第一弾『昼寝を取るか昼食を摂るか』
武偵を育てる為の学校と言っても、午前中は一般的な教育を受ける。武偵の仕事を学び、依頼を引き受けるのは夕方で大体五時限目以降とされている。
それまでは彼等も普通の学生だ。
「おいフェルトマイアー! 聞いとるのか!」
午前中の学校ならば、コルネリエは確実に授業中だろうと眠っている。一般教科の数学教師にプロ野球選手顔負けのフォームとスピード、コントロールでチョークを投げ付けられても、頭頂部の癖っ毛を揺らしつつ黒く艶のある髪の毛に白いチョークの粉が付着するだけで、本人はぴくりともしない。
「ねりねりまた寝てるねー」
金髪のツーサイドアップに、フリルだらけの改造制服の少女はさぞ良い夢を見ているのだろう、にやにやと笑みを浮かべながら机に頭を預けるコルネリエを見ては笑う。
「言うな、理子……」
後ろ列の男子生徒は次々にチョークを投げつけられるコルネリエを遠い目で見つめながら、金髪の少女――峰理子へと漏らした。
べしべしとコルネリエの頭で
もちろん、その中の数回はコルネリエも参加していて、彼女の在籍する2年A組にいるキンジ達とコルネリエの交流はそれなりに深い。
それでも、コルネリエは睡眠を優先するようだが。一度は怒り狂った
そんな事件以降、コルネリエの昼寝は誰にも起こせないと言われていたりもする。
「ん――んぅ!」
盛大な背伸びと共にコルネリエが起きるのは終業チャイムとほぼ同時。
昼食前であれば更に早く、今がまさに昼休み――つまり昼食の時間である。
授業終了と共に駆け出したコルネリエ。目指すは購買。だが、ひとつ障害が立ち塞がった。
バイブレーションし始めるスマートフォン。勿論、彼女のものだ。
「……」
着信画面には『りこりん』と、本人が全く望まない名で登録された番号が表示されている。
足を止め、十秒待つが振動は止まない。コルネリエは結局それを放置したまま、購買へと向かう。
誰にも邪魔される事無く昼寝が出来るこの時間、コルネリエはわざわざ食堂でワイワイ食事をとるような事はしない。適当にパンを買って、屋上で食べて始業チャイムまで寝るだけである。
今日もそうなる筈だったのだが、廊下の曲がり角を曲がった瞬間彼女の身体は何かに拘束される。
「ねりねりつっかまえたー! 理子からの電話出ないなんて酷いよー?」
「いや、寝たかったんだけど……」
コルネリエを抱き抱えて止めたのは、理子。小さな体躯にグラマラスな体型の彼女を見ると、抱き抱えたというよりは160cm程度のコルネリエを“受け止めた”という方が正しいのかもしれない。
そんなコルネリエを逃がすまいと、ぎゅう、と抱き留める力を強めながら理子は言う。
「ねりねりーたまには一緒にご飯食べようよ~。友達付き合い、これ大事!」
「いやあたしも分かってんだけどさぁ。流石に一日十回電話来れば普通は呆れるよね」
「理子、あんた――そんなストーカーみたいなことしてたの?」
さらりと自然に会話へ交じってきた、一見小学生のような背丈に長いピンクのツインテール、少し舌足らずできんきんと高めな声の少女はあきれた様に肩を竦めた。
――神崎・H・アリア。それが、この一見小学生な少女の名前であり、東京武偵高の中でも最強の一角に数えられる強襲科の生徒である。
「アリア~? ねりねりはなかなか話聞いてくれないんだよぉ? だったら、物量押しするしか無いよね!」
「いやだからそれが迷惑だって言いたいんだけど……」
「今ならプレゼントもあるよ? どうする? 来るかな? かな?」
理子は嫌らしく笑って見せると、何かのジュラルミンケースをちらつかせはじめる。
サイズは然程大きくない。拳銃が一挺収まるサイズ、といったところか。
コルネリエが中身を訊ねると、理子は昼食と引き換えに渡すと語る。いくら寝ることが好きとはいえ、『貰えるものは必ず貰え』が信条な彼女としてはどんな物でも貰っておきたい所だ。
(要らなかったら売ればいいし、後輩辺りに)
貰っておいて要らなければ売る――そんな下衆な考えをしつつ、コルネリエは仕方なく昼寝を諦め理子達に連行されていく。
向かう先は無論、食堂。昼食時でワイワイガヤガヤと騒がしいこの場所は、コルネリエにとってはパチンコ屋の騒音の中に放り込まれるのと変わらない。
ますますげんなりしていくコルネリエ。席に着く頃には、キンジとその幼馴染みである巫女、星伽白雪に脇を抱えられて引き摺られるような状態であった。
「ほい、ねりねり! 餡掛け焼きそば!」
