青海ふ頭、倉庫。コルネリエがミーツェから指定されたのは、八番倉庫。
大きなシャッターを開き、中に入ったコルネリエ達は綺麗に列べられた高級車達に感嘆の声を漏らした。
一度は見たことがあるような有名なスーパーカー、誰もが羨む超高級セダンから果ては巨大な軽装甲車輌まで。
中身を知っていたコルネリエでさえもこんなふ頭の一区画に過ぎない単なる倉庫が、広い敷地に端から端まで車が並んだ空間であるとは知らなかった。
しかし、どの車を使うべきかの指示はミーツェから入っていた。倉庫を歩き回り、区画ごとに分かれた車の列を次々指差してコルネリエは皆へ伝える。
「そこは強化フレーム防弾ガラス。皆はそれに乗って。キーはサンバイザーの中、ドアロックは掛かってないから」
「待て待て! これ、仮に壊したらどうなるんだよ……? ヴァンキッシュなんて、俺には弁償できないぞ」
威風堂々と鎮座する高級車達に怖じ気付くキンジだが、コルネリエはそれを軽く受けて流した。
「壊すつもりじゃないなら、壊れないって。第一、陽動にしか使わない。理子はどこだー」
すぐに広い倉庫内に居る理子を捜し、移動してしまった。
「これ、一人一台のつもりじゃないわね。いいわ、キンジはあたしの隣に乗りなさい」
「む! アリア、また抜け駆けする気だね。させないんだから!」
「おいおいおい!」
案の定と言うべきか言わざるべきか、アリアが運転しキンジを助手席に乗せようとすると白雪が反応する。
彼女の戦闘装束とも言える巫女服から、白雪の愛刀『イロカネアヤメ』にまで手を掛けて犬のようにアリアを威嚇する白雪。
しかしそんなことをしている場合ではないのは誰もが分かっている。白雪も、思わず身体が反応しただけだ。抜き掛けていたイロカネアヤメを鞘に納め、彼女はアリアへ放った。
「今回は預けます。次はないからね」
それだけを言い残した白雪は、車を探して走り去る。
「全く……なんだって毎回こうなんだ? 少しは仲良く――」
「アンタは黙って車に乗りなさいよ! バカキンジ!」
薄く頬を染めてガバメントを振り回しながらキンジを車中へ収めるアリア。“今の”キンジにその理由は判る筈もなく、だが小さく高鳴る鼓動に彼は戸惑うしかなかった。
「私はこれで良いかしら。前期の365GTB……良い赤だわ」
丸さのあるクラシックカーに乗り込んだ桃子は、車内にあるキーを捜して他のメンバーを待つ。
クライスラーに乗ったアリア達も準備完了だ。
「ふむ。皆も決まったか……ならば、やはり私はフランス製で行こう」
ジャンヌはフランス人らしく、目前のプジョー406に乗り込む。溢れた白雪はそんなジャンヌを見つけ、助手席の窓をノックした。
「ジャンヌ、私も良いかな? 見た感じ、皆最低二人一組みたいなの」
「ああ、乗れ。ここから先は修羅場だ。一度刃を交えたものが隣に居るのは心強い」
ほぼ全員が準備を終えたが、まだ準備の整っていないメンバーは居る。理子とかなめだ。柑那はコルネリエと乗るよう、ほぼ決定していたが二人は別。
コルネリエによって案内されたのは、一台だけ存在していた巨大な軽装甲車輌だった。
「テラダイングルカLAPV。理子とかなめは、これで前を張っててくれない? いざというときに、前が真っ先に転けると困るけどコイツなら転けない」
物々しいグレーマットペイントの車体、そして見上げるほどに高い全高はまさに装甲車の名に相応しい。
「でもさ、なんで理子とかなめなワケ? 戦力集めるなら、もっと人乗せた方が良いんじゃないの?」
「そこは気分かな。理子なら機転も利きそうだし、あたしがどうにもいかない時は頼むよ。かなめも、あたしに無いもの持ってるから。グルカのメンバーは、ある意味一番重い役割だけどごめん」
コルネリエはそう言って頭を下げてから、理子にトランシーバーを渡して去っていく。トランシーバーはアリア、ジャンヌ、桃子にも渡り、全員が連絡を取れるようコルネリエは繋げた。
倉庫出口にはグルカを先頭にして、365GTB、ヴァンキッシュ、406の順に列び出発を待つ。
「よし、全員GPS起動。あたしより先に走って、あとで合流。すぐに追い付くから」
『逃げるんじゃないわよ!』
『今回で終わらせるぞ、フェルトマイアー』
『暴れますよーっと!』
『毒を喰らわば皿まで。リータが毒なら、真実が皿ね』
それぞれのドライバーから有り難い返答を貰い、四台が倉庫からゆっくり出ていくのを見送った柑那とコルネリエ。
しかし問題はコルネリエの車だ。柑那も半ば焦っていた。
「お前、車はどうする? 早くしないと戦力が散るぞ」
「大丈夫。決めてる、決めてるって! だから本で小突くな!」
コルネリエが静かになった倉庫で小突かれながら、一台の異形の車の前で止まった。
オレンジ色の車体、F1カーにヘッドライトとホイールカバーにキャノピーを着けたような車は少なからず柑那は不安に駆られる。
