緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第四弾『眠りがあるなら目覚めまで』

 物々しい雰囲気に包まれた小さな部屋で、コルネリエは結束バンドで後ろ手に拘束され、椅子に座らされていた。

 

(最悪だぁ。なかなかキツい状況だねこれは)

 

 首都高速で拉致される際に受けた殴打で口を切ったらしい。コルネリエは鉄の味を感じながら周囲を見渡す。

 リーダーらしき人物は見当たらない。見張りについているのは一人だけで、定期的に入れ替わりで暴力を振るわれるだけだ。

 何をしたいのかコルネリエには理解不能だが、心だけは暴力に屈しない様強く持つ。

 

「いっ――つつ……」

 

 サラシも無造作にほどけ、制服さえ泥汚れで黒ずんでいる。何度も何度も床に転がされては、無意味に蹴られ続けた。殴られ続けた。

 それでもコルネリエは全く変わらない態度で耐え続けていた。

 

(もう周知メールは行ってる筈。スマホはGPS切ってないし、位置情報は通じるよね)

 

 武偵には様々な事件を携帯などの電子メールで通知するシステムがある。『周知メール』と呼ばれるそれは、事件の種類や犯人情報、現場の位置まで記される便利なものだ。

 無論、アリアが学園島に逃げた時点でコルネリエの拉致は明らかになったが、周知メールが組み合わされば救出作戦も動き出す筈。

 今は犯人に隙が無さすぎる。コルネリエが脱走するには、難しい状況だった。

 

(お願いね。みんな……ごめん)

 

 コルネリエにはただひたすら詫びる事しか、今は出来ない。

 

 

 武偵高では、コルネリエの拉致を受けて救出チームが動き出していた。

 救出チームは少数が先頭を切り、残りが援護という二段構え。先陣を切るのは勿論、逃げ帰る事に成功したアリアを中心としたチームだが、柄にもなくアリアは焦った様子で分解した銃を組み上げていた。

 

「アリア、何焦ってんだ?」

 

 外したスライドにバレルやスプリングを滑り込ませながら、手慣れた様子でベレッタを組み立てるキンジは、なかなか見られないアリアの様子にそう問わずにはいられなかった。

 理子や白雪、狙撃科(スナイプ)のレキも黙々と準備を進める、息も詰まるような空間でキンジに問われたアリアは、組み上がったガバメントのスライドを一度、二度、三度と引いてから横に座るキンジへ真っ直ぐに視線を配らせる。

 

「今回急がないと、かなり危ないわ」

「危ないって、それは当然だろ? 相手は先日コルネリエが対峙した金持ちの兄貴で、海外マフィアとも深い繋がりがある。早くしないと――」

「そうじゃないわ。むしろ危ないのは逆よ」

 

 どういうことか、とキンジが問うと彼の正面で刀の手入れを終えた白雪が代わりに答える。

 

「コルネリエさんはね、凄く実力があるの。でも精神的にその潜在能力を抑えてる」

「確かにアイツは凄いけど、まさか全員返り討ちにされるってことはないだろ」

「――そのまさかなんだよ、キンちゃん。もし今、何か本人に辛く耐え難いことがあって抑圧されていたものが爆発したら……」

 

 言葉を濁し始める白雪に代わり、今度はレキが朝葱色の髪をふわふわと揺らしつつ、ドラグノフを組み立て答えた。

 

「武偵法九条は確実に破られます。彼女には、それだけの実力がある筈です」

「レキまで……ちくしょう。とにかく急げば良いんだな? 判ったよッ!」

 

 準備にラストスパートを掛けるキンジ。

 作戦開始は迫っている。すぐそこまで。だが、その間にもコルネリエは理不尽に傷を負い続けている。

 

 

「おい、まだこのガキ放っておくのか? 中途半端に脱がせちまって、収まりつかねぇよ」

「変態が。――武偵共がもうすぐ大挙して押し寄せてくるぜ? そこの女ヤってるその間に、後ろからカマ掘られる覚悟があるなら、好きにしたらどうよ」

(ゲスい話……。もう何時間こうしてる? 寒い。アリア達は信じたいけど、ダメだ。やっぱ自分で動くしかない――なんか、ムカつくし)

 

 光の無い瞳から一転して目の色を変えたコルネリエ。見張り達の下世話な話を耳にしながら、彼女は改めて現在の状況を確認する。

 拳銃は無い。P45Lは首都高速に棄てたきりで、ゴールドカスタムは取り上げられている。部屋の中にあるテーブルに刀と共に置かれているが、縛り付けられているような状況では取りに行く事も儘ならない。

 

「……ねえ」

「あン? ンだよ、ガキ。まさか、お前からおねだりかな?」

 

 ヘドが出そうになる。先日の金持ちの方が余程礼節はわきまえていた。コルネリエはそう考えながらも、立ち塞がる屈強そうな男への言葉を更に紡ぐ。

 

「……なんでもする。だから、手だけ解いて。――じゃなきゃ、出来ない」

「ほう! いいじゃねえか。暴れんなよ……」

 

 自分で語って吐き気を催すが、たまには自分の性別と“本人が気付かないだけ”の美貌を利用する事も必要だ。勿論コルネリエは自身に人を魅了するだけの美貌があるとは思っていない。

