「よっと」
福音の待機状態の…なんやこれ。ストラップ的な?やつを空中でゲットだぜした俺は花月荘のビーチに降り立った。
「あーしんど。腹減ったな…清洲のおばはんなんか作ってくれるかな?」
右手でストラップを投げて遊びながら、ガッシャガッシャと花月荘に向かって歩く。いやぁ〜、ISって歩幅デカイからくっそ楽やねん。
「ん?……おぉ〜」
ビーチの真ん中ぐらいまで来たとこで、十数人の人影が花月荘から出てきた。こちらにダッシュしてきているのはもちろんアイツらやろな。
「剣!!」
「おー」
「なんだその夏休み明けに久しぶりにクラスメイトに会ったような反応は」
「いやモッピー例え上手すぎな。…いや何て言うか…その…」
こういう時って『戻ってきたんだな』とか『これで…終わったんだよな』とか言いそうやけど俺は言わん。
「疲れた」
「アンタそれしか言うこと無いの?」
「喧しいわ。…あのな、俺お前よりも頑張った。だから疲れてる。おっけぇ?」
「ぐっ…!な、殴りたいけど…!正論、よね…」
言うちゃ悪いけどお前『衝撃砲』ぶっぱなしてナタル抱えて戻っただけやん。
「お疲れさまでした師匠!」
「本当に…どれだけ心配したと思っていますの…!」
「もう金輪際あんな無茶はしちゃダメだからね!?」
「……良かった…」
ラウラがビシッと敬礼をする。…いや、ここで俺にもしろと?まあ、とりあえずラウラは置いといて…ごめんなラウラ。
「悪いな、…心配かけた」
「もう大丈夫ですわ。…しっかりと楯無さんにも報告させていただきましたので」
「え゛っ。な、なんて…?」
「『じゃあちゃんとしっかり私達が枷にならないとね〜』だって。もぅ、ほんっとに心臓が止まるかと思ったんだよ!?」
「俺マジで止まってんけど」
「…笑えない…冗談、言ってる場合?」
「ご、ごめん…」
わぁ、簪ってジト目になって目からハイライト消えたらすっごく怖いんだね。しかも口だけ不自然に笑ってるから余計に怖いや。
ワンサマ、モッピー、鈴、ラウラ、セシリー、シャル、簪と、皆が一言言い終えたところで、ちっふー先生がやってきた。
何やら険しい顔で、重く閉ざされた口をゆっくりと開けた。
「よくやった時守…ISだが…」
「あぁ、解除しましょか。よっ」
『あっ!』
あ?なんや皆急に声揃えて。
「け、剣?痛みは大丈夫なのか?」
「え?…あー、それ心配してくれてたんか」
「当たり前だ。今も見てみろ、身体中色々な所が裂けているだろう。これから骨、脳、内蔵などに異常が無いか検査する、んだが…」
「ま、無事ちゃいますね。今も痛覚遮断と演算補助、後は筋肉操作…とかで立ってますわ」
無かったらぶっ倒れてるやろな。視界ボヤけて耳もよく聞こえへん、とか普通なレベルやと思うし。
「ふむ…、今はそれでいいが、基本絶対安静で、もし動く時は痛み止めを打って、移動は車椅子でしてもらうぞ?それと、1度心臓が止まっていた事も含めて、学園に戻り次第精密検査を受けてもらう。時間が少なくなるが…期末テストはお前ならば大丈夫だろう?」
「了解っす」
あー、テストか。ってかもうそんな時期やねんな、早っ!
「大丈夫…ってアンタそんなに賢いの?」
「こないだの小テストでIS関連は8割ぐらいしか取れへんかってんけど…一般科目は余裕やろ」
「まあISに重きを置いている分、少しは簡単でしたけど…」
「それでも世界でトップクラスだぞ?」
セシリーの言葉に同意の意味で頷きつつ、モッピーの質問に反応する。
「ほへ〜、すごいな」
「そういやアンタって受かった高校蹴って来たのよね?」
「蹴らされた、やな」
隣でうぐっ!っとワンサマが低く呻いた。…別にお前のせい…いや、お前のせいか。…って、さっきからワンサマなんか元気無いけどどないしたんやろ?
