はい。フラグ立てまくる巻になります。回収し忘れないことを祈っていてください…。
今回の話を読んで、何かしらの思うことができるかも知れませんが、どうか、どうか最後の最後までお付き合いよろしくお願いします…
「ふぁあ…。ねむ」
「おい時守。ちゃんと睡眠は取っているのか?」
「大丈夫っすよ。ちゃんと寝てます」
初詣を終え、その日の夜にIS学園へと帰ってきた時守たち。
そこから数日後。
三学期が始まるまであと数日まで迫ったこの日は、珍しい時守の完全オフの日であった。
「それにしても珍しいな。お前が休みに更識たちと一緒にいないとは」
「そりゃ、カナたちにもカナたちの予定がありますしね」
この日の彼女たちの予定は、簪が倉持技研へ出向き、楯無は国家代表としてロシアへ、シャルロットは『輪廻の花冠』のデータ取りのためにフランスへ、そしてセシリアは、箒、鈴、ラウラと共に女子会という名目のお買い物へ行っていた。
一夏は家の掃除のために帰っており、言ってしまえば一人で暇だったのだ。
「ちっふー先生の予定は?」
「私か?…そうだな。私も、今日は特にこれといった予定はないな」
「ほへ〜。じゃあ二人でどっか行きます?」
「……何?」
千冬は耳を疑った。
念のため、もう一度聞いてみる。
「今、なんと言った?」
「やから、どっか行きませんかって」
「お、お前…それは…」
デートに誘っているつもりか、という言葉は出なかった。
「い、いいのか?更識たちは」
「大丈夫っすよ。ちっふー先生が俺を独占しようなんて考えてたら別っすけど」
「そ、そうか」
今の今まで、ろくに異性との付き合いがなかった千冬。
先日の年末年始では、今年で25になるんだからそろそろ真剣に考えろと一夏に真面目な表情でのガチトーンで言われ、一気に酔いが醒めてしまったのも記憶に新しい。
その際に気づいたのだが、自分は男をリードするよりは、リードされる方がいいらしい。
今のように。
「し、しかしだな。別にこれといって外出する予定など…」
「今までの師弟関係で、訓練の中では割と話してきましたけど、こうして日常ってなると全然やったやないですか。やからいい機会かなーって思って」
「うっ…」
そして千冬は、年下の方が好きだ。
リードされるのはいいが、年上だからと言って強引に進められるのは気に食わない。
技術のある年下に、うまくリードされていくのがいい。
今のように。
「だ、だがな。私は教師で、お前は生徒だ。そんな二人が一緒に出かけるなど…」
「世間では、師弟で知られてるはずっすよ?それとも、ちっふー先生は俺とのデートは、嫌っすか?」
「なっ、お、おまっ…!」
そして千冬は、乙女である。
乙女なんて年齢じゃないと言う不届き者には鉄拳制裁が下るだろうが、誰がなんと言おうと千冬は乙女なのだ。
印象が悪くない異性からデートに誘われたらドキッとはするし、ホイホイついて行ってしまいそうになる。
今のように。
「いいやないっすか。二人でお出かけ」
「うっ、あの、その…」
「ん?」
「よ、よろしくお願いします…」
こうして、時守と千冬の1日だけのデートが決まった。
◇
場所は変わり、レゾナンス。
デート、と時守は言っていたがもちろん手を繋いだりすることはなく、ただ二人並んで歩いているだけだった。
「ところで時守。お前、そのメガネはどうしたんだ?」
「これっすか?買った福袋ん中に入ってたんで、だて眼鏡で使ってるんすよ」
「ほう、良い心がけだ。引退した私とは違い、お前は現在進行形で注目を集めているからな」
「ちっふー先生も十分有名人やないっすか?」
千冬の隣を歩く時守は、黒縁のシンプルなレンズ入りのメガネをかけている。
レンズ入りと言っても度は入っておらず、彼が言った通りだて眼鏡として使い、彼の数少ない変装アイテムとなっている。
「私の場合は近づいてこようとするファンはいないからな」
「…ちっふー先生、なんかヤバいことしたんやったら今のうちっすよ?」
「何を勘違いしているのかは知らないが、皆が勝手に神聖視しているだけだからな?」
対する千冬は、私服に身を包んでいるだけであり、変装はしていない。
元世界最強でありとてつもない数のファンがいる千冬だが、そのファンの大半は近づくことすらおこがましいと思っているのだ。
