IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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進まねぇ!





隠されていた力

 

 

「テメェ、何しやがった…!」

「だから言ったでしょ?単一仕様能力だって」

「チッ…」

 

 切り落とされた翼部スラスターを一瞥し、舌打ちするオータム。

 目の前にいる敵、更識簪は単一仕様能力を発動したと言った。しかし、それならば矛盾が生じる。

 

「だが、何となく分かったぜ。テメェのそれは、無条件で発動出来るほど使い勝手の良いもんじゃねぇ」

「っ…」

「考えりゃ簡単だ。そんなもんをいつでも使えるんなら、最初っからオレのこと切り刻んでるからな」

 

 カッと熱くなりやすいオータムだが、冷静な時には頭が良く回る。

 簪に翼部スラスターを切断されたことで動きが止まり、頭に回っていた血が下がった。

 

「二次移行してからいきなり出てきた武装、『秋火』となんか関係でもあんのか?」

「さぁ?それは自分で確かめてみて」

 

 ゆったりと歩みを進め、簪との距離を詰めるオータム。

 臨戦態勢は一旦解いていたが、その目は瞬きすらせずに簪の紅い瞳を射抜いていた。

 

「つぅか、見れば見るほどイライラするぜ、お前。あのロシア代表に似てて、姉妹揃ってあのクソガキの彼女。ビクビクしてる割には歯向かってきて、しぶとく生き延びるってよぉ」

「……ありがとう?」

「褒めてねぇよ。ぶっ殺すぞカスが」

「それは、あなたには絶対できないことだから、無理」

「テメェは…、とことんムカつくやつだなぁ…おい……!」

 

 簪がオータムと戦いたかったように、オータムもまた簪との戦いを望んでいた。

 以前の学園祭で楯無と一夏、時守の三人と会敵したのだが、主に時守一人にしてやられたのだ。

 楯無の言動に腹が立ち、かつ時守は単純にうざかったのだ。その二人が大事にしている更識簪を自分が倒せば、多少は憂さが晴れると思っていた。

 

「うん。だって私は、お姉ちゃんの妹だもん」

 

 しかし、いざ戦ってみれば(こいつ)もうざい。

 やる気があるのか分からない目、楯無と似た風貌、弱いのに余裕を感じさせる態度。

 時守のようにおちゃらけたやつも嫌いなオータムだが、自分は勝てると信じている雑魚ほど嫌っているものはなかった。

 

「じゃあ、あの姉の代わりに死ねや」

 

『アラクネ』の足の装甲の先から放たれるエネルギー弾。

 完全に不意打ち、かつ超速のそれが『牢鎖鉄』をまとった簪を襲う。

 

「『八咫鏡(やたのかがみ)』」

 

 その無数のエネルギー弾に向け、簪が左手(・・)を翳す。

 

「ハッ!今度は何だってんだ?」

 

 みるみるうちにエネルギー弾と簪との距離が縮まり―

 

「……な、に?」

 

 ―簪に届く前に、その全てが消えた。

 

「今度は盾か、アァ!?」

「だから、言うはずない…!」

 

 その光景を目の当たりにし、中距離のエネルギー兵器では意味がないと感じたオータムが、瞬時加速で簪へと急接近する。

『秋火』の警戒も怠ることなく小刻みに動きながら、爪を振りかぶる。

 

「死ねやっ!!」

 

 振り下ろされるオータムの脚部装甲。

 右手で『秋火』、左手で『八咫鏡』を発動する簪は今現在一切の武装を展開しておらず、それ故の攻撃だった。

 

「はっ!」

 

 しかし簪もただそれをそのまま受けるはずもない。

 コンマ一秒にも満たないほどの速さで武装を展開し、オータムの爪を防いだ。

 

「これが『夢現』の進化系、『朧月(おぼろづき)』」

「さっきからやけにシャレた名前ばっかだが、性能に見合ってねぇんじゃねぇか?」

「まだ本気のほの字も出してないのに、何言ってるの?」

 

『夢現』を彷彿とさせるような薙刀と爪との鍔迫り合い。

 その繋がりを強引に断ち切り、簪が距離を取る。

 

「考えてる通り、『朧月』を持ってる時は『秋火』と『八咫鏡』は発動できない」

「んなこと話していいのか、よっ!」

 

 両手がふさがっている今なら、とオータムが再びエネルギー弾を放つ。

 

「……馬鹿。『八咫鏡』」

 

 しかしそれなら、と簪が『朧月』を右手だけで持ち、『八咫鏡』を発動させてエネルギー弾を消し去る。

 

「チッ。うぜぇな」

「そう?それならそろそろタネ明かしをしてあげる。ちょうど、今の(・・)いい感じ(・・・・)になったから」

「はぁ?」

 

