「海、見えたーーー!!!」
バスがトンネルを抜け、その先に見えた光景に、数人の女子が声を上げたみたいや。
今日は待ちに待った臨海学校初日、天気も快晴、波も穏やか。『絶好の臨海学校日和ですねー』というやつだが何かしらのフラグが立ちそうなのでやめとく。
あぁ、さっき『みたいや』って言ったのはな…
「―――く、ウルトラソゥッ!!」
『ヘェイ!!』
バスん中絶賛カラオケ中で周りが何言ってるか全く聞こえへんからや。
いやー、改めて感じたけどさ。1組ノリ良すぎな。
「ちっふー先生はー?」
「そういうものはお前達だけでやれ」
「えっ…」
「……山田くん…君は教師という立場なんだぞ…?何故そんな残念そうな顔をするんだ」
山田先生もめっちゃ歌いたそうにしてますやーん。……あー、なるほど。
「恥ずかしいんすね?ちっふー先生」
「っ!ち、違う!恥ずかしくなんかない!!」
「じゃあ下手なんすか?」
「下手じゃない!あ、ああ下手じゃないとも。ほらお前達、もう目的地に着くぞ?早く自分の席に座れ。もう時間だ。時守、マイクを渡せ」
「えー」
「……2度は言わんぞ……沈められたいのか?」
「…帰りは…?」
「映画だ。…まあ疲れている者は寝てもいいがな。ほら、冗談抜きにもう着く」
「へーい」
「…んぁ?ここって…ま、まさか…な」
目的地の旅館に着いたらしく、1組の面々がバスを降りる。もちろん俺も降り、整列したのだが…。
「やっぱりかぁぁぁあ!!!」
「うわっ!ど、どうしたんだ?剣」
「い、嫌や…なんで…なんでよりによってここやねん!」
そう、今回の泊まる場所である――――
「黙れ時守。さて、今日から3日間お世話になる『花月荘』だ。全員、従業員の方に迷惑をかけないように」
この『花月荘』が問題…否、そこにいる人物が問題なのだ。
『よろしくお願いしまーす!』
1年全員で挨拶をする。頼む!!休んでてくれ!インフル!インフルでいいから!時期じゃないけどインフルかかっててくれ――
と、俺の願いも虚しく、最も会いたくない人物が現れた。
「はい、よろしくお願いします。今年の1年生さんも元気いっぱい……って、なんで剣ちゃんがここに?」
『え?』
その人物、清洲景子の思いもよらぬ一言で、全員の視線が俺に向けられる。
「俺が2人目やねん。清洲のおばはん」
「…去年も言うたのに……まだおばはん言うねんな、剣ちゃんは」
「っ!や、やめて!!俺は今日生徒としてここ――」
ゴリュッ!
1番先頭に並ばされていた俺は、清洲のおばはんの一撃によって意識を削り取られた――
◇
「あ、あの…景子さん?」
「っ!あ、ああ織斑先生。すいません、つい」
俺の隣で剣が意識を刈り取られた後、すぐに千冬姉が清洲さんに話しかけた。…というか『つい』で意識を刈り取られたのか、剣は…
「時守とはどういう関係で?」
「まあ…簡単に言えば甥っ子ですね」
『甥っ子ぉ!?』
「はい。ですから毎年夏休み、ここに手伝いに来てもらってるんですけど…毎年毎年あんな呼び方をするものですから…つい。あぁ、気にしなくても大丈夫ですよ?今は気絶してますが起こしますので」
それで良いんですか清洲さん。一目見た時は綺麗な人だと思ったけど…すごく怖い。
なんだろう。俺にはバイオレンスな女性ばかりが集まる呪いでもかけられているのだろうか?
「こちらの男の子は剣ちゃんよりもしっかりしてそうで良かったです」
「……まぁ…時守に比べれば…。ほら、挨拶をしろ馬鹿者」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。…剣ちゃんは1番最初に会ったとき『ようおばはん』でしたからねぇ…」
「あぁ…」
「い、いえ…時守がどうあっても不出来な弟には変わりありませんので…」
「不出来というか人を心配させるというかそういうことは剣ちゃんに勝てる人はそういないと思いますよ?…ほら、起きなさい剣ちゃん」
気絶してきる剣を清洲さんはしゃがんで起こそうとする。
時に肩を揺さぶり、時に脇腹を蹴り、時に頭にチョップを喰らわせる。
そしてどこからか出したザリガニが剣の耳を挟んだ時、剣は目を覚ました。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!なんやこれ!!ザリガニ!?」
「おはよう剣ちゃん」
「お?おぉ清洲のおばはん。おはよ。なぁ、そろそろ部屋案内してくれへん?」
「それじゃあ皆さん、お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館で着替えられるようになっておりますので、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければ、従業員や剣ちゃんにいつでも聞いてくださいまし」
『はい!』
「あぁ、それと。剣ちゃん。また毎年恒例のアレ、頼むわね?今年は一般向けの分はいいから、学園の子達の分をできるだけ…ね?」
「へーへー」
清洲さんからの説明が終われば、皆思い思いに部屋へと移動していく。
◇
「剣さん?…その…お部屋の方は…」
「おぉセシリー、シャル、簪。いやーそれがな?しおりのどこにも書いてへんねん。どーゆーこっちゃ?」
「…さぁ?」
「ば、場所が分かったら教えてね!?」
「おぅ」
皆が散り散りに自分の部屋に向かったかと思ったら、3人と他数人がまだ残っていた。
ほんまにどこにあるんやろな。
廊下?押し入れ?
まあ寝れたらどこでもええか。…ほんまにどこでもって訳にはいかんけど。
「じゃ、またビーチでな」
「うん」
シャルたちと別れ、ちっふー先生と清洲のおばはんのとこに行く。
「まさか剣ちゃん…彼女できた?」
「おう。4人」
「は?」
「まぁそうなります……はぁ、時守。風紀の乱れるような事はするなよ?」
ち、ちっふー先生エスパーっすか!?ってかはよ部屋教えて欲しいんすけど。同室の子と遊んだり、俺が持ってきたホラー映画見たりとかしなあかんし。
…まあ風紀に関しては―
「……善処しますわ」
―としか言いようがない。
「『しない』って断言しないあたり剣ちゃんらしいな。…あ、剣ちゃん。アレの装備はどうする?」
あー、アレな。どないしよか。水着はあるし…
「ジェイソンとあといつものアロハ1枚でいいわ。タオル用意しといてな?」
「ん、分かった。ほら、早う荷物置いて従業員の更衣室に行き?」
「あーい」
清洲のおばはんに催促され、ちっふー先生とワンサマと移動を開始する。
「と、ところで織斑先生…。俺たちの部屋は…?」
「ついてこい。すぐ分かる」
ちっふー先生に連れられ、しばらく歩くと教員室と書かれた紙の貼ってある扉の部屋の前で止まった。
「お前達は私と同室だ。最初は個室でも、という意見があったのだがな。女子が大量に押し寄せてくる可能性が高すぎるからな」
「あぁ〜」
「ま、そうなるわな」
「…ところで時守。…景子さんと話していた『アレ』や『ジェイソン』とはなんだ?」
ちっふー先生が珍しく、全く分からない、といった表情で聞いてくる。あー、めっちゃ今のちっふー先生の顔写メ撮りたい。
まあでもアレとジェイソンに関してはまだ言うべきちゃうな
「まあ二人とも見れると思うんで、お楽しみってことで」
首を傾げるワンサマとどこか不満そうなちっふー先生を置いて先に部屋に入る。
ま、今はこの臨海学校…楽しもか!!
束さんの出番はまだ無し。
>ヒドイヨー