「剣が……死んだ…?」
「まだ断定するのは早いですが…ISの保護プログラムも働いている
「か、かもってどういうことですか……」
「『金獅子』のダメージレベルがEを迎えていましたから……コアが無事なら仮死状態にあるかもしれません」
「…でもっ…!でもまだ完全に死んだ訳ではないんですよね?」
「そ、そうですが…」
機材に囲まれた中、専用機持ち7人の内唯一事態が理解出来てない一夏が、真耶から説明を聞いていた。他の6人は声を出そうにも出せなかった。
セシリア、シャルロット、簪の3人は事実を認めたくないのか、終始何かを考えているが、その目尻には確かに涙が溜まっていた。
鈴、ラウラの2人も先の3人には劣るが決して小さくないショックを受けていた。時守に『恋心』という物を抱いているわけではないが、鈴は普通の友達よりも仲が良かった―いわゆる親友―と思い、ラウラは普段から
箒は愕然とした。『自分が逃げて帰ったから』『力に溺れていた自分のせいだ』という思いに押し潰されそうになるも、真剣そのものの一夏の眼を見てその考えを止める。今は考えている場合ではなく、動かなければならないから―。
「だったら…行きます」
「行くって…福音の元にですか!?」
「当たり前です。…剣は、剣はまだ死んでいない…。それに、俺が眠っている間も剣は1人で3時間も福音と戦ってたんです。専用機持ち7人が集まって倒せないこともないでしょう?」
「…織斑、その自信はどこから―」
「俺のIS『白式』が第二形態移行しました」
「何っ!?」
声にしたのは千冬だけであったが、その場にいる者全てが驚きの表情を隠せていなかった。
『第二形態移行』
セカンド・シフトとも呼ぶそれは、ISが開発されてから10年が経った今でも片手で数える程しか発現していない現象だからだ。
「先生方は、…一体何をそんなに迷っているんですか?」
「これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかん」
「ですが!」
「30分」
『…え?』
今まで7人の出撃に否定的だった千冬から、『30分』という数字が言い渡される。これが何を意味するのか、それはすぐに理解させることとなる。
「ISには軽い『AED』や操縦者の周囲の環境を保護する機能が付いている。元が宇宙での活動を目的としたものだからな、コアさえ生きていれば最低でも30分は操縦者の命の安全は保証される」
「だったら―」
「だがな、もし行くのなら約束しろ。福音と接触後、20分以内に撃墜することをな。その場合は篠ノ之、先程のような失態は許されんからな」
「はいっ!」
箒のその声は、『紅椿』を貰った時と同じ程の大きさだったが、声色が全く違っており、真面目そのものであった。
不可能だと思われていた『福音撃墜作戦』が、最悪の場合『専用機持ち全員撃墜』という予想がされていた作戦が、一夏の『白式第二形態移行』で再び動き始める。それほどまでに『第二形態』とは大きな力を持つ。
「では、篠ノ之、織斑、凰を前衛、デュノア、ボーデヴィッヒを中衛、更識、オルコットを後衛とした7人陣形を組み、福音に当たれ。そして福音を撃墜し次第、福音の操縦者『ナターシャ・ファイルス』の保護、そして海底にいる『時守剣』を救出しろ!」
『はい!!』
千冬の新たな命令に専用機持ち達7人はすぐに座敷部屋を出る。
「私は…無力だ。1人の生徒を瀕死に追いやり…他の生徒も危険な目に……!」
「…織斑先生の判断は正しかったと思いますよ?…あのまま福音がこちらに来ない、とも限りませんし」
「…あぁ。だがそれなら海域を封鎖している教員もこちらに呼び戻して戦闘ができる」
「ですがその場合は一般生徒に危険が及ぶ可能性があります、それに加え時守君の救出がほぼ不可能となってしまいます。大勢の命か、少数の命か…正しい選択なんて、誰にも分かりません……最悪の場合はIS学園の新入生が皆………」
「そこから先は言うな。…すまないな、真耶」
「…先輩は昔っから、1人で闘いがちですから」
真耶と千冬の話を背後で微かに聞きながら――
◇
「――――あれ?…俺確か…腹痛くて…福音とやって…あれ?」
どこや?ここ。辺り一面真っ白やけど…精神と時の部屋?
『おぉ、気づいたみたいやな』
「あ?誰お前」
『ひっどいわー、剣ちゃん。せっかく瀕死の剣ちゃんの意識をなんとか繋ぎとめてここに居させたってんのに。金貰うで?』
「は?」
なんやこいつ。黒のワンピースに金髪ロングて…凄いな…
「ってかここどこ?お前マジで誰?……………俺瀕死なん!?」
『今更か…。そや、剣ちゃんは福音の攻撃喰らいすぎて現在進行形で死にに行ってる状況。はよ戻らなマジで死ぬなー』
「おー…」
なんかすげえ。いや、やばいねんけどな?
