「いや。」
……えっ…。
【速報】二人目男性操縦者の時守剣くん、日本代表候補生更識簪さんに模擬戦を断られる。
…ニュースになりそう。てかかなりショック。
「せ、専用機の開発やったら手伝うから。な?」
「…1人でやる。」
…え?
「できんの?」
「…できる出来ないじゃない。…やるの。」
言葉だけ聞いたらスポコン精神丸出しやけど…うん、全然簪からそんな感じせぇへん。
「なんでそんなにこだわるん?」
「…あなたにいう必要は無い…ことも無いかな。あなたは織斑一夏とは違うし。」
おう?どういう区別の付け方や?…関東人と関西人?…いやちゃうな。
「…白式か?」
無言で小さく頷く。…なーるほーどねー。
「んならやっぱ手伝わせてくれ。」
「…なんで?」
くっ…こ、ここまで強固やとは思わんかったぞ。なんであの姉でこの妹やねん。正反対やんけ。
「…なんでって…」
…あれ?
「なんでやろ。」
「……ぷっ、ふふふ…」
お、おい?笑い方かなり怖いよ?簪さん。周りの人からジロジロ見られてるよ?
「…多分アレやな、代表候補生の力が知りたいねん。」
「…それなら打鉄かラファールでも…」
「やるなら簪も専用機の方がええやろ?」
「…それは…、うん。専用機を早く完成させたいっていうのも、ある。」
「せやったら―」
「でも嫌。…模擬戦はいいけど、専用機は…打鉄弐式だけは自分で作りたい。」
おおぅ!?まだアカンの!?…なんでなーんで?
「なんでそこまでこだわんの?」
「…あなたには関係ない話。」
俺には、ねぇ…ってことはのほほんには関係あるってか?そうなると。
「楯無か?」
「っ!」
急に顔がこわばった。ビンゴ。
「ま、これから一旦部屋戻ってから簪んとこ行くわ。詳しいことはそん時な。のほほんとおんなじ部屋やったっけ?」
「そーだよ〜。」
「んじゃまた後でな。」
◇
「…本音、お姉ちゃんと、…彼、剣に何か言った?」
「何も言ってないよ、かんちゃん。」
本音はいつもとは違う話し方で簪に返す。本音がこの話し方をする時は、簪とご主人様とメイド、という関係ではなく幼なじみとして話す時である。
「かんちゃん、剣ちゃんなら大丈夫だよ。」
「…でも…」
それでも打鉄弐式だけは自分の手で完成させたい。なぜなら…
「お姉ちゃんは1人で完成させたし…」
「かんちゃん…」
完全無欠の姉、楯無が自身の専用機を1人で完成させたと思っているからである。そして…
「…負けたくないもん。」
「…でも剣ちゃんの話を聞いてみたいとも思ったんでしょ?」
「それは……うん。」
それはそうだ。なぜ一般人である彼が姉と自分が不仲なのを知っているのか、知りたいと思った。
「それに〜、楯無お嬢様とも仲直りしたいんでしょ〜?」
「………………うん。」
あの言葉を言われる前は大好きだった。2人で話し、遊ぶのが楽しかった。…それでも
「…でも、お姉ちゃんには負けたくない。」
「かんちゃんらしいねぇ〜。じゃあ剣ちゃん呼んで整備室へゴー!」
「…本音も…来るの?」
「もちのろ〜ん」
「……まあ…いいか、な?」
なんだかんだで幼なじみに甘い簪であった。
◇
お、いたいた。…にしても整備室って暗いな。…僕ちゃん怖い。アカンキモいわ。自分で考えといてめっちゃキモなってきた。
「ちっすーのほほん、簪。」
「けんけんちっすー」
「…」
いや返せよ!!そこはちっすーって!『…ちっす』でもええからさ!
「……ちっす。」
返すんかいっ!!
