やはりどこでも歳末は忙しい。
「なあおいフォルテ。オレら何してんだ?」
「宇宙に暴走した機械を止めに来たんすよ。なんでも、制御下から離れたとか」
「ちゃんと管理しとけっての。何してんだあの人達」
亡国機業の元に下ったフォルテ・サファイアとダリル…もとい、レイン・ミューゼル。
彼女達がいるのは暗い空。それもそのはず、彼女達は現在宇宙飛行パッケージを装備させた専用機を操り、宇宙に来ているのだから。
「目標は謎の良くわかんねぇIS」
「ちゃんと話は聞いといてくださいっす。目標は高度エネルギー収束砲エクスカリバー。まじ、まともに食らったらダメなやつっす」
「マジなやつで?」
「マジなやつっす」
軽口に叩きながらも強敵に挑むのはIS学園にいた頃と変わっておらず、エクスカリバーの施設内部への侵入を試みる。
「お邪魔すんぞー」
「お邪魔しまーっす」
その重厚な外見からは想像もできないほど簡単に、施設内部への侵入を果たす二人。
「おろ?」
「んえ?」
しかしその数秒後、彼女達の通信は途絶えた。
地上の上、空の遥か上。
皮肉にも、ISが開発された本来の目的の活動の場、宇宙から、地球に危機が迫っていた。
◇
「もー、いーくつねーるーとー、おーおーみーそーかー」
「こどもの日にはー、チョコ食べてー」
「コスプレをしてー遊びましょー」
「はーやーくーこーいーこーいー、せつぶーんよー」
「いや、色々混ざりすぎだろ」
本来は元旦に向けての歌だが、最初に大晦日、その次にこどもの日、バレンタインデー、ハロウィン、節分と様々な行事が混ざっていくその替え歌は、時守を先頭として、簪、楯無、本音というメンバーにより生徒会室の中で歌われていた。
「お盆とか海の日入れたバージョンもあるぞ」
「それ休日ならいくらでも作れるじゃねぇか」
「…てかこの替え歌JASRA〇大丈夫かな」
「原曲の面影がほとんどないから大丈夫じゃないか?」
替え歌を歌っていた4人と一夏、虚を入れたいつもの生徒会メンバーがこの生徒会室に集まっていた。
といっても、ただ集まっているだけではない。
「ねぇ剣君、一夏君。冬休みの予定って、二人ともどうなってる?」
「ん?俺はアレや、前に言うた通りこの冬は普通に自由やで。どこに旅行に行ってもいいし、どこで年越ししてもいいらしいわ」
「なら、私たちの家に来ない?シャルちゃんやセシリアちゃんも日本で年越ししてみたいって言ってるんだけど…」
「絶対行くわ。…予定入れられたらロジャーぶっ飛ばしたろ」
「年末のお泊まり会の前に〜、大掃除とかぁ〜、クリスマスでの飾り付けとかも、いちお、生徒会のお仕事だよぉ〜」
「だってよ、剣」
「黙れ童貞。お前も生徒会やろが」
「ど、どどど童貞は関係ねぇだろ!?」
「関係ない、とはあながち言えないかも知れませんよ。一夏くん」
狼狽する一夏に、トドメの一撃を刺しにいったのは意外や意外。虚だった。
「クリスマス・イブは学生であろうとカップルが最も性交をしやすい日だと聞いたことがあります。しかし、クリスマスをぼっちで過ごすことを回避するためだけに付き合った彼女とはそんな夜は過ごせず、すぐに別れてしまうのだとか」
「そ、それで…?」
「結論から言います。12月に入った時点で、一夏くんに彼女が出来ていないのならば、クリスマス、並びにクリスマス・イブには大した予定は入っていません」
「……はい。その通りです…」
「クリスマス・イブが誕生日だと言っていたセシリアさんはお嬢様達と共に過ごすようですし、私は…その、弾君と会うことが決まっていますので、クリスマス・イブとクリスマスには一夏くんだけが残ることになりますね」
「…の、のほほんさんは?」
「おー、デートのお誘いー?」
「本音は布仏家での大掃除があります」
俗にいう詰んだ状態である。
本来ならば数馬や弾と男だけでの慰め合いをするのだが、弾は駆け抜け。数馬は期末テストの補講が決まっているらしい。
自分が高校に入っても遊んでくれる友人がそれだけしか居ないことに内心絶望していると、時守から助言が飛んできた。
