口。尻尾。

 

それはおおよそ、この世の生き物ではなかった。

 

異形の怪物。モンスターだった。

 

「ギルモン……!」

 

それは、タカトの考えた、ギルモンそのものだった。

 

ギルモンはじっと、空を見つめて、ぼんやりとしていた。

まるで自分がどうしてここに居るのか、思案しているかのようだった。

 

 

「……ぎる?」

しばらくすると、ギルモンは、タカトの声に気づいたのか、

空を見上げるのをやめてタカトの方向を向いた。

「ギルモン? そうだよ、僕は――」

タカトはギルモンに一歩一歩近づく。

「グゥ……」

しかし、ギルモンは警戒するような目でこちらを威嚇してきた。

ヒィっと息を呑むタカト。

――タカトはもう一度ギルモンを見た。

大きな口。 巨大な目。 鋭い爪。牙。

あんなもので、触れられたら、襲われたら、自分はひとたまりもないのではないか。

「そんな――だってぼくは」

目の前にいるのは……怪物だった。

だが、

「タ……カ……」

「え?」

ギルモンが、にわかに、眼光を緩めたような気がした。

「タカ……ト?」

「ギルモン、僕がわかるの? ギルモン」

タカトは、ギルモン自分の名前を呼ばれたような気がして、勇気をだして、一歩一歩近づく。

「タカト……?」

「そうだよ、ギルモン! 僕は君を――」

 

タカトは手を広げて、まるで犬でもその胸に迎え入れるように、ギルモンに呼びかけた。

しかし、

「グワアアアアッ!!」

 

ギルモンは雄たけびを上げて、口から『閃光』を吐き出した。

 

バシュュ!! っと空気が灼ける音がして、火球がタカトの頭上を掠めた。

「ヒ……う、うわああああああああ!!」

 

思わず、タカトは腰を抜かしてその場に尻をついた。

 

火球は、タカトの後方、解体中の地下外壁に辺り、轟音を上げて爆発した。

「そんな……ギルモンが僕を……」

 

タカトは、後ろを振り返った。

着弾した場所は、濛々とした煙があがっており、鉄とプラスチックの焦げたような悪臭がした。

鉄で出来た下水管を、いとも簡単にギルモンは爆破したのだった。

しかし、タカトの目に映ったのは、そんな惨状だけではなかった。

 

 

「え!?」

 

 

――影、だった。

 

ギルモンと同じような、影。

 

影はタカトの頭上を飛び越え、ギルモンに飛び掛った。

「グワアアア!!」

ギルモンに覆いかぶさり、拳を振り上げる影。

そんな影を、ギルモンは怪力で力任せに投げ飛ばす。

 

「もう一体モンスター? じゃあ僕を狙ったんじゃ……ギルモン」

タカトは僅かに安堵した。

なら、しかし一体あのモンスターは!?

「――レナモン!!」

 

困惑するタカトの後ろから、少女の声が聞こえた。

 

「なにやってるのレナモン! エネルギー反応が強いとはいえ、同じ成長期よ。早く倒しなさい」

「御意」

ギルモンに投げ飛ばされた影――レナモンは少女の声に応えた。

すぐさま体勢を整えると、ギルモンとの距離をじりじりとつめ始める。

今にも襲い掛からんばかりだ。

 

(あの子……!)

タカトは目を見開いた。

そこに居たのは、見覚えある少女。

「君……」

夢の中であったような……あの少女!

 

「やりなさい」

少女は無表情に自分のモンスター――レナモンに指示した。

レナモンの標的は――当然ギルモンだ。

 

「ま、待って! ギルモンは――!」

タカトは少女に向かって叫んだ。

「――離れてなさい。 一般人には関係ない」

「ギルモンは僕のなんだ! だから、やめてよ!」

無表情だった少女の眉がピクリと動いた。

 

「あんたも、テイマーなの? ……譲れないよ。レナモンがアレと戦いたがってる」

 

少女は、タカトの声を無視して、腰につけたカードホルダーから、一枚のカードを取り出した。

 

「レナモン、攻撃プラグインA」

 

少女はカードを、デジヴァイスに通す。

 

 

デジヴァイスが、カードのデータを読み取ったことを証明するように、発行する。

 

『PluginA-command/Attack!!』

 

デジヴァイスから機械音声が響いた。

すると、レナモンの様子が変わった。

レナモンの力が漲っていく様が、傍目からも、タカトからもわかった。

 

「これで決める――いきなさい、レナモン!」

「アタックのカード?――やめて!? やめてよ!!」

タカトには、少女の使ったカードの意味がわかった。

アレは、デジモンに力を与えるカードだ。その力で――ギルモンを殺すつもりなんだ。

 

