第十一弾『次はメイドだ昼寝抜き』
「……これはどういうことなのさ、リューディアさんや」
学園島、例の空き地には黒い改造ポルシェを傍らに控えさせるメイド服姿のリューディアがいる。
深い緑色の、落ち着いた雰囲気を持った一般的な“メイド服”に身を包んでいながら、ボディをファットに改造され、マットブラックの色味が不気味さを放つポルシェ930を従える光景はアンバランスも良いところだろう。
だが、リューディアはともかくコルネリエまでがゴシック風の黒いドレスに着せ変えられているのはどういうことなのか。傍らにはSA22C型サバンナRX-7を従え、やはり異常な雰囲気を周囲に放っている。
「次の任務よ。今回の依頼主、どうも例の組織に資金提供してる一人らしいの。そんな男が、『手が回らないから新しいメイドを四人寄越して欲しい』ってね」
「メイドって……寝れないじゃん。本当なら断るんだけど――」
「断れない――でしょう?」
リューディアから、的確な突っ込みが入る。彼女の言う通り、コルネリエがわざわざ睡眠衝動を抑えてまで任務に当たるのには、依頼主の素性と言う要素があった。
だからこそ、着なれないメイド服でリューディアの集合に応じたのだ。
「……それで、何をすればいいのさ」
コルネリエが問うと、リューディアは片足を上げて両手を丸め、くねりと身体を曲げて『にゃん』と一言。それから彼女は続けた。
「こんな感じで、“ご主人様”を喜ばせれば良いわ。情報は相手の屋敷を見てから、改めて考えましょう――っと、残りの二人もお出ましかしら」
猫のポーズを解いたリューディアと、呆れるコルネリエの間に停まったのはまたまた派手に改造された、白い車体。一見スーパーカーにも間違えそうなその車はホンダNSX。
しかしランボルギーニやフェラーリに並んでいようと、悪い意味でも良い意味でも目立ちそうな改造車から降りてくるのは、やはりメイド服の女性。
血のように紅い瞳でコルネリエへ視線を配らせ、会釈する銀髪の女性。そんな女性の眼を見たコルネリエは、危うく女性に意識を奪われそうになる。
助手席からも一人、背の高い女性が揃った中では唯一アリア並に小さい少女が降りた。唯一、スカートではなくキュロットだがトップスの露出は抑え気味で、バランスは決して悪くないと言える。
「待て。そこの子供、アイラ=ルーズヴェルトじゃないの。いいの? 芸能人だよ?」
少女の姿を見たコルネリエはそう声を上げたが、アイラと呼ばれた少女は小馬鹿にしたようなため息を一つ吐いてコルネリエへ返す。
「あいらーにゃにもオフはあるんだよー。それに、今回はリューディアからのお仕事だし」
「そう。私がお願いしたのよ。スキャンダルにはさせないし、ならないわ」
リューディアが語るに、アイラは芸能人の側面を持ちながらも非公式に武偵の援護も出来るようリューディアが取り計らっているという。
普段は一般人だが、資格を持った武偵の許可を得、監視下にあれば逮捕権を行使し武器を振り回す事も出来るという、特殊な事例なのだとリューディアは語った。
つまり、現在のアイラはリューディアの許可を得て監視下にある、事実上の武偵。今は芸能人ではない、というのがアイラの主張でもあった。
「で、こっちの方は?」
次いでコルネリエが指差したのは、清ました顔で足を綺麗に揃えて立つ美少女。
白い肌に、長い銀髪。紅い瞳はまるで吸い込まれそうになる。女性はゆっくり、滑らかに入り込むように自己紹介を始めた。
「アデライード=クラヴィエと申します。私も、リューディアさんに呼ばれたのです。あ、車は恋人からの借り物なので、あまりスピードは……」
「いや、そこまでは訊いてない……」
訊いてもいない“彼氏持ちアピール”に、コルネリエのストレスゲージが少しばかり上昇する。溜まりきった時に何が起きるかは、考えたくない。
「さて、時間もあまり無いし移動しましょう。コルネリエの車にはアデル、私の車にはアイラで行くわよ」
さっさと告げるだけ告げて車へ乗り込んでしまったリューディアを指差し、アデライードの車は良いのかとコルネリエが問うと、彼女はさらりと恋人が取りに来るから必要はないと返して見せた。
上手い具合ののろけ具合に、コルネリエの胃に若干の負担が掛かる。そんな胃の痛みを抑えて、コルネリエはアデライードと共に車へ乗り込み、リューディアのポルシェの後を追う。
「……」
会話の無い車内。内装を剥がし、路面からのノイズやエンジン音が直接響いても、どこか静けさを感じるサバンナ。
コルネリエが横目にアデライードをちらりと見遣ると、フルバケットシートにすっぽりと収まって、落ち着いた雰囲気で眼を瞑るアデライードが居る。