「せやったら、モッピーとかと遊べばええやん」
「え、箒?」
「おぉ。それと鈴とラウラでも連れて4人で遊園地でも行ってこい。あ、後、蘭ちゃんとかも誘ってみたら?」
「うーん…。みんな誰かと遊ぶんじゃないか?」
「今すぐ聞いてみろ。30秒以内にオッケー貰えるわ」
「…分かった」
渋々、かつ少し緊張しながら4人にメッセージを送る一夏。
すると、時守の言った通り速攻でオッケーの返事が帰ってきた。
「マジで返ってきたんだけどどうしたらいいんだ…」
「行けばええやん。5人で」
「蘭とラウラは初対面だぞ?」
「お前が紹介したったらええやろ」
「まあ、それもそうだな」
簪を膝の上に乗せながら椅子に座っていた時守は、少し目線を下げて机の下で携帯電話の通知を確認する。
そこには、箒、鈴、ラウラ、蘭からの夥しい程の感謝のメッセージが届いていた。
彼女達4人は一夏のことが好きだ。だが、彼が自分からクリスマスに誘ってくることなど、誰かに言われなければしないということも知っていた。
「一夏くんも、そろそろ彼女とか考えたら?」
「んー。そもそも、俺を好きになってくれる人がいるか分かんないですし、まだそれほど余裕が無いですから…。恋愛は、もう少しISで強くなってから考えます」
「おー、その意気や。俺もその考えで強くなった」
「ほんとかよ」
「マジやで。告白するなら強くなってからって思ってたら死にかけた。てへっ」
「っ!てへっ、じゃないっ!」
「ふごっ!?」
膝の上で抱きしめていた簪の後頭部による軽い頭突きを喰らった時守が小さく悲鳴をあげる。
「ほんとに、もうあんなことしちゃ、嫌だから…」
「ごめんって。気ぃ付けとく。かもしれない運転やな」
「ISのかもしれない運転ってなんだよ」
「もしかしたら裏切り者が出るかもしれないので、怪しいものはとりあえず潰しておく」
「ただの通り魔じゃねぇか!」
気をつけてくれるんだったら、いいよ。と小声で囁く簪が愛おしくてたまらなくなった時守が簪を強く抱きしめ、その2人のやり取りを見ていて我慢できなくなった刀奈が背後から時守を抱きしめた。
苦しそうにしながらもどこか嬉しそうな簪を抱きしめる時守を、刀奈が胸を押し当てながら背後から抱きしめるという構図が出来上がったが、この3人でいる時は割と日常茶飯事なので虚も一夏も本音も気にしてはいなかった。
「それはそうとね、剣くん。さっき本音ちゃんが言ってたクリスマスの準備なんだけど、私たちで買いに行かない?」
「んじゃ、どこ行く?」
「わ、私も見たいものあるから…、れ、レゾナンスでいい…?」
「ならわたしもついていく〜。これでもいちお、かんちゃんのメイドなのだから〜」
「では、私と一夏くんはここで留守番、ということですね」
「一夏くん。虚ちゃんが魅力的だからって、襲っちゃダメよ?」
「お、襲いませんよ!」
「お嬢様っ!からかうのはやめてください!」
「んもう、冗談よ、冗談。そんなに怒らないでよ」
顔を赤くした一夏と虚を見て微笑む刀奈。
彼女がいない一夏はともかく、弾という彼氏がいる虚もそういう反応をするということは、まだそういった経験が無いのだろう。
「じゃあ、改めて剣くん。明日、駅で待ち合わせね?」
「ん。…ちゃんと起きや、のほほん」
「わかってるわかってるぅ〜」
ぱっと開かれる刀奈の扇子。
そこには、「日曜日」と達筆に書かれていた。
◇ ◇
「なあ簪。見たいもんって何?」
「えっと、その…。服とか、いろいろ…」
「ん。刀奈は何もない?」
「う〜ん、そうねえ。アクセサリーをちょっと見てみたいぐらいね」
「ほうほう。のほほんは?」
「わたしは〜、ちょっとおっぱいが大きくなってきたから〜、ブラジャーが見たいのだ〜」
「女の子が彼氏でもない男子にそんなこと言うんじゃありません」
「てひひ〜」
翌日の朝。
約束通りに駅前で集合した4人は、レゾナンスへと向かっていた。
事前に部屋で、どういった店に行ってみたいかは話していたのだが、今日の彼女たちの気分はどうなのかを確かめたのだ。
