「あ、あの…楯無さん。本当にすいませんでした!」
「ま、まあ…私は、大丈夫よ?…まだ記憶があるなら多分剣くんがそうとう怒ると思うけど…」
「や、やってしまった事は覚えてますけど、色とかそこまではもう…」
「あ゛?」
「ほ、本当に忘れたんだって!悪かった!!この通りだ!」
IS学園保健室。そこの一角のベッドの上で、一夏は目の前にいる楯無と、その後ろに立つ時守に頭を下げていた。一夏がしたこと…いわゆるラッキースケベなるものは、一瞬にして時守の怒りの限界を突破した。…ものの。
「…カナ、ほんまに大丈夫なんやな?」
「えぇ」
「せやったら俺が後から上書きするからもうええわ」
「え、ちょ、それどういう…」
「もうええ。リピートアフターミー、ミスターオリムラ」
「も、もうええ…」
「おけ」
どうやら、楯無のことについては怒りが収まったらしい。が、依然として時守は一夏の目を無表情で見続ける。
「…で、や。一夏」
「っ!…どうしたんだ?剣がそう呼ぶ―」
「お前、俺との強さの関係、どう思ってんねん」
普段『ワンサマ』と、一応あだ名で呼ばれている身であるが、時守が名前である『一夏』と、そう呼ぶ時は真面目な話をする時だと、一夏も分かっている。
そんな時守が『一夏』呼びをした、ということは、何か自分に用がある。そう思った一夏は時守に問おうとするも、有無を言わさぬ声色で一夏の質問を遮った時守が、逆に一夏に問う。
「…正直、まだ良く分からないんだ。剣がどれぐらいの実力を持っているか、俺がどれだけできるか…今ここでこうして考えてても全く分からない」
時守の問いに、一夏ははっきりと答える。無表情で、目を細めて見下ろす時守を見上げて。
「…だから!」
「その後ぐらい俺でも分かるわ。…一夏。今から第一アリーナに来い。鈴達にはもう今日の訓練はちょっと後回しにしてもらうように言ってある。今から1時間後、模擬戦するぞ」
◇
「ねえシャルロット。なんで剣と一夏が試合するか知ってる?」
「一夏が楯無さんの…、あの、…なんて言えばいいのかな?」
「…だいたい察したわ。そういうこと、なのよね?」
「う、うん。そういうことなんだ」
数時間後、第一アリーナの観客席は多くの女子で埋められ、満席状態となっていた。
それもそのはず、何せ『公式模擬戦』として時守がIS学園のアリーナで、それも生徒の前で戦うのはこれが初めてなのだ。
「全く…一夏め、そんなにも年上が好みか」
「あながち間違いではないかもしれん。たまに嫁は姉である教官に見惚れる時があるからな」
「…あのラッキースケベは、女の敵」
「剣さんならラッキーでも何でもなく普通に…」
「止めなさいセシリア。あんたそんなこと言うようなキャラじゃないわよ」
「あ、あはは…。にしても、凄い人だね。生徒だけじゃなくて先生までいっぱい見に来てるし…」
観客席に座るのはなにも一般生徒だけではない。専用機持ち達もその例外ではなく、観客席の中には2、3年生の専用機持ちの姿も見受けられる。
「それだけ剣くんの試合が興味深いってことよ」
「あ、お姉ちゃん…」
「どういうことですか?」
「簡単なことよ、箒ちゃん。今までその実力があまり分からなかった剣くんの試合だから。それに、対戦相手がもう一人の男性操縦者の一夏くんだもん。見に来れるのに見に来ない方がおかしいわ」
「…師匠は二学期に入ってから普通に試合をしているぞ?」
「ええ。普通の試合はしているわ。…でもね」
箒達6人が連続して座る席の隣に、通路からやってきた楯無も腰かける。椅子に座る前からの話を、楯無は続けた。
「剣くん、全力での試合は二学期が始まってから1度もしてないのよ」
「なっ!?」
「やはりか…。確かに『具現一閃』は強力だった。…だがあれは紅椿の空裂に似ているからな。ただ形状が日本刀か、杖術か。それだけの違いしかない」
「ラウラ、あんたそれって剣が夏休みの間に『具現一閃』以外の技術も身につけてるって言いたいの?」
「無論そうだ。皆も聞いただろう?師匠は夏休みに世界一周をするとな」