コルネリエの自慢ではないが、サバンナの車内は相当に煩いし、サスペンションも硬く、小さな段差で舌を噛みそうな程に車は跳ねる。そんな中で良くも瞑想めいた雰囲気を作れる物だ、と感心するしかコルネリエには無い。
「私が気になりますか?」
ゆっくりと開かれるアデライードの眼。猫のように細い瞳孔、血のように紅い瞳はやはり気になる。コルネリエに嘘は吐けなかった。
「気になるね。しばらく一緒なんだし、素性は知っておきたいから」
後半は単なる上辺だ。本当は単なる知的探究心でしかない。
「そうですね。じゃあ、今からお話する事を他言しない、妙な茶々を入れないと誓えるならお話しますよ」
「よーするに、話してやるから他言無用邪魔すんなってことか。いいよ、武偵として誓う」
こん、とサバンナのギアを入れながらコルネリエは答えた。まだリューディアが駆る『RWB』と描かれた巨大なウィングを持つポルシェは視界内に居る。焦るほどでもなく、ゆっくりと走る車の中でアデライードはすぅ、と小さく息を吸うと、数瞬待ってから口を開く。
「私、吸血鬼なんですよ。ハーフですが。所謂『デイ・ウォーカー』ってヤツです。昔は同族殺しの教団で吸血鬼狩りをしていたこともあります」
アデライードはそう語ると、首から下げたシルバーのロザリオを握り締める。
「今は、幸せに暮らすただの武偵お手伝いなんですけどね。私は人間ではありません――貴女も、そうなのではないですか?」
「さぁね。自分でも良く判んないや」
「――そうですか。ですが、いつかは必ず理解しなければならない。その時に力に溺れる事だけは、しないでくださいね。……そろそろ着くみたいですよ」
気付けば都内もかなり高級住宅の立ち並ぶエリアへやってきていた。
派手な車で乗り付けるには些か抵抗があるかと思いきや、リューディアもコルネリエも堂々と騒音を上げながら狭い道を抜けていく。
それからリューディアが入っていったのは、ゲートが開いた豪邸。まるで映画の黒幕が住んでいるかのように、綺麗で整った屋敷。ぐるりと一周するように出来た通路を車で回り、二台は揃って停車する。
「次はここで仕事か。何か手懸かりが掴めれば良いけど」
「掴めますよ。自分の心を、拒絶しなければ」
車から降りたコルネリエとアデライード。同じくして、リューディアとアイラも降りる。
四人は並んで大理石の階段を数段上がると、豪勢な音色のインターホンを鳴らした。
新たな手懸かりが、ここにあるかもしれない。コルネリエの心に、少しのやる気が灯る。
メカ解説
Porsche/911 RS 3.0(Build by RAUH-Welt Begriff)
ドイツの有名な自動車メーカー、ポルシェが世に産み出した傑作『911』の中でもレース仕様向けのスパルタンな仕様。
車自体は古く、1974年製の『930』と呼ばれるタイプ。そこへ有名なカービルダーのパーツを取り入れる事で、マットブラックにファットな車体、不気味な印象を持たせる攻撃的なリアウィングを装着したカスタムマシンとなっている。
出力自体は360馬力と、ほぼエンジンに手は加わっていない。
Mazda/SAVANNA RX-7(SA22C)
【挿絵表示】
コルネリエに新しく用意された車両。用意した人物は名乗り出ていないが、コルネリエはおおよその見当をつけているようだ。
レース仕様のエアロ、サイドから飛び出したマフラー――あらゆる部分で型破りなパーツで揃えられたこの車に、必要の無いパーツは備わっていない。
バランス良くチューニングされたこの車を上手く操れば、その辺りのFD3Sすら軽く抜き去ってしまうだろう。
【挿絵表示】
Honda/NSX(Tuned by esprit)
NA2型と呼ばれる、ホンダNSXのフルモデルチェンジ型。
ノーマルでもスーパーカー然とし、速いが、そこに更に派手なエアロパーツやパワーチューン等を行い、600馬力を超えるモンスターマシンとなった。
一般人では持て余すほどのパワーだが、アデライードは特に気にせず走ったようだ。尚、彼女の車ではなく、彼女の恋人が所有する車であるらしい。
おまけ
キャラクターイメージ参考画像
コルネリエ メイドver
【挿絵表示】
リューディア メイドver
【挿絵表示】
アイラ メイドver
【挿絵表示】
アデライード メイドver
【挿絵表示】
[SAVANNA RX-7 Using by STuner.net]
[キャラクターメイドイメージ:カスタムメイド3D2 Edit体験版]