「さてと。ほなどこ行きましょか」
「昼は学園で食べてきたからな…。とりあえず見て回るか」
「うっす」
目的地をあえて定めずに、店内をぶらぶらと歩く。
基本的に千冬に付き添いながら女性ものの衣服を見ることになった。
「……んー」
「ちっふー先生、服にお金かけてます?」
「失礼なことを聞くな。…わ、私だってそれなりには…」
「まあ普段は学校ですもんね」
「…あぁ。そう言ってもらえると、助かる」
千冬は、服にほとんどお金をかけない。
日頃着るのはスーツであり、部屋でゴロゴロするときは部屋着さえあればいい。そう考えていた。
「まあ流石にいきなりお出かけに着ていける服が必要になるってことはないと思いますし」
「分かってくれるか」
「今金無いですもん」
「…年末年始というのは、凄まじく金が飛んでいくな」
「何買ったんすか」
「一夏とずっと鍋を食ってた」
「ええなぁ…」
年末年始に鍋とつまみでしこたま呑んでいた千冬。
今現在、別の意味で脱げば凄いことになっているのは乙女の秘密だ。
「そういうお前はどう過ごしていたんだ?」
「別に普通っすよ?国連から帰ってきてから地元の友達呼んで遊んだり、一人ふらーっと出かけたり、簪に勧められたゲームやらアニメやら」
「なるほどな。…少しぐらい、宿題を出してもよかったか」
「いやいや。そんなん要りませんて」
自分自身は気づいていないが、相当詰まった予定が組まれている時守。
この冬休みに、もし多めの宿題が出されでもしていたら、それこそ幼児退行ぐらいしてしまっていたかもしれなかった。
「そういうちっふー先生は?」
「…い、家で」
「家で?」
「ご、ゴロゴロ…」
「ゴロゴロ…」
お正月休みとはいえ、いつも通りほぼすべての家事を一夏に任せ、ずっとぐだぐだしていた千冬。
学校が始まるまでのこのわずかな期間でも、なかなか気合いが入らないのだ。
「寮の部屋とか大丈夫なんすか?」
「…ふっ。大丈夫だと思うのか?」
「はぁ…。掃除にいるもん買いに行きますよ」
「……すまん」
話の流れで行き先が掃除用具コーナーへと向く。
もはや男女のお出かけのそれではないが、今はそれを気にしている場合ではない。
「どんぐらい汚いんすか」
「ご、ゴミを捨てられていないだけで…」
「了解っす」
手早く買い物カゴを取り、その中にまずは大きいゴミ袋を放り込む。
「普段掃除は?」
「…しない」
雑巾、洗剤、そして消臭剤を追加。
「軽くやったらこんぐらいでええやろ」
「すまないな時守。何から何まで…」
「自分で買ってくださいよ?」
「……あぁ」
元世界最強は、しょぼくれたままカゴをレジまで持っていった。
◇ ◇
「さぁ、やるで!」
「…時守、軍手は要らないのか?」
「そんなんあったら邪魔です」
ムードもへったくれも無く終わった時守と千冬のデート。
アレからすぐに帰ってきて、現在の時刻は3時。
千冬からの要望で一夏が帰ってくるまでに終わらそうとするならば、ちんたらしている暇はない。
「掃除の鉄則その1。確実に要らんもんから捨てていく」
「あっ!おまっ、それ!」
「こんなシミだらけのパンツ履かないでしょ。破れてるし」
破れたピンク色のショーツ、伝線したストッキング、片方しかない靴下などを一気にぽいぽいとゴミ袋の中へと突っ込んでいく。
「鉄則その2。迷ったやつは保留」
「茜霧島は捨てるなよ!」
「ほーい。…てか冷蔵庫入れときましょうよ」
地べたに置いてあった未開封の酒達は一旦冷蔵庫にぶち込み、足の置き場を確保していく。
「鉄則その3。思い出に浸らない」
「あ。この写真集懐かしいな…」
「言うてるそばから…!」
「あぅっ」
これまた床に落ちていた写真集を拾い、ページを開き始めた千冬の頭をぱしんと軽く叩く。
そんなことをしている場合ではない。
「てかマジで休みん時緩いんすね」
「当たり前だ。休む日だからな」
「まあそう言われたらそうですけど」
千冬は、休む日はとことん休むと決めている人間だ。
長期休暇で仕事がない時などは基本的に休む日であり、遅くまで寝てゆっくりとしていた。
「そういうお前は休日はどうなんだ」