「ほな、服見てからご飯食べて、またそこからどっか行くって感じやな」
「そうなるわね」
店内に入り、ぶーらぶーらと練り歩く。
刀奈は大半の冬服を既にロシアで仕入れているということなので、この場で買うのは簪と本音、時守の3人の物になった。
その一行の視界に入ってきたのは、クリスマス関連のグッズの数々。
時期的に言えば当然なのだが、この1年があまりに忙しかったため、実感がわかなかったのだ。
「…サンタか。去年の今頃は金属バットでぶっ飛ばしたいぐらいにウザいおっさんやったな」
「け、剣のお家には、サンタさん来なかったの…?」
「絶対寝やんとこと思って目ぇ見開きながら布団の中に居てたら、呑んで帰ってきた親父が脱いだ靴下を俺の枕元に置いてそのまま風呂入りに行ってん」
「えぇ…」
「んでその翌日にクリスマスのプレゼント間違えたって言われて渡されたのが赤本2冊」
「確かにクリスマスカラーだけどぉ〜…」
時守の言い分としては、受験生のクリスマスなのだからその程度で大丈夫だということらしいが、本人が気に入らなかったのはその前の出来事。
酔って帰って来た父の靴下があまりに臭く、吐きそうな思いをしたという。
「なんか、刀奈達の家はクリスマスパーティとかプレゼント交換とかしてそうなイメージするわ」
「クリスマスパーティはしてるわね。プレゼント交換も、みんなずっと一緒にいるから、大体好みの物は上げちゃって候補が無くなりだしてからやめたのよねぇ…」
「なんかそこんとこリアルやな」
「そうなの。簪ちゃんとか、私に仕返しと言わんばかりに毎年裁縫セットを選ぶのよ?」
「…そういうお姉ちゃんも、私に向けて最近毎年豆乳選んでくるのに」
「わたしは〜、きぐるみだったよぉ〜」
「虚さんに回ったらどうすんねんそれ」
「……1回、本音が間違えて買ったキッズサイズのきぐるみが虚さんに行ったんだけど…色々と、凄かった」
着させられて羞恥に悶え苦しみ、炎が上がるほどの怒りを顕にしつつ、そのスタイルが凄まじかったらしい。
「んでカナが弄ってのほほんが怒られて簪は宥めてたと」
「凄い…。なんで分かるの…?」
「いや、なんかその時のまま変わらず成長してんなって」
本音のふわふわした行動をカバーするために虚が東奔西走し、その虚を見て刀奈が弄り、怒りそうになったところを簪が抑える。
それが今の4人の日常だった。
「むっ、何よ剣くん。私達が幼いとでも言いたいの?」
「昔の可愛らしさも残ってるってことや」
「てひひ〜、ほめられたー」
「のほほんは…うん。なんかほんまにそのまま成長してそうやな」
そのグラビアアイドルも青ざめてしまうようなグラマラスな身体以外、本音はそのまま育ったのだろう。
その分、虚の心労は耐えなかっただろうが、本人もさほど嫌がっていないので良いのだろう。
「ねぇ剣くん。私、剣くんの昔のこともっと聞きたいわ」
「ほえ?…俺の?」
「えぇ。簪ちゃん達は臨海学校の時に理子ちゃんに聞いたらしいんだけど、あれからなんだかんだ忙しくて聞けてないのよ」
「ほうほう。ええよ。…って言っても、そんな大したもんちゃうけどやな」
ゆっくりと歩きながら時守が話していく。
4人の時間は、それと同じほど穏やかに流れていった。
◇ ◇ ◇
「どういう、ことだ…」
時守が刀奈達に昔話をし始めていたのと同時刻。
IS学園の職員室の自分に割り当てられた席で、千冬はモニターの前で頭を抱えていた。
「凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒ、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、篠ノ之箒、織斑一夏、更識簪、更識楯無、共に稼働率最高。なおも上昇し続けており、第二形態移行並びに単一仕様能力の発現の可能性高まる…」
そこに映し出されているのは、世界各国、組織から送られてきた教え子達のISの稼働データ。
その誰もが、異常なほどの成長を果たしていたのだ。
そしてやはりというか、その最たる例が、彼だった。
