強襲科棟には近接格闘などを学ぶ為の体育館、そして射撃訓練用のレンジや基礎体力付与の為にトレーニングジムがある。
コルネリエがやってきたのは、その中の体育館。生徒達がナイフ戦等の組み手をやる中歩き回っていると、不意にコルネリエの鼻先をナイフが掠める。勿論武偵の倫理に『訓練用ゴムナイフ』という物はない。銀色に煌めく、本物のナイフだ。
体育館というだけあって場所は決して狭くない。組み手をしている生徒はコルネリエをにやにやといやらしげに見つめていて、先程の不意討ちが過ちではないと彼女は判断した。
「こンの……」
コルネリエの目付きが、途端に冷たくなった 。海のように美しい瞳で、凍てつくような視線を生徒へ送る。
彼女はゆっくりと左腰に着けている刀へ手を掛ける。前回の任務では刀以外はなんの変哲もない鞘だったが、今回からは寮の自室に保管していた、SCAR-Hの機関部を利用し改造された特殊な鞘となっている。
様子をうかがう女子生徒を相手に居合いの体勢に入るコルネリエ。それを読んでか、構えを変えた女子生徒。
だが、飛んできたのは斬撃ではなかった。飛んだのは銃声と共に、7.62mmNATO弾の爆発力で鞘から飛び出した刀だった。真っ直ぐに腹部へ痛打を与えた一撃。
生徒が怯む間に、コルネリエは左の軸足を鳴らしながら綺麗なフォームでハイキックを繰り出す。
生徒は寸前で腕を使ってハイキックを止め、素早く刀や徒手格闘のレンジ範囲外へと一旦距離を置く。
「前から見ててウザかったわ。アンタ。昼寝ばっかり……そのクセして、私達を見下してるんでしょ。――少しデキるからってさァッ!」
「ああハイハイ。またいつものやっかみですか柏木さん?」
柏木というらしい女子生徒は拳銃を引き抜き、コルネリエへ喚き散らす。一方でコルネリエもまた、ゴールドカスタムを抜いて構えた。
コルネリエはこうした理不尽なヘイトを向けられる事も少なくない。彼女は決して天才型というわけではない。最初から強かったわけではないのだ。
今でこそ昼寝ばかりのやる気無しにしか見えないコルネリエ。だが、最初は皆と同じようにミスばかりしていた。本来の所属科である
肢体に巻いた黒いサラシは、これらのミスの時に作った傷を隠す意味合いもあった。しかし、今では実力も付き、昼寝好きという態度。
理解されず、理不尽に恨まれてもコルネリエの心は決して傷つかない。どうせ昼寝すれば元通りなのだ。
(どうする。柏木に撃たせたら、後ろにいる生徒に当たるかも。だからって撃たれたかないし……。けど、向いてるのは銃正面――弾き飛ばすには面積が狭いなぁ。……よッし!)
