緋弾のアリア スリーピング・ドッグ   作:鞍月しめじ

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第七弾『始動』

 強盗事件の起きたみずは銀行前は、警察や野次馬によって見事なまでに封鎖されている。

 コルネリエは構うことなく車体をスライドさせ、ステアリングを殴り付けるようにしながらクラクションを鳴らして全速力で大衆へ突っ込んでいく。

 

「フッ――」

 

 ぎぎっ、と鈍い音を立て車内で引かれるハンドブレーキ。同時に86のリアタイヤはロックし、けたたましいスキール音と共に車体は横を向く。

 慌てて逃げていく野次馬達を掻き分け現場へスライドしていく86のドアを開き、コルネリエはあろうことか、まだ停車していない車からそのまま降りた。

 ドライバーを失っても真っ直ぐに滑っていく車内から、蘭豹が叫ぶ。

 

「フェルトマイアー! あんたのや、使え!」

 

 離れていく助手席から蘭豹が投げ渡したのは、コルネリエが以前破壊するまで使っていたものより圧倒的に簡素な刀。

 それからシグMPXサブマシンガン。一体何処から出てきたのか判らないが、振り返る事なくそれらを受け取り、装備したコルネリエへ蘭豹から更に一挺の拳銃が投げ渡される。

 

「コンテンダーだ。ま、持っときますか」

 

 木目が美しいモンスターガン、コンテンダーをスカートに手挟んで彼女は再び刀を手に封鎖されたシャッターへゆっくり歩み寄る。

 警察が着々と特殊部隊の準備を整えているが、それではあまりに遅すぎる。

 金属の擦れる音と共にゆっくり引き抜かれたコルネリエの刀の刀身は赤色に輝いていて、とても単純に打った物とは思えない姿をしている。

 

「――せッ!」

 

 全員が刀を見た刹那、頑丈に閉められた入り口シャッターに幾筋もの切れ目が入る。

 コルネリエはそこから一つの破片に蹴りを加え、入り口を破壊。刀を振り回して演舞のように納刀し、MPXのコッキングレバーを引いて突入する。

 強盗全員、防弾ベストを着用しているらしい。コルネリエには関係の無い話ではあるものの、被弾対策を取っているなら多少は気が楽というものだ。

 

「……よっと」

 

 刀を左手に、MPXを右腕一本で支え、単射モードで次々と強盗達の膝を撃ち抜いていくコルネリエ。

 照準には寸分のブレもなく、ぴたりと合わさっては撃ち、次の瞬間には別な強盗へ照準を切り替え発砲する。

 フラッシュハイダーは激しい火炎を拡散させつつ、MPXの排筴孔からは次々と9mmパラベラムの空薬莢が飛んでは地面で跳ね回る。

 彼女の異常とも言える攻撃性と正確性は、ただの強盗には反撃する暇さえ与えられない程の物だった。MPXの弾が尽きるのを確認したコルネリエは、何をするでも無く無愛想に新鋭短機関銃であるMPXを投げ棄てて、刀へ切り替えた。

 

「これで粗方殲滅したかな……?」

 

 荒れ果てた銀行内。周囲には無力化された強盗達。

 だが、まだ隠れていた一人がコルネリエを静かに狙っている。

 

(気ィ抜きすぎだぜェ、嬢ちゃん。へっ! 所詮武偵ってのは、ガキの集まり――)

 

 強盗の余裕はそこまでだった。コルネリエが気付かないものと高を括っていたが、隠れていた彼の視線の先には振り返る事なくコンテンダーを向けたコルネリエの姿があった。

 

「ンなバカな!? どうして気付い――」

 

 言葉を遮り、とても拳銃とは思えない銃声と共にライフル弾を撃ち出したコンテンダーは火を噴く。銃弾は真っ直ぐに強盗のアーマーベストへ直撃。

 いくら防弾とはいえ、衝撃は無論伝わる。強盗の身体は大きく吹き飛ばされ、銀行のガラスを突き破り、身体を二転三転させてから気を失った。

 