「俺っすか?誰かに起こしてもらって、ご飯食べてテレビ見て外に出かけて、みたいな感じっすね。何もする予定ない時はちっふー先生と同じくゴロゴロしてますけど」
「…クソが。今からでも別室にしてやろうか…!」
「生徒会長がいるから無理っすよ」
例を挙げて言うなら、起こしてもらい、朝食を摂った後に皆で簪が撮っていたアニメを見て、全員で少し課題をし、外に出て遊ぶ。というようなもの。
今まで全くと言っていいほど恋をしてこなかった千冬にとっては、辛いスケジュールだった。
「…そういえば時守。お前、生徒会長決定戦には出るのか?」
「えぇ。…てか出すつもりやったでしょ?」
「まあな」
三学期は最終学期である。
ここIS学園では例年、生徒最強の座である生徒会長を、希望者全員参加の大会で決めている。
去年の覇者は、現生徒会長である更識楯無。
参加資格は新3年生と新2年生の全員にあるため、かなり多くの生徒がこれに向けて精進することとなる。
「油断するなよ。お前は一応、私の正式な弟子だからな」
「言われんでも。…正直今なら、冗談抜きで誰にも負ける気しませんしね」
「ほう?それは、私にもか?」
「えぇ。今んとこはロジャーさんにしか報告してませんけど、また強なったんすよ」
「…ならば、もうそろそろ私から教えることは無くなりそうだな」
「……そうっすねぇ」
最近は、善戦どころか接戦まで増えてきた。
千冬も時守との実践を経て全盛期の勘を取り戻しつつある中で、時守はそれ以上の速さで成長していた。
「では、三学期になってから模擬戦でもするか」
「おっ、いいっすね。もちろん本気で」
「当たり前だ。…まあ、私は『暮桜』は使えないがな」
「そりゃしゃーないっしょ。打鉄でも、魔改造してたらそれなりに強いですし」
「…ふふっ。あぁ、そうだな」
弟子が勝手に強くなっていく。
今まで自分に教えを請うてきた人物は山のようにいたが、その中でも指折りで負けん気が強く、そして才能に溢れていた。
そんな弟子が、もう少しで自分の手元から離れようとしていた。
「ん。どしたんすか」
「いやなに。手のかかる弟子だったと思っただけだ」
「ふーん。…てかまだですからね?」
「分かっている」
だがそれは、模擬戦で千冬相手にしっかりとした結果が残せたら、という話。
もしも彼が不甲斐ない結果を出せば、まだまだだということだ。
「んしょ。だいたいこんなもんでいいっすか?」
「あぁ。助かった」
「どういたしまして。ほなまた」
「…あぁ、またな」
会話をしている間にもテキパキと作業を進めていた時守。
気づけば床に散らかっていたゴミはほとんど無くなっており、あとは千冬一人でも大丈夫と言えるほどまで片付けられていた。
「…いきなり散らかさんといてくださいよ」
「分かっている!…さ、自分の部屋に戻れ。誰かしら帰ってきているのではないか?」
「そうですね。ほんじゃ」
そう言って、彼は千冬の部屋から去っていった。
「…はぁ」
時守が閉めていった戸を眺め、ため息を吐く。
そのまま携帯電話を取り出した千冬は、とある人物へと電話をかけた。
『もっしもーしっ!やあやあちーちゃん遅かったね!』
「すまんな、束。…そっちの準備はどうだ?」
『ばっちぐーだよ!あの『絢爛舞踏』のパクリも、うまく使えそうだしね!』
「そうか」
その人物は、篠ノ之束。
彼女の親友であり、ここ最近
『それでそれでー、暮桜は弄ってもいいのー?』
「…あぁ、構わん。私たちの悲願のためだ。やむをえん」
『…そっか。そう、だよね』
電話越しに聞こえる束の声が震えている。
いくらあの常識が無い天災、篠ノ之束とはいえ、怖いと感じるものもある。
『ねぇちーちゃん。…私たちがやろうとしてることは、正しいんだよね?』
「…さあ、な。そればっかりは、やってみないと分からんだろう。すべてが元通りになどなるはずはない」
『…うん。ここまで来た、ううん。ここまで来ちゃったんだもん。最後までやらないとね』
「あぁ」
いつになく悲しい声で、寂しげに、そして弱々しく会話する二人。
『じゃあちーちゃん。これが最後の連絡だよ。1月23日。ちゃんと一人でアメリカに来てね』
「了解。暮桜はその時か?」
『うん。ちーちゃんがアメリカに来た時、いよいよ計画は大詰めだから』
「…そう、だな」