ことり、と丸テーブルに置かれた更には一般人であれば食欲をくすぐられるその匂いはすぐにコルネリエの鼻孔へ届く。
大きな窓張りの造りをした、少しオシャレなレストラン風と言った体の食堂故、そこから射し込む陽射しが焼きそばに掛けられた餡をてらてらと輝かせ、その旨みはより増したように見える。
だがしかし、コルネリエはたったの一言でそれらの要素を否定した。
「重ッ……」
普段からパン食メインで、しかも許されない行為とはいえ彼女は居眠りからの寝起き。
寝起きに、それ相応の中華料理と来てはコルネリエの胃には少し重い。
「胃もたれしないように、胃薬飲んでおく?」
白雪の心配も他所に、コルネリエは今にも溶け出してしまいそうな程にぐったりとしている。
流石に見かねた理子はコルネリエの横に取っていた自身の椅子を引き、料理が並んだテーブルではなく、椅子の上にジュラルミンケースを置く。
ごん、と音がして僅かに反応を示すコルネリエ。二つのロックが外され、開けられたケースの中には一挺の競技用カスタム銃が納められていた。
シルバースライドにブラックフレームという、デュアルトーンスタイルに仕上げられた派手な見た目には、更にコンペンセイターやダットサイトマウント、ダットサイトが既に搭載されている。
内容はそんなド派手豪華絢爛に尽きる本体、クリーニングロッド、そしてマガジン。大体、購入したそのままのセットと言った所だろう。
「おおぅ……眼が冴えてきた。やる気出てきたよ、あたし!」
「それは、タンフォリオのゴールドカスタムエクストリーム。結構お高いチューンが入ってるそうで、
拳銃を受け取り、コッキングレバーでスライドをがしがしと引くコルネリエ。重すぎず、軽すぎない、程好い感触とオリジナルで交換されたハンマーの落ちる音、ダットサイトの狙いやすさに彼女の目は、本人の言う通りすっかり冴えていた。
「いいねぇ。これはやれそうだねぇ……」
「でしょでしょー? お昼に付き合うだけで、更にもう一挺!」
理子は更に、小型の拳銃一挺を開けられたケースの上に置いて見せた。
印象としては小さくイビツなコルトガバメントだろうか。コルネリエも案の定同じ印象を抱いたようだ。
「何これ。ちと安っぽくない?」
「うん。安かったよ。トレホモデロ1っていうんだって。フルオート可能な、世界最小のマシンピストルなんだとか……違うとか?」
「どっちなのよ……」
アリアの突っ込みも入りながら、すっかり武器取引の現場と化した食堂。
トレホも一先ず引き取ったコルネリエは、大事そうにゴールドカスタムの入ったジュラルミンケースを膝の上へ置いて、先程までは欠片ほども見せなかった食欲で餡掛け焼きそばを平らげて見せた。
この後は履修だ。車の性能は羽田から台場まで、湾岸線を上ってくる段階で確かめていたコルネリエ。ジュラルミンケースからゴールドカスタムを取り出し、9mmパラベラム+P強化弾を装填したマガジンをするりとグリップ内へと滑り込ませた彼女は一路、アリアも所属し自身も兼科する強襲科へと向かう。
メカ解説
Tangfolio/Gold Custom Xtreme
イタリア、タンフォリオ社が送り出すCZ75クローンのカスタムモデルで、『Xtreme Line』と呼ばれる競技用カスタムの部門でチューンされ、IPSC等のシューティングコンペティションで使用されている。
シューティングマッチである為、フレームマウントのダットサイトマウントベースやコンペンセイター、拡げられたマガジン挿入口等、豪華なカスタマイズが施される。
また、コルネリエにプレゼントされた物は装備科でオリジナルにカスタマイズされたようで、改良型ハンマーや強化部品をより実戦に向くよう使用しているらしい。
使用弾薬も9mmパラベラムと一般的だが、コルネリエは小型スチールを内包して弾頭重量を増し、炸薬量を増やした強化弾を使用している。
Trejo/Modelo 1
メキシコで産まれた小型のマシンピストルで、『世界最小のマシンピストル』と称された銃。
形状は少し形をいびつにした小型のコルトガバメントで、全長は約160mm、操作系統も然程変わらないが、銃本体右面に射撃切り替えレバーを持つ。
.22LR弾を使用するが、マガジン容量が八発と心許ない為、現代に通用するとは考えがたいのだが、そもそも小型のマシンピストルは目眩ましや、不意討ち専用にすら近い扱いで『当たればラッキー』位にしか考えられないので、それでも良いのだろう。
小型で場所もあまり取らないので、隠し持っておけば、充分に役立つこともある銃だと思われる。