IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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今回から新章スタートです!


原作13巻 対亡国機業編
開幕一番


 

 

「てなわけでやってきました。元俺の職場で現亡国機業のアジト」

「どういう訳だよ。まあ、腹ごしらえはしたけどさ」

「こ、この前来た施設も大きかったけど…」

「これが…倉庫…?」

「ISに関するモンを保管してるからな。それなりのサイズやないとあかんみたいやわ」

 

 専用機持ち9人が見上げる大きな大きな建物。

 コストコのめっちゃデカい版、と時守から事前に聞いていたが、予想以上の大きさに文字通り度肝を抜かれた。

 

「こん中やったら存分に戦えるわな。室内アリーナも何個もできるぐらいの大きさやし」

「……この中に、千冬姉たちがいるんだよな」

「そうらしいな」

 

 時守に続き楯無、その後ろに箒、シャルロット、鈴、ラウラ。ほんの少し離れて一夏、簪、セシリアが、倉庫前の門をくぐっていく。

 指揮官となっていたロジャーは近くのホテルの一室を貸し切り、そこで非常事態の指揮を行うことになっている。

 

「俺たちだけで、か」

「あぁ。いくらロジャーが冴えるとは言え、ISを使えへん限り足手まといや。外から見てなんかやばい事があったら俺に連絡くるけどな」

「分かった。……じゃあホントに、俺たちだけの戦いってことだな」

「ISでバトルやつって考えたらなー」

 

 ひゅう、と冷たい風が9人の間をすり抜ける。

 かなり高機能の保護機能を備え持っているISスーツを着用しているが、それでも素肌の部分にはそれなりに寒さを感じる。

 

「ねぇ剣。アンタせこくない?」

「ん?なにが」

「そんな国連代表のウインドブレーカーなんて着ちゃってさ」

「そりゃここの代表やねんから着なあかんやろ」

 

 だがその中でも時守だけは特別で。

 国際連合旗のマークが胸元に小さく描かれた白いウインドブレーカーの上下を羽織っており、それほど寒くはしていない。

 

「任せろ。最終兵器や」

「あはは…。頼りになりそうだけど、ちょっと怖いかな…」

「なんでや」

「忘れましたの?今までなさってきたこと」

「怪我、骨折、心臓停止、自我の崩壊……まだあるでしょ?」

「うん。俺が悪いわ」

 

 ぐうの音も出ない程のやらかしっぷりに、流石の時守も黙らざるを得なかった。

 

「今回こそは無傷で帰りたいなぁ…」

「無事に家に帰るまでが遠征よ?」

「大丈夫やて」

 

 堂々としながら突き進む時守の後ろにつく面々の足幅が、少しずつ狭くなっていく。

 

「……いよいよ、ね」

 

 分かっているのだ。

 今まで自分たちが交わしていた会話は、決して余裕の現れではない。

 亡国機業、束や千冬たちと戦うことを紛らわせたいという一心で、恐怖を忘れたいがためにしていたことだと。

 

「ビビってる場合ちゃうで」

「えぇ。…大丈夫よ」

 

 すでに門から倉庫の入り口までの距離は詰められ、9人は重厚な倉庫の扉の前に辿り着いていた。

 

「物陰の待ち伏せも、扉を急に開けての強襲も無し。本格的にこん中での戦いを望んでるんか」

 

 右手をそっと扉に当てる。

 背後から8人の緊張を感じながら、時守はその手に力を込めた。

 

「開けるぞ」

 

 ゴウン、と重々しい音を立てて少しずつ人の出入り口の扉が開いていく。

 

「おいしょと」

 

 扉が全て開かれると中は暗く、何も見えなかった。

 

「なんや。何もな―ッ!」

 

 何もないと思い、一人中に踏み込んだ時守。

 ISを展開はせずに起動だけしていた彼の視界に、大量のロックオンカーソルが現れた。

 

「誰や」

 

 咄嗟に『金色』を展開する。

 その光景を見て、8人も戦闘態勢を取りながら少しばかり後ずさった。

 

「初めの相手が貴様とは、私も運がいい」

「あぁ?」

「なぁ……国連代表よっ!」

 

 暗闇から凄まじい加速で一気に突撃してくる機体。

 それを『オールラウンド』で受け止め、弾き飛ばす。

 

「お前か」

「私だけではない。お前の大好きなゴーレム…いや、前のものよりもバージョンアップしたゴーレムⅣが相手だ」

 

『オールラウンド』と『フェンリル・ブロウ』がぶつかり合ってできた火花の光で確認できた顔は、ある意味馴染み深いものだった。

 

