まだ詳細を書いていない行動や発言などの理由につきましては、後々の話で書く予定です。
…オリジナル展開、頑張ります…。
「…あの、剣さん?」
「ん?」
「なぜわたくしの頭を撫でるのですか?」
「さらっさらで気持ちいいから。…嫌やった?」
「い、いえっ!むしろ、いくらでも撫でて欲しいですわ…」
IS学園、平日の午前中。
IS学園はイベント事や模擬戦なども多いが、もちろん普通の授業もある。
今は、1年生も終わりに差し掛かった三学期。
一般科目と一般科目の間の休憩時間に、時守は席替えをした結果右隣の席となったセシリアの頭をひたすらに撫でていた。
「んー…。すっげえさらさら」
「んっ…剣、さん…。撫でるのが、お上手ですわ」
「みんなをいっぱい撫でてるからなー」
「むぅー。僕も撫でてほしいなー」
「わ、私も…」
椅子に腰掛けたまま距離を詰め、セシリアの頭に右手を伸ばす。
左隣の席に座っているシャルロットが時守の背中に抱きつき、時守の前に座っている簪も強請った。
「…あかん。腕3本無いわ」
「そ、そんな真面目な顔で悩まなくてもいいよ?」
「では剣さん。わたくしはもう十分に堪能したので、お二人にお譲りしますわ」
「ん」
セシリアが少し下がると、その間に立ち上がった簪が入る。
背中では、胸が押し潰されるのも構わずに時守に体重を掛けたシャルロットが、彼の肩から顔を出していた。
「ん〜…。剣〜」
「よしよし。…ほら、簪も」
「う、うん…」
「…なんか、犬と猫みたいね。二人とも」
「夜は俺が狼になるからな」
「聞きたくないわよそんなこと!」
席替えの結果時守の真後ろを陣取ってしまった鈴が怒鳴る。
それもそのはず。三学期に入って、この男が前に来たせいで鈴にとって宜しくないことが起きているからだ。
「あ、そうだ。ねぇ剣、ノート見せて」
「えっ、俺の?」
「そうよ。アンタの身体が微妙にデカいから写せないとこがあったの」
「ん、ほれ」
IS学園の机は、一般的な机の面にタブレットが埋め込まれたようなものになっている。
その中のソフトに板書を書き写すことも出来るが、時守のように現物のノートに書くものもいる。
「ありがと。…普通ね」
「いったいお前は俺をなんやと思っとんねん」
いくら時守とは言え、板書は普通である。
自分で問題を解く時ではなく、書き写す作業は割と丁寧なため、鈴が想像してたよりも綺麗なノートに仕上がっていた。
「あれ、そういや次なんやったっけ」
「ISの座学だよ?」
「はいクソー」
ISの仕組みなどはとことん身体を動かすことで覚えてきた時守にとって、座学はつまらなく、そしてやりがいのない科目だ。
だいたいのことは完璧に理解しているため、1年生で新しく習うことがほとんどないのだ。
「授業中ずっと簪のうなじ見とこ」
「や、やめて…。それに、髪の毛で見れないでしょ…?」
「…やることないやん」
「ちゃんと授業受けなさいよ」
そんな話をしているうちに、教室の前の扉から真耶が入ってきた。
「はーい、皆さん座ってくださいねー。授業を始めますよー」
「めんどくさ」
「と、時守くん!?ちゃんと受けてくださいね!?」
「ほーい」
なんだかんだで、授業が始まろうとしていた。
「…あれ、そういやちっふー先生は?」
「そういえば来てないね」
「座学の時間でも、いつもはいらっしゃるのに…」
「……山田先生、織斑先生はどこへ?」
だがその時、時守が教室の異変に気付いた。
立っているだけで嫌でも存在感を放つ、千冬がいない。
真耶が担当する授業にも全て監督として出ていた彼女が、いないのだ。
「それが……分からないんです」
「えっ?」
「朝のホームルームの後、職員室から出てから教員の誰も織斑先生の姿を見ていなくて…。生徒の皆さんには内緒にしておくようにって言われていたんですけど、このクラスは織斑先生のクラスですから伝えておこうかと…」
なんと、真耶曰く千冬が失踪したらしい。
その事実が生徒に伝えられなかったのは、彼女がいなくなることで生徒に不安な気持ちを抱かせてしまう、と学園側が考えたからだろう。
「……このことを他に知ってるのは?」
「生徒会長の、更識楯無さんだけです」
「そっすか」
