IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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目覚めるヒーロー、散る英雄

時刻は午後4時。

一夏を連れて離脱した箒は、無事(?)ビーチに帰っていた。そこには既に専用機持ちの面々と、真耶や千冬を含んだ教師陣、そして重傷の一夏のための医療スタッフなどが既に集まっていた。鈴やラウラ、一夏に想いを寄せる者は一言箒に言ってやりたかったが押しとどめた。千冬が制したのと、未だもう1人が2km沖で戦っているからだろう。そのもう1人の将来の妻たちが我慢しているのだから、自分たちがここで爆発させる訳にはいかない、という思いでなんとか耐えていた。

 

だが、人はそう強くはできていない。―特に、箒や一夏達、思春期の高校生達は何かと不安定だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田くん、時守はどうだ?」

「…依然戦っていますが…不利そのものですね。高火力武装『グングニル』が使えないというのに、さらにこちらへの進行を許せない状況にあります。もし許せたとしても…時守くんがフルスロットルで逃げても後ろからそれこそ狙い撃ちされますし…」

「…そう、か…」

 

 

ならば…と、その先の答えは出てこない。千冬ですら、今この状況で何をするのが正しいのか分からないのだ。

―残りの専用機持ちを全員出撃させる?

―それとも時守に一夏が回復し、白式と共に出撃できるようになるまで耐えてもらう?

―はたまた時守1人に倒してもらう?

―それ以前に、時守以外のメンツの精神状態をどうやって戻す?

教師であるにも関わらず、最後の問の答えが出せないのに歯噛みする。

鈴とラウラはいくら箒が浮かれていたからとはいえ、篠ノ之束博士お手製の最新機が3機同時に戦ってもそのうち2機が落とされたという事実に怒りと、そして諦めを感じている。

セシリア、シャルロット、簪は直ぐにでも助けに行きたいと、千冬に直談判したが千冬はこれを拒否。『中途半端な陣形で、微妙な連携。今のあいつの邪魔になるだけだ』という言葉に3人は押し黙ってしまった。

実際、簪はオールレンジ、シャルロットは中衛、セシリアは後衛、そして時守は前衛と見栄えだけで見れば良さそうに見えるが、『微妙な連携』と言われてセシリアが止まったのだ。以前ラウラに鈴と2vs1で戦ったときのことを思い出したのだ。鈴とはコンビとしての相性も完璧だったが、連携の取れていなかったことと、敵機のスペックに負けてしまった。それが今回にも、いや、前よりも当てはまると分かったセシリアは悔しそうな表情で千冬の元を去った。その試合を見ていたシャルロットも、そして1人になった簪も…。

もちろん、専用機持ちは一夏が落とされた瞬間、全員が出撃しようとした。だが時守が箒に言い放った『お荷物』という発言に、皆が動きを止めた。自分がまともな精神状態でないと、全員が分かっていたからだ。そこは流石は代表候補生というべきか。

だが、止まってしまったから分からない。次に何をすればいいのか。箒も含めて6人での即席陣形など、すぐに崩れ、負けるなどということは落ち着いて考えれば分かることだった。(一夏は重傷+機体ダメージレベルDにより出撃不可能)

機体のスペック差や他の要因が重なり、専用機持ちたちは未だに動けず、ずっと座敷部屋にいた。そこに一番の理由がある。

 

 

「…時守くん、キツそうですけどこのままいけば篠ノ之さんと織斑くんが復活するまで持ってくれますかね?」

「どうだろうな…だが、『守り』のみに意識を置いていれば問題無いだろう。…金獅子の残りエネルギーは?」

「SEが残り54%、動力が残り60%といったところです。機体ダメージレベルもまだBですね」

「ふむ…まあ流石は低燃費ISにあいつの技術といったところだな。ほぼあの地点から動いていない」

「それが大きいですね。…あと、『ラグナロク』ですらほとんど発動してませんから。恐らく時間稼ぎに全てを使っているんでしょうか?」

「そうだな。…一応連絡を入れておくか」

 

 

一夏が撃墜され、箒が離脱してから3時間が経過したが、時守は耐えていたのだ。

どういう理由か1時間が経過した辺りから福音の攻撃がやや穏やかになり、一進一退の攻防、というよりは手の内の探り合いといった状態になっていた。

千冬は時守にプライベートチャネルを繋ぐ。

 

 