拳銃を構えた柏木へ向けるゴールドカスタムのダットを、コルネリエはあろうことか頭部へ重ねた。
ある程度経験を積んで、そしてそれが通常の銃撃戦とは異なった、落ち着いた現場なら武偵には判る。頭部へ照準を合わせられていること、コルネリエの持つ銃のトリガーが如何に軽いか――それらの要因が合わさる危険度も。
「くッ……」
「はい、もーらい」
お互いの拳銃のトリガーには指が掛かっている。慌て食った様にダブルアクション式のトリガーへ力を入れた柏木だが、それより遥かに軽い力と引き代でトリガーを引けるコルネリエが先手を取った。
――『ダブルタップ』という技がある。二回連続で素早くトリガーを引く、という至極単純明快な技だ。そして三回の銃声。
場に立っていたのは、コルネリエだった。名古屋武偵女子高並みの短い防弾制服でも、彼女は無傷で立っている。
二つの薬莢がコルネリエの足下で跳ね回ってから、照明を受けて金色に輝く。ダブルタップによって、彼女が柏木を無力化した証明になるだろう。
「ふぅ……ラッキー」
崩れ落ちた柏木。コルネリエはそれを見て冷や汗を拭う。
やった事はやはり至極単純だ。武偵は人を殺してはならないというルールがあるし、更に相手は恨みを向けているとはいえ仲間。本当にヘッドショットして射殺する訳はない。
確かに柏木は一回発砲した。コルネリエは一瞬の内に胴体へ狙いを変え、一回目の発砲で先手を打ち、柏木を焦らせた事で照準にブレを生じさせると共に相手の防弾制服へ一撃。
いくら防弾とはいえ、本格的な物ですら撃たれれば悶える程に痛みはある。それが薄布の“制服”なら尚更痛みは増す。そこへ更に一撃を加えることで、柏木の意識を“オとした”。二回の発砲は、一秒強の間にこれだけを計算し尽くされて行われた。
単純論ではあったものの、読み合いや精度、精神力の勝負という意味では超至近距離での“狙撃戦”とも云えるだろう。
「なーんか萎えちゃったな。――他に目付けられる前に、射撃レンジでも行っちゃお」
被害は幸いにして出ることはなかった。逸れた柏木の銃弾の先には、運良く生徒が居なかったのだ。
そそくさと足早に射撃レンジへと移動するコルネリエ。歩きながら、撃った分の弾薬をマガジンに押し込んでいると、それを見ていたアリアが声を掛ける。
「ちょっと。歩きスマホ、歩きタバコ、歩きリロードはダメよ。危ないじゃない」
「アリアかぁ。別にいいじゃん、セイフティは掛けてるよ?」
それでもよ、とアリアはコルネリエに食い下がる。
少し面倒な警官に止められた迷惑な市民、といった光景か。端から見れば、警察を追跡する番組めいた風景だ。
「まあ……あたしも教室で盛大に乱射した過去あるし――今はそれはいいわ。コルネリエ、放課後に暇ある?」
「帰って喰って寝るだけ」
「なら暇ね。放課後、アクアシティに付き合って。ちょっとモールのガンショップ見てみたいのよ」
アリアが言うと、コルネリエは露骨に眉を潜めて気だるそうに声をあげて抗議した。
折角の少ない休息を、アリアの付き添いとなれば大変だ。というより、アリアには“ドレイ”とやらが居たハズでは? コルネリエは少しこめかみを人差し指でとんとんと叩いてから、問う。
「キンジは?」
「アイツは別な用事よ。――というより、あたしの用事自体が個人的な勝手な用事」
「クルマあるじゃんかー。自慢の“おミニさん”がさぁ」
「車検」
「車検かぁ……」
なんとしても家に帰りたくて必死になるコルネリエだったが、逃れる事は出来なさそうだ。
アリアも勿論友人。コルネリエはこう見えて、意外と押されると弱い一面がある。彼女はひとつ、大きな溜め息を吐くと条件を提示する。
「さっきの撃ち合いで頭疲れちゃったから、なんか甘いもの奢ってくれたらいいよ」
「オーケー。それじゃあ、交渉は成立ね。放課後はこっちからあんたのクルマに出向くわ」
じゃあね、と言うだけズバズバと言って去っていくアリア。
残されたコルネリエはただただ大きく、深い深い溜め息をその場で吐く事しか出来なかった。
メカ解説
炸薬抜刀鞘
SCAR-Hの機関部を利用し、改造された特殊なギミックシース。カラーリングはブラックで、直刀を納めるためストレートとなっている。
弾薬の爆発力を利用して抜刀を行うもので、実際は7.62mNATOを利用している訳ではなく、弾頭が装着されていない7.62mmNATO相当の炸薬量を持った、特殊弾を使用する。
基本的には居合いなど、振り抜きの際のスピードと威力を増す用途に使われるが、応用として敢えて刀を保持せず、飛ばして一撃を加えるというものもある。
SCARシリーズの機関部にはコッキングレバーが着いていないため、コッキングレバーを装着した特殊なダストカバーを排莢孔に備える。
使用回数は15回で、マガジンは通常のNATO基準ストレートマガジンを使用できるが邪魔になりやすい為基本的にはショートマガジンが使用される。
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