 そう言って、簪はオータムとの距離があるにも関わらず、『朧月』を引いた。

 

「先に謝っておく。ゴメンなさい。あなたみたいな人が、実験に向いてると思ったから」

「舐めた口きいてんじゃねぇよ、雑魚が!」

 

 再び瞬時加速で迫り来るオータム。

 

「行って、『嵐逆(らんげき)』!」

 

 そのオータムに向かって簪が『朧月』を振るう。

 すると薙刀の刀身の部分から、無数の白いエネルギーが放たれた。

 

「ハハァッ!それが二次移行の恩恵かぁ!?」

 

 そのエネルギー弾を避けながらただそれだけか、とオータムは叫ぶ。

 振るえばエネルギーが射出されるなど、すでに聞いたことがある機能だ。

 現在亡国機業に身を置いている束が作成した『紅椿』には最初からある武装であり、同じエネルギーの射出なら時守の『雷轟』のような雷を放つ方が規模としては大きい。

 

「そうやって、見たものでしか判断できない人だから、実験にちょうど良かったの」

「何……ッ!グッ、ガアアァアッ!!」

 

 大した攻撃ではない。そうオータムが判断した、まさにその時。

 完全な死角となっていた背後に、猛烈な衝撃が走った。

 

「な……何、が…!」

「よそ見してる暇があるの?」

 

 瞬時加速の途中で背後に攻撃を受け、思わず前のめりに倒れたオータムに、簪がそう言い放つ。

 

「クソッ!」

 

 何かが来る。

 その第六感を頼りに、転がるようにしてその場をなんとか離れるオータム。

 その数瞬後、彼女が元いた場所に大量のエネルギー弾が降り注いだ。

 

「何が起きてやがる…!」

「足、もう一本」

 

 今度は、再び脚部装甲が切り落とされた。

 

「……ッ!テメェッ!さっきから一体何をしてやがる!」

「…うん、もういいかな。今からならもうあなたに挽回できる方法はないし」

 

『朧月』を構えたままの簪が、オータムに向けていつも通りの落ち着いた口調で話す。

 

「まず一つ目、『秋火』の能力。別にあれは焼き切るためのものじゃなくて、その通過した空間に攻撃を記憶させることができるの。何もないのにいきなり切ってるのは、あなたが秋火が通過した空間を通る時に、私が頭の中でその記憶させた攻撃を発動してるから。その再発動の鍵が、単一仕様能力『泡沫の糸』 最大のメリットは二回目以降の攻撃が相手に認知されないこと」

 

 一度『秋火』が通った空間に熱の攻撃を覚えさせ、簪の任意のタイミングで攻撃を再び発動させる『秋火』と『泡沫の糸』

 

「二つ目、『八咫鏡』の能力。ただ防ぐだけじゃなくて、エネルギー弾を取り込むの。いくらでも溜め込んでおくことができるし、好きな時に好きなだけ吐き出すこともできるの。最大のメリットは相手の中・遠距離攻撃の無力化」

 

 相手のエネルギー弾を自らの弾丸としてカウンターに利用することができる『八咫鏡』

 

「そして最後、『朧月』の能力。ただ射出するだけじゃなくて、その後好きな方向に曲げることができるの」

 

 放った無数のエネルギー弾を自在に操作できる『朧月』

 

「武装として『秋火』、『八咫鏡』、『朧月』。そして単一仕様能力として『泡沫の糸』。これが、二次移行した打鉄弐式の本気」

 

 その計4種の攻撃で、相手をじわじわと追い込んでいく。

 それこそが、『牢鎖鉄』の真髄。

 

「……ありえねぇ。お前、頭ん中でどんだけのこと同時に考えてんだ…!」

「別に、元からこういう考え方は得意だったの。『山嵐』とかで戦略を組み立てるのも良かったけど、二次移行して思った。私は、こういう戦い方の方が得意なんだって」

「…そ……く…が…!くそ、が…!クソがぁあああ!!」

 

 スコールやエムに比べて賢くはなく、そして冷静な方ではないという自覚はあるオータム。

 多少、修羅場や経験も積んできた自覚もある。

 だからこそ、今ここでこの相手には勝てないのだと悟ってしまった。

 

「『八咫鏡』」

「チィッ!!」

 

 突如として現れた円形のうっすらとした盾のようなものからエネルギー弾が放たれる。

 もちろんそれを避けなければならないが―

 

「三本目…」

 

 ―避けたところで、『秋火』の餌食になる。

 

「また…!っ、クソ!」

 

 それに気を取られれば、今度は簪自身から『朧月』による攻撃が飛んでくる。

 

