緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第十五弾『思い出は眠りの中へ』

 深夜の青梅ふ頭

 海風がコルネリエの肌を撫で、優しく抜けていった。

 

「……」

 

 風の音と共に、コルネリエの首筋へ硬い何かが当たる。円筒形の形状と判断した彼女は、それがサプレッサーであると理解する。

 現れたのはリューディア。サプレッサーを取り付けたUSPエリートを手に、コルネリエのうなじへ銃口を押し付けている。体勢を立て直したコルネリエは、既に武偵高の防弾制服に身を包んでしまった。だが、無防備に晒された首を撃ち抜けば彼女は苦しみ、やがて絶命するだろう。

 そんなことなど分かっていた、と言いたげな空気を纏わせながら、コルネリエはリューディアへ問う。

 

「あんた達の目的……なんだったの? あたしは、何のために頭の中まで見られて――薬漬けにされたの? あたしだけじゃない。他の子供達にも、同じことしたんでしょ」

 

 振り返りもせず、銃を突き付けられるままのコルネリエの語調は、少しだけ淋しそうだった。

 死んだ仲間もいる。廃人になった仲間もいる。その中で自分だけが生き残った――彼女達がされたことに何の意味があるのか。それを解き明かすことで、コルネリエは自らと同じ苦しみを味わって力尽きた子供達への弔いとするつもりだった。

 幸い、向こうは勝った気でいる。口は簡単に割るだろう。

 

「ドイツでは、超偵――いえ、人間を遥かに越えた人間を造る実験をしていたの。勿論、机上の空論だった。けれどね、人間っていうのは一度野望を持つと恐ろしいまでに一直線になるの」

 

 リューディアは語りながら、拳銃の撃鉄を引き起こす。話し終えた段階で、容赦なくトリガーを引くという意志の表れだろう。

 

「結果、造り出されたのは強力な筋力増強剤。それから脳の『リミッター解除』よ。ヒステリア・サヴァン・シンドロームという症例がある。一般に知られる『サヴァン症候群』とは少し違うわ。とある血筋にのみ伝わる、特定条件下で身体能力を上昇させる能力の事。私達は、それを再現しようとしたの」

 

 銃口を押し付け直し、リューディアは語り終えた。

 

「結果数百人の子供達を犠牲にして、出来たのは――あたしか」

「そういうこと。貴女から呼び出しがあるなんて思わなかったけれど、そうしたからには覚悟はあるんでしょうね」

 

 リューディアがコルネリエを見つけたのには理由がある。至極簡単な理由が。

 武偵高で、コルネリエの行動がリューディア側へ漏れるようにわざと仕組んだのだ。ある一種の、挑戦状でもある。

 だが相手もバカではなかった。コルネリエが視線を辺りへ配らせると、コンテナの上やクレーンの上、ふ頭にある事務所の屋根でスナイパーライフルのスコープが煌めくのが見えた。

 

「貴女の仲間が入る余地はないわ。残念だけど――」

 

 勝利を確信し、笑みを浮かべようとしたリューディア。しかし、それを遮ってコルネリエが高笑いを上げる。

 

「あっはははは! いやいやいや、あたしはさ。あんたらに化け物にされたけど――それでも、受け入れてくれた仲間がいる。知ってる? 武偵ってのは、この世で一番命知らずでアクロバティックで――」

 

 上体をずらし、銃口から外れたコルネリエは手元でアデルから受け取った双頭鎌を一瞬にして組み立て、言葉を更に紡いだ。

 

「――腕の立つ奴等だよ」

 

 突如遠方から響くヘリのローター音。一機や二機ではない。

 三機――いや、四機がふ頭の空を四方から囲い込んでいた。

 

「なッ!? いつの間に――」

「隙アリィッ!」

 

 鎌を振りかぶり、リューディアのUSPをカステラのように切り捨てたコルネリエ。流れるようにリューディアを蹴り飛ばして距離を取り、鎌をブーメランのように投げ飛ばす。

 

「きゃっ!? ――クッソ! なにやってるッ! 武偵共を始末しろ!」

 

 鎌の鋭い刃が腕を掠め、血を滲ませるリューディアは仲間のスナイパー達へ指示を出す。

 しかし、それは四機のヘリからそれぞれ響いた銃声に無力化された。

 

「……」

 

 煙を上げるドラグノフを構える寡黙なスナイパー、レキはクレーンのスナイパーを。

 

「全く、メチャクチャだよ。マネージャーに話して、スケジュール組み直さなきゃなぁ」

 

 レミントンM700のボルトハンドルを引き、空薬莢を飛ばしながら呟くアイラは事務所上のスナイパーを。

 そしてコンテナ側にキャンプしていたスナイパーは狙撃科の腕利き達が無力化していく。

 

「形勢逆転だろー? これは、さ」

 

 戻ってきた鎌を右手でキャッチし、リューディアへ勝利を宣言するコルネリエだったが、まだリューディアは笑っていた。

 

「クッハハハ! この程度、想定の範囲内だッ! 狙撃手はまだ居る。カウンタースナイプなど想定の内よ? まだ、勝負は決まってないッ!」

「蛇みたいな女だねぇあんた。食い付いたら絶対に離さないって? ――誰か忘れてない? リューディア」

 

 コルネリエが語ると、リューディアの顔色が明らかに焦りへと変わる。必死に取り繕っていたが、それでもハッキリと解るほどに彼女は焦っている。

 

 