もしかしたら何かの事件に巻き込まれたかもしれない。
そう一瞬考えた一同だったが、あの織斑千冬が誰かに攫われるなど、考えられなかった。
「…い、今、手の空いている教員たちで捜索に当たっているので…。ごめんなさい、織斑くん。お姉さんが…」
「い、いやいやっ!大丈夫ですよ!…千冬姉なら、ちゃんと帰ってくるでしょうし」
一年一組の生徒たちに不安を与えてしまったと思ってか、真耶の口から現在取っている処置が伝えられる。
そしてそれと同時に、
「…そろそろ、ちゃんと怒らないとな。千冬姉、最近どんどん生活習慣悪くなってるし」
「あ、あはは…」
良くも悪くも自分で決めたことは曲げない千冬。
そんな彼女に唯一の肉親である一夏が説教を決めた、その時だった。
「っ!みんな伏せろっ!」
「敵襲ですわ!」
一年一組の教室の窓の外に、数機のゴーレムが佇んでいた。
時守の大声とセシリアの声に、悲鳴を上げながらも机の下に潜り込む。
「時守くんっ!」
「剣っ、お願い!」
いち早く窓に駆け寄り、開け放ったシャルロット。
最小の機体でありながら最高の機動を誇る彼に、真耶とシャルロットは先陣を任せたのだ。
「『雷動』!」
「僕たちもっ」
「行きますわよみなさん!」
「うん……!」
「誰か一人、教室守ってて!」
「俺じゃ不向きだ!箒!」
「うむっ!ラウラ、お前も頼めるか!」
「任せろ!」
教室を飛び出していく時守、シャルロット、セシリア、簪、鈴、一夏。
そして、万が一彼らが教室への襲撃を許してしまった時に対応する役として、箒とラウラが中に残った。
「…なんやこいつら。前やったやつとは、ちゃうな…」
「っていうことは、ゴーレムⅣ?」
「考えたくもない…!」
前回の襲撃でゴーレムたちを蹂躙した時守の横に並ぶシャルロットと簪。
その時の苦い記憶がまだ残っているのか、簪の眉間には今まで見たことがないほどに皺がよっている。
「…ですが、ちょっと様子が変ですわよ」
「アタシたちをわざわざロックしたのに、全く攻撃してこないわね」
「それどころかエネルギーすらほとんど無いよな、こいつら」
だが、臨戦態勢で飛び出した6人の気をそらすかのように、ゴーレムたちはその場でただホバリングを続けるだけ。
一夏の言う通り、ゴーレムたちの動力を確認してもあと数分動けるか分からないほどのものしか残っていなかった。
『……ラ、…フ……ヨー…テ、ア……タ』
「何言うとんねん」
突如として喋りだしたゴーレム。
それに時守がツッコミを入れると、まちまちだった言葉が繋がり、まるでロボットが治ったかのようにスラスラと喋りだした。
『オリムラチフユヲ、ニューヨークニテ、アズカッタ』
それは、失踪した彼女の行方を知らせるものだった。
◇
謎のゴーレム達の襲撃に加え、千冬が攫われたという事件が起き、今日の残りの授業は急遽休講となった昼。
時守達は、真耶の指示で地下にある部屋に集められていた。
「どしたんすか山田先生」
「…実は、皆さんにお知らせしなければならないことがあります」
「それって、織斑先生が攫われたこと以外に、ですか?」
「…はい。それでいて、その件にも関係しています」
「どういうことですか?」
集められたのは、いつもの専用機持ちが9人。
そのほとんどが顔を強張らせていた。
「それは…」
「その件は私から、説明させてもらおう」
「ロジャー?」
「やぁ時守くん」
真耶の表情が澱んだと思えば、部屋の奥から一人の男が現れた。
国連事務総長、ロジャー。
既に時守以外も見知った顔になりつつある人物だ。
「……時守くん、怒らないで聞いてほしい」
「なんかあったんすか?」
「あぁ。…ニューヨークにある国連のIS施設が、亡国機業に乗っ取られた」
「…は?何してるんすか。…イーリとナタルは?」
「彼女たちも攫われた。…申し訳ない」
「……謝ってもしゃあないでしょ。…どうするんすか」
彼の口から告げられたのは、時守のアメリカでの活動場所が亡国機業によって乗っ取られたこと。
そして、彼の友人二人も千冬同様、亡国機業に攫われたこと。
「そこに、私がここに来た理由がある。IS学園専用機持ち諸君。君たちに、亡国機業の討伐を頼みたい」