「で?どこまで進んでんの?」
「…外装や武装は大丈夫なんだけど……って、その前に…なんで剣がお姉ちゃんのこと知ってるの。」
…話を反らせませんでしたちくせう。
「同居人や。」
「…あっ、そっか。…護衛か。」
こいつマジの天然か。
「…で、剣から見て……お姉ちゃんって、どんな、人?」
「どんな、どんなかぁ……」
…猫?アカン、怒られる。…乙女…って言ったら照れよるし…
「普通の女の子って感じか?」
「……真面目に答えて。」
割と真面目やってんけど…後は…あぁ。
「…可哀想、やな。」
「…どういうこと?」
「自分を、殺してる。俺は『楯無』が真名ちゃうこと知ってるし、あいつがどんなことしてるかも大体想像はつく。それにアイツ…お前のこと嫌ってないで?」
「…え?」
「いや嫌ってたら俺にどうやって仲直りしたらいいかとか聞いてこーへんやろ。」
あの時の表情ガチ過ぎて引きかけたからなぁ…
「…ほんとに?」
「おぅ。しかもお前のこと話す時めっちゃ楽しそうに話すしな。まあそれは…あっこにある本人から聞いたら?」
「え?」
「っ!?」
え…後ろの扉からガチで楯無出てきてんけど。半分冗談やってんけど。
「あ、楯無マジで居てんや。」
「勘で当てたの?…時々剣くんのそういうの、本当に勘なのかどうか怪しいんだけど。」
「勘やって。…ほら、楯無、こっちこっち。」
「…うん。」
…
「…」
「…」
「…」
「…いや、喋ろ?」
なんでのほほんもそんな真剣な顔してんねん。
◇
「…か、簪ちゃん。」
「……」
先に切り出したのは姉であり…そして過去、簪を突き放してしまった楯無である。
「…ごめんなさい!」
「えっ…」
簪は目の前の光景が信じられなかった。完全無欠、完璧、そんな存在だと思っていた姉が、自分に対して深々と頭を下げたのだ。
「…こんなことを言ってもすぐに信じてもらえるとは思ってないわ。…でもね、私は簪ちゃんのこと、ずっと大好きよ。」
「…なら…なんで…!」
そんな今の姉にだからこそ聞きたかった。聞けるような気がした。…こんな自分でも。
「なんであんなこと言ったの!?…わ、私だって……私は…!」
「…」
楯無は黙って簪の言葉を聞く。
「…私は…無能なんかじゃ…ない!私にだって……出来ることぐらい……あるもん!」
「………うん。分かってた…いや、分かってるつもりだったのよ。…だからこそ…」
「……」
言葉を続ける楯無をじっと見つめる簪。それは睨んでいるようにも、続きの言葉を期待しているようにも見えた。
「…完璧であり続けようとした…か?」
「…剣くん…」
予想外の方向から声がしたため、2人共そちらを向く。そこには普段の様子とは違い、壁にもたれかかり、腕と足を組み、表情を真剣そのものにした時守がいた。
「お前見てたらそれぐらい分かるわ。…2人共、怖かってんやろ?」
「「っ!」」
「楯無は完璧が崩れるのが嫌、んでもって妹に暗部としてのを仕事に関わらせたくなかった。…で、簪はさらに楯無に突き放されるのが怖かった。…やろ?」
「…それは…」
「何となく分かんねん。…あのな、1つ言わせてもらうわ。」
真剣な表情のまま、時守は続ける。その隣に立つ本音も、どこか不安げな表情を浮かべている。
「アホ。」
「…は?」
「…え?」
「いくら姉妹でも言葉にせな伝わらんこともあるやろ。それにな、簪。…お前は楯無になる必要はないやろ。お前はお前や。楯無とおんなじ事で頑張らなアカン理由なんて1つも無い。んで楯無。もうちょい簪の立場に立って考えたれ。…お前ら2人共お互いのこと大切に思ってんねんやったらな、そんなしょうもないすれ違いで仲悪なったらあかんで?」
「「…」」
2人は俯いたまま言葉を出さない。
「ま、簪が思う程楯無も完璧ちゃうけどな。…初日にあんなことしたもんな。」
「ちょ、ちょっと剣く―」
「裸エプロンで出てきてアレやもんな。」
「い、言わないでって―」
「…お姉ちゃん?」
「他には…ドMやったりとか?」
「だからそれは違―」
「…お姉ちゃん…何してるの?」
「ち、違うのよ簪ちゃん!」
「後は簪の魅力をひたすら語ったりとかやな。」
「…もう…やめて…」
「…お姉ちゃん…嬉しいけど…ね?」
「ははは。ほら、すぐ仲直りぐらいできるやろ?」
その言葉で気がついた。いつの間にか以前のように話せていることに。
「ま、後は2人だけで話し?専用機は明日からや。…ほら、のほほん、行こ。」
「うん、じゃーねー、かんちゃん、お嬢様ー。」
そう言って2人は整備室を出た。
…不思議と、さっきよりかは気が楽だった。
「…剣くんの言う通り、簪ちゃんに暗部の仕事に関わってほしく無かったの。」
「…それって…」
「うん、簪ちゃんが心配だったから、大好きだからよ。…ダメな姉ね、私って…簪ちゃんに…あんなことをしないと…守ってあげられない…」
「…そんなこと…無いよ?」
「…えっ?」
先ほどまで黙っていた簪が口を開いた。
「…私も、何となく…分かってた。…楯無としてのお姉ちゃんと…刀奈としてのお姉ちゃん。…あの時の、言葉は…楯無の言葉だって。」
「簪ちゃん…」
「…お姉ちゃん、私も…謝りたい。今まで、ずっと意地になってた。…ごめんなさい。」
「で、でも…簪ちゃんを…」
「…お姉ちゃんのそういうとこ、悪い癖、だよ?」
「え?」
「…なんでも自分でしようとして…疲れてる…でしょ?…分かるよ?……妹だし…お姉ちゃんのこと、大好きだもん…」
「簪ちゃん…!」
大好き、という言葉を大好きな妹から貰い、顔がぱあっと明るくなる楯無。
「…ねえお姉ちゃん?」
「…なあに?簪ちゃん。」
自然と、完全に昔の2人へと戻っていた。
「ドMって……お姉ちゃん、剣にそういうことされて…嬉しいの?」
「ち、違うのよ!簪ちゃん!」
超ご都合主義…なのかな?