廃工場を望む、小高い丘にコルネリエは佇む。
「彼処か。確かにワラワラと居るね」
彼女の蒼い瞳には、入り組んだ工場を頻繁に出入りする人らしき人物が見えている。
巧妙に鍵を壊されてしまっていた86のトランクを開け、中に詰められた武器ケースから双眼鏡を取り出す。
耳にインカムを嵌め、双眼鏡を覗き、ズームしていくと連動して双眼鏡に取り付けられた集音マイクが、レンズ先に映るものの音を拾い始めた。
「……どういう仕組みやら。――ダメだな」
かなりのハイテク装備ではあるが、距離が距離。何しろ双眼鏡を外してしまえば、出入りする人間はアリ程度の小ささにしか見えない。
かなりの近距離まで近付かなければ、正確な集音が難しいのは明白。コルネリエは武器ケースを手に、工場へ進んでいく。
彼女が歩くのは、工場を囲う塀の外側。騒音でも立てない限りは見つかるとは考えにくい。だが、塀の向こうにターゲットが居ては偵察も満足にいかない。そこで、恐らく“鍵を壊した主”が置いていったであろうケースからグラップルフックを取り上げ、見上げるほどに高い塀へ引っ掛ける。
壊せないなら、よじ登れば良い。彼女の考えは悪く言ってしまえば、それだけだ。
「よし。ここからなら――」
塀の縁に手をかけたところで再び双眼鏡を取り出し、集音を始めるコルネリエ。音はかなり明瞭に拾えたが、雑音の合間に聴こえた言葉はあまり良いモノとは言い難かった。
「……襲撃バレてるじゃん。こりゃあ相手も武装してるね。――どーれどれ」
更に聴いていくと、ノイズの中で一言、コルネリエにとって引っ掛かる発言をマイクが拾う。
『安心しろよ。ドイツのなんだっけ……まあ――たんまり武器は……とにかく、上手く隠れて……』
「ドイツ絡みか。……こりゃあ、あたしとしても放っておけない事態になったね」
するするとロープを降り、地面へ膝をついたコルネリエ。次は仲間達の集合を待つ。一人で突入しても、事態は先に進まないだろう。蘭豹の“ケアレスミス”も意味がなくなる。
武器ケースから多量の12ゲージゴム弾と改造トカレフ用のマガジンを二本、腰に巻き付けたポーチへ押し込み、更に分解状態だったAUG A1を組み立て、ボルトロックを外して待機。
車内に買ったまま放置していたカルリーメイトをひとかじりして、時間の経過を待つ。じっと、音を立てずに。
強襲科達の突入は夜。もはや魔法の箱と言わんばかりに何でも入っている武器ケースから、単眼式の暗視ゴーグルを取り出して装着する。傍目から見れば、眼帯のようにも見えるがしっかりと視野は確保されている。
「……」
刻一刻と過ぎ行く時間。
時計を見てみれば、間も無く日没を迎える時間であった。武偵達は恐らく、既に準備をしている筈。
もう一度ロープを上がり、双眼鏡を覗いてみれば、何名か狙撃手の姿が確認できた。レキの姿もある。
レンズの反射光で悟られる前に下り、突撃の時は近いとコルネリエはAUGのコッキングハンドルを力強く引いた。
「……花火を上げますか」
AUGをスリングベルトで提げ、刀を振り抜くコルネリエ。彼女はそのまま目の前のコンクリート塀へ幾重にも太刀筋を走らせる。
「よっ!」
蹴り崩されたコンクリート塀。回転順手納刀で華麗に刀を納め、AUGを取り出したコルネリエは駆け足気味に工場裏手へ回る。
瓦礫の崩れた音に、内部で待ち伏せしていた窃盗団たちの注意が逸れた。そこへ雪崩れ込むように武偵達が突入、静かだった廃工場は一瞬の内に銃声に包まれる。
「おっと、そっちは危ないよ……」
コルネリエは敵に対し、完全に後ろを取る形だ。