「時守。大丈夫か?」

『えぇなんとか…一夏はいけそうっすか?』

「…今日中には無理かもしれん…」

『…んじゃどうします?俺1人じゃ無理ですし、しょうみ一夏の『零落白夜』以外でどう落とせばいいか分かんないんすけど』

「……こちらから出撃させるか?」

『それも考えてるんすけど…誰と誰をどんだけの人数連れてきてもらったらいいかってのがまだまとまってないっす』

「…では、引き続きしばらく現状維持を保ってもらえるか?もう早く倒さねば、などは考えなくてもよい。最悪なのはお前が抜かれて福音が花月荘に近接、そこに『銀の鐘』を撃ち込まれることだ。それだけは避けたい」

『了解!』

 

 

モニターに映る時守が福音に接近する。全員の脳内に『味方が複数人いる状況での撃墜』が残っており、時守も、千冬も、専用機持ちたちも援軍が必ず要ると判断しない。

仮定の話だが、福音の暴走プログラムに『敵機を複数体認識した場合、殲滅を行う』等といったものが組み込まれているかもしれないからだ。

 

 

「…どうしたものか……」

 

 

モニターの前で千冬は考える。どうすべきかを――

 

 

だが、機械はまたしても無慈悲だった。

 

 

 

 

 

 

『敵機『金獅子』SE残量50%を確認。ただいまより目標の殲滅に入ります。

『銀の鐘』並びに『銀の指揮者(シルバー・コンダクター)』を稼働開始』

『んなっ!!』

「時守!?」

 

 

福音の動きが変わる。

光の粒子が翼だけでなく、両方の掌に凝縮されていく。

 

 

「まさか…!荷電粒子砲…!?」

『みたいっすね…!クソがっ!!』

 

 

2本の荷電粒子砲、そして36の爆発光弾。

対する時守は薙刀状にエネルギーを纏える一本の棒のみ。

36の砲門から同時に撃ち放たれる光弾を、1つ、また1つと防いでいくが、福音から放たれる2本な荷電粒子砲。さらに追加される光弾が、じわりじわりと詰将棋のように時守を追い詰めていく。

 

 

『ぐぁっ…』

「時守!!」

「剣さん!?」

「「剣!?」」

「金獅子残りSE38%!!動力残り42%!機体ダメージレベルCを突破しました!」

 

 

一気に座敷部屋が騒がしくなる。ただでさえ緊張感が漂っていたのだが、『時守撃墜』の可能性が出てきたため、どうにかできないか、と模索していく。

 

 

 

『…2km先、多数のIS反応を感知。『金獅子』を撃破し、標的を変更』

『まだ終わっとらんわぁ!!』

 

 

時守が『オールラウンド』を振るうが、福音はそれをひらりひらりと回避。さらにすれ違いざまに36門同時射撃。半分は時守にかすりもせずに通り過ぎていくが、残りの半分の全てが時守に直撃する。

 

 

『がっ…!…ぁっ…!』

「……くそ…!」

「あたし、箒をぶん殴ってでも呼んでくる」

「私も行こう。…師匠が、まだ戦っているのだ。終わってもいないのになぜあいつは諦めているのか問い詰めねばならんからな」

 

 

鈴とラウラが、箒がいる一夏の療養部屋へと向かう。箒がいれば、6人いれば時守を助けることができるかもしれないと思ったのだ。

 

 

『ま………まだ、や…。まだ……負け、られるかぁ!!』

 

 

額から、左頬から、右脇腹から、両太ももから血を流しながら叫ぶ。SEが切れ、装甲もボロボロだが、動力はまだ十分生きていた。

 

 

 

『La……♪』

『はっ…、んじゃもうちょい…上げよか!!』

 

 

互いにスラスターからエネルギーを放出、加速する。

座敷部屋では大半の者が諦めていた。絶対防御すらも働かず、ISの高火力の攻撃をほぼ装甲のみで受けなければならない状況に。対するこちらは高火力武装を使えないという状況に。

しかし、先ほど福音の動きが変わったように、今度は時守の動きが変わる。

 

 

『La……』

 

 

時守に接触するほんの一瞬前、福音は光弾を発射した。その狙いに慣れてきたのか、36のその全てが時守へと吸い込まれていった。―が、

 

 

 

『右、正面、左下、上、真下、右上、左脇、頭上、正面8発、背面5発、右脇、左、左下、真上、左上、右脇、真下、頭上、正面、周囲6発……』

 

 

 

時守が高速で言葉を発する。そしてその言った通りの方向の光弾を、『オールラウンド』で全てたたき落とす。

 

 

『…ふっ!』

『La…!?』

 

 

機械質ながらも、焦ったような音声が聞こえる。

二重瞬時加速。

福音から見れば、光弾を全て浴びせ、殺したと思った相手がその全てを撃ち落として一瞬で懐に潜っていたのだ。

 

 

『………はぁっ!』

 

 