「で、お前誰よ」
『言っても信じる?』
「関西弁やからな」
『どういうこっちゃ。ま、言うけどなー。うちは『金獅子』の自我、言うなればISのコアの内部ってことや』
「ってことはここはお前の中?」
『……ここから見ててほんまに思うけどマジで剣ちゃんって鋭いよな?まあ補足しておくと内部であり内部でない場所。剣ちゃんの心層世界とうちのコアを繋いで作った世界やな』
「…入れんねんなー、そんなとこ」
『ほんまそれな。あ、う〇こ消しといたで?』
「さんきゅ」
まあ言わばISコアと自分のプライベートチャネル的な?
『で?どないするん。戻るん?』
「当たり前やろ。…抱いて終いとか嫌やし…もっと皆と色んなことやりたいし…」
『ほうほう……死にかけたのにまた行くと?』
「あぁ。…まだ、生きたいからな」
『…そっか。んじゃはよめに戻ろか。皆今福音と戦ってるけどヤバ目やしな。…あー、やっぱせっちゃんまだ使いこなせてもろてないやん…かっわいそうに…』
「せっちゃん?」
『ん。白式第二形態・雪羅、通称せっちゃん』
「そう呼んでんのお前だけちゃうん」
『なんで分かんの!?』
「お前の操縦者やからなー」
そりゃな。ペットは飼い主に似るっていうし。
「…戻れるんやったら出来るだけはよ戻りたいねんけど」
『剣ちゃん、…一つだけ約束して。もう死なへんって……うちも心配したし、ギリギリやってんから…』
「…分かった、約束する」
『んじゃ、行こか。…皆を助けに』
差し伸べられた手を、俺はそっと握った。
『言うてもまだ回復に時間かかるから無理やねんけどな?』
「はよ言えやボケ!」
『ご主人様のために第二形態移行したったISのコアに向かってボケやと!?舐めとんのかボケ!!』
「あぁ!?」
『あぁん!?』
「…ってか割とマジではよ戻してや。皆助けに行かな―」
『いや、やからまだ無理やねんて。7人が助けに来てくれてるっぽいけど…ぶっちゃけこのままいったら7人の撃墜と剣ちゃんの復活…どっちが早いか分からんで?』
「…7人もいて白式が第二形態になったんやったらいけるんちゃうん?」
『福音も第二形態移行してん。向こうさんもエネルギー全開+新武装。こりゃ割とマジでやばいで…。今剣ちゃんの身体とのフィッティング、パーソナライズ、あと単一仕様能力の定着、死にかけた剣ちゃんの体力強制回復…結構かかるわ…』
「マジか…皆…持ってくれよ…?」
福音と戦っている皆を思いながら、俺は真っ白な空間に座り、その時を待っていた―
◇
「La…♪」
「おおおおおっ!!!」
「はぁっ!!」
第二形態移行をした『銀の福音』と同じく第二形態移行をした『白式』、最新鋭の第4世代IS『紅椿』が激突する。
時守が粘っていたこともあり、福音は最初に戦闘を行った地点―『花月荘』より2km沖―の海面500m上空でまるで胎児のように丸くなり、浮いていた。
その福音に第二形態移行をした『白式』の新武装として左手に装備された『雪羅』で荷電粒子砲を一夏が放ち、直撃したのがちょうど出発してから5分で、今から20分前だった。
「くそっ!堅い…!」
「もう時間が無いのに……」
「一夏さん!箒さん!!離れてくださいまし!」
「…行って…!『山嵐』!」
「喰らえっ!!」
空裂の一閃を左手で受け止められ、『零落白夜』の一撃を全身を纏うエネルギーの翼のようなもので防がれた箒と一夏が苦い顔をする。
今この海域の近くに居るはずの時守の死がほぼ確実になるまで残り5分を切っているのだ。
そんな焦る箒と一夏を一旦下げ、セシリア、簪、ラウラがそれぞれの射撃武装を一斉に放つ。
「はぁっ!もう一回っ!!」
晴れた爆炎の中、何も無かったかのように佇む福音に再び一夏は零落白夜で攻撃を仕掛ける。
鈴の衝撃砲、シャルロットの高速切替による射撃で回避ルートを制限された福音が雪片弐型に斬りつけられる。
「ぐぁっ!」
「一夏!?」
が、悲鳴を上げたのは一夏も、であった。
現在の福音は人間が操縦していない。故に、攻撃を受ける時の恐怖も無ければ、自爆覚悟のカウンターを躊躇う気持ちなど、微塵も存在しなかった。
福音に蹴り飛ばされた一夏に箒が駆け寄る。
「大丈夫か一夏!」
「箒か!あぁ、俺は大丈夫だけど…もうエネルギーが…な…」
「…一夏…」
「なら一夏、アンタはその機動を生かしながら福音の妨害に当たりなさい。福音への攻撃はアタシ達がやるから」
「鈴…」
『白式』のエネルギー切れ。
それはこの作戦の大幅な火力低下を意味している。ISの絶対防御はSEがある限り発動し続けるが、発動すれば大幅に動力をも削る。故にSEを一撃で削り切るほどの火力を擁する『白式』は福音の強制停止にほぼ不可欠の存在となっていた。