「グアアァァッ!」

 

 それの対処に追われているうちに、死角から『八咫鏡』による一撃を受け―

 

「四、五本目」

 

 ―その移動中にまたも『秋火』が装甲を蝕む。

 オータムを纏う『アラクネ』には計8本の装甲脚があり、そのうちの五本がすでに切り落とされた。

 彼女の本物の足を包む2本を除けば、残る脚はわずか1本。

 

「ほら、言ったでしょ?挽回できないって」

 

 その一本すらも、無残に切り落とされた。

 

「……ははっ。お前、強かったんだな」

「敵にそんなこと言われても嬉しくない。…けど、最後にいいもの見せてあげる」

 

 そう言うと、簪はブンブンと『朧月』を振り回して『嵐逆』を四方八方に飛ばす。

 オータムにかすりもせずに散っていくそれは壁を破壊することなく、どこかに吸収されるように消えた。

 

「まさか…!」

「そう。『八咫鏡』は敵の攻撃だけじゃなくて、自分の攻撃もストックできる」

 

 気づいた時にはもう遅く、オータムの周囲を『八咫鏡』が囲っていた。

 

「さよなら」

 

 地面から上に半球を作るようにしてオータムを囲う『八咫鏡』

 超至近距離のそこから、大量のエネルギー弾がオータム目掛けて放たれた。

 

 

 ◇

 

 

「はああああっ!!」

「ふふっ、可愛らしい攻撃ね」

「くっ、シャルロット!」

 

 スコールに接近していたシャルロットの身体がぐい、と後ろに引っ張られる。

 胴に巻きついたワイヤーブレードの出どころは、もちろんラウラ。

 余裕の笑みを浮かべるスコールに対し、2人の表情は晴れなかった。

 

「最初の威勢の良さはどこへ行ったの?……弱すぎて、つまらないわ」

「好きなだけ言うといいよ。最後に負けるのは、あなただから」

「そう。なら好きにさせてもらうわ」

 

 そう言うと、スコールはシャルロットとラウラ、そしてスコールの戦闘空域全てを覆ってしまうような大火球を放った。

 

「行くよ、ラウラ!」

「あぁっ!」

 

 そしてそれを見て、待ってましたと言わんばかりに2人が加速する。

 

「はっ!」

「っ、そう来るのね…!」

 

 大火球の中央をエネルギーシールド『花びらの装い』を前方に掲げることで突破してきたシャルロットの手には、十連装ショットガン『タラスク』が握られている。

 

「これでっ!」

「でも、甘いわね」

 

 エネルギーシールドで炎を突破してからの奇襲にスコールも少しばかり驚かされた。

 しかしそれは、彼女の平静さを奪うまではいかなかった。

 

「くっ…!」

「……理解できないわね」

 

 シャルロットの『タラスク』による猛攻をひらりと躱し、隙ができた彼女に超高熱火球『ソリッド・フレア』を浴びせるスコール。

 そんな彼女の表情は、怪訝そうな視線をシャルロットへと向けていた。

 

「なぜ貴女が前衛で彼女が後衛なのか、なぜこれといったコンビネーションも見せないのか、そして、なぜまともに戦おうとしないのか。解せないわ。……貴女たち、死にたいの?」

「ふんっ。あまり我々を見くびるなよ。なにもシャルロットは後方支援、私は前衛しかできないというわけではない」

「それでも、よ。前衛としての経験値もこのお嬢ちゃんよりも貴女の方が高いでしょう。いくら世界初のデュアル・コア搭載機だからと言って、それで勝てるほど私は甘くないわよ」

「その割にはよく喋りますね」

「あら。これは余裕というものよ?」

 

 くすり、と微笑むスコール。

 そんな彼女から目を切ることなく、シャルロットは一旦ラウラの元へと降り立った。

 

「大丈夫か、シャルロット」

「うん。想像してたよりも全然平気だよ。……それより、ラウラ」

「あぁ、それこそ大丈夫だ。信じてくれているのだろう?」

「もちろんっ!」

「だったら、期待に応えなければならないな」

 

 ラウラが見上げる先には、依然として中に浮かび自分たちのことを見下ろすスコールの姿。

 不敵な笑みを浮かべる彼女は先ほどの言葉通り余裕を感じさせる雰囲気を醸し出していた。

 

「だが、そうとなれば頼むぞシャルロット。あれは、生半可な集中力ではまともに使えんからな」

「任せてっ!5分でも10分でも30分でも、あの人を僕一人で止めてみせる!」

 

 プライベートチャネルでスコールに聞こえないようにしていた会話を終え、再びふわりと上昇するシャルロット。

 

