まともという言葉の意味が分かんないです。マジで。
性…
ただの誕生日パーティーの感覚でその日を迎える者と、決戦前夜と言わんばかりに気合いの入っている者の二種類に分かれるこの日は、セシリアの誕生日である。
大きな城で行われる彼女の誕生夜会では、メイドたちがあれやこれやと忙しそうに走り回っていた。
自らの仕えるべき主に尽くすという、メイドの本分であり本望を成し遂げるため、奔走している。
そして城の一室、ドレスルームでは下着姿の―
「やべ、ぽこちんかゆい」
「お前なぁ。ここセシリアの城だろ?」
「かゆい状態でセシリーに会う方が失礼やろ」
「…まあ、彼女の前では確かに痒くなって欲しくはないな」
「せやろ?」
―時守と一夏が着替えていた。
「それにしても、こうして平和にクリスマス・イブが迎えられるとはな」
「やー、ほんまそれやで。セシリーの誕生日も点滴ぶすぶす刺されたまんまで出なあかんとこやったわ」
「白式もだけど、そう考えたら金色もピーキーだよな」
「言うな。それに、一応もう克服はできてんねん」
「え、そうなのか?」
「お披露目はもうちょい先や。お楽しみ」
トランクスの上から股間を掻いていた時守は併設されていた蛇口で手を洗うと、持ってきていたタキシードに着替えだした。
「別に普通のスーツでもええと思うねんけど、どうせやったらな」
「それ、自分で用意したのか?」
「おう。この前の修学旅行の時にいとこのとこ寄って仕立ててもらってん」
「本当にお前の親戚どうなってんだよ」
「そんなん俺に聞くな」
対する一夏はドレスルームにあらかじめ置かれていたスーツに着替えていた。
「てかさワンサマ」
「なんだ?」
「IS学園戻ったら模擬戦しよや」
「いいけど…。どうしたんだ?急に」
「別に。…ただ」
「ただ?」
言葉を区切り、ズボンのチャックを引き上げる時守。
「第三形態になって、だいぶ変わったやろうからな腕試しに付き合ったるわ」
「本音は?」
「顔面とか躊躇なく狙える男子と戦いたい」
「…まあ、その気持ちは分からなくはないけど…」
会話の内容が今日の誕生日パーティーにふさわしくないものとなっていくが、それもまた仕方のないことだった。
「でも、なんでそんなに急なんだ?」
「え?いや、お前も性能確かめときたいやろ?」
「そうだけどさ…」
「それに…」
獰猛な笑みを浮かべて、時守は静かな声で言い放つ。
「どんぐらい強なったんか、本気で戦いたいねん」
「…分かった。んじゃ、戻ったらやろうぜ、模擬戦!」
「おう」
時守にとって、三次形態移行というのは、正しく嬉しい悲鳴というものに等しかった。
皆から褒められ、目標にされ、様々なことを聞かれ、守りたいものをしっかりと守ることができ、尊敬の目を向けられることも少なくなかった。
しかし、この男はそんなものよりも、対等以上に渡り合えるライバルを欲していたのだ。
「全てを初期化するワンオフ、か」
「へへっ。使い方には気をつけるけど、油断すんなよ?」
「はっ、お前もな」
会話が終わったタイミングで、一夏がに着替え終えた。
「ほな行こか。…セシリーのドレス姿とかガン見すんなよ」
「分かってるって」
きっちりとしたスーツとタキシードに着替え終えた二人。
彼らは揃って、ドレスルームを後にした。
◇
「それでは、セシリア・オルコット様の誕生日パーティーにお集いの皆様、今宵は盛大な祝福をよろしくお願い申し上げます」
セシリアのメイド長、チェルシーがそう言うと、社交界の紳士淑女は一斉にセシリアの元へと詰めかけた。
「…行かなくてもいいの?剣」
「IS学園とここやったら立場がちゃうから、セシリーもいろいろせなあかんやろしな」
「あら、結構落ち着いてるのね。剣くんのことだから、てっきり一番先に行くものだと思ってたわ」
「…あのジジババ共さえおらんかったら…!」
「剣、漏れてる漏れてる」
そのセシリアから少し離れたテーブルで、時守、簪、楯無、そしてシャルロットの四人はグラス片手にその様子を眺めていた。
体臭と化粧で臭そうな人たち(時守の偏見)に囲まれつつも、セシリアは嫌そうな顔一つせず、丁寧に対応しているのが分かった。
「指一本でも触れたら『雷轟』で消し炭にしたんねん」
「簪ちゃん、どうしましょ。私たちの旦那さまの愛が重いわ」
「…軽いよりは、良い。…美味しい」
「あ、簪のそれ美味しそう」