 コルネリエ達が話をするふ頭の、海を挟んだちょうど反対側にある、国際コンテナターミナル。

 そこに、白い透き通るような髪を靡かせる少女――アデライードが巨大なスナイパーライフルを構えていた。

 シュタイアーIWS2000と呼ばれた試作品のライフルには、レシーバーに『Dabiturque a permanent peace(永久の安らぎを与えよう)』と刻まれ、法化銀被膜処理を施した長大な銃身が煌めく。

 

「Habes Pater Pearl flumen ducit misere amicam. Bacca ductu flumen sive via lucis ut veniret」

 

 小さく十字を切ったアデライードは、リューディアの脚部を狙いトリガーへ指を掛ける。

 

 

 同じ頃、高く飛行していた五機目の武偵高ヘリから空挺降下する一人の女性の姿があった。右手には明らかに嵩張るPSG-1スナイパーライフルを握り、降下したまま上空から敵スナイパーの位置を確認。

 風による激しい揺れの間を読み、トリガーを絞る。銃弾は吸い込まれるようにスナイパーの腕を真上から撃ち抜いて、見事無力化に成功した。

 

「いい加減返してもらうわよ。私のアヴェイル姓は、貴女みたいな人間が名乗っていいものじゃないのよ」

 

 ブロンドの長い髪を靡かせて、スレンダーな女性は遠くに見えるリューディアを睨み付けて呟く。

 彼女こそ、真のRランク『ミーツェ=アヴェイル』だ。リューディアに不意を突かれたのは完全に失態だったが、今はそれを取り返さんばかりの働きっぷりを見せていた。

 

 そして刹那、コルネリエ達の話す海の向こうから雷鳴のような銃声が響いた。

 15.2mmという超巨大な離脱装弾筒付翼安定式徹甲(APFSDS)弾は瞬きひとつする間にリューディアの足下を抉り、そこへすかさずコルネリエが滑り込む。

 

「これで終わりッ!」

 

 リューディアの脇腹から背中を囲うように、双頭鎌の刃が構えられた。コルネリエが鎌を引けば、リューディアの胴体はたちまち真っ二つになるだろう。

 更に、海の向こうからは対戦車ライフルがリューディアを狙っている。援護はもう無く、武器もない。彼女の完全なる敗北であった。これ以上の抵抗は、文字通り無意味。

 リューディアには、投降以外の選択肢は無かった。

 

 

 事件から一週間半。リューディアは逮捕されたが、事件については黙秘を続けている。

 いや、正確には『話しても信じる者が居ない』というのが事実だろう。結局、彼女には殺人未遂や身分詐称など、とにかくありったけの罪状を押し付けて送検する以外に無かった。

 

 一方で、コルネリエとアデライード、アイラは任務以来会っていない。恐らくは一期一会――一度きりの共闘だったのだろう。

 コルネリエの手に握られた双頭鎌だけが、あの戦いを思い出させる。だが、今はそれ以上に大変だった。

 

「ねりねりのメイド姿みたいよー! ねぇねぇ、理子に見せてよー!」

「……眠いんだけど」

 

 コルネリエのメイド姿に反応した理子に、詰め寄られて昼寝する暇すらない。

 彼女は化物かもしれない。だが、彼女を『人間』と見てくれる者が居る限り、コルネリエはそれに応え続けようと誓った。

 そんな良い話で終わりそうだったのだが。

 

「メイド喫茶のバイト任務とかどう!? ここの制服スッゴい可愛いんだよ!」

「頼むから……死ぬほど寝かせてぇぇ!」

 

 詰め寄る理子に耐えかね、コルネリエは昼休みの屋上で叫んだ。

 コルネリエの謎はまだ整理されていないが、それはこの先戦っていく事で整理されていくのだろう。

 アリア達、武偵高の仲間達と共に……。




メカ解説

Remington/ Model 700

 アメリカはレミントン社が古くから製造する、歴史の長い狩猟用ボルトアクション小銃。
 シンプルで剛健な造りは狩猟に留まらず、スポーツライフル、果てはアメリカ軍制式採用など、輝かしい経歴を持つベストセラーライフル。
 アイラは.30-06スプリングフィールド弾モデルを使用。内蔵式のマガジンには4発の弾薬を収める。


H&K/ PSG-1

 ドイツ政府の依頼により『セミオート、且つボルトアクションと同等の命中精度を持つ狙撃銃』の開発計画によって産まれた、世界最高水準の精度を誇るセミオート狙撃銃。
 同様の依頼を受けた会社にはワルサー社があり、こちらは『WA2000』を開発した。
 命中精度は素晴らしいが、重量が約7kgと重く、更に価格も一挺あたりおおよそ70万円と破格な為、採用する部隊は少ない。
 7.62mmNATO弾を使用し、マガジンは5発のショートか20連発のNATO標準が選択可能である。


Steyr/IWS2000

 オーストリア製対物狙撃銃。
 15.2mmという大口径弾は戦車のAPFSDS弾と同じ構造を持ち、ライフリングを持たない滑控砲である。その為、厳密には『ライフル』ではない。
 あまりの懲りように試作型が作られたのみで製造には至らなかった。
 15.2mmAPFSDS弾を使用、交換式マガジンには5発のAPFSDS弾を収める。
 アデライードの物は『教団』時代のもので、バレルが法化銀被膜処理され、レシーバーにはラテン語の刻印が刻まれている。


おまけ

キャラクターイメージ

コルネリエ=フェルトマイアー(右目隠しver.)

【挿絵表示】


ミーツェ=アヴェイル(チャイナコスver.)

【挿絵表示】


アデライード=クラヴィエ(ブレザー制服ver.)

【挿絵表示】


[カスタムメイド3D2を使用した、あくまでもキャラクターのイメージです]
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