一瞬五斬。『ラグナロク』が福音の装甲を斬りあげた。

 

 

「よし…!」

「剣さん…」

 

 

教員の1人から歓喜の声が漏れ、セシリアから不安そのものの声が零れる。不安げに見守るのはセシリアだけでなく、千冬と真耶、簪もだ。

この4人は初めて時守が死にかけた『無人機襲撃事件』を実際に見ている。その時の状況と酷似しているからだろう。

 

 

「(あいつのあれは…確かに強い。…いや、ISバトルに置いては反則クラスの強さを誇る。普段のそれを遥かに凌駕する集中力、ほぼ未来予知に近い状況判断、ミスのほとんどない正確な操縦………追い込まれた状況で感覚が鋭くなり、無意識にその全てを活用する。…間違いなく『天才型』の戦い方だ……だが…)…気をつけろよ時守…」

 

 

千冬は時守のこの集中状態を何度も目にしている。本人は自覚していないだろうが、セシリア戦、無人機戦、VTシステム戦、そして国連での模擬戦と、強者と戦う時にごく稀に起こる。そして、模擬戦ではその場合、必ず勝利を収めている(言葉をほとんど発さず、慈悲なく相手を倒すので華があるかないかで聞かれたらもちろん無いのだが)。

しかし、今回のような緊急事態には大怪我を負うことが多い。無人機戦の時は最後の自爆は予想できなかったものの、それまでは終始相手を圧倒していた。

 

 

『キァァァァァ!!』

『………』

 

 

福音が吼え、時守は宙に浮いたまま自然体を保ち、相手を待つ。

 

 

 

 

 

―ミシリ

 

 

 

 

装甲のひしゃげる音がモニターから聞こえるが、発生源はすぐに分かった。時守が動いていない以上、福音が何かを強引に行った結果なのだろう。モニターに映る時守もその何かを察したように、『オールラウンド』を構える。

 

 

 

『La…』

『っ!』

 

 

 

数秒前の時守のように、二重瞬時加速で時守に近接、福音は右回し蹴りを放つ。が、時守の『オールラウンド』に防がれる。

 

…そして、戦いが終わりを告げる。

 

 

 

 

『Laaaaaaaaaaa!!』

『……あ…』

「な、なに…これ………」

 

 

 

モニターに残像が出来る程の速さで福音が時守の周りを飛ぶ。

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッションブースト)

普通の操縦者が使えば、成功率はほとんどない。だが、相手は暴走しているが機械。事前にプログラムされている作業を実行することなど実に容易い。

 

 

「織斑先生!!篠ノ之さんを連れて来ました!」

「これで一夏を除く専用機持ちが全員揃いました!」

「も、申し訳ありませんでした!!」

 

 

全員がモニターに釘付けになっていたその時、鈴とラウラが箒を連れて戻ってきた。

だが、誰も返事をしない。

それは今はそれどころではないからではなく、絶望に近い諦めをそのモニターに見てしまっているからだ。

 

 

『…くそっ……!』

『La♪……Laaaaaa!!!!』

 

 

予想外の事態に集中力を途切れさせる時守。

もちろんその隙を見逃してくれるはずが無く、高速で飛び回る福音から放たれた荷電粒子砲が『ランペイジテール』をその付け根からもぎ取った。

 

 

 

―そして

 

 

 

 

 

 

『La………』

「ひっ……」

「きゃぁぁぁぁ!!!!」

「時守くん!!逃げてください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は福音から正真正銘360°、福音が作る球体から、内側に居る時守に爆発光弾が打ち込まれる。

 

同時射撃が計20回。

 

合計光弾数720発が中心へと一直線に向かう。

福音は不可避の弾幕を張ったことを確認し、影響の及ばない場所まで移動する。

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

時守を中心に、半径500mの大規模な爆発が数秒程、続いた。

 

 

 

 

 

「千冬姉!!」

「……一夏…」

 

 

 

 

 

 

1人のヒーローが奇跡的に復活した代わりに、真耶の口から最悪の事態が言い渡される。

 

 

 

 

 

 

 

「『金獅子』…被弾数300を超えた時点で機体ダメージレベルE……被弾数700時、展開不可能により強制量子化開始………被弾数720時に操縦者のバイタル異常により、量子化…」

「……えっ…?」

 

 

 

 

 

状況を知らない一夏から、声が漏れる。

教師陣、他の専用機持ち達は絶句し、声すらも捻り出せない。

唯一言葉を出せた1人の真耶から、真実が明らかになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………時守くんの心臓が……止まりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、もう1人のヒーローの死を告げるものであった――




ワンサマ早めの復活。
ちっふー先生の判断や、他の要因については次回触れます。
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