キャノピーはアクリル防弾キャノピーになってはいたが、他は撃ってくださいと云わんばかりに丸出しだ。
「これでいく。二人乗りだし。あ、荷物は柑那抱えてね」
「お前なぁ……他にも車はあるだろ!?」
「この車なら、顔を見やすい。他のメンバーへの被害も減らせる筈。それとも柑那、違う車にする?」
キャノピーを開け、ステアリングを外したコルネリエはあまりに低い車体に手を付いて身体を預け、柑那へ問う。
だが、柑那の優しさを前にしてはそんな問いなど無意味だった。
「いや、良い。私が言い出したんだ、付き合うさ。こうなったら地獄の果てまでな」
「オッケー。
「――有り難いね、全く」
狭苦しい車内に乗り込む二人。柑那は少しだけ後ろに下がって配置された助手席に、コルネリエの刀やライフルを抱えて座る。
ステアリングを取り付け、助手席正面のイグニッションスイッチを入れると車は甲高い唸りでコルネリエ達を出迎えた。
カパロT1――公道走行可能なF1と言われたモンスターマシンは今、新たな任務のためにその息吹をコルネリエ達へ見せ付ける。
「よし、行こう。GPSマーク、柑那宜しく」
「任せろ。死なないように運転してくれよ、頼むから」
レーシングカーと寸分と違わない、鋭いレスポンスで吹け上がったエンジンを上手く扱いつつ、コルネリエ達はGPSを頼りに仲間達を追った。
メカ解説
Terradyne/Gurkha LAPV
【挿絵表示】
カナダのテラダイン社が製造する軽装甲車輌。
超大型、超重量の車体を300馬力のディーゼルエンジンが引っ張る様はまさに圧巻。
なかなかメディアには姿を現さない車ではあるが、近年に映画『ワイルドスピード』にて登場し、強烈な印象を残している。
作中仕様
理子、かなめが搭乗することになる。
本来のグルカと変わりはないが、より強固な防弾ガラスに改造された。
Peugeot/406 Coupe
フランス、プジョーの製造していた乗用車。
V6 3000ccのエンジンを搭載し、210馬力を発揮。
同国フランス映画『TAXi』にて有名になったセダンモデルとは異なるが、落ち着いたデザインの中に獰猛さも秘めるモデル。
作中仕様
ジャンヌが選んだ車。白雪は助手席。
強化ボディーフレーム、防弾ガラス仕様となっており、5.56mmライフル弾程度ならば貫通を許さない。
代わりに重量増となった為、サスペンションを硬めてエンジンパワーを230馬力まで上昇、バランスを取っている。
Aston-Martin/Vanquish
【挿絵表示】
イギリスのアストンマーティン社が製造する、高級スポーツカー。
一時期の映画『007』シリーズに登場していたボンド・カーと同じ名を冠する後継モデルとなる。
高級感、スポーティーさ共に高いレベルで纏められたこの車は、その期待に負けることのない強烈なパフォーマンスを発揮する。
作中仕様
アリアが操縦、キンジが同乗となった車。
アリアの出身国と同じイギリス車である為、相性良しに雰囲気良し。
この車も強化ボディーフレーム、防弾ガラス化されているが、元々のパフォーマンスが高い為、サスペンション周りの変更のみで留められた。
Ferrari/365 GTB4
【挿絵表示】
高級なオールドフェラーリの一台。アクリルの中にライトを埋め込み、流線型のフロントマスクを持った前期型は特に印象に残りやすい。
イタリア、フェラーリの血筋は余すこと無く引き継ぎ、エンジンを掛ければ甲高いフェラーリサウンドがドライバーを迎え入れてくれる。
作中仕様
桃子(夾竹桃)が選んだ。同乗者は無し。
強化ボディーフレーム化、防弾ガラス化の為にタイヤ、サスペンション、エンジンまで増えた重量に対応するため改良、変更された。
Caparo/T1
【挿絵表示】
『公道走行可能なF1』とまで云われる、フルカーボンモノコックで造られ、エアロもフォーミュラと同様に前後変更可能な物を装備するモンスターマシン。
575馬力のV8エンジンを搭載するボディーの重量は約600kg。1kg辺りのパワー1000馬力となり、ブガッティヴェイロンを上回る。
しかし公道走行の為に必要な助手席や、トラクションコントロールも備えている立派な乗用車。
【挿絵表示】
ただし、成り立ちはレーシングカーに変わり無い為、ドライブするにはかなりの実力を要求される。
作中仕様
コルネリエ、柑那が搭乗。
フルキャノピーモデルのキャノピーをアクリル防弾に変更し、一応の安全性は持っている。
ただし、そもそも銃撃戦に突撃する為の車ではないので、防御強化点はその程度。
日本のラフな公道に対応するため、特殊なアクティブサスペンションなどへの変更が行われている。
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