「作戦タイムはもう終わり?」

「えぇ。あなた達亡国機業を倒すための算段はもう、立て終えました」

「そう。……私、お子様の笑えない冗談は嫌いなの」

「冗談じゃないのでご安心をっ!」

 

 3度、シャルロットがスコールへと肉迫する。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「……あ。待って、やばいやばい。やばみの境地やこれ」

 

 簪の戦いが一段落付きそうになり、シャルロットとラウラの戦いがより激化している頃。

 時守は細い通路で1人、内股になっていた。

 

「便所どこや」

 

 少し前にもあったが、肝心なところで腹が痛くなってしまったのだ。

 

「おほほぅ…!気になったら余計痛なってきた……出るわ…。ヘイ金ちゃん。近くの便所どこ」

『スマホみたいにウチを使うな!……そこの角曲がって5m先にあんで』

「え、ほんまにあるんや」

『ちっふーとかもうんこしたなるんちゃう?そりゃ、多分人間やし。てか剣ちゃん大丈夫なん?我慢出来る?』

「金ちゃん日本男児ナメてるやろ。日本のクソガキは小学校の下校時間に便意我慢して成長すんねん」

『糞だけにクソガキってか』

「うっさいわボケ」

 

 自らのISである『金色夜叉姫』の待機状態と会話しながら、内股でゆっくりと歩く。

 ダムが決壊してしまわないように慎重に、それでいて手遅れにならない程度の速さで歩き、何とか辿り着いた。

 

「あ、そか。元々国連の施設やからちゃんと男女あんのか」

『はよしーや。してるところ襲われても知らんで』

「いざとなったら金ちゃんが助けてくれるやろ?」

『……まあ、せやけど』

「それに俺がしてる時に向こうが攻撃してきたら向こうに俺のがつくやろしな。さすがにそりゃ嫌やろ」

『地味にめちゃくそ嫌なカウンターやなそれ』

 

 洋式便器に座る時守を攻撃してしまえば、その便器も粉々に破壊される。

 便器が破壊されるということは、あれが飛び散る可能性があるのだ。

 

「漏れる漏れる」

 

 トイレにたどり着き、すぐさま個室へと駆け込む時守。

 

「おひょ〜〜〜。すっげぇ音」

 

 人様には聞かせることのできない音を鳴らしながらスッキリする。

 しっかりとウォシュレットとトイレットペーパーで後処理をし、手をきっちり洗って外に出る。

 

「さてと、んじゃ……ん?……なんか聞こえへんか、金ちゃん」

『どっから?』

「女子便」

『花子さんちゃうか』

「どんな所まで来てんねん花子」

 

 そう言いつつ、隣にある女子便所の入り口に耳を傾ける。

 

「……ィーッ!!トッキーッ!!」

「……行こか金ちゃん。ゴリラが叫んどるだけや」

「誰がゴリラだボケカスゥ!」

「け、剣くん?ホントに剣くんなの?」

「え、ナタルもおる?」

 

 そこから聞こえてきたのは、彼の知り合いのIS操縦者2人の声だった。

 

「どした。紙なくなった?」

「違ぇ!ここに拘束されてんだよ!」

「なーる」

「た、助けて欲しいんだけど……」

「……周り誰も見てへんな?……よし」

 

 そう言えば2人が捕まったということをロジャーが言っていたことを思い出し、周囲に誰も見ていないことを確認して女子トイレに入る時守。

 

「ここか。うーわ、めっちゃ雑に縄で縛られとるやん」

「サンキュ、助かったぜトッキー」

「なんでおトイレに?」

「腹痛なってん」

 

 指先だけを部分展開し、2人を縛っていた縄を切る。

 当たり前だが2人ともISを取り上げられており、ナイフもなくどうすることもできなかったようだ。

 

「イテテ。んでトッキー、アイツらには勝ててんのか?」

「まあな。言うても雑魚としか戦ってへんから何とも言えんけど」

「ほぉん。……ま、お前ならそんな軽くは負けねーだろ」

「俺としては、もうちょい戦いがいのあるやつに出てきて欲しいんやけどな。てか2人ともこれからどうするん」

「無茶しない範囲で奴らを探ってみるわ」

「そか。くれぐれも怪我には気をつけてな、ナタル」

「えぇ、心配ありがとう」

「おい」

 

 さりげなくイーリスを呼んでいないが、時守自身あのゴリラのようなイーリスが怪我をするはずはないと思っている。

 

「信じてんねんやん、お前のこと」

「きっしょく悪ぃ。早くアイツら倒しに行けや」

「うーい」

 

 2人の激励を受け、時守はまた駆け出した。




もしかして:簪ちゃん強すぎ

と思った方。今後をお楽しみに……フフフ…


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