緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第二十一弾『ドッグファイト-始まり-』

 夜の東京都心に轟くエンジン音。そして、間に交じる銃声。

 コルネリエが不在のまま、理子を先頭に据えた四台の車列は謎のSUV集団によって包囲、襲撃されていた。

 

「おー! バンディッツ! これはもう完全に戦闘開始だー!」

 

 グルカを操る理子は銃火に晒されながら、その車に備わる装甲で後に続く三台の盾として銃弾を弾く。

 遅れて出発したコルネリエからの連絡は未だ無く、その姿も全員が視認していない。

 

「全く、結局遅刻してんじゃないのよ! まさか寝てないわよ――ねッ!」

 

 ヴァンキッシュに横付けされたSUVからの銃撃を回避する為、ステアリングを振り回すアリアは状況に反しながら悪態を吐く。

 数発の銃弾を受けても、そのボディには小さな凹み程度しか付かない。

 

「……しかし、この兵は単なる寄せ集めには思えないな。装備が充実しすぎている」

 

 ボンネットフード上で火花を散らした406を操り、ジャンヌはその中で敵の扱う装備、技術に着目していく。

 桃子も365GTBでチェイスに参加しているが、リータの姿は見付けられずに居た。

 

「想定外に遅れてくれるわね。コルネリエ……」

 

 365GTBの暴れるステアリングをしなやかに操りながら、桃子は未だ現れないコルネリエへ一人ごちる。

 追跡は熾烈を窮めたが、これも全てコルネリエの範囲内。皆にはそう信じるしかない。

 激しい銃撃だったが、漸く全員揃うときが来た。

 

『遅れた、ゴメン! あたしはコイツで上手くソイツらを誘導する。皆に負担は掛けさせないよ』

 

 敵を含めた全員が、バックミラーにフォーミュラカーのように異形な車体を操るコルネリエの姿を見た。

 すかさず急ブレーキを掛けたSUVがコルネリエの駆るカパロT1へ横付けしようとするが、それよりも遥かに優れた制動力を持つカパロが同様に減速し、それを許さない。

 実質孤立したSUV。対するカパロは遥かに軽いカーボン製。体当たりには耐えられない。キャノピーは銃弾を弾いているが、それもカパロにとっては付け焼き刃。

 

『下がりなさい、コルネリエ! 敵はたぶん、もうあたし達を見てる』

 

 ヴァンキッシュがコルネリエと入れ換わるように隊を外れ、アリアの声が柑那の持つトランシーバーへ飛び込んだ。

 

『すぐに追い付く! 早く行け!』

 

 キンジもウィンドウ越しに手を振り回して、コルネリエ達へ先行するよう示している。

 アクセルペダルを踏みしめ、先行したコルネリエは混乱する一般車でカパロT1をスラローム走行させながら、次第に遅れを取り戻す。

 

「とんでもないGだ……。むち打ちになったら賠償金を請求してやる……!」

 

 助手席で3Gという、強烈な横重力に振り回される柑那は文句を口々に呟きながらホルスターから小型のガバメントを抜いた。

 

「あれ? いつもの380ガバメント(ショーガバ)は? それ、.45口径じゃない?」

 

 ちらりと視線を配らせるコルネリエの目に映るのは、柑那の愛銃である筈の380ガバメントではなく、スプリングフィールド製のカスタムショート1911モデルだった。

 

「.38だと火力不足に陥りそうだったからな。読みが当たった。――おい、前!」

「――――ッ!」

 

 グルカをかわした一般車とカパロT1が危うく追突事故を起こしそうになる。柑那の一声で慌ててブレーキペダルを踏み締めると、四輪のタイヤは全てロックし左右にフラフラとバランスを崩した。

 瞬発的にリカバリーを試みるも、とっくに限界を超えたタイヤが再び食い付く事はない。スピンし、路地裏へ飛び込んだカパロT1はエンジンをストールさせてしまう。

 

『大丈夫か!? すぐに戻る!』

 

 スピンアウトの瞬間を見ていたジャンヌ達から無線が入るが、コルネリエは静かに敵を遠くへ誘導するよう作戦を切り替えた。

 コルネリエの目の前には、巨大な片刃の大剣を背負った少女の姿。リータが彼女の読み通り、現れた。或いは、リータもコルネリエの手を読んでいたのかもしれない。

 作戦も何も無く、力業で突破するしか脳の無かったコルネリエが考える事など、リータからすれば1プラス1のイコールは2、と同じくらいには簡単に読み解けたのだろうか。

 

