「…とは言ったもののやっぱキツいか?」
敵と相対しながら、時守は小さくつぶやく。
「……なんやよう分からんけど…様子見しとんのか?お前。」
時守の問いに敵は答えない。だが、答えないからといって放置しておいて良いものでもない。なぜなら――
「話聞いてんのかお前…、ちっ、まあええわ。(問題はコイツが皆を狙うことや…なんとかして俺に注意を引き付けな…)」
ここは観客席。時守以外の生徒はもちろん専用機など持っておらず生身である。もし、そんな所にビームやらを打たれてしまえば大惨事になってしまう。よって――
「(心もとないけど…)短期決戦や!!」
『オールラウンド』を自身の体の前に構え、敵に突っ込む。――が、その異常に長い手に阻まれ、弾かれる。…そして…
「っく!」
ビームが敵から放たれる。ギリギリで躱そうとしたが、僅かにかすり、SEが減ってしまった。
「…遠近両用かよ…ってことは老眼や乱視にも対応してんのか?…ってボケてる場合ちゃう…か。…やばいな。」
『どうする』
その問いに対する答えを導くために、時守の脳は動き続ける。
『グングニル』―この短い間合いで振りかぶる時間も無い。
『ランペイジテール』―限られた空間の中では効果を発揮しにくい。そして何より…
「『ラグナロク』だけでどれだけの威力が出るか、それとどれだけ引き付けるか…やな。…っやべ!」
作戦を考えている間も、敵は攻撃を続けてくる。…それが自分だけならまだいいのだが―
「くそっ!」
「…ひっ…」
「大丈夫か理子!!」
「…う、うん……」
避難しようとパニックになっている生徒まで攻撃されてはこちらからろくに攻撃できないのだ。今はなんとか『ラグナロク』でビームを弾いているが、このままいけばいつ『オールラウンド』が悲鳴をあげ、折れるか分からない。
故に――――
「(思考を…止めろ。…感じるままに…ってやつや。)…はっ!!」
己の本能に従って敵を落としにいく…
「(ビーム以外では一撃で落とされることは無い…ビーム撃たれる前に近距離から離されずにひたすら…)…お、おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
本来ならば相手を拘束、または距離を取るための武装『ランペイジテール』を防御のために使用する。
しかし対する相手もその異常な長さを誇る腕を人間で出せる速度の限界を大幅に振り切った速度で振り回す。『オールラウンド』と『ランペイジテール』の2本で防ぎ、攻撃に転ずるも、それも防がれる。という一進一退の状況になっていた。
そんな中、一本のプライベート・チャネルが飛んでくる。
『時守!アリーナの方は織斑と凰が落とした!!…その相手は無人機だ、遠慮など要らんから殺す気でいけ!』
「……人殺したことなんか無いんすけど…あ。…了解っす。」
『…くれぐれも無茶はするな。以上だ。』
そして一方的に切られた。
「(無茶するな…か、教師も楯無とかも来れへん時点で俺がやらなあかんのやろが…!)はぁっ!!」
今度は『オールラウンド』一本で攻め、防ぐ。対する相手も今度は『オールラウンド』を掴むような動きで時守の動きを止めようとする。
…そして――その時は来る。
「(…かかった!)『グングニル』!!」
時守は素早い動きで敵から離れ、『グングニル』を発動させ、構える。…もちろん、相手もそれを止めようと追撃しようとするのだが…
「…セシリーの時の威力見て、こんな至近距離で投げたら人死なせてまうかも知れへんかったし…使えへんかったけど。無人機やったら構わんやろ。」
時守の背後から伸び、幾多もの柱を通り、『ランペイジテール』が敵に絡みつく。まるでトラップのように仕掛けられたそれは、敵の動きそのものと、腕の動きの全てを止めた。
「…おらっ!!」
かつてセシリアに投げた時は450km/h、今回はそれを遥かに超える600km/hの速度の『グングニル』が敵の頭部に命中し――
「…止まった…か。」
破壊した。頭部を跡形もなく粉砕された敵は、完全に動きを止めた。
『ランペイジテール』を解き、自身の背後に戻す。
「…お、終わったの?」
「あぁ、多分な。2人共無事か?」
「うん。」
「…よ、良かった。…剣は?」
「お?俺か?…俺も無事や。はー、疲れ――」
が、ほっとしたのもつかの間、敵もただでは終わらなかった。
「…え?」
「くそがっ!!それが本来の目的かい!!!」
先程時守が沈めた筈の機体の胴体が急に光りだしたのだ。
時守も人並みにはゲームをする。そして、この状況をいち早く察知したのだろう。…理子、そして簪、扉付近に居る他の生徒の盾になるように両手両足を広げ、敵と皆の間へと飛んだ。
『ピピッ、自爆システム……起動』
無機質な女の声と共に、敵は爆発した。
――その爆発はアリーナの観客席の一部を吹き飛ばす程の威力であった。
◇
「ここは誰?俺はどこ?俺は時守剣ちゃんでございます。」
「脳は無事なようだな、時守。」
…あれ?ちっふー先生?