もちろんセシリアが招待している人物たちが彼女に変なことをするとは信じたくないのが本音だ。
紳士淑女たちの監視もそこそこに、時守たちは料理を堪能し始めた。
「あれ、そういやワンサマは?」
「社交界の空気に耐えきれなくなって…逃げたらしい…」
「あーあ、出世への第一歩ミスりよったな」
「リアルなこと言わないでよ…」
「んー、一夏くん。モンド・グロッソはどうするつもりなのかしら」
「……ボッコボコに叩きのめす…!第三形態がなんぼのもんじゃ…!」
「その意気やぞー、簪ー」
すでに出場選手として内定している時守と楯無。
特殊第三世代機の『輪廻の花冠』を操るシャルロットも、IS学園でもアピールがうまくいけば代表になれるだろう。
セシリアも、イギリス代表候補生の中で唯一専用機をもらえている実力者だ。
だが、日本の代表争いには、専用機持ちが多すぎるのだ。
「はっはっは。楽しんでるかい、時守くん」
「あれ、なんでおるん」
「一応君の上司ってことで呼ばれたんだ。こんばんは、更識楯無くん、更識簪くん、シャルロット・デュノアくん」
「こんばんは、ロジャーさん」
「こ、こんばんは…」
「こんばんは。いつも剣がお世話になってます」
「えっ、ちょっと待ってやシャル」
そんな四人のテーブルに近づいてきたのは、先日の作戦の最後に姿を見せた国連事務総長のロジャーだった。
楯無と簪、シャルロットにも挨拶をすませると、彼は再び時守に話を振った。
「今日はセシリアくんの誕生日でもあるが、同時にクリスマス・イブでもある。…くれぐれも、気をつけながら楽しみなさい」
「何にやねん」
「今日の夜だよ」
「別に俺とセシリーたちが何しようとええやん。ちゃんと付き合ってんねんし」
「いや君たちまだ未成年だからね?」
「愛に年齢は関係ないやろ!」
「……まあ、うん。そうだけど」
時守の謎の正論(?)により、論破、というより反論する気を削がれたロジャー。
彼の彼女たちが顔を少し赤らめているところを見ると、釘を刺しても刺さなくても今日の夜の予定は決まりきっていたのだろう。
「おっと。どうやらセシリアくんがこちらに来るようだ。私はそろそろ他の人と話に行くよ」
「ほなまた。年末に、やったっけ?」
「あぁ、本部に来てくれたまえ」
「了解了解ー」
ロジャーとの別れを軽く済ませたところで、4人のテーブルにセシリアが駆けてきた。
「お待たせいたしましたわ、皆さん」
「ん、お疲れ様」
「ロジャーさんとのお話は良かったのですか?」
「軽い挨拶程度やったからな」
すでに年末に国連本部に向かうことにはセシリアにも伝えてある。
さほど言うことがなかった時守は、それに軽く答えて彼女を受け入れた。
「セシリア、おめでとう」
「ありがとうございます、剣さん。こうして、この城でこれ以上にないバースデーを迎えられて、とても幸せですわ」
「ふふっ。おめでとう、セシリアちゃん」
「おめでとう、セシリア」
「おめでとう…、セシリア」
「皆さんも、本当にありがとうございます」
オルコット家の当主としてのセシリアと、IS学園の生徒としてのセシリア。
この場にいるのは、もちろん後者としての彼女だ。
しかし、彼の前だけでは、ただの生徒では終わらない。
「…剣さん」
「よう似合っとる。…綺麗や」
「はぅ…」
時守剣。
彼の前では、彼の恋人の一人としてのセシリア・オルコットになってしまうのだ。
セシリアの透き通るような綺麗な金髪を撫でると、彼女は気持ちよさそうな声をあげる。
「少し、派手すぎではないでしょうか…」
「大丈夫や。…セシリアの魅力を良く引き出してる」
「それなら良かったですわ」
セシリアに構いすぎだ、と3人は言わない。
今日という特別な日はだけは、セシリアを優先してあげてほしいと、3人から言ってきたのだ。
「…ねぇセシリアちゃん。剣くんと二人でバルコニーにでも出てみたら?」
「えっ…。た、楯無さん…構いませんの?」
「もちろんだよ、セシリア」
「今日は…セシリアのための日だから…」
「シャルロットさん、簪さんも…」
セシリアの目頭が思わず熱くなる。
ただでさえこうして平等を崩した扱いを受けさせてもらっている中で、セシリアが一番して欲しいことすら実現してくれるのだ。
「わたくしは、本当に幸せものですわ…」
「じゃあセシリア」
「えぇ」
セシリアの手を取り、バルコニーまでの短い距離のエスコートを始める時守。
