緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第九弾『その目覚めは吉か、凶か』

「……今日でしたっけ。強襲科、狙撃科、兵站学科のオンパレードになる作戦って」

 

 ストリートレースから三日。あれからコルネリエはただ宿直室で自習の日々だった。

 いや、強いて言うなら一人だけ、友人と接触してしまった事がある。その事は蘭豹達には話していない。

 突入作戦の大まかな日程は知っているコルネリエだが、それ以外の情報については知らなかった。何せ、殺人犯扱いで拘置所に居たのだ。武偵の情報が入ってくるわけもない。

 

「あー、せやな。流石に今回は教務科(マスターズ)も現場で陣頭指揮や。といっても、マトモにツラ出すんは、ウチと梅子にゆとりセンセだけやけど。――現場には出さへんぞ?」

「……はいはい」

 

 宿直室の小さな机でひたすらに鉛筆を走らせるのにも、コルネリエはもう馴れた。

 すらすらと筆先の擦れる音が小刻みに彼女の耳へ届く心地好さ。それがいつの間にか、コルネリエを回想という逃げ道へと意識を向けさせていた。

 

 

 ストリートレースから一日。休日に学園島から出ようと車を走らせるコルネリエ。

 そんな彼女と愛車の前へ、仁王立ちで立ちはだかる一人の少女。桃色のツインテールを風に靡かせ、小さな体躯でフロントウィンドウ越しにコルネリエを睨むのはアリアに他ならない。

 慌ててアクセルペダルからブレーキペダルへ踏みかえ、クラッチとブレーキを床まで踏みつけたコルネリエの反応に、86は全車輪をロックさせて滑る。

 あと数センチで危うくアリアを轢き倒す所で停車した86から、コルネリエはドアを開けて降りた。

 

「なに考えてんだよー。危うく轢くところだったぞ」

「そんな事どうでも良いわ。アンタにぴったりな車が走ったって噂を聞いたから張ってみたけど、アタリね。――事情を聴かせてもらうから、助手席乗るわよ」

「は!? いや、ちょっ――」

 

 コルネリエの了解を待つこともなく、いつもの我が儘ペースで強引に車に乗り込むアリア。

 このまま騒がれては、別な仲間達まで集まってしまう可能性も高い。コルネリエに、悩む時間といったものはなかった。

 

「それで、死刑宣告されたハズのアンタはなんで平然と学園島に入ってるのよ」

 

 ゆっくりと走り出す86。その車内で、バケットシートにふんぞり返ったアリアは横目にコルネリエを見遣りながら問う。

 アリアの問いに、オフレコという体で素直に答えるか――コルネリエはステアリングリムを人差し指でとんとん、とノックしつつ迷う。

 

(どうするかな。アリアは絶対に退かないタイプだし――)

「拒否権なら、無いわ。大丈夫よ。あたしは口堅いから。キンジだろうと、しゃべるなっていうならアイツにも話さない。だから、何があったのか教えて」

 

 アリアの方へちらりと目を遣れば、彼女の眼は嘘を語っているようには見えなかった。むしろ、話すまでは何度でもループさせるだけの気概を感じさせる。

 観念したコルネリエは、学園島の空き地へ車を走らせて停め、口を開いた。

 

「あたしの死刑宣告は何もかも空っぽ。――あたしは、ドイツで“何か”をされて超偵になれる程の身体能力を持ってる。ただ、それが何かは判らない……。あの死刑宣告は、あたしをそうした組織を油断させるため。――そんな風に聴かされたよ」

「……あの身体能力はそういうこと。深くは訊かないわ、今は。訊いても理解できないから。――それで、一人で解決するつもりだったの? アンタを滅茶苦茶にして、死刑宣告で騙しを入れないといけないほどの“何か”を相手取って」

 

 アリアの指摘に、コルネリエは斜を向いて言葉を詰まらせる。一人で解決するなんて、無理な話だ。

 それこそ、仲間を信じて仲間と共に戦うべき相手なのだから。しかし、今は口止めされている。故に、全てを語ることは出来ない。

 代わりに、コルネリエは断言する。

 

「あたし一人じゃ、無理な話だと思う。もし話せる時が来たら、協力して欲しいって。――勝手な話だけど、さ」

「だからなんなのよ? あたし達は仲間でしょ。深い理由とか、事情だとか敵の大小なんて関係無い。あたしも、コルネリエについてもっと知りたいもの」

 

 優しく微笑むアリア。その笑顔に、コルネリエは少しだけ救われた気がした。

 こうしてアリアには全てを話してしまったコルネリエだが、それから二日経っても彼女の噂が立たない事を鑑みるに、アリアは約束をしっかりと守っているのだろう。

 突入時間は夜。なんとかそれまでに、皆を助けに入りたいと考える。

 