「随分遅かったわね。でもレーナの読み通り……。さて、さっさと話を付けたい所だけど邪魔者もいる。一旦、眠ってもらうわ」

 

 不意に、コルネリエと柑那を護っていたキャノピーが吹き飛んだ。リータの手には、背負われていた筈の大剣がいつの間にか握られていて、地面で切っ先が擦れて火花を散らす。

 更にそこへ、睡眠ガスグレネードを投げ入れられたコルネリエ達は一瞬の出来事に成す術無く昏倒させられた。

 

 

 次に二人が目覚めたのは、いつもの定番である廃墟――かと思いきや、比較的近代的な監禁部屋であった。

 何かと捕獲されては監禁されるコルネリエではあるが、今回はそれらとは全く異なる扱いだった。

 

「捕縛されてない。武器も、そのまんまだ……」

「私は捕まったよ。キッチリ結束バンドでな」

 

 武器を回収しながら、コルネリエは床に転がる柑那へ視線を向ける。

 コルネリエも捕まった筈だが、捕縛されたのは柑那だけ。そして監禁されている場所も何処か異質。それが全てリータの思い通りなら、答えは一つにしか行き着かない。

 

「コルネリエ、これはリータからの一騎討ちの誘いだ。行ってこい」

「行くよ。でもその前に――動くなよ」

 

 手首のスライドナイフで柑那を拘束していた結束バンドをすっぱりと切り落とし、代わりに彼女のスプリングフィールドV10M1911を握らせたコルネリエ。

 口にしたのは、当たり前の結果と依頼だ。

 

「あたしはリータと決着を着ける。柑那、敵を抑えて。外からは直にアリアたちも来る筈。任せた」

「あぁ、任された。コルネリエ、今までゴチャゴチャと武器を持っていた時の“基本”は忘れて、“基礎”に立ち返れ」

 

 柑那の言葉に固く頷いたコルネリエは、ナイツPDWのボルトハンドルを勢い良く手前へ引き寄せ、離す。

 バシャンッと音を立てたボルトは初弾をチャンバーへ送り込む。

 柑那を置いて部屋を出たコルネリエはライフルを携え、バラクラバで顔を隠した男かどうかも定かでない重装備な兵が並ぶ通路を歩いていく。

 フル装備で堂々と通過しているにも拘わらず、兵達はG36ライフルを手にしたまま微動だにしない。ただ、他の通路への曲がり角などは彼らによってブロックされており、脱出を許すというよりはやはり、一本道にリータの場所へ誘導されているという印象の方がコルネリエには強かった。

 

 そして、少し歩いた先の広場でリータはコルネリエを待っていた。今回は不意討ちも無し。完全にリータとコルネリエの一騎討ちとなる。

 

「前回は面白くなったから、次は楽しませてもらうわ。センパイ?」

「やれるモンならやってみな。“雑魚”」

 

 コルネリエの挑発を一笑の下に伏した 

 

「ハッ! 私が雑魚なら、あんたはミジンコ以下だ」

 

 どこまで貶められてもコルネリエの方が下だ、とあくまで主張しリータは笑う。

 

「ねえ? レーナ。私の方がずっとつよいよね」

 

 コルネリエの眼前で、リータは何もない場所へ向かって話し出す。この彼女の行動が、コルネリエの仮説を実証することになる。

 

(……今それを指摘しても意味無いか。たぶん、キレさせるだけだな。一番精神的に弱ったところに突き立てるしかない――今は、やるしかない!)

 

 ナイツPDWを構え、照準器にリータを捉えると彼女も大剣を構えて備えた。

 二人の『スリーピング・ドッグ』。人間かどうかすらもはや分からない彼女達から発せられる波動は、互いに高揚と緊張感として伝わる。

 だが、コルネリエは同じ実験を受けた中では『ご老体』に入る。リータの方が力は上。レーナの事実で心を揺さぶる手段だけが、コルネリエの奥の手だった。




メカ解説

Springfield/Ultra Compact V10ported
 アメリカのM1911クローンを多数製造、中には米軍へのカスタム品も存在するスプリングフィールドアーモリー製1911クローンのコンパクトモデル。
 前期、後期生産モデルが存在しており、後期モデルはノバックサイトを搭載するが、前期ではノーマル状態の照準器のままである。
 また、スライド前方をくりぬき、左右上面に片側五つずつ――V10の孔を空けることによって銃口の跳ね上がりを抑制している。
 柑那が使用するのは前期型。小型で携行性に優れながら、.45口径の威力も持ちながら精度、信頼性共に必要充分なカスタムオートマチックである。
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