「1年に1日しかない大切な日ですもの、ね?」
「はいっ。…セシリア、幸せそうでしたね」
「……でも、日付が変わった瞬間…」
「「「うふふふふふふ……」」」
今夜はこのセシリアの
クリスマス・イブ、セシリアの誕生日、泊まるのは彼女の家、そして言ってしまえばセシリアの寝室に誘われている彼と彼女たち。
これだけの条件が揃っていて、あの彼が夜に手を出さないはずがない。
そこには、彼に対してのある種の信頼があった。
◇ ◇
「…空気が、澄んどる」
「星も良く見えますのよ」
「あぁ。凄い、綺麗や…」
イギリスの夜空の下。
時守とセシリアはバルコニーで二人だけの時を過ごしていた。
「ま、セシリアの方が綺麗やけどな」
「言うと思ってましたわ。…ふふっ」
「なんやとー。本気で言ってんねんぞー」
「ありがとうございますっ」
二人の手は、今は恋人繋ぎで固く結ばれている。
時々どちらかが指を細かく動かすと、もう片方もそれに応えるように指を動かす。
そうして互いの手の感覚を楽しみながら、少し肌寒く感じながらも、肩を寄せあっていた。
「…本当に、幸せですわ」
「俺もや。こうして、セシリアの故郷で誕生日を祝えるからな」
「剣さん…」
その言葉を聞き、セシリアが時守に身体を預けた。
「ずっと、お慕いしておりますわ」
「あぁ。…セシリア」
彼女の両肩を掴み向かいあわせる。
何の言葉も合図も交わさずに、セシリアがおとがいをあげると、そっと親指と人差し指で支え―
「んっ…」
―差し出された彼女の美しい桜色の唇を、優しく奪った。
「あっ…」
「ここから先はお預けや。また今夜に、な」
「…はい…」
唇同士を重ね合わせるだけのキス。
それ以上は今日の夜。時守とセシリア、そして彼女の3人だけでの誕生日パーティーで奪うと、彼は宣言した。
「じゃあ、行こか」
「…優しく、お願いいたしますわ」
「…さー、それは無理かなー」
再びセシリアの手を引き、城の中に戻る。
パーティー会場ではまだかなりの数の人が残っていたが、楯無、簪、シャルロットは先ほどまでと変わらず3人で話していた。
「あらセシリアちゃん。もういいの?」
「はい。いつまでも剣さんを一人占めしておくのも心苦しいですから」
「別にそんな遠慮しなくてもいいのに、セシリア」
「今日は…セシリアが一人占めしてていい日、だよ?」
合流すると始まる彼女たち4人の何とも言えない会話。
その話題の中心にいるのは時守だが、一人占めかどうかの話になると時守は意見を言いにくいのだ。
だが―
「…せや。今日は、セシリアの日や」
「えっ…。剣…さん?」
「カナ、シャル、簪が何と言おうと、今日はセシリアを優先したい。…ごめんな」
「んもう。最初からいいっていってるじゃない」
「剣もセシリアも、僕たちに気を使わなくてもいいからね?」
「…どの道、同じ部屋で寝泊まりするし」
「あ、あはは…」
―この日時守は、一人の男としてセシリアを優先して愛することを決めたのだ。
「今日はセシリアの日やから、みんなの誕生日も、今日と同じようにするっ!」
「そ、そういう所も剣くんらしいっていうか…」
「一応、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど…」
「……もう、剣のえっち…」
周囲も会話に集中しているため5人の会話は幸いにも他人に聞かれることはなかった。
時守のその発言は、セシリア以外の3人を赤面させるには十分すぎた。
「まあ、俺はみんなを平等に愛してるけどな!」
「それはもう、たーっぷり伝わってるわよ」
「でも僕、また身体を簡単に投げ捨てるとは思わなかったなー」
「うっ」
「…多少の無茶ならいいけど、また心臓止まるなんて思ってもなかったから…」
「ごめん…」
「と、いうことは。…またわたくし達がどれほど剣さんを大切に想っているか、どれだけ一緒にいたいかをまた知ってもらわなければなりませんわね」
「…分かりました」
こうして、いい笑顔を浮かべた4人の美少女に連れられて、時守はセシリアの寝室へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「お嬢様、少しよろしいですか?」
自室で寝巻きに着替え、あとは彼がシャワールームから出てくるのを待つだけだったセシリアは、チェルシーに答えた。
「お待ちなさい」