「さあ、私たちの前に沈め。時守剣!」

「師匠っ!」

「剣っ!」

 

 本来、スコールとエムのペアで来た時に対処する予定だったラウラとシャルロットが飛び出しかける。

 しかし、時守はそれに待ったをかけた。

 

「シャル、ラウラ。ここは任せろ。先行け」

「しかし!」

「ええから。すぐ追いつくわ」

「……分かった。行こう、ラウラ!皆も!」

 

 彼が放った任せろ、という言葉。

 普段よりも強く意味が込められたそれを、シャルロットはしっかりと受け取った。

 

「行かせると、思うか?」

 

 エムの指示で、多数のゴーレムⅣ達が奥へと駆けていこうとする8人へと迫る。

 しかし―

 

「お前がどうしようと、俺が行かせるって言うてるやろボケ」

 

 ―その全ての行方を、時守は8本のランペイジテールで全て防いだ。

 

「チッ…。だが、これでいい。あんな雑魚共よりも、私はお前を叩き潰したいんだからな。国連代表」

「そうか」

「だから…早く第四形態を展開しろ!時守剣!」

 

 8人がいなくなり、この場には時守とエム、そしてゴーレムⅣ達だけ。

 そんな中で、エムが叫んだ。

 

「…なんや。結局知られとったんか」

「私達を舐めるなよ?」

「掴んだんはお前らちゃうやろ。どうせたーちゃんとかちゃうか?」

 

 時守のその言葉に、またもエムが舌打ちをする。

 束がISネットワークを駆使し、『金色』がさらなるパワーアップを遂げたことを掴んだ亡国機業。

 しかし、パワーアップしたという事実だけ。

 

「そんなに見たいなら見せたるわ」

「くっ…!」

 

 時守の纏う『金色』が光り輝き、全体を包んでいく。

 

「これが俺らの四次移行した姿、『金色夜叉姫』や」

 

 その機体から、まるで八岐大蛇のようだったランペイジテールは無くなり。

 その代わりに、『オールラウンド』が両手に一本ずつ握られていた。

 

「フ、フハハ…!まさか、本当にしているとはな」

「信じてへんかったんかい」

「そりゃあ、信じられるはずがないだろう。今まで、正攻法で二次移行すらも出来ていない者が大半の中、一人だけ四次移行だからな」

「……せやな」

 

 全く無音でのホバリングという常人離れした技をしながら向かい合う両者。

 

「だが、その貴様を倒し、私は今度こそ…!」

「やかましいわ。来るなら、はよ来い」

「はぁッ!」

 

 二人の戦いは唐突に始まった。

 大剣『フェンリル・ブロウ』を振りかざして二重瞬時加速で時守の眼前に迫るエム。

 

「遅い」

 

 振り下ろされた大剣を、時守は左手に持った『オールラウンド』で止める。

 

「『ラグナロク』」

「ぐぉ…ッ!」

 

 そしてすぐさま、ガラ空きの脇腹目掛けて右手の『オールラウンド』を振るう。

 身体をくの字に曲げられたエムの身体が吹き飛ぶ。

 

「次はお前ら、か…」

 

 エムへの追撃へ向けて飛ぼうとした所、まるで覆いかぶさるようにゴーレムⅣ達が囲ってきた。

 

「鬱陶しいわ」

 

 そのゴーレム達に向け、全身の装甲の隙間から『雷轟』を放つ。

『金色夜叉姫』は『金色』に比べ、攻撃重視となっている。

 唯一の守りはスカートだけ、と言っても過言ではない。

 

「……興醒めやな。このままなら」

「クソがッ!」

 

 だが、だからこそ単純に強い。

 時守本来の闘争心の強さに比例するかのような高い攻撃性能。

 

「『雷動』」

「なっ…!」

「『刺し穿つ死棘の槍』」

「ガアアアアアッ!」

 

 一瞬で詰め寄り確実にSEを削り取る戦法が、時守と『金色夜叉姫』の特性に適合していた。

 

「ようそんなんで俺を倒すとか言うたなお前」

「ふ、ふふ…。誰が、これが本気だと言った?」

 

 地に伏し、立ち上がろうとするマドカ。

 彼女の身体が『黒騎士』ごと怪しく光に包まれた。

 

「黒騎士第二形態、『黒狼』だ。勝負はここからだ!」

「へぇ…」

 

 大きな返しの連続刃が特徴的になった大剣『フェンリル・ブロウ・Ⅱ』と三対に増えた『ランサービット』

 時守の四次移行と同じくより攻撃的になった機体が時守へと襲いかかる。

 

