「ぐはぁッ!?」
建物を占拠する敵兵の腹部に刀の鞘が突き刺さる。
崩れ落ちた敵を冷たい眼で見下ろすのは誰あろうコルネリエだ。仲間を探す内にあらゆる戦闘を重ねてきた彼女は、気付けば敵を殺傷する一歩手前にまで攻撃的な性格へ変貌していた。
だが、まだ明確に“九条”は破られていない。医者へ連れていけば助かるという具合でコルネリエはまだ手を抜いていた。
「しっかし。味方はどこだー? もうだいぶ近いんだけど……」
敵の持っていたリボルビンググレネードランチャーを拾い上げると、コルネリエは無骨なコンクリート打ちっぱなしの壁へ視線を配らせる。
良く良く聴けば、銃声は音が大きく響いている。室内で撃ち合いをしているなら、反響して篭った音になるだろう。
一瞬にしてそれを判断したコルネリエ。彼女の聴力もまた、不明な点が多い。
がしゃり、と物々しい音を立てる装備品の数々を持ちつつ180度振り向く。その先には、上階へと続く階段がある。彼女はそれを見つけると、一度悩むような仕草を見せて動きを止めた。
(仲間は外か。このエリアを捜しても多分意味は無いね。ここが何か分からないけど、屋上に出たいかな――。この辺りの敵は外の連中に付きっきりだろうし、一気に駆け抜けるかね)
考えを纏めたコルネリエは階段を上がり、屋上を目指す。一階へ上がってみれば、そこはすっかり廃屋と化したデパートであった。
最近の景気はめっきりと悪い。こうした大きな商業施設であればあるほど、ライバルが増えれば弱いものは脱落していく。まるで武偵――否、世界の『弱肉強食』を身近に体現したものと言えるだろう。
埃っぽい階段を次々と上がっていくと、屋上へ繋がる扉への道筋が崩落した天井によって塞がれていた。大穴の空いた屋根からは、曇り淀んだ空が見える。
軽い足取りで瓦礫を足場に、飛び上がって屋上で膝をついて衝撃を逃がす。コルネリエの耳が聴いた通り、銃声は外に出る事でハッキリと聞こえるようになった。
「ん」
屋上で周囲を見渡すと、そこに一人、RPG-7を構える男がいる。大方、対人に打ち込んで一掃するつもりなのだろう。
だが同時に、地下では聴こえなかったコルネリエの愛車の音も聴こえた。
(まさか、あたしの車まで吹っ飛ばす気かぁ? 冗談やめてよ)
片手でランチャーを構え、敵より少し離れた位置に着弾するよう調節してトリガーを引く。
かしゅん、と軽い音に腕を跳ね上げる強い反動がコルネリエの右腕を走り抜けて、屋上でグレネードがびりびりと空気を震わせ炸裂する。爆風を防ぐためRPGによる射撃を止めた敵は、グレネードが飛んできた方向へ小型のサブマシンガンを構えたが、そこにある筈の射手の姿はない。
「……ッせい!」
足音、そして掛け声を敵が聞く頃にはコルネリエの鞘が頭部へ直撃し昏倒していた。
ランチャーを捨て、駆け足で敵の裏を取ったコルネリエの一撃はそれほどに重たい。そして彼女は刀を置き、敵が置いたRPGを持ち上げる。
丁寧にも四発ほど替えの弾頭が用意されており、それならば充分に援護が可能とコルネリエは判断して、銃声を頼りに味方を探す。
「居た居た……」
RPGを肩に担ぐコルネリエの視線の先には、銃撃戦を繰り広げる仲間達の姿がある。
一手間違えば仲間へ危害を加えてしまいかねない要素をはらむロケットランチャーは、言うならば諸刃の剣だ。
トリガーを引けずにいると、コルネリエは廃棄された駐車場――ちょうど仲間の皆が戦うエリアの裏を取るように車が入ってくるのを見る。
恐らくは敵の応援だろう。一般人がこんなところを見に来る訳がない。十中八九、恐れて逃げる筈だ。
「それなら……」
牽制がわりに、と彼女はまず応援にやってきた敵の近くにRPGの対戦車榴弾を放つ。
勢い良くバックファイヤを吹き出して反動を抑制するRPG本体から飛び出した対戦車榴弾は二段目の加速に入り、着弾と共に大きく地面を窪ませる。
続いて足下に転がったRPG弾頭を足の甲で持ち上げてから手に取ると、発射筒へと捻り込んで再装填し、敵と味方を割るように地面へ撃ち込んだ。
「よし、次は――」
とにかく、コルネリエもここまで来てひたすらに援護だけを続ける訳にもいかない。
下へ降り、味方と合流して体勢を立て直すべきと判断した彼女だったが刹那、脇腹へ痛烈な殴打の様な痛みが走る。
振り向いた先には、ハニーバジャーを構えた一人の敵兵。バランスを崩し、建物から転落するその直前に刀を拾い上げて、コルネリエは重力に任せるまま転落していく。
高さにして二十メートル以上か。このままでは、まず無事では済まないだろう。
「――ふッ! くゥッ!」
空中で刀を振り抜き、建物の壁面に突き刺したコルネリエの身体はゆっくりと転落スピードを落としていく。
そしてある程度の高さで刀を引き抜いた彼女は、盛大に地面へ着地し膝立ちのまま刀を納刀し、地上へとやって来た。
「……全員、死の覚悟は出来たか」
柄を握ったままのコルネリエは、眼に影を落としつつ冷たく言い放った。
様子が変わった――明らかな変化だったが、アリア達がその大きな変化に気付くにはコルネリエとの距離が開きすぎている。
鍔を親指で押し上げ、刀身が煌めく。あまりの威圧感に、敵の動きが一時止まってしまう。
コルネリエが何故、仲間から『危険』と云われるのか――その秘密が、望まぬ形で明らかになろうとしていた。