緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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弾籠め『その少女、昼寝好きにつき』

 東京。日本の首都であり、あらゆる流行発信の最先端とも言える街。

 そして、眠らない街。そう遠くない未来、日本は凶悪化する犯罪に悩まされていた。

 

「俺の監視を上手く突破してきたのは褒めてやるぜ。嬢ちゃん」

 

 ぱち、ぱち、とやる気無さげに称賛を送る一人の男。足下はガラス張りで、場所は豪勢にライトアップされたビルの屋上だ。

 この世界では、銃を持つこと自体が許されている。勿論、定められた規定をクリアすればだが。しかしそれが、凶悪犯罪の敷居を下げているのだ。

 誰もが何処からか銃を手に入れ、簡単に犯罪に手を染める。

 警察も手を焼く程の犯罪増加に、世界はとある国家資格を制定した。

 

「あんたァ、武偵だ。この程度はお茶の子か? ン?」

 

 周囲をライフルを持つチンピラに囲まれる少女。だが少女は臆することなく、美しい蒼い瞳と切れ長の目で語る男を睨み付けた。

『武装探偵』――武偵と略されるそれは、銃火器、刀剣類の所持を“義務”付けられ、逮捕権を行使する事の出来る“第二の警察”とも言える存在。しかし、そのやり方は警察ほど甘いものではない。

 少女はまだ高校生ほどだが、綺麗に引き締まった腹部を見せる短いセーラーの上着をビル風に靡かせながら、左手に握る刀の柄へ右手を掛ける。

 無論、そうなれば周囲のチンピラが黙ってはいない。次々と引き金に指を掛ける様は、少女の蒼い瞳にハッキリと映った。

 

「ハァッ!」

 

 ひゅんっ!

 ライフルのトリガーが引かれるその一瞬。そんな風切り音を上げ、月夜の摩天楼に刀の軌跡が煌めいた。

 刹那発生した衝撃波は周囲の屈強なチンピラ達を易々と吹き飛ばし、男と少女を一瞬にして一対一にしてしまう。

 

「ワオ。流石武偵様だな。だが、俺と嬢ちゃんの距離じゃあ俺がトリガー絞る方が早いぜ。試すか?」

「嫌だね。走りたくないし」

 

 拳銃を男から向けられながら、少女は刀を納刀して真正面から向き合う。

 ガラス張りの足下。下には如何にも“リッチです”と言いたげにライトアップされるプールが見える。かなりの高さがあるが、撃ち殺されたり地面に身体を打ち付けてトマトになるよりはマシか――少女はそう判断した。

 男の眼と、トリガーに掛けられた指の動きを見ながら、少女は一瞬の内に腿のホルスターから拳銃を抜き取って、足場となるガラスを撃った。

 落ちる少女。合わせて男が発砲したが、時は既に遅し。弾丸は少女を掠めることもなく通過して夜闇へ消える。

 

 水柱を上げ、足先から真っ直ぐにプールへ落ちた少女。酸素の水泡を目にしながら、彼女は水面へ向かって浮上していく。

 

「ふはぁッ!」

 

 水面から飛び出した少女は、肺に一杯の酸素を取り込むべく声を上げた。

 肩を小さく揺らしながら呼吸を整えていると、屋上から男が拳銃で少女を狙っていた。水面に浮かんだまま、水に濡れた拳銃を取り出しスライドに装着されたダットサイトを覗く。だが、水に濡れて壊れたのか、ダットサイトには赤い光点が投射されない。

 仕方なくレンズの向こうに見える男へ向けてトリガーを絞り、弾をばらまきながらプールから転がり落ちるようにして上がった少女。

 彼女は耐水性インカムのスイッチを入れ、所属する武偵高校へ連絡を入れてから、拳銃のマガジンを入れ替えた。

 

 

 東京武偵高。台場にあるレインボーブリッジから一望できる、東京湾の一角に浮かぶ『学園島』と呼ばれるメガフロートに、その施設はある。

 名前の通り、将来の武偵を育てるための学校で、中等部から存在している。

 学園島には武偵高の寮が存在し、それに合わせたコンビニ等の店舗も並ぶ。謂うならば、居住区と学園を一緒に詰め込んだ場所だ。

 

