深夜の強襲科に響き渡る銃声。射撃訓練レンジで何十挺もの拳銃を並べて片っ端から撃ちっぱなすのは稲生理佐だ。
車を探しに行ったコルネリエたちと時を同じく、彼女もまたコルネリエ用の銃器の選定に入っていたのだった。
「これじゃ重たいかな……」
92FSブリガディアを置いて呟く理佐。コルネリエの射撃癖は訓練時に残されたビデオや、事件の時に撮影された映像資料を何時間も見つめて掴んだつもりでいる。少なくとも、コルネリエは律儀に両手で武器を構えるスタンスではない。大体片手には別な武器が握られていたり、二挺拳銃だったりだ。
ならば銃は軽い方が良い。軽ければそれだけ素早い銃の移動が可能になる。では、軽ければ良いか? それはそうとは行かなかった。
(フェルトマイヤーさん、武器の連射も早い。軽くて強度の弱いスライドじゃ、破断する――)
人知を越えた身体能力に付随する自動拳銃――それは、あまりにも無謀な仕事だった。だが理佐の中で候補となりうる性質を持つ拳銃の構想は三つあった。
一つはフルオート連射可能な物。これなら、多少単発の連射サイクルが早くてもコルネリエについていけると判断した。二つに軽量小型な二挺拳銃。連射は両手による交互撃ちに任せて一挺辺りの負担を減らし、より現実的に軽さを求める選択だ。最後は競技用銃だが、あまりにも嵩張りすぎて実用的ではないのではないかという懸念もある。利点は理想的に組み上がれば、最高の精度と連射力が保証されること。
この三つのいずれかの性質を持つ拳銃をコルネリエのレベルに持っていく。それをお座なりには出来ない。強度に不安を抱える銃では、破断や暴発で射手であるコルネリエに怪我をさせてしまう。逆にしっかりしすぎれば重くなり、動きが鈍くなる。スコープやライトなどは論外だ。引っ掛かりが増えるし、当然重量も増える。
「二挺拳銃だと排莢もあるから――」
銃の排莢――空薬莢の排出は基本的に右だ。つまり、二挺同時に構えれば左手の銃から弾き出された高温の薬莢が腕へ当たる可能性がある。それは二挺拳銃を軸とした戦闘を行う理佐が一番理解できている。
理佐の場合は冬服を敢えてそのまま着込み、グローブを装着することで皮膚への接触を避けているがコルネリエはそうは行かない。夏服に露出の多い制服は彼女のトレードマークでもある。名古屋武偵女子高では『防弾布が少ないほど箔が付く』という言葉もあり、彼女の服装は一部の下級生たちの憧れでもあった。
それを止めさせるのはどうか――最悪はやめてもらうほかないかもしれないが、理佐が視線を落とすとそこで一挺の自動拳銃が光を放った。
「GSh-18……」
理佐が手に取ったのはロシア製自動拳銃、GSh-18と呼ばれるもの。サイズはマカロフとほぼ変わらずホルスターまで流用可能で小型、最近の流行を取り入れたポリマーフレームにより軽量で扱いやすい。弾薬は9mmパラベラムを使用するため調達も簡単で、特殊弾頭ならば10メートル以上から8mmの軟鋼板を貫き、装弾数も18発とかなり多い。
何より、この銃は排莢方向が真上だった。これなら多少のカスタムで信頼性を高め、両手で二挺構えた時の安全性もある程度確保できる。
理佐は試しに拳銃へマガジンを押し込み、ゆっくりとスライドを引いた。銃身が少し回転しながら後退し、薬室から弾薬が露になる。
「……ふぅ」
一番候補が決まった。ならば次は、連射だ。深く息を吐いてリラックスした理佐は照準器の向こうへターゲットを捉える。
トリガーを引いてからは一瞬だ。マズルフラッシュが理佐の顔を何度も照らし、薬莢はばらばらと床へ散らばる。彼女の目論見通り、腕へ空薬莢が当たる事はない。
「……」