「うっし。んじゃ準備があるさかい、ウチは空けるで。チャイムが鳴ったら終了しててかまへんよ。鍵は掛けるから、出られると思わんことやな」

 

 蘭豹自慢の大型リボルバー、M500が彼女の手の中で一回転する。本来なら手に余る程の巨大リボルバーだが、蘭豹が持てばちょうど良いサイズになる。

 くるくるとシルバーに輝くリボルバーを回しながら宿直室を後にした蘭豹。音を立てて閉まる扉を見つめ、コルネリエは再び鉛筆を手に取る。

 だが、宿直室に縛り付けられてから毎度行われていた、外鍵の固定を行う音が聞こえなかった。これでは『逃げてください』と云わんばかりだ。

 

「…………まさか」

 

 “引っ掛け”の可能性もある。ゆっくりと立ち上がり、静かに扉を開けたコルネリエだったが、警戒した分は完全に杞憂だった。

 そこには誰も居らず、静かな廊下だけが広がっている。

 

(……やるか。手段なんて選んでられるかッ!)

 

 静かに扉を閉め、宿直室から外へ出たコルネリエは足早に教務科棟から外へ向かい、愛車の停まる駐車場へ走る。

 だが、そこにはほんの数日前に見掛けた改造フェアレディZの姿があった。リューディアの姿も、勿論Zの傍らに見える。

 

「……ダメか」

 

 やはり引っ掛けだったか。コルネリエが呟くと、リューディアは何の事やら、と言いたげに首をかしげた。

 

「なにがダメよ。武偵が始まる前から諦めてちゃ失格よ? 武器がないって聞いたから、此方で拳銃だけ用意させてもらったわ。刀だけより心強いでしょ?」

 

 リューディアがスーツの懐から抜いたのは、何の冗談かトカレフだ。しかしコルネリエの手に渡ると、それが『トカレフの姿をした全く別の拳銃』である事が判る。

 交換式バックストラップを持ったワンピースグリップは現代銃の様にある程度太く作られ、材質も全く異なっている。マガジンもダブルカラムへ変更されている上、挿入口も拡大されていた。

 最早『トカレフの姿をした何か』と言うべき拳銃に、オリジナルの要素は使用弾薬とスライド後端でカバーされた撃鉄位な物だ。

 

「うわぁ。トカレフかよ、これ本当に」

「まあ、トカレフよ。暫くは役に立つ筈よ。現場は工事現場になってる。裏を取れれば、混乱は少ない筈。私は手伝えないけど。あぁ、それとM3も渡しておくわ」

 

 投げ渡されたショートモデルショットガンを左手で受け取ったコルネリエは、リューディアの話を聴きながら銃のチェックを行う。

 他人から渡されたものだ。銃身にボンドなど詰められていた日には、大事な手を失う事になる。全武器のチェックを終えたのを確認したリューディアは、特に何を告げる事もなく去っていってしまった。

 あとはコルネリエ次第、ということなのだろう。彼女の答えは勿論ひとつだけ。

 

「出撃だ!」

 

 勢い良く車へ乗り込んでエンジンに火を入れる。心なしか86のエンジンもご機嫌そうに吹け上がった。

 時間まではまだまだ余裕があるが、コルネリエはブリーフィングを行っていない。一足先に現場を見ておく必要がある。

 その為に、彼女は車を飛ばした。ただ、もう一度仲間の輪へ加わる――今のように、寂しいだけの毎日を抜け出し、謎の組織を仲間と共に追う為に。




メカ解説

TT-33C

 云わずと知れた、ソビエトの自動拳銃『トカレフ』である。
 日本ではヤクザ御用達など、様々な悪評が飛び交う本銃であるが、正式なトカレフであれば様々な戦争を戦ってきた名銃である。
 リューディアがコルネリエに代替として与えたトカレフは、完全にオリジナルの近代化改修モデルであり、素材やパーツ一つ一つまですべてのマテリアル変更を行い、実際のTT-33のパーツはほぼ使用されておらず、共用出来るパーツも一割以下と完全な別銃と化している。
 使用弾薬は変わらないが、複列弾倉化によって8発から倍の16発まで増大。耐久性も上がっている。

Benelli/M3 Shorty

 イタリアはベネリ社から販売される、ポンプアクション/ガスオペレーションセミオート式のショットガン。
 通常のM3からリアストックを取り外し、バレルを短くすることで閉所での取り回しと近距離での火力を重点に置いたモデルとされている。

Nissan/FAIRLADY Z(Z32)

【挿絵表示】


 日産が製造していたスポーツカーの一台。
 リューディアが使用するモデルはZ32と呼ばれるモデルだが、その見た目は最早Zとは思えない程にカスタムされている。
 ストリートレースでも常に一位を独占していた事から、リューディアのドライビングテクニックは元より、車両の戦闘力も凄まじいものと見られる。
 ただし、そのカスタムセンスは理解しがたいものもある。

【挿絵表示】


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