「はい、かしこまりました」
セシリアと同じくすでにシャワーを終えていた楯無達もいるが、まずはチェルシーの要件を聞いてからだ。
そう判断したセシリアは、結っていた髪を解き、扉の方を向いた。
「よろしくてよ」
主の言葉を聞き、チェルシーが静かにドアを開ける。
「お話があります」
「話?」
「はい。…お嬢様のご両親は、亡国機業から手に入れたISコアを用いて、エクシアを心臓病から救ってくださいました」
「…そうでしたのね」
彼女から静かに告げられたのは、エクシアとセシリアの両親についての真実だった。
楯無達がいるこの場で話し始めたのは、時守と共にセシリアと過ごしていく時に、知っておいてもらいたいことだったからだろう。
「エクシア」
「は、はいっ!エクシア・ブランケット、入りますっ!」
チェルシーのあとにドアを開けて、姉と同じメイド服に身を包んだエクシアが入ってきた。
「わ、私は、オルコット家を守る最後の剣として、セシリア様のご両親に命を救っていただきました!」
「…奥様達は、いずれお嬢様に襲いかかるであろうISの脅威を、予見していたようです。例え政府を裏切る形になっても、お嬢様を守るために…」
「…エクシアは、良かったのですか?命を、歪めることに…」
「とんでもありませんっ!…こうして、命があるからこそお姉様とも、セシリア様とも出会えたのですから」
セシリアの苦しげな声に、エクシアは首を横に振って答えた。
セシリアと彼女の両親。3人のお陰で、自分の命は繋がっているのだと、セシリアにそう告げたのだ。
「…ありがとう、チェルシー、エクシア。ありがとう、お父様、お母様…」
セシリアは、ついに辿り着いた両親の真相とそこに隠された想いに一人、涙を流した。
「……それではエクシア。私たちはそろそろ戻りましょう」
「えっ。け、剣様ともお話を…」
「…お嬢様はこれから、剣様、楯無様、簪様、シャルロット様の5人だけでのパーティーをするのです。そこに交じるのは無粋です」
「は、はいっ!分かりましたお姉様!」
パーティー。
どんなパーティーなのか、エクシアには理解できなかった。
しかし、これから仕えるべき主が寝室で、それも5人という人数で行うパーティーなのだ。
自分が入ってはいけない理由があるのだろうと、エクシアはそれは理解できた。
「それではお嬢様。おやすみなさいませ」
「お、おやすみなさいませ!」
「えぇ。チェルシー、エクシア。おやすみなさい」
チェルシーとエクシアが部屋から出る。
それと共に、シャワールームからバスローブを羽織った時守が部屋に入ってきた。
「およ。チェルシーさんたちもう良かったん?」
「はい。…剣さん」
「あぁ」
セシリアは、時守と付き合いはじめてからベッドを新調した。
今までも十分すぎるほどに大きかったのだが、彼や他の彼女達3人と同じベッドで寝たかったのだ。
「今夜は寝かさんぞ?」
「…よろしく、お願いしますわ」
彼と彼女たちの、夜の誕生日パーティーが始まった。
◇ ◇ ◇ ◇
時守とセシリア達が誕生日パーティー(意味深)を始めた頃。
オルコット家のゲストルームで休んでいた一夏の元を千冬が訪れた。
「…一夏、宇宙で何があった」
「え?」
千冬が部屋に入ってくるなり、詰め寄って言った言葉の真意を、一夏はすぐには理解できなかった。
「お前のダメージは、どう考えてもすぐに治るものではなかった」
千冬の言う通り、あの時の一夏のダメージは控えめに言っても気絶だけで済むようなものではなかった。
下手をすれば数日意識が戻らない。そんなことさえ簡単に想像できるようなダメージだったのだ。
千冬のまっすぐな瞳に耐えきれなくなり、一夏は観念した。
「……助けられたんだ」
一夏は、その重い口を開いた。
「誰にだ。あの空間に、お前たち以外の反応はなかったはずだ!」
口調を荒げる千冬。その言葉の裏には、弟を心配する思いが感じ取れた。
「分からないんだ。…見たこともない、ISを装備してたんだ。外見は、その―」
「―小麦粉をまぶしたみたいに、真っ白なISだった」
その一言に、千冬はひどく動揺した。
ここに来て序盤の伏線を回収していくスタイル。
まああの時は11巻出てなかったんですけどね!
先読みですよ先読み(震え声)
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