第二十四弾『新たな出会いへ』
『対象者は逃走中。コルネリエさん、位置を』
深夜の東京都内。深い夜にも拘わらず、街は騒がしかった。
走り回る武偵高のクルマにヘリ、そしてコルネリエもまた走る。
「今、ヘリから見えてるハズだけど!?」
『確認した、フェルトマイヤー。対象はその先のビル屋上に上がった! 向かってくれ』
「りょーかいッ!」
足を滑らせながら、コルネリエはその場で急停止。持ち前の脚力で左手側のビルへと飛び込んだ。
ビル街であるこのエリアなら、補足されていれば逃げ場はないだろう。だが、間違いはあった。
『バカ! 相手はお前が入ったビルの一本奥だぞ!?』
「やっべ!? こっちはもう屋上つくし……リータは?」
『こちらレーナよ。位置は確認しているけど、まさかコルネリエ――“ヤル気”じゃないわよね?』
屋上に吹き荒れる、強烈な風に髪を靡かせるコルネリエ。ヘリはビル外周に多少の高度を取って対象者を確認している形で、自身の身体能力を使えばヘリを使って反対側まで飛べる――そんな気がしていた。
もちろん、ミスしてヘリのローターにでも巻き込まれようものならミンチになる。更に言えば、届く保証もない。だが時間は無いのだ。
コルネリエはヘリのキャビンにPSG-1を手に座る金髪の少女を一瞬視界に入れ、地を蹴る。
『おい!? 何考えてんだフェルトマイヤー――』
ヘリパイロットの無線がインカムに届く頃には、コルネリエは既に摩天楼の宙を舞っていた。
キャビンに着地し、すぐさま対象のビルへ向けてヘリを足場に飛び立つ。――その時だ。
「――!」
コルネリエは見た。追跡対象者が、自らのこめかみに拳銃を突きつけるのを。誰が見ても、自害する気なのは一目瞭然。
しかし、コルネリエの着地までに取り押さえられるかは賭けだ。先に屋上へ到着していた武偵達も手の出しようが無くなっている。
時間の経過すら長く感じるほんの一瞬、コルネリエの背後でホバリングするヘリのキャビンから金髪の少女がPSG-1を構えた。その銃口が放つ、なんとも言えない殺気はコルネリエにもよく伝わった。
刹那、銃声が轟いた。銃弾はコルネリエの脇腹数センチ付近を綺麗に通過し、吸い込まれるように追跡対象者の拳銃へヒット。相手が、衝撃により大きく体勢を崩したところへコルネリエがその上へ飛び掛かるように着地し、なんとも運良く、無事逮捕となった。
「やるなぁ、あのスナイパー。ヘリから正確にあたしを誤射せず、数センチの的にピッタリか――何年だ?」
ホバリングを続けるヘリの向こうから見つめる少女と、コルネリエの視線が結ばれる。少女の姿を改めて遠目に確認し、彼女はポンと手を叩いた。
――似ていたのだ。
「ミーツェか! もしかして、前に小耳に挟んだミーツェの娘か!? あれ!」
リューディアとの一件でRランク武偵のドイツ人、ミーツェ=アヴェイルと知り合うことになったコルネリエ。ミーツェはリューディアにより監禁されていたが、コルネリエが全ての記憶を取り戻した時ミーツェは解放されていた。
その救出作戦についてはコルネリエの知るところではなかったのだが、アデライードが絡んだ上でミーツェの二人の子供が救出作戦を完遂した、と後に聞いていた。
「……パイロットさん、そのスナイパー――名前は?」
コルネリエが問うと、ヘリパイロットはすぐに応答する。
『一年のアヴェイルだよ。ルーツィア=アヴェイル。狙撃科のヤツだ』
「ビンゴか……。ありがと、通信終わり。レーナも帰るよ」
ルーツィア――その名前を聴いて、コルネリエはビルを立ち去る。
新しく乗り換えたポルシェ911GT2エボリューションに乗り込むと、すぐにリータが助手席へ滑り込んだ。
「よーし! 帰って寝よう!」
「賛成ね。リューディアみたいになりたくはないし」
自らに改造手術を施し、二人の前に立ちはだかったリューディア。だが、身体的限界により突然死する。コルネリエ達は充分に身体を慣らし若い内に施術された為そこまで気を張る必要はないのだが、念には念をだ。
走り出したポルシェの中で、リータは既に眠っていた。
「ったく、運転手に一番ツラいのは助手席で寝られることだっつの……」
紅いポルシェは夜の街に消えていく。
明日には、新たな出会いが待つ。珍しく他人に興味のないコルネリエが、興味を持った人物に会いに行く。
それが、どこか彼女には楽しみだった。後ろで吼えるポルシェのエンジンも、それに同調するかのようだった。
メカ解説
H&K/PSG-1
フィクション作品では露出の多い、超高精度セミオートスナイパーライフル。
主にドイツ特殊部隊GIGNが配備しているが、日本のSATにも配備されているとの話もある。
5発もしくは20発の着脱式箱形マガジンに、7.62mmNATO弾を装填できる。
非常に高価で重量もかさむが、その精度はボルトアクションライフルにも匹敵すると言われる。廉価版として、MSG-90と呼ばれる同じG3ベースのスナイパーライフルも登場した。
ルーツィアと呼ばれた少女が使用。その精度を如何無く発揮させた。
ポルシェ/911GT2エボリューション993型
『最後の空冷ポルシェ』と呼ばれる993型ポルシェ911のターボモデルで、更にGT2は限定モデル。エボリューションはリアウィング等を大型な物に交換し、より空力性能に磨きを掛けている。
ちなみに、通常のGT2はオークションにて2億円近い値が付くほどの代物。