つまり現状、福音を倒す手段は他の武装で強引に福音の動力を奪い切る、というものだけであった。
「……分かった」
「…アンタが悔しいのは分かってるつもりだし、何とかしてあげたいとも思うけど…今はそんなことしてる場合じゃないし…」
「そう…だよな…」
「(一夏…。また新たな力を手にしても、私のように驕らない強さ…か。確か…そこは剣も一緒だと千冬さんが言っていたな。…?なぜだ?…剣を救わねばならん状況で、福音を倒さねばならん状況で…なぜ私はこんなにも落ち着いていられるのだ…?)」
セシリア、シャルロット、簪、ラウラが福音と戦闘を行い、一夏と鈴が臨時の作戦を立てている中、箒は1人冷静だった。
「(なんだ…簡単ではないか。…皆、強くあろうと、そして強くなろうとしているんだ…。…こんな未熟な私でも…、もし許されるのなら、共に一夏と戦いたい。…あの背中を守り、隣に居たい!)」
そして、強く、強く願う。
願いに答えるように紅椿の展開装甲がより開き、赤の光に黄金の粒子が混ざる。
「これは…!?」
「ほ、箒!?」
「あ、アンタ何よそれ……」
ハイパーセンサーに集中していたため、隣で一夏と鈴が驚くのも分かるが、それよりも衝撃的なものがそこには記されていた。
「…機体のエネルギーが、急激に回復している…。単一仕様能力『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築…完了…!一夏!鈴!!私に触れろ!!」
一瞬にして『絢爛舞踏』の何かを悟った箒は、鈴の『甲龍』と一夏の『白式』に触れる。
「な、なんだ…?エネルギーが……回復してる!?」
「こ、これが紅椿の単一仕様能力…?っ!とにかく行くわよ一夏!!零落白夜も使えるようになってんでしょ!!」
「あぁ!箒も行くぞ!」
「無論だ!」
一夏と箒が左右から福音を攻める。
「とりあえず、…正面、ぶっぱなしてやるわっ!」
衝撃砲の軌道上に味方がいないことを確認した鈴はフルパワーで放つ。福音はそれを上に飛ぶことで回避する。
「箒!」
「任せろ!」
福音の回避先に既に回り込んでいた箒が、その翼を紅椿の二刀を並べ、一断の斬撃で断ち切る。
「逃がすかぁぁっ!」
「私が止める!」
さらに脚部展開装甲を開放し、急加速の勢いを乗せた回し蹴りが、ラウラのAICにより動きを止められた福音の本体に入った。
「今度はわたくしと…!」
「僕もいるよ!」
「…私も…!」
ラウラがAICを解除、その瞬間、ぐらりと体勢を崩した福音に、ブルー・ティアーズ、ショットガン、そして『山嵐』―計48発の実弾ミサイル―が福音を襲う。
その数秒後、煙の中から現れた福音に、一夏が止めの一撃を刺しに行く。
「ぜらああああっ!」
福音の胴体に零落白夜の刃を突き立て、全ブースターを最大出力まで引き上げる。
押されながらも、最後の力を振り絞るかのように一夏の首に手を伸ばす福音。
その指先が一夏に触れかけたところで、福音は空中で停止した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、……」
全身装甲の胴体の前面が開け、ISスーツを着た操縦者が、海に堕ちていく…。
「しまっ―!」
「―ったく、ツメが甘いのよ、アンタは」
ほぼエネルギーが満タンの鈴が、海面ギリギリで操縦者をキャッチする。
簪、セシリア、シャルロット、ラウラも無傷とはいかないが全員時守に比べればマシな方である。
「では、早く剣を――――」
福音の近くに居た箒が、皆の元へと向かうためにゆっくりと飛んだ。
瞬間―
『最終エネルギー、起動。…ハック、一時的に完了。周囲ISの単一仕様能力強制発動』
『なっ!?』
7人全員のISが止まり、一夏の『零落白夜』と『雪羅』、箒の『絢爛舞踏』が強制的に発動される。
「まだ生きていたのか!?」
「そ、それよりまずいよ!」
「箒!避けろ!!」
ラウラ、シャルロット、一夏が声を上げるも、絢爛舞踏を発動させたままの箒に、福音の手が触れる。
『エネルギー…全回復…ただいまより、再び殲滅を開始します。『銀の鐘』、『銀の指揮者』最大稼働―開始』
「くっ…!」
強制ハッキングが解けた一瞬で、自分がいた場所から各々が離れるも、復活した福音のフルパワーのエネルギー弾雨が7人を襲う。
そして―
『海底に、新たなIS反応感知。新たなIS反応感知…その数…1』
全員のハイパーセンサーにこの場へのもう1人の参戦者の存在が映し出される。
『機体名『金獅子第二形態・
敵ではなく、味方の――。
福音の第二形態の装備はwiki先生より。
モッピーの戦闘中の台詞が「一夏!?」「一夏…」「一夏ぁ!」「一…夏…?」「一夏!…一夏!!」ぐらいでも全然違和感が無いと思う今日このごろ。