タカトがギルモンに向かって叫んだ。

 

「逃げて!! ギルモンッ!!」

 

レナモンに対してうなり声をあげるギルモン。

そんなギルモン目掛けて、レナモンは飛んだ。

 

 

 

 

「狐葉楔(こようせつ)ッ!!」

 

レナモンが叫ぶや否や、木の葉のような、エネルギーの塊がレナモンの周囲に浮かんだ。

 

「!?」

ギルモンがその光景に目を見開いた。

 

 

それらはまるで手裏剣のようになって、ギルモンを――襲った。

 

そして、光の刃が、ギルモンを切り裂こうとしたその時、

 

「テリアモン!! 防御プラグインC!」

『pluginC command/Counter 』

 

――少年の声。

と、ギルモンの前に、小さな――もう一つの影が現れた。

 

「プチツイスター!!」

その影は、まるで独楽のようにクルクルと回転すると、レナモンの攻撃を全て弾き返した。

「また別のデジモン!? ……ギルモンを護ってくれた?」

 

「もう、大丈夫だよ」

 

背後に、いつの間にか少年の影があった。

自分と同じくらいの年齢だろうか。 

手には自分や少女と同じ、デジヴァイスが握られている。

 

そして、ギルモンの目の前には、白い子犬のようなデジモンが居た。

恐らく、これは彼のデジモンなのだろう。

 

 

「また君か、牧野留姫(マキノ ルキ)」

「ちっ……何のつもり? 健良(ジェンリャ)」

忌々しそうに少女――ルキは少年――ジェンリャを睨んだ。

手にはカードを構え、すぐにでもレナモンに攻撃を命じようという様子だ。

「邪魔するなら……」

 

「――待ちなよ。 話を聞いてくれ」

そんなルキをジェンリャは手で制した。

 

「あれは"彼"のデジモンなんだ? ……ね、君、そうだろ?」

ジェンリャは、タカトに聞いてきた。

「何言ってんの? まだ"契約(コントラクト)"してないじゃない……そいつが"降臨(アドベント)"させたならなんで契約してないっていうの?」

「……ギルモンは僕が考えたデジモンなんだ!」

「君が、考えた……? 君、カードを、見せてごらん」

 

タカトはポケットからデジヴァイスと自分が書き込んだギルモンのカードを取り出して見せた。

「……は?」

「えっ……このカード!?」

ルキとジェンリャはタカトのカードに目を丸くした。

「"降臨"のカードに自分で絵を……?」

「そうだよ! ギルモンは僕の考えたデジモンなんだ!」

 

タカトは、ギルモンを見た。

ギルモンは未だ臨戦状態にあるレナモンのほうを見て唸っている。

「ギルモン……!」

タカトは恐る恐るギルモンに近づいた。

「タカ……ト?」

ギルモンは、タカトの気配を感じると、緊張を解いて、タカトのほうを向いた。

「そうだよ、ギルモン、僕がわかるよね」

「タカト……? タカト! タカト!」

ギルモンはタカトを認識するとすりよってきた。

そんなギルモンをタカトはひしっと抱きかかえた。

 

「そんな……契約もしてないのに」

ルキはそんなタカトとギルモンの様子を信じられないといった様子で見つめた。

 

「これでわかったろ? ……理屈はわからないけど、あれは彼のデジモンだよ。 今日の所は帰ってくれないか」

「あたしには関係ない」

ルキはジェンリャの要求を突っ撥ねた。

「……飲み込みが悪いな? 見逃してあげるって言ってるんだ」

そんなルキの様子にジェンリャはカードを取り出した。

すると、いつの間にか、工事現場の周りに、自分たち以外の何人もの子供の影があることに、ルキは気づいた。

「……あんた達もエサに釣られてきたくせに」

「状況が変わったなら仕方ないさ。 何にせよ、僕らはテイマー同士の戦いは望まない。 お互い狩りとは余計なトラブルとは無縁でいたいだろ?」

「……ちっ」

ルキはレナモンに目配せした。

退却の合図だ。

レナモンはルキを抱きかかえると、まるで忍者のように跳躍し、あっという間にこの場から立ち去った。

 

タカトは、ギルモンを抱えながら、呆然とした表情で、その様子を眺めていた。

「タカト……くん?」

「あ、うん……君は……?」

 

「はじめまして、僕は」

 

ジェンリャはタカトに手を差し出した。

タカトはジェンリャの手をとって、握手を交わした。

 

 

「僕は……いや、僕たちは、デジモンテイマーズだ!」

 

 

 

 

 

 

気がつくと、辺りには、ジェンリャと自分以外の幾人もの少年の姿があった。

彼らは皆一様に、その手にデジヴァイスを掲げていた。

 

 

 

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