緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第三弾『望まぬ眠りも世の中に』

「駐車場見つけるの大変すぎ……。流石夕方の台場」

「だいぶグルグル回ったわね。ま、見つかったんだから良いじゃない。いくわよ」

 

 放課後となり、コルネリエとアリアは台場はアクアシティへとやってきた。

 都内でも有数のショッピングモールであるアクアシティには、睡眠しか頭にないコルネリエには人酔いを起こしそうな程の人混みでごった返している。

 休日ともなれば、更に人が集まる為に駐車場を探し回ったり、順番待ちをする苦労も倍だろう。

 そんなアクアシティにある銃砲店へ足を運ぶ二人。

 

「で、アリア。確かあんたって専用のカスタムだったけど、今更こんなところになんか用あるの? あたしはあるけどね」

 

 アリアが使用するのは、彼女専用のカスタムガバメント。かなりの高精度パーツで組み上げられており、Sランク武偵アリアの相棒を長い間努めただけの実力を持った銃だ。

 当然、その質はアフターマーケットパーツを組み合わせただけでは到達出来ない域にある。本来なら、特に用事もないだろう。

 

「まあ、ちょっとしたウィンドウショッピングね。――あ、ガバメント用のマガジン買い足そうかしら……」

「ウィンドウショッピングに駐車場待ち三十分かよ……。お、アサルトライフルも良いよねぇ」

 

 何だかんだと愚痴を溢しながらも、銃砲店を歩き回るコルネリエ。しかし、特に何を買う訳でもない。

 嵩張るギミックシースに、拳銃三挺ともなれば装備範囲に余裕はない。結局、銃砲店ではアリアがガバメント用のマガジンを幾つか仕入れて店を出ることとなった。

 

「で? そっちの条件は甘いものだったわよね? 何が食べたいの?」

「ソフトクリーム。無論バニラかな」

 

 アクアシティの外に出た二人。近くのアイスクリームトレーラーを指差したコルネリエは、淡々と要求を告げた。

 そうして互いの“依頼”を遂行した二人は車へ戻り首都高速に乗ったが、そこでサイドミラーに映る不吉な影がコルネリエの240SXを追っているのが見えた。一台や二台ではない。五台以上は確認できる。

 

「何?」

「わかんない。ただ、なんかヤバ――うわッ!」

 

 急加速し、すぐ傍までやって来た謎の追跡車両はコルネリエ操る240SXのリアを激しく突き飛ばし、逃げる隙も与えずにスピンさせる。

 車内では暴れ狂う車体を元に戻す為コルネリエが格闘するが、それも虚しく道の真ん中で停止した。

 エンジンはまだ動いている。このまま逃げる事も出来ただろう。しかし、現れた謎の集団は車で周囲を取り囲み、下りてきた男達が銃を構える。

 それが“武偵としての正義”に反したか、アリアは逃げるよりも戦うことを選んだ。コルネリエも意味がわからぬ内に車へぶつけられ、久し振りに眠気を吹き飛ばして運転席のドアを開けようとする。

 

「――!」

 

 ドアを開け、車を下りた刹那。コルネリエの胸を激しく何かが打ち付けた。

 一発の銃声の後、膝をついたコルネリエ。苦しみ喘ぎながら辺りを見渡せば、誰か一人が彼女を撃ったらしい。防弾制服故に助かってはいるが、その衝撃は殆ど吸収されない。彼女が強襲科で利用した弱点に、今度は足を引っ張られた形だ。

 

「コルネリエ!」

「げほッ! うえ……。ハァ――この野郎」

 

 アリアは車の反対側で敵を釘付けている。コルネリエへ声を掛けつつも、助けにはなかなか向かえずにいた。

 敵の装備は拳銃程度のものだが、人数にして十人以上は居る。火力はともかくにしろ、戦力差では圧倒的だった。

 

「――ッ!」

 

 P45Lをやっとの思いで引き抜いたコルネリエは、車に寄り掛かりながらも震える手で彼女も応戦する。

 だが応戦虚しく、二人はゆっくりと次第に押されていた。アリアも替えのマガジンから弾が尽きつつある。唯一、幸いなのはコルネリエの240SXが無事であるということ。

 

「アリアァー!」

「何よッ!」

 

 車一台を挟んで交わされる会話。

 銃声をBGMに、その様は戦争映画の見せ場で良く見られるような――そんな少し寂しげなもの。

 

「アリア、こっち! あたしが援護するから」

 

 痛みに耐えて立ち上がったコルネリエがP45Lとゴールドカスタムの二挺拳銃へ切り替え制圧射撃を開始。アリアはその間に頭を下げ、運転席側へと滑り込んだ。

 

「P45弾切れ!」

 

 スライドが後退したままロックして弾切れを告げると、彼女はそれを地面へ落とし、代わりに空いた手でゴールドカスタムのマガジンを素早く入れ換える。

 そしてアリアを呼び寄せた彼女は、そのままアリアの小さな身体を運転席へ片手間に押し込んでドアを閉めた。

 

「ちょっと!」

「アリア、行って! あんたが行った方がすぐに援護が来る。あたしはホラ、嫌われてっからさぁ……!」

 

 運転席ドアを開けようとするアリアを、背中で押さえつけながらコルネリエは自嘲気味に笑いながら話す。

 その間も次々に火を吹くゴールドカスタム。カスタムされたトリガーやサイト、バレルによって、その連射力と精度は拳銃でありながら相手を一人一人、的確に無力化していく。

 とはいえ弾数は最早少なく、全員を撃ち倒すのは不可能だった。アリアを逃がし、それまでの時間を稼ぐだけで精一杯である。

 

「駄目よ! 必ず助けるわ!」

「良いから行けって! その方が助けになるから! このままじゃ二人とも殺されるよ!」

「……」

 

 黙りこくるアリア。恐らくは迷っているのだろう。

 何人か撃ち倒したお陰で、銃撃は減ってきている。今なら、アリアが全力で車を出せば振り切れるかもしれない。

 なにしろ、あと数分も走らせない内に学園島なのだ。そこまで行けば、追っては来られない。

 

「行けッ!」

「わかったわよ! 良い? 死んだら許さないわよッ! そうなったら、風穴開けてやるんだから!」

 

 いつものきんきんとした舌足らずな声に怒鳴られながら、コルネリエは苦笑を浮かべた。

 アリアが操縦を始めた240SXは白煙を巻き上げて走り出し、包囲網を突破して走り去る。

 

「あー……慣れないことするんじゃなかった――」

 

 ゴールドカスタムの弾も、遂に切れる。

 海風がコルネリエの黒い髪を靡かせ、数瞬の時が無音で流れたその後、一発の銃弾がコルネリエを撃ち倒した。

 

(アリア、あと任せた……)

 

 視界に入ったのは、追っ手がアサルトライフルのストックを振り上げる姿。

 ごす、と頭部を激しく打ち付けられる音と鈍痛を感じながらコルネリエは意識を刈り取られる。

 アリアは今ごろ学園島に駆け込んでいる頃だろう。武偵の周知メールがどうなっているかは判らないが、とにかく一刻も早く応援を祈る――それさえも許されずに、コルネリエはSUVのトランクに転がされ、現場から連れ去られていった。

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