片手でAUGを構え、シングルショットを銃口の先でコルネリエを狙っていた敵へ見舞う。他の銃声に掻き消されたAUGの5.56mm弾は、吸い込まれるように敵の肩を撃ち抜いて無力化する。
埃っぽい廃工場内は、すっかり火花散り硝煙の香る鉄火場へと姿を変えてしまった。
「おっととと!」
コルネリエの存在を知らない武偵からの流れ弾と、敵からの銃撃がまるで意思を持つかのように彼女を狙う。慌てて大きな機材の陰へ滑り込んだコルネリエは、ウェイトに為りうるAUGを破壊。カスタムトカレフとM3の二挺撃ちスタイルへ切り替え、身体を翻して敵へと向かった。
「ドイツの仕切り屋について話してくれれば、あたしはそれでいいんだけどそっちはその気無いみたいだねー!」
当然のように、コルネリエの叫びに敵は答えない。代わりに銃弾の嵐を見舞ってくる。
彼女はさも当たらない事が読めているかの如く、ゆっくりと工場中心へ歩きながらトカレフ、M3と次々にトリガーを引いた。
スライドが勢い良く後退し、金色に輝く薬莢を吐き出すトカレフは軽装甲の敵を貫き、咆哮を上げるM3は重装甲の敵へ痛烈な打撃を加える。
『フラッシュバン!』
コルネリエが武偵達の裏で快進撃を続けるその時だった。敵の誰かが、閃光手榴弾の存在を叫んだ。
コルネリエも、持っていた二挺を投げ棄てて耳を塞いで目を瞑ったが、一歩遅かった。暗くなった工場に激しい閃光が煌めき、コルネリエが身に付けていたナイトビジョンゴーグルはオーバーロードを起こし、安全装置を掛ける。次いで、間髪入れず巻き起こった轟音はコルネリエの平衡感覚を失わせるにはピッタリだ。
「……ぎっ――!」
痛みとも捉えられる閃光手榴弾の一撃に、コルネリエは歯をくいしばって耐える。
なんとか目を開けたその先で、腐食した屋根から下りてきたアリア達が次々に敵を無力化していく。
コルネリエは隠し持っていたトレホを抜き、アリアを狙う敵へフルオートで弾をばら蒔く。それに気付き、アリアが代わりに残った敵を無力化。
あまりにも呆気なく、銃撃戦は終わりを告げる。
□
「大丈夫? コルネリエ」
「え!? なんだって!?」
まだ耳鳴りの止まないコルネリエに、アリアの心配は通じない。
廃工場の銃撃戦で散らばった物は、その殆どが盗品であると武偵達は結論付ける。しかし、まだあった。最大の盗品が。
廃工場に、突然響いた唸るような音。一部の者は勘づいた様だった。
「まさか……」
アリアも勿論、その一人。甲高い悲鳴のような音を上げて、一台の車が工場を滑っていく。
乗っているのは間違いなく、難を逃れた敵だろう。しかし、追跡任務を想定していなかった武偵達に、追跡用の車両など用意されていない。
そこでアリアが白羽の矢を立てたのは、コルネリエだった。彼女は愛車で現場へ来ている。追跡対象は明らかに目立つ車両――通信科によって、ダッヂチャレンジャーヘルキャットであることが判明――だ。
アリアと共に丘を駆け上がり、86へ乗り込んだコルネリエ。全開にアクセルを踏み込み、回線を開いて二人はモンスターV8の追跡を開始する。
□
「通信科! こちらコルネリエ。対象は赤のダッヂヘルキャット、捉えてる?」
『問題はありません。コルネリエさんのルート上、1km先を時速230km/hで走行している模様』
ギアを入れ、更に速度を引き上げるコルネリエだが、86のエンジンに異変が起きた。
パワーこそ落ちていないものの、温度計類の針が上がり、警告ランプは眩く光る。だが、諦めるわけにはいかない。
「アリア、掴まれぇぇ!」
「もう掴まってるわよッ!」
街中まで逃げたヘルキャットを追い、86は限界を超えながら走る。コルネリエも、自身の持つ力を総動員し限界走行ながら、車へ極力負担を掛けないよう走り続ける。