 任務終了と共に、警察がドカドカと突入してくる。

 その中でのんびりと伸びと欠伸を交えつつ、コルネリエは呟いた。

 

「ふぁ~あ……。よーし、帰ったら寝よう」

 

 しかし、それは蘭豹が許さない。

 現場へ入ってきた蘭豹は、伸びをするコルネリエの腕を取って語る。

 

「あーフェルトマイアー、悪いんやけどお前しばらく宿直室暮らしな。何せ遠山達にバレるとうるさい。今はまだ、話す時やないしな」

「昼寝は……?」

「まあ、事情はあるにせよウチも教師や。休みと放課後、任務がない時だけ許可する」

 

 いくら仕方ないこととは言え、自由を失うと言うのは辛さがある。

 特に昼寝禁止令はコルネリエにとって、まさしく死刑宣告にすら等しい。彼女がやたらに睡眠を取りたがるのは、ぐうたらな性格というだけではない。

 超偵として消耗した体力を補う――回復するという意味合いがある。つまり、彼女は寝ないと身体が持たないのである。

 

「ま、とにかく帰るで。生活用品は、こっちにある。寮にあるモンは暫く我慢してな」

 

 ブラックマークを長く残したまま停車していた86に乗り込み、現場を走り去る二人。

 首都高に乗り、台場の学園島を目指しながらコルネリエは現在の状況を蘭豹から訊くことにした。どうせ昼寝は禁止されているのだ、任務に参加するか否かは別にしても、全く状況を知らないというのは些か問題がある。

 

「今は窃盗団の追跡や。明後日、大規模な一斉摘発がある。ただもう一つ、問題があってな」

 

 首都高台場線へ乗り、外を眺める蘭豹はどこかアンニュイに呟いた。

 

「――突入時間は夜なんや。だけど、最近走り屋どもが現場付近根城にしとってな。このままやと、作戦に支障が出る」

「――まさか、あたしに何とかしろと?」

 

 コルネリエが問うと、蘭豹は「ご明察」と人差し指を向ける。

 確かにコルネリエほどの人間離れした動体視力やドライビングテクニックがあれば、警察が手を焼くような走り屋も容易く逮捕できるだろう。

 つつ、とシフトノブを指先でなぞってつつくコルネリエ。なんだか納得がいかない、といった様子だがどちらにせよ選択肢など初めから無い。

 

「はいはい。で、何か注意は?」

 

 教師から直接出される依頼は断れない。それがルールだ。

 こくり、とシフトノブを動かしてギアを上げたコルネリエはゆったりと学園島へ降りていく。

 

「情報は内部的に処理、身元バレはアウト。それからもう一人、武偵が潜入しとる」

「高校の?」

「いや、そやない。東京武偵局のRランクや。暇そうやったから、昔のよしみでな」

 

 そう語る蘭豹だが、同時に疑問が生まれる。

 

「どうしてわざわざ武偵局から? 単に任務に邪魔だってだけなら、あたしが走り屋追い掛けて警察に処理させりゃいいでしょ」

 

 コルネリエの考えは至極真っ当。

 単に走り屋集団を押さえたいのなら、彼女の語る通りわざわざ武偵局が出る必要はないし、仮に武偵局から人間が出るなら、武偵高の人間は要らない。

 蘭豹はコルネリエの問いに、開けていたウィンドウを閉めてから答えた。

 

「今日夜走るらしいんやけど、どうもソイツら窃盗に一枚噛んでるらしいんや。だから一人足りとも逃がすワケ行かへん。お前は途中から乱入して、警察の目を引け。捕まるなよ」

「ハァ!? まさか――」

「そのまさかや。ほな、後でな」

 

