プレイヤー目線の話になります。
実際の展開に忠実というわけではないです
横押しを好む奴だということは、二戦やってよくわかっていた。
私は端に退けていた灰皿に手を伸ばし、煙を打ち上げているマルボロの先端を擂り潰した。二戦のうちに手は温まってきていて、意識も深いところへと入ろうとしている。それは相手も同じで、ここからさきは煙の薄い筋さえも邪魔だった。
画面の中でCPUが私のキャラクターを散々に打ち据えていた。特に気にせずに待った。あちら側で硬貨の投入される音がした。騒がしいゲームセンターのなかで、その音だけはいやに大きく私の耳に響いた。少し前傾姿勢になり、左手でレバーを握った。右手の人差し指から三本は、パンチボタンの上だ。
一勝一敗だった。一戦目が私の敗けだ。地上戦にまともに付き合ってしまった。バックステップを狩るのはあまり上手くなかったが、端まで追い込まれた。起き攻めは崩しというよりもバックステップを誘っている感じで、相手は勝利へのビジョンを持っていて、私はそれに乗ってしまったという形だった。
二戦目は飛んだ。差し合いなど、格好だけだ。いつ飛ぶかということだけを考えていて、時々振る地上攻撃などはほとんど気のないものだった。その飛びが機能した。あちらからすればがっぷり四つ組もうとして外されたというところだろう。それも、勝ち方だった。
乱入者を知らせる文字が画面に踊った。それから、キャラクターセレクト。組み合わせは変わらなかった。超必殺技の選択も先ほどと同じだ。右側だった私のキャラクターが左に移った。違いといえばそれだけだろう。
ラウンドコール。始まった。私はキャラクターを僅かに下がらせた。相手がしゃがみ中キックを振り、空ぶった。画面に映ったのはそれだけだが、あちらのレバーはもうひとつ動いていた筈だ。中足に仕込まれた突進技を一戦目は散々に喰らった。それから、少し歩いて強キック。横押しに拘っているのがよく見えた。飛びよりも、前歩きと牽制。軌道変化技があるので飛びも悪くない筈だが、それを使ってこないのは戦略というよりもやはり拘りというべきだろう。
私は飛び道具を撃った。中足に仕込んでもいいが、差し返しはいかにも狙っていそうだ。ガード。構わなかった。EXの突進技で抜けられるが、前歩きへの拘りは咄嗟の飛び道具抜けをさせない筈だ。昇竜に化けないための一手間が、飛び道具抜けをさせない距離だった。
三度、続けて撃った。相手の頭に飛びの選択肢がよぎっただろう。ここだった。先に、こちらが飛ぶ。めくり気味。見えづらいが、ガードされた。だが、こちらの有利だ。すぐに投げた。通った。起き攻めも、飛びだ。素直に起き上がってきた。それは作戦や拘りというより、手癖の動きに見えた。
表の軌道。竜巻を入れた。表が、裏に変わった。相手が蹴り飛ばされた。追いかける。相手の起き上がりとほぼ同時に到達した。しゃがみ中パンチ。グラップ仕込みの弱パンチを潰した。竜爪を入れ込んでいた。繋がる。コンボを続けた。昇竜で締めたとき、既に相手は虫の息だった。飛びから近距離中キック。昇竜をガードしたところで、相手の体力がきれた。
小さく息を吐いたとき、ため息が聞こえた。向こう側からで、それは微かな苦笑いを含んでいた。勢いというやつがある。ゲージや体力とはまた別のもので、それが傾いたのは誰の目にも明らかだった。
私も笑みを浮かべた。慢心かどうかは次のラウンドが証明してくれるだろ。第二ラウンドのコール。レバーは、斜め上だった。
ちなみに負けてる方が作者です