鋼の英雄 〜異世界へ行く〜   作:いーずー

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Mission15.城にいるんだが その1

目の前には白と多少の赤で彩られた、立派な城が。

俺たちはその圧倒的なスケールと美しさに暫し見惚れてしまった。

 

 

「これは…凄いな。」

 

「<<見事としか言いようがありません>>」

 

「素敵です…」

 

 

日本にいた頃は海外には殆ど行ったこと無く、よくある素敵な海外の風景をテレビや写真で眺めてはいつか行ってみたいなぁ。と思考にふけっていましたが…思わぬ形で王城見学が出来て良かったなぁ

 

「ほう、貴様にもこの城の良さが分かるのだな…しかし、遊びに来ているわけではないぞ。さっさと来るんだ。」

 

「はーい」

 

 

何故俺たちが王城に来ているかと言うと、どうも王都で起きた今回の騒動の犯人と疑われているらしく…その誤解を解きにーー俺たちを捕まえに来た金髪の騎士とお供の騎士5名、彼等を"説得"し同行という形で王城へとやって来たのだ。

 

 

「…貴様等、武器は何処へやった?」

 

「"倉庫"に置いてきた。」

 

「フンっ、懸命な判断だ。」

 

 

自前の倉庫にだが、嘘は言ってない。

金髪の騎士が入り口を守る騎士へと何かを告げると、中へ歩みを進めるよう促させる。

そして、そこにはおよそ一般人では経験しえないだろう世界が広がっていた。

 

 

汚れ一つなく磨きあげられた床には、恐らく高いと思われる赤い絨毯が敷かれ道を作っている。広々とした空間に、高そうな調度品の数々、メイドさん…とにかく凄い。オリバーさんの所も凄かったが此方はスケールが違うな。

俺は絶対住めない、広過ぎて落ち着かなそうだ。…などと考えている時点で感覚が庶民派なのだろう

 

 

「フフン…私も最初は感動したものだ。最も今では見慣れてしまったがな。」

 

「探検してきていいか?」

 

「ダメに決まっているだろう、調子に乗るな。」

 

 

速攻で却下され、落ち込む俺とエルマール。

アイジスさんは構造把握に忙しい。いやーアイジスがいれば何処に行っても迷うことは無いだろうなぁ

 

「<<その際は任せてくださいマスター>>」

宜しくお願いします

 

金髪の騎士に続き暫く歩いていると、豪華な服を纏った小太りで背の小さい男と濃いめの茶髪に眼鏡をかけた細身の男が数名の護衛を引き連れ前方から近づいてきた。

 

 

「おぉ戻ったかっ!して例の奴は?…コイツが!?な、なぜ拘束しておらんのだっ!!」

 

 

「同行という形にした方が得策かと判断したからです。彼等も…非常に、協力的です。」

 

 

「フン…どうだかな。いいか、何かあったら貴様に責任をとって貰うぞ!」

 

 

「勿論です。私が責任をもって対処します。」

 

 

小太りの男は大きな声でそう言うと、フンっと鼻を鳴らすと護衛と共にズカズカ歩いて行った。

一緒に来た眼鏡の男は、申し訳無さそうな顔で頭を下げた。

 

 

「すみませんねぇ。あの方も国を愛するあまり周りが見えなくなる時があるんです。」

 

「おい!ロナン、何をモタモタしておるんだっ!さっさと行くぞ!」

 

「あ、はい!すみませんが失礼しますっ」

 

 

ロナンと呼ばれた彼は、最後にもう一度頭を下げ慌てて後を追っていった。

 

「何なんだ一体…?」

 

「さあな。行くぞ、黙ってついて来い。」

 

何事も無かったかのように歩き出す金髪の騎士と、それに続く俺たち。

メイドさんや他の騎士達の好奇の視線に晒されながら案内された先は、客間の一室の様だった。

 

 

「ここで待て。」

 

「分かった。…ところでアンタの名前を聞いていないんだが、教えてくれないか?」

 

「貴様に名乗る名はない。」

 

 

そう言うと、金髪の騎士達はバタンっと扉を閉めて出て行ってしまった。

部屋の中には俺とエルマールのみに…という訳では無さそうだ。

俺は天井を睨みつけ、声をかけた。

 

 

「…そろそろ出てきたらどうだ」

 

「ムサシさん??」

 

 

エルマールはキョトンとした様子で、俺と同じ様に天井を見上げた。

一見只の豪華な天井だが…ガゴっという音の後に天井の一部分が扉の様に開き、中から人が降りてきた。

 

 

「わっ、わわっ」

 

「ふう…ありがと。あの中狭くて窮屈で…とにかく早く出たかったの。」

 

 

天井から出てきたのは黒い服に身を包んだーーと言っても別れた時の服装では無いので恐らく着替えたのだろうーーナタリーだった。

 

「先程ぶり、とでも言えばいいのか?えらく状況が変わってしまったが…」

 

「そうね…まさか貴方が王都を狙う大悪党だったなんて思いもしなかったわ。冗談よ、怒らないで」

 

「そんな大悪党を見張りも置かないで放置とは、何を企んでいるのやら。」

 

「企むなんて酷い言われようね。」

 

 

腕を組んでワザとらしく困った顔をするナタリーを、ジト目で見つめた。

 

 

「人が出てくるとは思わなくて、ビックリしました…」

 

「こんにちは可愛いお嬢さん(エルマール)。驚かせてごめんなさい、見ての通りこのお城は…あー"仕掛け"が色々あるのよ。良ければ後で案内してあげるけど?」

 

「<<それは大変興味深いです>>」

「ホイホイ教えて良いものじゃないだろう…それより、本題は一体何だ?」

 