ボンネットの隙間から白煙を噴こうと、ヘルキャットが目の前に居る限りコルネリエはアクセルを踏み続けた。
「コルネリエ! 合図で車を右に振って。一気に畳むわ!」
「了解! もう持たないから、早めに決めちゃって!」
温度計は既に振りきっている。いつエンジンに火が点いてもおかしくない状況で、アリアは甲高い声で叫ぶ。
「ナウ!」
「――ッ!」
アリアの合図で86はヘルキャットに対し、斜めを向く。そこへ、アリアがドライブバイで銃撃を加え、タイヤを撃ち抜いた。
ヘルキャットは有り余るパワーを制御できずに歩道へ突っ込んで停車。86も力尽きたようにエンジンを停止し、すぐに橙色の炎をボンネットの隙間から立ちこめさせた。
「コルネリエは避難誘導! あたしはアイツらを逮捕してくるわ!」
飛び出していくアリアを見送りながら、コルネリエは燃え盛る86へ近付かないよう一般車を誘導する。
すぐに消火班達が駆け付けるも、86は既に修復不能な程に黒焦げと化していた。
命を賭して走った86は、ほんの短い間ではあったが、確かにコルネリエの為に走った。そして、その命は無駄ではなかったとすぐに彼女は知ることとなる。
「コルネリエ! これ、あんたに関係ありそうよ」
「ん?」
アリアが差し出したのは、一台のスマートフォン。画面にはドイツ語の羅列があった。
「……コイツら囮かー。まあ、あたしもこの程度で自分の謎が解けるとは思ってなかったけど」
□
事件解決の後、コルネリエは再び学友との合流を許された。事情を知るアリアが共にキンジ達へ説明してくれたお陰で、意外にもすんなりとコルネリエは元の生活へと戻っていく。
そんな彼女へ、初期設定アドレスから不思議なメールが届いた。
『倉庫街4番倉庫。行ってみなさい。それから、彼らはそう簡単に尻尾を出してはくれないみたいね』
その文面から、コルネリエは比較的容易に送り主の目星をつける事が出来た。
彼女の謎は、まだ解けそうに無い。だが必ず、解ける日が来る。コルネリエはその為に、今日も昼寝と鍛練を欠かさない。
メカ解説
Styer/AUG A1
オーストリアはシュタイアー社の製造するブルパップ式ライフルで、キャリングハンドル兼用のスコープを搭載している。
A1は初期型のモデルであり、ピカティニーレイル等には対応していない。代わりにシンプルで扱いやすく、スマートな外観はA3などの後期型には無い美しさがある。
5.56mmNATO弾を使用し、半透明マガジンによって残弾の確認が容易。
セミ/フルオートの切り替えはトリガーの引き具合によって行い、バレルやマガジンの組み替えによってカービンから分隊支援火器、果てはマークスマンライフルにまで姿を変える万能なシステムウェポンでもある。
Dodge/Challenger SRT Hellcat
アメリカ、ダッヂ社が自社のスポーツカー部門でカスタムし販売するチャレンジャーのハイパワーモデル。
専用チューンのV8ヘミエンジンは700馬力を発生し、最高時速は実に320km/h
今回登場したのは窃盗団による盗品であったが、230馬力程度の86が追跡できたのはヘルキャットがドライバーの手に負えなかったからだと思われる。
マトモな勝負であったなら、コルネリエに勝ち目はなかっただろう。
最後はかなり駆け足になってしまいました。
86を失った彼女の次の車はなんなのか、そして次の任務は?
ご期待ください。
ところでカスタムメイド3D2の体験版にハマりましてね。
コルネリエモデル作ったりしてます。
次回はメイドかも?