「ホントに住所合ってる? 寛仁」
「ここなのは間違いないけど――」
「真っ暗だね」
四人が車を降りて、見つめる先は明かり一つ無い廃車置き場のようなエリアだ。本当に動く車があるのかすら不安になるような、そんな場所だった。
不穏な気配はないが、念のため四人とも拳銃を装備し侵入する。
渡されたのは住所だけで、どの車が当たりなのかはわからない。強いて言うのならば、周りは本当に廃車ばかりで動く車があるとすれば当たりはそれしかない――ということだろう。
「……! 兄さん、あそこ!」
ルーツィアが指差す先に寛仁もコルネリエも注目する。あったのはオレンジ色の古いフェアレディZだ。黒いFRPボンネットは限定の432Rを意味するかのよう。
周囲には数人、別な人間が居りフェアレディZを盗もうとしているのかドアノブをいじったり窓枠にバールを差し込もうとしたり苦戦しているらしい。
「リータはレーナにチェンジして見張り。あたし達はアイツら止めてくる」
「わかったわ。気を付けて」
言われるまでもなくレーナに代わっていた彼女は音も立てずに消える。残された三人は車へ駆け寄り、拳銃をそれぞれ構えて叫んだ。
「動くな! 武偵だ! 窃盗未遂の現行犯で逮捕するッ!」
寛仁が言うと、盗みに来ていた男達は拳銃を取り出すと乱射という行為で以て応えた。慌てて廃車の陰へ隠れる三人。逮捕するのに罪状はもう充分だろう。
「車は俺たちのモンだってか……。コルネリエ、あいつらを車から引き剥がしたら乗れッ! 当たりはあれだ!」
「見りゃわかるって。引き剥がすまでもないよ、ちっと待ってて。――レーナ、いい? 左は任せる。右はあたしがやる」
『了解。標的は捉えたわ』
銃撃から身を隠すコルネリエがレーナへ連絡を入れ、トカレフのスライドを指で引いて装弾を確かめると彼女は廃車の陰から飛び出した。
刹那、男の一人が構えていた拳銃が弾き飛ばされもう一人の男目掛けてコルネリエが体当たり。そのまま後ろに倒れた男を乗り越えて前転した彼女は、素早くフェアレディZの運転席へと回り込む。
だが鍵は閉まっている筈ではなかったか。ドアノブを引いたが、案の定ドアはびくともしない。鍵はどこにあるのか。窃盗犯が体勢を立て直す一瞬の間に、コルネリエは車の下を見る。
「見っけ!」
車の鍵は車体下にテープで留められていた。これは灯台もと暗しだったかもしれない。ともかく、コルネリエは鍵で車に乗り込みシリンダーに鍵を差し込んで捻る。
きゅるる、とモーターが回る音が三秒ほど続いてからフェアレディZ432のS20エンジンは管楽器のように甲高いサウンドを奏でる。
「こっちは乗った! 学園島で会おうッ!」
数回アクセルを踏み込み、エンジンを吹かす。状態は素晴らしく良い。とても何十年も昔の車とは思えないほどに。
土を巻き上げながら走り出すフェアレディZ。寛仁をテールスライドでかわし、コルネリエはそのまま廃車場を後にする。
「S型か。こりゃあとで載せ替えだなぁ」
エンジンはコルネリエの好みには合わなかった様子。通信によると、寛仁たち三人も廃車場を脱出したらしい。
すぐにコルネリエに追い付くだろう。アクセルペダルを踏み込んでやれば、少しもの足りないものの力強い加速を見せるフェアレディZ。
首都高速道路まであと少しというところで、前方にBMW M4が滑り込む。寛仁たちだ。あとはこのまま学園まで逃げるだけ。
少々危ない橋を渡ったが、コルネリエの車は約束通りに彼女の手へ渡った。
「……なにか来てる」
ようやく終わり、と思ったのも束の間。BMWの後ろから更に高速で迫る大型車がフェアレディZのバックミラーに映り込んだ。
どうやら窃盗団を怒らせでもしたのか、大型車――SUVがBMWを追い抜きフェアレディZへ一気に加速して追い付いてきた。
『おい、なんだあれ!? さっきの連中か!?』
「そうっぽい!」
コルネリエはアクセルペダルを強く踏み込み、SUVから逃げるように加速させつつ無線へ叫ぶ。
「島戻って援護呼んで! こいつはあたしが引いてみる!」
『わかった、無理はすんなよ!』
首都高速道路から学園島分岐で分かれたフェアレディZとBMW。SUVは寛仁たちに興味はないらしい。ただフェアレディZだけを全力で追い掛けてきている。
どれだけアクセルを踏み込んでも、現代車と昭和のフェアレディZでは勝負にならない。高速道路に乗った状態で追跡される形になったのもまずかった。
(タイヤのグリップも足もダメだ。ろくに食い付かないし――)
迫るコーナーに、コルネリエがステアリングを切って対応するがフェアレディZは意に反してずるずると滑り、車体を激しく揺らしながら曲がっていく。
(――ロールひっでぇ。早いとこ切り抜けないと止められちゃうな)
環状線から乗り、レインボーブリッジを通過し、湾岸線へ。車線はあるが交通量が多く、車の限界も低い。暴れるには少しばかり無茶が必要な状態だ。
クラッチペダルを蹴り飛ばし、稲妻のようなスピードでギアを変えつつコルネリエは悩む。とにかく応援を待つ手もあるが、彼女の想像以上に苦戦を強いられている。
止められれば、まず一般車に危険が及ぶ。それは後に書く反省文やら手続きやらを想像すれば、嫌になる。断固拒否の考えだ。となれば、止めるしかない。
応援を待たずに、コルネリエ自身で決着をつけるのだ。
(一般車が途切れる一瞬……そこでやるしかない)
コルネリエは片手でトカレフを持ち、再度スライドを指で引いて装填を確認するとひたすらに一般車が途切れるのを待った。
湾岸線を抜ければ道が狭まる。そうなれば、派手なアクションは起こせない。彼女は内心焦り出していた。だが、それはすぐにやってきた。
(クリアッ!)
一般車が消える。その一瞬でコルネリエは車をスピンさせ、窓を開けてSUVへトカレフを向ける。
それからタイヤへ向けて数発発砲。見事直撃弾を作り、パンクしたSUVはバランスを崩し壁に真っ正面から激突して停止した。
「ふう……死ぬかと思った」
白煙の残る車内で、コルネリエはシートに深く背中を預ける。そうしている間に寛仁が呼んだ応援がやってきて、窃盗団の一味は逮捕。
コルネリエの目的である車の調達は、これで一端の終わりを告げた。次は武器の更新だ。
フェアレディZを車輌科へ預け、コルネリエは寛仁たちと共に学園島へ戻る。次は自身の運動にもなるとあれば、寝る以外にやることはない。
学園島の寮へ着くまで、コルネリエはリータと共に眠っていた。銃器の調整は放課後――現時刻は夜中のため、一旦全員解散だ。
自室に入った二人は、それぞれ最低限の挨拶だけ済ませてベッドへ倒れ込む。眠りにつくのだけは誰よりも早い自信のあるコルネリエ。ろくに布団も掛けずに、彼女はそのまま眠りについた。