亡国起業と手を組んでいる束と千冬が実行しようとしている作戦。
それこそが――
『これでようやく、全IS破壊作戦が始められるね』
――彼女達が世に出した物を、破壊し尽くすというものだった。
「……なぁ束。破壊だけで、いいんじゃないのか?」
『ダメだよちーちゃん。箒ちゃん以外、特にいっくんと剣ちゃんは危険だって言ったでしょ?…歯向かうなら、もちろん殺すよ』
「その二人だけはどうしても、生かしてくれないのか…?」
『…いっくんは進化度が怖いし、剣ちゃんは実力が未知数だからね。今もまだ、何か隠してそうだし。拘束って形ならなんとかなりそうだけど…』
「なら、そうしてくれないか。……私も、その二人が殺される所を見せられて、我慢は出来ないだろうからな」
『…うん、そっか。じゃあその二人と箒ちゃんだけは死なせないよ。ちーちゃんのためだもん!』
全IS破壊作戦と謳っているが、もちろんその操縦者も破壊の対象である。
歯向かってくる者にはそれなりの手段に出るし、場合によっては命を奪うこともある。
「もう後戻りは、出来ないな」
『うん。…そんなの、ちょっと考えたら10年前に分かったことなのにね』
「あぁ。……本当に私達は、大馬鹿者だ」
千冬の目から、一筋の涙が流れた。
◇ ◇ ◇
「え、刀奈たち帰ってこやんの?」
「うん…。だ、だから、ね?」
「簪の方から誘ってくるなんて珍し――」
「……一緒にアニメ見よ、だよ。…剣のえっち」
「じゃあ簪。俺が性欲無くなってもいいん?」
「そ、それは……ダメ、だけど…」
千冬の部屋を出て、自室に戻った時守を待っていたのは、アニメを録画していた簪だった。
衣服はすでに部屋着に着替えており、軽くシャワーを浴びていたのか、髪は水気を帯びており近づくだけでいい匂いがする。
「…アニメ見るよりも、したい?」
「いんや。今はアニメ見よか」
「うん…っ!」
時守たちも、普段からそういうことばかりをしているわけではない。
気分が乗らないときもあるし、彼女たちの予定もある。
「明日は朝早よなりそうやからな。今夜はしません」
「ん。…じゃあ、見よっか」
5人が寝ることができるというバカみたいに大きいベッドに腰かけ、録画したものを再生していく。
「あ。クソアニメか」
「うん。本音に、私の声に似てる人が出てるって言われてんだけど、どう思う?」
「んー。似てるって言われたらそうかもしれんな…」
簪と比べると全くと言っていいほどに似ていない、ずんぐりむっくりのキャラクターが動いていた。
「簪あんな体型ちゃうもんなー。胸もおっきなったし」
「流石にこんな体型には……って、なんで知ってるの…!」
「えっ?お正月に、な?」
「うぅぅ…」
ベッドに腰掛ける時守の膝の上に納まる簪の耳が赤くなっていく。
彼の左手は腹部に回されていたが、その右手は簪の胸部へと当てられていた。
「お尻もちょっとおっきなったし」
「…そ、それは…ふ、太っちゃっただけ…」
「あっ、そうなんや」
ならお腹はどうやと伸ばしていた左手でお腹をつまもうとすると、ぱしんと弾かれた。
とはいえ。彼女が太ってしまったと言っているのだ。
「ダイエット、しなきゃ…」
「おっ。じゃあ一緒に運動するか?」
「……もう。またそう言って、すぐにえっちなこと…」
「え?いや、普通にISの訓練を…」
言ってから気づいた。
これでは、自分からそういう運動をしたいとしたいと言っているようなものだと。
「…簪って、むっつりやんな」
「ち、違うもん…!」
「俺はオープンやぞ!」
「……知ってる」
抱きしめる力を強めてくる彼を一旦無視する。
彼に体を触られていていて気が散っていたが、いつの間にかアニメも終わっていた。
「…今日は、しないから」
「分かってるって」
何しろ晩御飯すらまだ食べていないのだ。
ここで時間をかけるわけには行かない。
「ご飯食べに行こか」
「……ん」
手を繋ぎ、二人は食堂へと向かうのだった。
もう後戻りは出来ねぇぞ…!
12巻、13巻(予想)は自分の中でとんでもなく長くなりそうです。
ここまで来たら完全オリジナルストーリーと言っても過言ではない程になるかもです。
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