「全く、キミは無茶をするね」

 

 衛生科(メディカ)の生徒の少年――いや、少女であるエル・ワトソンはこなれたように少女が身に巻いていた黒いサラシを解いていく。

 

「面目ない……。とにかく疲れちゃってさ」

「まあ後に仲間が逮捕に成功したから良いけど、逃げられたらどうするつもり――おっと」

 

 少女を触診するワトソンが、少女の制服から生徒手帳を落とす。

 ぱさりと開いた手帳には少女の顔写真と共に、『コルネリエ=フェルトマイアー』という名と所属科目、年次、クラスが記されていた。

 

「ごめんよ。それにしても、なんでまたサラシでぐるぐる巻きにしてるんだい?」

「いや、特に意味は無いかなぁ……」

 

 ワトソンから手帳を手渡され、受け取ったコルネリエは半分上の空気味に答える。

 身体に触れられても特に反射的反応もないほど。

 

「待った、まさか寝る気じゃないだろうね」

「そのまさか。ちと寝かせて……」

 

 セーラーをはだけさせたまま、コルネリエは診察台の上へぱたりと倒れ込む。

 ある意味、これが彼女の普段の姿だ。銃弾飛び交う現場となれば一瞬にして眠れる獅子が目を醒ますが、他の場所では教師にチョークを投げられようと反応しない。

 居眠り常習犯である。寝込んだコルネリエを放っておく訳にもいかない。ワトソンはとっておきだった、彼女が忘れているであろう情報を、眠るコルネリエの耳元で囁く。

 

「車が来るのは今日だろう? 急がなくていいのかい?」

「ありがとねワトソン。ちと行ってくる~」

 

 さっとベッドから跳ね起き、サラシを巻き直しながらコルネリエはワトソンの診察室を後にした。

 羞恥心もコルネリエには然程ない。コートの様に羽織るよう改造された防弾制服のインナーである、黒いサラシをぐるぐると巻きながら武偵病院の廊下を歩く。

 ほぼ半裸なその姿に、男子生徒も思わず釘付けである。細く結ったポニーテールをなびかせ、服装を整えたコルネリエは空港へ向かう。

 自分へのプレゼントを受けとるべく。

 

 

 羽田空港は言わずと知れた、世界への玄関口。

 そこへ着陸した一機の貨物機の貨物スペースから、一台の黒いスポーツカーが現れる。

 全てコルネリエが手配した日産240SXファストバック。ビス留めされたオーバーフェンダー等が安っぽく見えるが、彼女曰く『それが良い』らしい。

 手続きを済ませ、日本のナンバーを装着した240は新しい乗り手に火を入れられ、歓喜の咆哮を上げる。大口径の排気管(マフラー)は激しく振動し、炎を吐き出して周りを威嚇する。

 

「よっしゃ、寮に戻るかー!」

 

 武偵――それは、常に危険と隣り合わせの職業。

 彼女をこの先待つのは、楽な道のりでないのは間違いだろう。




メカ解説

Grand Power/P45L X-Trim
 スロバキア製自動拳銃。コルネリエ愛用の拳銃であり、今回使用したのもこれ。
 45ACP弾を十発装填でき、更にロングスライドを採用する事で弾頭初速、精度向上に一役買っている。
 リアサイトは無く、オープンタイプの拳銃用ダットサイトを搭載し、銃身とスライドに反動軽減用のガス抜き穴(コンペンセイター)を空けている。

Nissan/240SX
 逆輸入仕様の『180SX』。
 2.4リッターに拡大されたエンジンからはターボチャージャーが外されているが、コルネリエはそこへスーパーチャージャーを搭載している。
 ロケットバニー製v2.0ボディキットと同ロケットバニー製ダックテールウィングを装備し、ビス打ちだらけのその見た目はまるで継ぎ接ぎ。
 しかし、車幅を拡大しタイヤを太くした分路面への食いつきは良くなったんだとか。
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