「そら、お前達。積もる話もあるだろうがまずは時守を中に入れてやれ」
ちっふー先生に急かされて、俺達は花月荘の中に入った。
…とりあえず、帰還。
飯や飯。
◇
「はい、あーんっ」
「ん」
花月荘の座敷部屋。今日一日大活躍したこの部屋は、夜になった今でも働き続けていた。
今の使用目的は食事。部屋に拘束されていた生徒達、任務に当たっていた生徒数人に加え、食事のタイミングが一切無かった教員達も同じ場所で食べていた。
そして現在、シャルロットに晩ご飯を食べさせてもらっているのは時守剣。…その理由は…
「ね、ねぇシャルロット?時守くん大丈夫なの?顔以外包帯やらギプスやらでグルグル巻きにされてるけど…」
「大丈夫じゃないから、こうやって僕が食べさせてるの」
現在、大絶賛重傷中だからである。福音に何度も回し蹴りをした右脚にはヒビが入り、両腕の筋肉は最早筋肉痛と呼んでいいのか分からないレベルで痛み、無茶な機動により、背筋やら腹筋やらも相当痛めていた。
教員のほとんどが車椅子に乗せてベルトで固定して移動させるのがいい、その方が1人で動きやすいだろう、と提案したが千冬はこれを却下。
『車椅子に乗せたら遊ぶ』という理由で全員満場一致で車椅子(同伴者必須)生活となった。
そして痛み止めと、治療用ナノマシン(ラウラ産でない)を身体にぶち込み、食事をとっていた。
「ん、美味いわー。全然足らんけど」
「…僕の、食べる?」
「いや、シャルも腹減ってるやろ?俺はこれで我慢しとく…っていうか、食ってても身体痛いからこれ以上受け付けられへん」
「だーめ、ちゃんと食べないと、早く治らないよ?」
「…おばはーん」
関東にいる数少ない身内に助けを呼ぶが、大声が出せないので届かない。
「ほら、あーん」
「ん……、食事担当がシャルで…移動が簪、セシリーが身の回り担当やったっけ?」
「うん。身の回りって言っても、荷物の整理とかだけど」
「明日、外に出してくれへんやろなぁ…」
「…ダメ…」
彼を挟んでシャルロットの反対に座る、簪が彼に死刑宣告を下す。
普通の男子高校生よりも遊び盛りだと自他共に認める、彼にとって自由時間に遊べない、というのはかなり来るものがある。
「くっ…ふ…ぅ、と、とはいえわたくし達…専用機持ちはデータ取りの続き…ですわ…」
「マジか、…え?じゃあ他の皆は?」
そしてシャルロットを挟んで時守の反対に座る、セシリアが明日の予定について継ぎ足す。
データ取り、だが、時守の第二形態以降をした『金夜叉』については夏休みに詳細なデータを纏めて取るということで合意。明日は完全なフリーとなっていた。
「今回の件で中止だって、念には念をって感じだよ。夏休みにも訓練機を貸し出しすることで対処したみたい」
「へー。…あー、早く金夜叉乗りた―」
『ダメっ!!』
そして機会を伺いISに乗ろうとしても止められる。…活発系男子はものの見事にすることが無くなったのだった。
「くそぅ…こうなったら気合いで治したる…!シャル、お肉ちょーだい」
「ふふっ、あーんっ」
◇
時は流れ、臨海学校最終日。
残りの日は、一夏が相変わらず千冬の出席簿を喰らったり、時守が怪我を忘れて飛び起きたせいで3時間程悶絶したりと、いつも通り男子が馬鹿をしていたIS学園1年生は、クラス毎にバスに乗っていた。
「…だぅー、疲れたぁ〜」
「バスん中何流そっかな…」
1組のバスの中は他クラスよりも騒がしかった。
一夏はそうでもなかったがその周り、つまりは箒とラウラの席の奪い合い(何故か本音が乱入したが、無事箒が隣、ラウラが前を陣取った)や、夜の海で一夏と箒がキスしかけていたのがどこからか漏れてその件について問い詰められたり、データ取りだったりと、周りの環境により、一夏は疲れきっていた。
時守は体内投入型ナノマシンにより奇跡的に多少の筋肉痛を除き、ほぼ全回復した。自分で歩いても良いと言われて海に魚(ウツボ)を取りに行ったり、料理を作り数多の女子のプライドを粉々に粉砕したりと、行くところ全てで何かしらの騒ぎを起こし、本人が満足するそれはそれは楽しい臨海学校となった。
「何だろうな…懲罰って…学園に帰ってからって聞いてるけど。剣は何か聞いてるか?」
「夏はポケモ…ん?あぁ、アレか。確か『時間内に福音を倒せなかった』ことに対するやつやんな?」
「そう…それだ…」
「肉体的なやつじゃないとは聞いてるで。ひたすら精神的にゴリゴリいくらしいわ」
「……はぁ」
バスの中で流す映画を決める係に任命された時守に、一夏は罰の詳細を聞くが、余計に憂鬱になるだけだった。
そんな一夏をすぐさま意識の外に追いやった唯一懲罰を逃れた専用機持ちである時守は、その懲罰の内容をもう知っていた。
「(仕掛ける側も楽しみやからな…、今からウズウズしてくるわ)…ラピュ〇にするか…火垂る〇墓にするか…この前リコピン号泣してたから火垂るの〇にしよ」
「決まったのか?時守」
「はい、これで」
通路を挟んで反対に座る千冬に、映画決定の旨を伝える。彼の隣に座る一夏は先ほどから「…はぁ」だの「…罰かぁ…」だの「……テスト…忘れてたな。弾…しばしお別れだ」だの言っているが、バスの中をどう楽しむか、これが今の時守の最大の問題である。
「「い、一夏!」」
さて、映画もいいが他は何をしようか。と考えていると自分の隣に座る人間が、2人の女子に呼ばれる……のと同時に、バスに一夏の知らない、時守のよく知る人物が入ってきた。
「ねえ、織斑一夏くんっているかしら?」
「あ、はい。俺ですけど」
「へぇ、君が…って、剣くんじゃない」
「ん?おっ、ナタル。もう大丈夫なんか?」
「ええ、お陰様で…ね?」
『銀の福音』操縦者のナターシャ・ファイルスである。
ブルーのカジュアルスーツに身を包み、開いた胸元から整った膨らみを僅かに覗かせ、微笑む彼女に一夏は落ち着きを失い、時守はいつも通り接する。
「そっか。…で、どないしたん?」
「んもうっ、急かさないでよ。…ただ、お礼を言いに来ただけよ。貴方とそこの白いナイトさんに、ね?」
「俺ボッコボコにしてもてんけど…?」
時守の問いを一旦返さずに、一夏の頬にキスをし、その後時守にもしようとするが、人差し指を唇に当てられ、ナターシャは止まった。
「え、あ…う……?」
「悪いけど、俺はもう居るから」
「あら、そうだったわね。…暴走したあの子を止めてくれてありがとう。あのままだったら、どうなってたか分からないわ。じゃあ、またね。白いナイトさん、剣くん。バーイ」
「は、はぁ…」
「バイビー。また夏休みー」
2人でバスから降りるナターシャに手を振る。
「夏休み、か…」
隣に座る一夏に500mlペットボトル×2が飛んでくるのを尻目に、時守は1人、呟いた。