 左目を隠しミステリアスなイメージを持ちながら、切れ長の眼で攻撃的な印象をすら同時に抱かせる彼女。外国人ゆえか、そのオーラも何処か大人っぽさを感じる。そんな女が『なんでもする』だなんて甘い言葉を吐こうものなら、下衆な考えをした男一人くらい、軽く騙せてしまうだろう。

 そんなコルネリエの言葉を案の定まんまと信じ、ケーブルタイをナイフで切った男は再びコルネリエの前へ現れた。

 持っている武器はPDW、AR-15系のクローンであるハニーバジャーだ。サプレッサーも搭載されている。

 

「じゃ、早速――」

「はいはい、早速ね――ッと!」

 

 愚かにも自身の欲に負け、人質の自由を作ってしまった男は一瞬にして胸ぐらを掴まれて頭を下ろされ、コルネリエの膝へ向けて顎を強打させられた。

 顎を砕かれ、声もあげられずに昏倒した男から易々とハニーバジャーを奪い取ったコルネリエは、異変を感じて扉を開け放った敵の一人へ一射を見舞って、同じ様に昏倒させる。

 優れたサプレッサーを持つお陰で、まだ他の敵は気付いていない。椅子を引き摺ってテーブルへ向かったコルネリエは、ハニーバジャーのストックを引っ掛けてテーブルを引き寄せる。

 

「よしよし。ラッキーッと」

 

 刀を抜き、足にも巻かれていたケーブルタイを切ったコルネリエ。これで彼女は完全に自由だ。

 服装は相当に危ういが、恥ずかしがっても居られない。

 ゴールドカスタムに弾が入っている事を確認して、コルネリエはハニーバジャーを捨てて部屋を出る。

 

「……どっちだろ。わかんないなぁ」

 

 出た先は迷路のように入り組んだ地下通路。とはいえ、そこは何処かの建物の地下管理施設にも見える雰囲気だった。

 歩けばマップの一つもあるだろう。気楽に歩き出したコルネリエ。そんな彼女の前へショットガンを持った敵兵が二人、角から現れる。

 彼女に気付いた敵兵達は得物を構えるが、それより早くコルネリエのゴールドカスタムが報復の銃弾を放つ。

 眠った狂犬が目を醒ます。床に転がる薬莢が、銃へ手を伸ばそうとする男の頭を踏みつけるコルネリエを映していた。

 

「……まだまだ居るねぇ。邪魔くさ」

 

 ゴールドカスタムを地面へ置いたコルネリエの現在地は、狭い通路の一本だ。辺りが騒がしくなっている事から、武偵高による救出作戦も進行している事がわかる。

 だが、それでもコルネリエ一人が相手にするには多勢に無勢の人数だ。数えてみれば十五人。それだけの人数がそこにいて、全員が上手くカバーし合いながら、コルネリエへその銃口を向けている。

 

「……」

 

 黙って駆け出したコルネリエ。刹那壁を蹴って飛び上がり、身体を捻ると背中の3ミリ程を掠めて銃弾が通過していく。

 刀の刃と峰をくるりと瞬時に切り替えて着地した彼女は、靴を鳴らしながら敵と同方向を向いたまま一打。直ぐ様に滑らかな歩法で転回して、次の敵へ更に一打を加えて無力化する。

 再び放たれた銃弾は銃口を見て予測し、再び峰と刃を入れ換えたコルネリエが真っ二つに切り分け、三人目へ滑り込む直前に峰へ切り替え一打。

 滑るかのように敵を次々と昏倒させたコルネリエが最後の一人へ峰打ちを加え、敵が崩れ落ちるより早く鞘へ刀を放るように滑り込ませて彼女は呟いた。

 

「話にならないね」

 

 ゴールドカスタムを再び拾い上げ、歩き去るコルネリエ。銃声は近い。

 交戦区域までは近いようだ。脱走した事をアリアに伝えなくては。彼女は銃声のより響くエリアへ向けて駆け出した。




メカ解説

AAC/Honey Badger
 .300AACブラックアウトと呼ばれる専用弾を使用する、AR-15(M16の製品名)のPDWクローン。
 タンカラーを基本とし、銃身長は極端に短い6インチ(M4CQB-Rは10.5インチ)とされているが、この銃の本質はサプレッサー装着による静音性にあり、画像などでは長大なサプレッサーが装着されている物が大半のため、固定式と勘違いされがちであるが、着脱は可能である。
 .300AAC弾を30発装填出来るマガジンを備え、薬室には無改造で5.56mmNATO弾を装填出来る上、M4等に使われるSTANAGも用いる事が出来るので、汎用性に富む。

シュヴェルト
 コルネリエが扱う刀。一見小難しいような名前をしているが、名前は単に『刀』のドイツ語である。
 刀とは言っても、日本刀のような反りがない直刀であり刀身もカーボンやチタンの合金を利用して徹底的に強度を上げ、高周波により対象を溶断する。
 その出力は凄まじく、ビルの柱一本や瓦礫程度ならば一瞬にして真っ二つにし、あらゆる扱いにも折れる事なく、数年間コルネリエを支えてきた。

 刀を操り戦うコルネリエの姿には、一部の者が戦闘機すら思い浮かべるという。
 素早く、読まれにくい独特の歩法によって滑る様に敵を切り刻む。
 彼女が一体何処で刀の扱いを学んだのかは、現在不明である。
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