緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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眠り縛りタイトルは流石に辛くなってきました


第十八弾『旧き友、旧き記憶』

「フェルトマイアー、USBメモリの暗号解除が終わったらしい。ラップトップで開けるようにしている。この事実が本当なら――」

 

 キンジ達を呼んだ日、その数時間前。

 銀髪で、何処と無く凛々しい風貌の少女がコルネリエの病室を訪ねた。

 

「おーサンキュー、ジャンヌ。この話はあんまり突っ込まない方が良いよ」

 

 USBデバイスのフォルダから次々と画像や文書の数々を呼び出しながら、コルネリエはジャンヌと呼んだ少女へ告げる。

 

「……そうだな。だが、私も遠山に付いている。無論、お前も友人だ。――また後で、話を訊きに来るとしよう」

「それがいいよ。覚悟だけは決めてきて」

 

 ジャンヌが病室を去って、すぐにコルネリエは文書や画像に目を通し始める。被害に遇った子供たちの名簿、その内の成功例、計画の中身。

 成功例はコルネリエが研究所員を全員殺してしまった故か、一人も記されていない。つまり、コルネリエだけが『死亡』という二文字を逃れている事実だけがそこにあった。

 そして、リータが語った『レーナ』という人物。その名をコルネリエはあらゆる文書ファイルを引っ張り出して捜す。

 数時間して、彼女は辿り着いた。画面を閉じ、約束の時間まで十分も無くなった頃、コルネリエは夕陽を見つめながら呟いた。

 

「……なるほど。そういうことか」

 

 

 病室の扉が控えめな音を立てて開く。

 ぞろぞろと病室に入り込んできたのは、キンジを筆頭にした仲間達。アリアに理子、白雪とレキ、更に先程のジャンヌ、キンジの妹である遠山かなめや、事件に巻き込まれる形となった桃子もその例外ではなかった。

 

「呼んできたわ。話してくれるのよね? 全てを」

「そうだねー。まずは大まかな話からしようか」

 

 ラップトップを用意し、語るコルネリエは手慣れた手付きでUSB内のファイルを開いていきながら全員へ、真っ直ぐに嘘偽りなく告げた。

 

「私は所謂普通の人間とは少し違う。そりゃ、アデライードみたいな大層な物じゃないけど――違うんだよね」

「それって、自分は特別だってことか?」

 

 キンジの問いには、コルネリエはかぶりを振った。

 自分は決して特別なんかではない、と。

 

「あたしが特別なら、キンジ達はV.I.P.だよ。あたしにされたことは決して楽な物じゃないんだから」

 

 たん、とエンターキーを押してからコルネリエはテーブルに置かれたラップトップを回してキンジ達へ画面を向ける。

 そこに表示されるのは目を塞ぎたくなるような凄惨な手術現場の画像データや術後、コルネリエが監禁されていた『監獄』の光景、言葉を失ってしまう程に非人道的実験を冷酷に書き記したメモデータだ。

 

「なんだよコレ……」

「開頭術後に薬剤過剰投与……まさか、こんなことをされてたの? コルネリエさん」

「まあね。だから、耐えきれない子供達から死んでいった。あたしの知らないところで、『監獄』で、手術に耐えられない子も居たし耐えても薬で廃人になった。逃げようとした子は容赦無く背中をライフルで撃たれたよ」

 

 白雪の問いに、コルネリエはハッキリと答える。迷い無く、自身のトラウマと向き合いながら。

 

「何故このような事が、平然と罷り通ったんだ? 警察や武偵は何を?」

 

 ジャンヌは自身の制服に縫い付けられた左袖の東京武偵校校章を握りしめて、憤りを見せる。

 

「まあ、それは色々とあったんだと思う。あたしは知らなかったからさ。ただ一つ言えるのは、あたしも――そして、今回公表されたリータも同じ。『人工的に最強の人間を造り出す』……そんなプロジェクトの生き残りなんだってこと」

「ちょっと待って。アンタ、さっきは『自分以外皆死んだ』みたいに話したけど、今回の敵はどう説明を付けるのよ?」

 

 アリアが寄り掛かっていた壁から離れ、ベッドに手をついてコルネリエへ詰め寄った。

 軽く上半身を反らしながら、コルネリエはアリアへ返す。

 

「どうも、ドイツであたしが研究所を潰してからロシアに移って再開されてたみたいなんだよね。リータはフィンランドの生まれみたいだけど」

「場所は……ウクライナか。すぐにはどうしようもないな」

 

 ラップトップからデータをたまたま引っ張り出したらしいキンジが溜め息交じりに話す。

 しかし、まだまだ話は終わっていない。コルネリエへの質問は矢継ぎ早に行われた。次は事情を知る、桃子からだった。

 

「『レーナ』については何か分かったのかしら。知らないんでしょう? 貴女は」

 

 キセルを取り出そうとしてかなめに止められながら、桃子はコルネリエへそう問うた。

 一方、コルネリエはラップトップを取り返して別なファイルを読み込み、開く。ウィンドウが開くのを確認した彼女は、再び画面を皆の方へ向ける。

 画面に映し出されていたのは、心優しげな印象が滲み出る柔和な美少女。しかし、画像データには容赦の欠片も無く『Während des Versuchs, den Tod.(実験中、死亡) Es ist die Ablehnung durch Überdosen der Medizin gesehen.(薬剤過剰投与による拒否反応と見られる)』と記されている。

 

「レーナ=パーシヴォリ。リータの姉で、彼女がまだ六歳位の時にレーナは連れ去られた。そうしてあたしと同じように手術を受け、薬に耐えきれず死んだ」

 

 全員が押し黙っても、コルネリエは話を続けた。皆は覚悟してきた筈と、そう信じて。

 