「…時守、剣。上限、不明…。ISのさらなる形態変化の確率、99.7%…。操縦者と機体の相性、常時最高状態。なんだ、これは…。まだ、終わりでは無いと言うのか…?」
千冬自身、自らが世界で初めて成功させた第二形態移行の先、時守が成し遂げた第三形態移行すら初めて見たのだ。
しかし、データは彼はまだ進化すると語っていた。
「今の時守が手を抜いているとでも言いたいのか…?…いや、そんなはずがない。手を抜いて第三形態移行など、出来るはずがない…」
手を抜いていない。彼は、全身全霊でIS関連を鍛えている。
だが、最近は一時期ほど、自分を追い込んでいない。
ならばなぜ、彼の上限が分からないのか。
千冬はその答えに、既に至っていた。
「完全同調、だな。ISコアと自身の自我を、半強制的に融合させる…。それで、『金色』と時守の相性が最高状態となり、いくつもの進化の可能性が芽生えた、と」
彼が発現させた単一仕様能力、『完全同調』
一見すれば、ただISと操縦者の間に存在する電位差を無くすことによって操縦時のラグを無視するという効果のそれだが、中身を見るとそうではない。
発動している状態ならば、ISの設定を変更出来たり、その状態で他のISに触れても同様のことが出来たり、コアと特別な空間で話すことが出来たりするなどである。
「…まだ分からんことだらけ、ということか」
空前絶後のブラックボックス。
その中身を理解できているのは開発者の篠ノ之束だけだと言われているISコア。
束の親友である千冬ですら分からないそれは、まだまだ秘密に包まれていた。
「いや、分かっていることは一つあるか…」
そう一人ボヤきながら、千冬はデスクトップ上の一つのアイコンをダブルクリックし、開く。
そこには、稼働データを送ってきた世界各国、組織からの『IS学園でのこれまでの実績を送るように』と言った内容のおびただしい程のメールがあった。
「………私の仕事が終わらないということだ…」
元世界最強、織斑千冬。
現在の職はIS学園のただの一教師。
ただ物理的に強いからというだけで跳ね返せることは、想像以上に少なかったのだ。
「ふ、ふふふ…。終わらなーい終わらなーい…。仕事が終わらないー」
夏休みに合コンで見事に彼氏を引っ掛けた同僚は、この12月は予定で一杯である。
千冬と真耶、特に千冬はなぜか忙しかった。
「…イブ、クリスマス、年末…、彼氏と家でいちゃいちゃゴロゴロ…。はぁ…」
弟の一夏、もう一人の男性操縦者の時守、束の妹の箒の入学。
それから起きる数々の事件。
様々な国から送られてくる、そして送らなければならないデータの数々。
増えていく事務作業。生徒から出てくる多くのクレーム。
寮長としても、担任としても、IS操縦者としても、千冬は疲弊していた。
「…時守ぃ……」
良くも悪くも、様々な方法で常に千冬のストレスの元となり、またストレス発散の道具となってきた時守。
「……別に、私だって依存してもいいじゃないか」
誰も見ていないところで、机に突っ伏しながらぷくーっと頬を膨らませる。
今まで、束ほどまでとは言わないものの対人関係で、時守ほどは上手くいってこなかった千冬。
何だかんだで、彼女は時守のことを気に入っていた。
「ま、まあ私はあいつのコーチだからな。これからもシゴいてやろう」
最近、というより時守が国際連合宇宙開発専用ISステーションが帰ってきてから、彼はまだメキメキと力を付けてきている。
打鉄では、弟子相手に快勝出来ることも少なくなってきた。
「…暮桜」
千冬が零すのは、かつての相棒の名前。
その言葉を聞いてなのか、千冬の携帯がぶるりと震えた。
「……ん?電話?」
数回の間、続けてバイブレーションが続いたので、携帯をジャケットのポケットから取り出す。
画面を見るとそこには、久しく懐かしいようで、良く見る名前がそこにあった。
「――束?」
今年も短いですけど頑張りますよっ!
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