「こりゃあ確かに、進化しとるわ」

「無駄口を叩けるのも今のうちだ!」

 

 上下左右から瞬時に叩き込まれ、密接した少しの隙間から狙い済まされたかのように飛んでくるビットの猛攻。

 しかしその全てを、時守は先が見えているかのように避けていく。

 

「でも、まだ足りひんな」

「ガッ…!」

 

 時守へ何度も迫り、痛手を負わそうとしていたエム。

 そんな彼女の行動を奪うかのように、時守は瞬時加速で近づいてきたエムの鳩尾目掛けて蹴りを食らわせた。

 

「たかが二次移行如きで、俺を倒せると思ってんのか」

「はぁ…、はぁ…!私は、強くなったんだ…!」

「ちゃうな。お前の機体の性能がほんのちょっと上がっただけや。お前自体はなんも成長しとらんわ」

「……まれ…!」

「それにな、お前」

「黙れェエッ!」

 

 普通ならば蹲り、嘔吐してもおかしくない程の衝撃。

 それを怒りで強引に忘れ、更に強い殺意を持って時守へと突撃する。

 

「誰も俺が―」

「オオオオォッ!!」

 

 逆上したエムに今の時守の言葉は簡単に届かず。

 とある裏技(・・・・・)を使い、確実に強くなれたはずの自分を完膚なきまでに叩きのめされるということが、エムには耐えきれなかった。

 そんな彼女に対し、時守は―

 

「四次移行程度で終わったとは言ってへんぞ」

「……な、に…?」

 

 ―逆上した彼女を冷静にさせるほどの言葉を持って、彼女の思考を止めた。

 

「さっきからほんまにちょっとだけ強なった二次移行でイキってたけど、その時点でお前はもう終わっとるわ」

「嘘、だ……。そんな、ことが…」

「まあ、さらなる形態変化なんか、新しい単一仕様能力なんか、新しい武装なんかは言わんとくわ」

 

 圧倒的な差を付けられているということを知らされ絶望しているエムに対し、時守は不敵に笑った。

 

「お前の目で確かめてみろ」

 

 戦意を失いつつあるエムに、時守は瞬時加速で迫った。

 

 

 ◇

 

 

「剣、大丈夫かな……」

「振り返るなシャルロット。師匠も、先を私たちに託したのだ。私たちが師匠を信じないでどうする」

「……うん。そうだよねっ!」

 

 薄暗い倉庫の中を進む8人。

 巨大なコンテナの隙間を縫うようにして、とにかく奥へと進んでいく。

 

「剣なら、大丈夫」

「そうなのサ。アレでも一応、国連代表。それなりにはやるのサ」

「そうですわ。剣さんが負ける、は、ず……ッ!?」

 

 まとまって走る8人の頭上から投げかけられた、語尾が独特なカタコトになる日本語。

 セシリアとシャルロットが顔を上げようとした瞬間、楯無が既に飛び出していた。

 

「行きなさい。ここは、私が止めるわ」

「その通り。今の私は、弱い子達には興味は無いのサ」

「あら。言ってくれるじゃない」

 

 接近した楯無が、アリーシャに蒼流旋を突き立てる。

 ガギン、という重々しい音と共に、アリーシャの顔が歪んだ。

 

「事実なのサ。織斑千冬と本気で戦えると思ってたら、戦えない。挙げ句の果てには、剣ちゃんすらもいない。……お前に楽しませてもらうしかないのサ、更識楯無ッ!」

「行きなさい、早く!」

「うんっ!」

 

 楯無の叫びを聞き、真っ先に動いたのは簪だった。

 姉からの指示と言うだけでなく、この場は楯無に任せるのが最善だと、簪自信が判断したのだ。

 

「いいの!?簪!」

「いい…っ!あそこに、私たちがいたら邪魔にしかならない!」

「そんなこと分かるのか!?」

「二人とも、単一仕様能力が範囲攻撃になってるから…。国家代表の1:1に巻き込まれてもいいなら、戻ってもいいと思う」

「っ!……いや、そうだな。簪の言う通りだ。すまん」

 

 鈴と箒の問いに少しばかり冷たく答えながら走る簪。

 楯無の『沈む床』とアリーシャの『疾駆する嵐』は両方とも広範囲に影響を及ぼす単一仕様能力である。

 時守の『雷轟』や一夏の『零落白夜』のように狙いを絞ることが難しく、近くに味方がいることで楯無の動きが鈍くなる、と判断したのだ。

 