「断る理由も無いですし、まずそうしなあきませんしね」
「あぁ。だが、イーリス国家代表とナターシャ操縦者とは違い、千冬くんは攫われた訳ではなさそうなんだ」
「…と、言うと?」
「この映像を見てくれ」
しかし、ここにいる全員が、彼に言われずとも犯人は何となく分かっていた。
持っていた端末を操作し、その画面をモニターに映し出す。
流れたのは、とある場所の監視カメラだった。
「これって……」
「IS学園地下特別区画の映像ね」
「さすが生徒会長。じゃあここに何があったか、知ってるかい?」
「…織斑先生の専用機、暮桜です」
「ご名答」
「なっ!きょ、教官の専用機がここに!?」
「まさか、IS学園に保管されていたのか…」
ロジャーと楯無の落ち着いた問答とは真逆の、焦りと驚きに満ちた反応を見せるラウラと箒。
それもそのはず。第一回モンド・グロッソ優勝、第二回モンド・グロッソ準優勝という輝かしい成績を残したまま、理由なく引退した千冬の機体が、ここにあったのだから。
「驚くのはその辺にして、映像を見てくれたまえ」
監視カメラの映像を流し始めるロジャー。
滅多に人が来ない区画であり、なかなか変化がないそこに、二人の人影が現れた。
「こ、これって…!」
「千冬姉と、束さん…?」
比較的画質がいいそれを軽く見ただけでも、全員が分かった。
織斑千冬と篠ノ之束。
彼らが良く知る二人が、この地下特別区画に現れたのだ。
「いったい、何を…」
石化した暮桜に近づく二人。
束がコンソールを叩いた、その時だった。
「な、何ッ!?」
「暮桜が……待機状態に、戻った…?」
「あぁ。…モノクロだから見えづらいが、暮桜は石化していてね。原因が分からず全く動かせなかったのが、これさ」
眩い光を放ったかと思えば、暮桜が待機状態のガントレットとなり、千冬の左手首に装着されていた。
そして―
「…こっちを、見た…?」
―千冬と束。その二人が、監視カメラの方を見た。
映像はここで終わった。
だが、それと同時に専用機持ちたちは言い様のない気持ちに襲われていた。
「今のを見てくれても分かるだろうが、暮桜は盗まれた」
「……ロジャー。あんたまさか…」
「あぁ。君たちには辛い言い方になるが」
そこで一旦区切り、一夏の方を一瞬だけ見やる。
再び時守と目を合わせたロジャーは、無慈悲にも言葉を繋いだ。
「織斑千冬は攫われたのではない。亡国機業に寝返ったのだ」
「っ!いい加減にしろ!千冬姉が、千冬姉がそんなことするはずないだろ!」
「今の映像を客観的に見たまえ。それとも、なんだ。彼女は洗脳されているとでも言うのかい?」
「違う!…た、束さんなら、映像を加工することだって…!」
「織斑くん…。残念ですが、確認した所確かに暮桜は特別区画には、もう…」
「……嘘、だろ…」
その言葉に、もちろん一夏が反応した。
だがこの反応は何も、彼に限ったことではない。肉親でこの中で最も近しい人物だった彼は叫んだが、他の者も心の中では信じたくはなかった。
「…だが、これは恐らく罠だ。彼が言った通り、篠ノ之束には監視カメラの映像を加工することなんて容易だろう。…だからこそ、気になる点がある」
「なんでこの映像を残したんか、ってことか」
「そうだ。もし本当に織斑千冬と暮桜を奪いたいのなら、この映像も完璧に隠蔽してしまうだろう。…だが、敢えて残していた。言ってしまえば、ニューヨークにいた私が何事も無くここに来れたことも不思議な程だ」
「…なるほどね」
時守の言葉につられるように、それぞれの解答を思いついていく面々。
「亡国機業が、俺らに戦いを吹っかけてきた。ってとこやな」
織斑千冬、暮桜、イーリス、ナタル、国連施設、そして襲撃。
どれもこれもが、IS学園側の戦意を駆り立てるものだ。
「悔しかったら乗り込んでこいってか」
「つまり、誘われてるってことね」
「…じゃあ、千冬姉はそのための人質ってことなのか…?」
「それは分からないけど、一つだけ確かに分かってることがあるわよ、一夏」
「うん。僕も分かったよ」
「私もだぞ、嫁よ」
「無論、私もな」
「わたくしもですわ」
「わ、私も…」
「あら、奇遇ね皆。お姉さんもよ」
「…あぁ。俺も、それだけは分かるぜ」