「リータは新しい方の研究所へ連れ去られた。勿論、姉が死んだなんて知らない。周りは異常な空間で、精神的にも極限状態。リータも死ぬ筈だった。それを救ったのは、レーナの“幻”だったんじゃないか。リータを、そこに居ない筈のレーナが導いた。励ました。そうして彼女は実験を乗り越えた。――リータは恐らく、未だに死んだ姉の幻影と一緒に居る」

 

 コルネリエの言葉にかなめを除いた全員が戦慄する。『幼い少女に、そこまで出来る人間が居るのか』と。そして、その実験の過酷さをまざまざと知らされる。

 唯一、話に理解を示したのはコルネリエの話を自分の事のように感じていたかなめだった。彼女はアメリカ、ロスアラモスの作り出した『人工天才(ジニオン)』だ。かなめに施された超人的能力は、コルネリエが施された手術に似ていたのだろう。

 とはいえ、不完全なまま実験台にされたコルネリエ達と、最先端技術の中で造られたかなめ達『人工天才』とでは苦痛の度合いは段違いとも言える。

 そんなかなめから、コルネリエへ一つの問いが投げ掛けられた。

 

「じゃあ、このリータってヤツはなんで先輩を殺しに来てるの? あたしはそれだけがどうも引っ掛かるんだけど……」

「多分、新研究所からの抹殺使令。でもリータにそんな気はないだろうね。適当に暴れて、適当にソレっぽいヤツを締め上げようとしたら、たまたまビンゴだった――それくらいだと思うけど、彼女は破壊衝動に呑まれてる。あたしが『戦えそうなヤツ』と認識したなら、またヤツは来る」

 

 ラップトップを閉じ、コルネリエは脇腹を押さえながらベッドを降りた。

 慌てて寝かせようと白雪が動いたが、コルネリエは『大丈夫』と一言告げて、カーテンの外へ仲間を追いやる。

 少しの時間と衣擦れの音。それが無くなり、勢い良く開いたカーテンの先には制服に着替えたコルネリエが居た。無論、黒いサラシも巻いて。

 

「今回の敵は、あたしより間違いなく強い。作戦を練る前に、もう一人仲間に声掛けてみるよ。もしリータと戦う覚悟があるなら、今日の夜、あたしの部屋へ来て。それじゃね」

 

 病室を去っていくコルネリエの背中を見送ってから、残されたキンジ達は全員顔を見合わせ一度だけ強く、強く頷いた。

 

 

「あれ、手が早いね柑那(かんな)。あたしから出向こうとしてたのに」

 

 病院のロビーに出たコルネリエは、そこに一人本を読む、ミリタリージャケットを武偵高制服の上に羽織った寡黙な雰囲気を醸す少女。

 

「それを言うなら、『気が早い』だ。――大ケガしたと聞いたからな。一応見舞いに来てはみたが、入れる雰囲気じゃなかった」

「あー、ごめんごめん」

 

 柑那と呼ばれた少女は片手で読んでいた本をぱん、と閉じるとコルネリエへ顔を向ける。

 

「どうせ面倒事だろ。私もサポートする」

「いや、流石に柑那を巻き込む――」

 

 巻き込むわけにはいかない、とコルネリエが口に出そうとした刹那、柑那は無表情のまま閉じた本でコルネリエの腹部を突いた。

 

「うぉう!? ちょ、それが『大ケガした』人間への態度か!」

「良いから手伝わせろ。私の考えが変わらない内に手伝わせろ。どうせまたゴチャゴチャ武器を持って歩いてるんだろう」

 

 うぐ、と図星を突かれたコルネリエが締め上げられたような声を上げる。

 まさに柑那の言う通り、今のコルネリエは過積載も良いところだった。武器を使いきれない程に持ち、更に戦闘距離は近距離向き。嵩張るものも多い。

 柑那のフルネームは『篠崎柑那』といい、装備科に属するガンスミスである。同科の平賀文が無茶な改造に応じる代わりに、いい加減で高額という評判の真逆を彼女は行く。無茶な改造には天高く金を積まれても手を出さず、堅実で確実に動作するカスタムを得意とし、本人が比較的古式な銃を好むという事から、旧い銃への修理対応等にも応じやすい。

 そんな彼女の性格は、コルネリエへ説教染みた講義を繰り返す程には堅い。故に柑那はコルネリエを手伝う、と頑なになっていた。

 

「どうあっても来る? 今回はかなりヤバイ案件だけど」

「くどい。戦力にはならなくても、お前達に武器を提供するくらいは軽い。それからコルネリエ、お前には武器を減らす方向に教育しなおすか」

「うひぃ……友達が厳しい……」

 

 コルネリエがキンジ達へ語ったもう一人の仲間は、柑那。だが、せいぜい作戦用に武器のカスタムを依頼する程度だった。

 強襲科で問題が起き、柑那が転科するまではコルネリエとも友好的だった古い友人を危険にだけは巻き込むまいとしていたが、柑那にとってその心配は無用だったのかもしれない。

 

「……うん。まあ、それなら判った。そうしたら今日夜、あたしの部屋に。一旦作戦練るから」

「仲間はどれくらい居る?」

「正直、今回は来ないでくれた方が気が楽かな……」

「お前のそれは優しさの裏返しだな。――夜まで待つか。幾つか武器を用意していくから、家で待ってろ」

 

 柑那のその言葉を最後に、二人はそれぞれ病院を出て別れた。

 コルネリエが指定したおおよそ時間まではそれほど余裕がない。寮への道を歩きながら、コルネリエは『もう一人の成功例』へ思いを馳せる。

 潮風吹く学園島、刻一刻と夜は近付いていた。




Special Thanks
ハインケル様(キャラクター:篠崎柑那)

9/8
少女の件を削除し、次話への繋がりを変更するよう改編致しました。
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