1マガジンを撃ちきってスライドを確かめるが、現状は歪みやヒビもない。さらにマガジンを交換して同じように連射――これを少なくとも10マガジン分繰り返す。撃った弾薬は180発以上。
反動が響いて手の痺れを覚える理佐だが、そのスライドを見て彼女は候補をGSh-18と決めた。
「よし、これで――」
「なぁにが『よし』や、コラ」
不意に理佐の脳天に衝撃が走る。頭を抱えて見上げた先にいるのは、強襲科顧問の蘭豹だ。許可は取っていたが、あまりに時間がかかるので見に来たのだろう。
「フェルトマイヤーも恵まれとるな。あんたが作るモンなら、相当な業物になるやろ。プランはあるんか?」
「GShについてはまだ。これの他に、サンダーも補助で持ってもらおうかと……」
「サンダーって――どれや?」
理佐が超大型の拳銃と呼ぶには異質な銃を持ち上げて寄越すと、蘭豹はそれをまじまじと眺める。
「シングルショットやないか。こんなん役に立つんか? てか、重いな……」
「50BMGを撃つために、5kgは重量がありますから。ただあの人なら撃てると思います」
「重機関銃の弾やろ。下手に撃ちゃ、人なんか消し飛ぶぞ」
「M82やM2と違って、弾頭の加速に必要な銃身長が無いですから最終的なエネルギーは大幅に落ちると思います」
「……まあ、あくまでも拳銃やしな。ええわ、早めに閉めろや。ウチの仕事が終わらんからな」
去っていく蘭豹。理佐も目星をつけた銃だけを残して片付け、GSh-18とサンダーを持って強襲科を後にした。
次に行くのは装備科だ。文と共にGSh-18のカスタム案を練らなければならないが、問題は実際のカスタムは本人次第。
二人は案だけを提示し、コルネリエが戻ってから実際にカスタムをしていく予定だった。
「とりあえず、マガジン周りは大前提なのだ」
文はGSh-18のマガジン挿入口を覗きながら語る。
どれだけ連射に特化させたとしても、弾が切れるのに代わりはない。それをサポートするには、挿入口の拡大やマガジン自体が自然に落下しやすいよう重りをつける。
重量は若干増すが、リロードのスピードは誰が使っても上がるのだからこれだけはコルネリエの答えを待つまでもなかった。
「あとは反動制御だけど……」
「うーん、悩みどころなのだ。マグナポート加工すると少なからず強度落ちるし、かといってウェイトとかは嵩張るし……」
マグナポートは本来社名だ。だが、通称にもなっている。銃身とスライドにガス抜き孔を加工し、反動を軽減する手法がマグナポートとなる。
しかしスライドに孔を空ければ強度は落ちるし、GSh-18の回転型バレルという機構はマグナポートに向いているとは思いがたかった。
「ここは一旦保留するのだ。でも……それはそうと、さすがにサンダーはやりすぎな気がするのだ……」
並べられた銃の中で異彩を放ち続けるサンダー。全長約18.3cmほどのGSh-18に対して、サンダーは約43cm。これを拳銃と言い張るにはいささか無謀か。しかし販売元が拳銃だ、というなら拳銃なのである。
人間を遥かに超えた身体能力を持つコルネリエであれば、このモンスターガンを活用できると理佐は踏んでいた。
上手く扱えさえすれば、
「とにかく、まずはフェルトマイヤーさんの連絡を待たないと」
「そうするのだ。寝袋あるから、今日は二人で泊まり込むのだ!」
ごそごそと寝袋を引っ張り出して床に敷いた文。理佐は妹である司へ自宅を任せるようにメールを打ち、床へ就いた。
サンダー50BMG、使い道が実際あるのかわからない……そんなアメリカンなロマンが詰まりまくった銃が私は好きです。
今回は割りとうんちく回だったので、二十八弾はアクションやりたいですねー。