「…なら、答え合わせと行くか」
なぜ千冬が束に自分の意思でついて行ったのか。
なぜ襲撃してきたゴーレム達はすぐに沈んだのか。
なぜ自分たちが誘われているのか。
分からないことは多いが、唯一分かっていることがある。
『亡国機業を倒す』
全員の声が揃う。
そう、何がしたいか分からないが、相手が悪いのは分かっている。
ならば倒せばいい。それだけだった。
「京都では俺らが待ち伏せやったけど、今回は向こうが待ち伏せか」
「……ちなみに聞くが、勝てる要素はあるのかい?」
「勝てるか、じゃないんです。勝たなきゃ、いけないんです」
「…まあ、間違いないがね」
やることは決まった。
アメリカ、ニューヨークにある施設に乗り込み、亡国機業を叩き潰す。
そして千冬達を取り返す。
これで万事解決だと、一夏は思った。
「向こうの戦力は、篠ノ之束、ちっふー先生、スコール、オータム、エム、ダリル、フォルテ、アーリィ。そこにゴーレムか」
「ゴーレムを一体だと考えれば、丁度9対9」
「…誰が誰と戦うか、決めないといけないな」
ラウラが呟いたその言葉の次に、緊張が走る。
この中の誰かが、千冬や束と戦わなければならないのだ。
「千冬姉とは、俺に戦わせてくれ」
「…大丈夫なんか?」
「あぁ。なんでこんなことしたのか、何を考えてるのか。弟として、俺が聞かなきゃならない気がするんだ」
「ならば、私は姉さんと戦おう。いい加減あの人のわがままも許してはおけん!」
強い希望により、一夏と箒が千冬と束と。
「じゃあ私は、アリーシャを相手しようかしら。この中じゃ恐らく、トップクラスに強いでしょうしね」
同じ国家代表として、楯無がアリーシャと。
「なら、アタシとセシリアはダリルとフォルテと戦うわ」
「勝手に決めないでくださいまし!…こほん。ですがそうですわね。京都での借りも、返しておきませんと」
京都でのリベンジマッチとして、鈴とセシリアがダリル、フォルテと。
「…私は、オータムと戦いたい。学園祭で、お姉ちゃんと剣を襲われたから、リベンジ…したい」
亡国機業が初めて襲撃してきた際の因縁で、簪がオータムと。
「じゃあ僕とラウラは」
「あぁ。キャノンボールファストでは、折角の楽しみを奪われたからな。あの二人だ」
時守が学園を一時離れる原因のリベンジとして、シャルロットとラウラがスコール、エムと。
そして―
「んじゃ俺は、何体用意してるかは知らんけどあのクソ全部ぶっ壊したるわ」
―IS学園の亡国機業では一番因縁深いと言っても過言ではない戦いとして、時守がゴーレム達と。
各々が戦いたい相手が、決まった。
「ふむ。大まかな作戦は立てられたが、それ通りに事が運ぶとは限らないぞ」
「分かってるっすよ。今のは俺らが戦いたい相手や。そう上手いこと行くとは思わんけど、大体な」
「なるほど。…だが、その中で一つだけ、絶対に成立させなければならない組み合わせがある」
今挙げたのは、各々が戦いたい、倒したいと思っている人物たち。
だが、相手も人間がほとんどだ。こちらの思い通りに動いてくれるとは限らないし、ペアが変わることもある。
その中で、ロジャーはとある組み合わせだけを成り立たせなければならないと言った。
「織斑一夏くん、篠ノ之箒くんのペアは、必ずあの二人だ」
「…それって、俺たちの専用機の特徴から、ですか?」
「そうだ。莫大なエネルギーを消費する代わりに高い火力を出せる白式と、それを補う紅椿。あの二人を止めるには、この組み合わせしかないだろう」
言うまでもなく世界最強の千冬と暮桜。
ISを開発した、なんでもありの束。
千冬だけでも強すぎるが、束の専用機の詳細が一切分かっていないのだ。
「まあ、こんな作戦組むだけ無駄かも知れんけどな」
「それでもだ。…その二人以外で織斑千冬、篠ノ之束を止めるのは難しいだろう」
「…あぁ、せやな」
高まる緊張感の中、作戦が決まった。
「アメリカへの乗り込みは明日の正午だ。各自、準備をしてくれたまえ」
亡国機業vsIS学園
その史上最大の戦いまで、あと少し。
本格的な戦闘は次章からの予定です。
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