「……ごめんなさい、簪ちゃん」

「どうしたのサ、そんな顔して。今から面白くなるってのに」

「うるさいわアーリィ。…いえ、亡国機業のアリーシャ・ジョセスターフ。あなたさっき、剣くんと戦えなくて残念そうにしてたわね」

「そりゃそうサ。お世辞じゃなく、IS学園最強は更識楯無ではなく時守剣。こんなの、国家代表ならみんなが分かってることなのサ」

「……えぇ、そうね。もし本当に私がこのままで、剣くんが言ってたことが本当ならそうでしょう」

 

 俯きながら、うっすらを笑みを浮かべる楯無。

 そこには一切の自虐も、余裕も、油断も無く。

 ただ単に、更識楯無がいた。

 

「当然よ、それは。だって剣くんは、世界最強を下した国連代表ですもの。……でもね、私もただその剣くんといちゃいちゃしてただけじゃないわ」

「ホウ?ということは、ちゃんと代表としてもふさわしく成長している、と」

「そうかもしれないわね。それはちゃんと、貴女が肌で感じなさい。アリーシャ・ジョセスターフッ!」

 

 怒号と共に突撃する楯無を、アリーシャは獰猛な笑みを浮かべながら迎え入れる。

 

 

 それと時を同じくして。

 

 

「ガ、か…は、ぁ……ッ!」

「おーい、なんや。どしてん。まだ5分も経っとらんぞ?」

「だ、まれ…ッ!」

 

 二次形態移行を果たした『黒狼』の装甲はほぼ半壊し、スラスターに至っては一基しか残っていない。

 短時間でそれほどまでに打ちのめされたマドカは、満身創痍で立ち上がろうとしていた。

 

「お前…!その姿は、なんなんだ……ッ!五次移行、なのか…?」

「敵にわざわざ情報を喋るほど、俺はアホやない」

 

 ゆらゆらと揺らめく金色のオーラを纏い、時守は金属に包まれた右手を動かす。

 

「ただ言えるのは、これは俺のISやってことや」

「舐めたことを…」

「なら早く立ってや。初戦の相手がこんなんやったら、ほんまに残念すぎるわ」

「こ、のぉ…!」

 

 歯を食いしばりながら、やっとの思いで立ち上がる。

 

「はあああァっ!」

 

 瞬時加速で時守へと接近し、何とか一撃を喰らわせようと試みるマドカ。

 しかし。

 

「グッ!?」

「これで何回目やねん。そうやっておんなじ手で攻めてきてカウンター食らうん」

 

 呆れた顔を浮かべる時守には届かず、手が届く目前で見えない衝撃が頭を襲い、吹き飛ばされる。

 

「ちゃんと脳みそ付いてるんやったら、考えて行動せぇや」

「クソがああああッ!」

 

 先ほどからこの謎の衝撃により、マドカの攻撃はとことん邪魔をされ、ダメージを負わされるという形で防がれている。

 これがまだ正体がハッキリとしている攻撃ならばいい。それならばマドカもここまで理性を失ってはいない。

 

「グゥッ、カッは、あ…!」

 

 だが、全く正体が分からないのだ。

 いつ、どこから、何が来るのか分からない。

 相手の情報が少しだけだが分かるディスプレイも、何の変化も示していない。

 目の前の相手は動かず、単一仕様能力も発動していない。なのに吹き飛ばされる。

 

「ゴ…あ、あぁ…」

「どうした。もう終わりか?」

 

 装甲を纏った時守の左手がマドカの頭を掴みあげる。

 力なく四肢をぶらりと下げ、弱々しい瞳で時守を見る。

 

「き、さま…!」

「残念やな。俺に一泡吹かせたいと思うんやったら…ッ!」

 

 マドカの頭を掴んでいた左手が離され、重力に従って彼女の身体が落ちていく。

 

「この圧倒的な力の差を、少しは埋めてからかかってこいや」

 

 一閃。

 叫び声すらも挙げられない程の強烈な蹴りが、雷を纏ってマドカの鳩尾に突き刺さった。

 弾丸のように吹き飛ばされ、壁に受け止められるマドカ。大きなクレーターが出来たそこに、彼女は意識なく横たわった。

 

「さてと。……行くか」

 

 マドカと同じく、漏電した電気を時折破損した部分に走らせながら停止するゴーレムⅣ達を見渡す。

 少し。ほんの少しだけ本気を出した結果がこれだった。

 

「待ってろや、あのアホ二人…ッ!」

 

 固く拳を握りしめ、ぐったりと倒れるマドカを一瞬見たあと、オイルが撒き散らされた床を走り出した。




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