王城の仕掛けとかヤバそうな感じしかしないので、本題に入るよう促す。

 

 

「はぁ、何故かとても頭が痛いんだけど…貴方がこの城に呼ばれた訳は知ってるわね?」

 

「曰く、王都を狙う大罪人。」

「<<この一連の事件の首謀者>>」

 

「もしくは裏で糸を引く黒幕?」

「<<国家転覆を狙う謎の騎士、は如何でしょう?>>」

何かそれカッコいいな、さすが相棒。

 

 

「そうね、大体そんな感じ。」

 

「それは誤解ですっそんなことしてません!」

 

「落ち着いてエルマール、私たちもそう思ってるわ。第一貴方ならそんな回りくどいことしないでしょ?」

 

「確かにな」「…しませんね」

「<<肯定です>>」

 

 

謎の団結力を発揮するムサシ御一行。暗躍とか頭使うのは苦手だ。

 

 

「でも、そう思わない人もいるってこと。その筆頭がドゥームズ伯爵、性格の悪い肥えたエロ親父よ。」

 

「ひ、酷い言われようだな。」

「<<そんな人物が伯爵というのも恐ろしいですね>>」

 

「えーと貴族は基本的に世襲制ですから、そう言う人もいるという話は叔父さんから聞いたことがあります。」

 

 

そうなのか、オリバーさんも大変なんだろうなぁ。

それにしても伯爵か……この世界で伯爵ってどのくらい偉いんだろ??後でエルマールに聞いておこう

 

 

「まぁ、それは良いのよ真偽を確かめるという理由で貴方を連れて来られたから。」

 

 

真偽を確かめる?悪人確定っみたいな感じで押し掛けて来た気がするが…ま、まぁそれはこの際置いておこう。

 

 

「それで本当の理由とは?」

 

 

「ええ…貴方を連れてきた本当の理由はーー」

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

 

 

ナタリーの口から聞かされたのは、決して口外できないーーつまり面倒くさい要件だった。

 

 

「…俺達にどうしろと?」

 

 

「原因の究明と可能な限りの処置を、それ以上は求めないわ。」

 

 

んーむ、成る程なぁ。しかし既に巻き込まれてるとは言え…

チラッとエルマールを見ると、俺の視線に気づいた後に微笑み返してくる。

 

 

「私の事なら気にしないで下さい、ムサシさん達の言う通りにしますからっ!」

 

「<<マスター、私も全力でサポート致します>>」

 

ふむ、頼もしい限りだ。人助けというのなら俺も異論はないが…釘は刺しておこう。

 

 

「分かった…出来る限りのことはしてみよう。但し、政治やら何やらに利用されるのも関わるのもゴメンだからな?」

 

 

「ふふっありがとう。貴方達になるべく迷惑がかからない様にするから安心して。」

 

 

それは本当に頼みます(震え

 

 

「それで、この後はどうすれば良いんですか?」

 

「んーそうね、先ずはこの部屋から移動したいのだけど…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

日光を反射し純白に輝かんばかりの城。しかしよく目を凝らして見てみると、何か動いているモノを確認できるだろう。

"黒い鎧"にフード付きの白いマントを羽織った…俺です。

 

 

 

 

「何故こうなった…」

 

 

現在俺たちが何をしているのかと言うと、絶賛初めてのロッククライミングに挑戦している真っ最中だったりする。

 

 

「<<仕方ありません、私達では天井からの進行は不可能ですから>>」

 

「いや、それは分かってるんだが…」

 

 

ナタリーが「他の人に見られたくないから」と言ってこのルートを提案され…ご丁寧に偵察用機体「FG-Snake」に換装し倉庫から白いマントを出し、いそいそと目的の部屋まで進んでいるんだが何か騙された気がしてならない。

 

ーーこのFG-Snakeで使用している手足のパーツは某蜘蛛男の如く壁に張りつくことが可能となる。が、流石に塗装を換えている時間は無さそうだったので全身を隠せる大きさの外装があって助かった。

 

 

 

それにしても大きい城だ、全く登る方の事も考えて欲しい…と良く分からないことを思いつつ壁をよじ登っていると通信が入った。

 

 

「<ムサシさーんアイジスさーん、そっちはどうですか??>」

 

 

「あぁエルマールか。こっちは…順調だな、一応。」

「<<そちらは如何ですか?>>」

 

 

「<こっちも問題ありません、順調ですっ>」

 

「そうか、無線の使い方も大丈夫そうだな。」

 

「<はいっ!でも離れていてもお話ができるなんて、凄い道具ですね〜>」

 

「<<此方に離れた人間と会話できるモノはないのですか?>>」

 

「<そう言った魔道具もあるにはあるんですが…非常に高価なものなので、ほんの1部の人しか持っていないんです>」

 

「成る程なぁ…ん?」

 

 

今微かに声が聞こえたような…

既に結構な高さにいるが、こんな場所で??

 

 

「…めて……ださい」

 

 

また聞こえたな。

これは…女性の声か?

 

 

「<<気の所為では無いようですねマスター>>」

 

「その様だな。アイジス、周囲の音を拾えるか?」

 

「<<少々お待ちください>>」

 

 

壁に張り付いたまま動きを止めると、周囲に意識を集中する。

 

 

「やめてくださいっ!!」

 

 

 

「<<位置を特定致しました>>」

 

どうやら近くにある窓から漏れて聞こえているらしい。あの部屋で何が起こっているのか…確かめてみるか

 

 

「<ムサシさん?どうかしましたか??>」

 

 

「あーいや…エルマール、悪いがちょっと寄り道してくる。」

 

「<え?あ、はい!気をつけてくださいっ>」

 

「<<行って参ります>>」

 

 

 

 

はぁ、面倒なことにならなければ良いが

 


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