「…なんでちっふー先生が?ってかここリアルガチでどこすか?」
とりあえず体起こし――!?!?
「いって!なんやこ……あ゛ぁ……」
「馬鹿者…無茶をするなと言っただろうが…」
無茶?…俺何してたんやった…あ!!せや、思い出したわ!
「か、簪とか理子は!?」
「無事だ。お前が盾になったおかげでお前の後ろにいた生徒は全員無傷だ。全く…心配掛けおって。」
「…敵は?」
「完全にバラバラになった。…一夏の方に行った機体よりもエネルギーも少なく、パワーも弱かったんだがな。その分自爆の方にエネルギーが回されたみたいだ。…お前が居なければ何人が死んでいたか…、こんなことを言うのもアレだが、お前が居てくれて本当に助かった。」
「いいんすよ。…俺が自分の意思であいつらの壁になったんすから。」
今、すんごいありえへんぐらい…あ、いや、タンスの角に足の小指ぶつけた方が痛いけど、それぐらい痛いけど我慢できるし。皆を最終的に守れてんやったら後悔はない。
「…そうか。あいつらには無事だと伝えておけよ?お前のことをずっと心配していたんだからな。」
「あいつら?」
織斑先生が指を差した方には扉、その扉から覗いてる眼が8つ。
「ふっ、モテる男は辛いな?」
「…ま、そうっすね。」
「…お、お前まさか気づいてるのか?」
「さあどうでしょ?…少なくともリコピンはそういうのちゃうとは分かりますけどね。」
これでもしちゃうかったら恥ずかしすぎるし…どうしよかな…
マジか…マジか…!?とつぶやきながらちっふー先生は出ていった。…なんやあの人、なんか最近変わってへんか?……お、おぉう!?
「剣くん!?」
「剣さん!?」
「…剣!?」
「時守ぃ!!」
『大丈夫なの(なんですの)!?』
楯無、セシリー、簪、リコピンが一瞬で俺の寝てるベッドまで詰め寄ってきて問いただしてきた。
…その大声が響いて今死にそうですねん。
「あ、あぁ…大丈夫やで…ってかリコピン、声…おっさんみたいになってる。」
「冷やかさないの。ほんとに心配したのよ?」
「ははっ、悪い。…皆もごめん。」
「…わたくしも、心配しましたわ。無事で何よりです。」
「…うん、…もう無茶、しないで…。」
「謝るのは私の方よ。…生徒会長なのに何も出来なかったわ…」
楯無が俯き、それにつられる様に簪も俯く。簪は専用機のことを気にしてるんやろな。
「ええって。ほら、俺は生きてるし。」
そう言って両手を広げる。…すると楯無と簪は苦笑いを浮かべ
「…剣…やっぱりヒーローみたい。…あの時も、カッコよかった…。」
「この場合『みたい』じゃなくて本物のヒーローよ。…でも、無茶しちゃダメよ?…まだ――」
安静にしろ、とかいうつもりやろうけど、そんなことは分かってる。大事なんはこれからや。
「分かってる。…まだ俺は弱い。今のセシリーや簪にも余裕で負けるやろな。…やから、皆頼む。」
頭を下げる。自分が強くなるために人に教えを請うねん、これぐらいして当たり前やろ。
「ふふっ、そういう男の子、おねーさん好きよ?」
「えっ!?ちょ、ちょっと楯無さん!?いきなり何を…!」
「…大丈夫、お姉ちゃんのはそう言う意味じゃないから…。お姉ちゃんの言う事は最初から信じちゃダメ。…疲れるから。」
「うぅぅ…簪ちゃんが辛辣なの…慰めて?剣君。」
「頼む言うたよな!?俺!話変わってへん!?」
「時守がツッコミに回るって珍しいわね…」
おいこらリコピン!笑ってへんで切り替えてや!
「大丈夫よ。ちゃんと特訓には付き合ってあげる。私と簪ちゃん、後セシリアちゃんと…理子ちゃんはどうする?」
「正直、今は自分の事で精一杯なんで…もう少し訓練機をまともに動かせるようになったら考えさせてもらいます。」
「うん、理子ちゃんならその道がいいと思うよ。ちゃんと実力を付けてから…ね?」
「は、はい!」
ほー、リコピンもちゃんと考えてんねんな。
「…あ、でも俺明日からどないなんの?」
「まだ動いちゃダメ。…今のところ絶対安静なのよ?授業内容とかはセシリアちゃん、簪ちゃんに。身体を動かさなくてもできるイメージトレーニングとかは私や織斑先生に頼むわ。」
「…え、ちっふー先生来んの?」
「当たり前よ。…生半可な強さで『国連代表』を名乗らせる訳にもいかないらしいわ。じゃ、明日からよろしくね、剣くん。」
「よろしくお願いしますわ、剣さん。」
「よ、…よろしく…剣。」
「参加できないけど、応援してるからね。」
…頼もしいな。よっしゃ!頑張るか!!
「おう!」
シャル!ラウラ!出せる!