 信号で停まった86から降りた蘭豹は背を向けたまま手を振って去っていく。コルネリエには察しがついていた。

 彼女の任務を、警察は知らない。故に捕まればまた刑務所に引き戻されるのだろう。

 とんでもないことになった、とステアリングにもたれ掛かるコルネリエ。だが、やはり迷っている時間はないのだ。

 垂れ流しだったラジオは夜ににわか雨が降ると告げている。きっと冷たい夜になるだろう。

 車の調整をしようにも、武偵高には戻れない。学園島から首都高へ上がり、街へ向かったコルネリエは廃車置場に車を隠して夜を待つ。

 

 それから暫く。

 ぽつり、ぽつり。装飾ステッカーの貼られたフロントウィンドウに、小さな雨粒が当たり始める。

 

「ん……時間かなぁ」

 

 車のセンターコンソールに取り付けられたデジタルクロックはちょうど良く、走り屋達には都合の良い時間を示していた。

 綺麗さっぱり、睡眠で力を蓄えたコルネリエはロールケージで狭苦しくなった車内で伸びをし、シリンダーに差しっぱなしのレオポンキーホルダーのぶら下がった車のキーを捻り、エンジンを掛ける。

 

「それにしても、Rランクねぇ。想像もつかないや。やっぱ鼻につくようなヤツかぁ?」

 

 エンジン温度が充分に上がったのを確認し、スロットルを数回開ける。低い唸るようなエンジン音がマフラーを揺らし、タコメーターの針を鋭く持ち上げる。

 HIDライトが照らすのは、廃車の山。コルネリエはこれから走り屋達の“遊び場”を目指して走り出すのだ。

 ゆっくりと転がるタイヤは砂利を踏みにじり、出口に車体が向けられるとコルネリエは一気にアクセルを床まで踏み込む。

 

「っし! いっちょやりますか」

 

 濡れそぼった地面がコルネリエの操る86を美しく照らし、ライトの灯りはきらきらと水溜まりで反射する。

 雨粒が滑る車体は街灯に照らされ、グラマラスな外観をよりセクシーに際立たせ、メーターイルミネーションの灯りしかない車内に街頭が何度も光を入れていく。

 車体をスライドさせるとタイヤは水を跳ね、エンジン回転数はタイヤの空転により激しく跳ね上がった。

 そんなコルネリエと86の横を、五台の改造車が通過していった。紛れもなく、標的だ。内一台は味方との話だが、関係あるものか。

 

「よーし! あたしも久々に本気だ!」

 

 車列に交ざるコルネリエ。ここで、走り屋を相手取ったレースが始まる。

 警察無線も騒がしくなってきた。直に、より喧しくなるだろう。

 六台の改造車は闇に消え、けたたましいエンジン音は眠ることの知らない都内に響き渡る。




メカ解説

SIG SAUER/MPX

 シグザウエルがMP5の対抗馬として制作したと言われるサブマシンガン。
 操作系統はM4/M16とほぼ同様とされ、ライフルとの交換も容易になるよう配慮されている。
 内部機構にはライフル同様のガスピストン方式を採用し、ローラーを利用するMP5との明確な差別化を図っている。
 使用弾薬は9mmパラベラム弾だが、ボルトや銃身交換によって簡単に.357シグ弾や.40S&Wにも対応できる、システマウェポンとなっているのもセールスポイント。

Thompson Center/Contender

 一部アニメの影響で日本でも有名にもなっている、シルエットハンティング用ブレイクオープンシングルショット式拳銃。
 見た目はどこか古いライフル然としており、射撃に必要な機構以外は一切無く、装填から排筴まで全て手作業で行うという潔さ。
 しかし、それ故に簡単な交換で.22LR弾からフルサイズライフル弾まで対応するという強度を持ち、後に発表された『アンコール』では.30-06スプリングフィールドといった、より強力なライフル弾にも対応した。
 コルネリエに渡されたものは、5.56mm×45弾を使用するノーマルモデル。
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