「ラウラちゃんの言う通りよ。剣くんは何も遊びや交流のために飛び回ってた訳じゃないの。各国の国家代表、軍属操縦者らとの模擬戦。寝泊りするホテル周辺のジムでのトレーニング。その大半に、コーチである織斑先生が付いてるの。…皆なら、サボろうと思う?」
楯無のその問いに、6人全員が凄まじい勢いで首を横に振る。専用機持ち6人全員そうするほどまでに、千冬の特訓は厳しい。普通の生徒が大した覚悟も無く付いていこうとすれば、すぐに音を上げてしまう。…そう、普通ならば。
「普通そうなるわ。私だってサボろうなんて思わない。…でもね、剣くんは能動的にやろうとしたの」
「…やらされている、と思わずにですか?」
「そ。箒ちゃんも分かるでしょ?やらされる練習と、自ら進んで取り組む練習のどちらが身につくか。…剣くんはその後者を一学期からずっとしてきたの。…そんな剣くんが、たった一つの技能しか得て無いというのはおかしいわ」
「…なるほど」
「…嫁と、どちらが強いのだろうな。…というよりシャルロット達は知らなかったのか?師匠がどのような特訓をしているか」
ラウラの疑問も最もであった。婚約者である四人が、なぜ時守がどんな訓練をしているか知らないのか、という疑問は、口にはしないものの箒や鈴も同様に思っていた。
「まあ…一種の情報規制ってやつかな。正式にはまだ結婚出来てないし」
「なるほどな。不用意に周りに知らせて機密情報が漏洩するのを防ぐために、本当に最小限の人間にのみ知らせるということか」
「流石ねラウラちゃん。動きだけを数回見て技術を速攻で盗むなんて事、大抵の人間は出来ないもの。解析に解析を重ねた上で、反復練習をして身に付かせるものだから」
「…ということは師匠の本当の実力を知っているのはコーチに付いていた教官だけ、ということか?」
「そうなるわね」
開戦を今か今かと待ちわびる観客達の中で、6人は時守の実力についての分析を行っていく。
何せ、セシリア達でさえ本当の実力を知れていないのだ。各国から、データ取りや他国の専用機の情報、自らの実力向上のため、彼から得られるものは全て得ようという魂胆なのだろう。
「…通りで本国が騒がしいわけだ」
「篠ノ之博士のお手製ISに、国連と元世界最強の技術ですもの。騒がない国の方がおかしいですわ」
「…そう言えば、勝敗予想って誰か知ってる?」
鈴がそう聞く。騒がしい観客席のあちらこちらで、女生徒が様々な声を上げているのが分かるが如何せん多すぎる。情報がまとめられた物を、彼女が求めたところ、彼女の隣に座る簪が答えた。
「…大半の生徒と教師の中では、一夏が圧倒的優勢…だった」
「だった?過去形なの?」
「うん…。…織斑先生が剣が勝つって言ったらしくて」
「ち、千冬さんが…?それって、一夏は知ってるの?」
「…知らないと、思う。2人ともずっとピットに篭ってるから…」
まだはっきりと予想出来ないまま、彼女達はまだ両者が現れていないアリーナへと目を向けた。
◇
「あー…すっごい人ですね」
「ま、こうなるのは目に見えていた事だ。男性操縦者2人の本気の模擬戦、…かく言う私も気にはなっていたんだ」
「それって、弟さんか愛弟子の、どちらが強いか、ということですか?」
「……真耶、何度も言うが私はからかわれるのが嫌いだ」
「ひぃっ!」
管制室のモニター前に座る真耶を、じろりと睨む。言われている事は確かに図星であるが、探りは入れてほしくない。
「はぁ…。ま、多分アイツが勝つだろうがな」
「織斑君がもし聞いてたらショックを受けますよ?」
「やってきた事の差がでるだけだ。それでショックを受ける暇があるなら、特訓でも何でもやればいいのだ」
「き、厳しいですね…」
「…まあ、時守のあの考えを聞かされると厳しくもしたくなる」
「え?」
「何でもない。ほら、2人が出てきたぞ。後は頼んだ、真耶」
「えっ!私1人ですか!?ちょ、ちょっと先輩ーっ!!」
あたふたする真耶に、心の中でエールを送り、外に出る。
(一夏、同じ立場の者の強さを知れ。あいつは、お前を変えるはずだ…)
人っ子1人居ない廊下を、カツカツと靴の音を立てて歩く。アリーナから、爆発的な歓声が響き渡った。
◆
《さてさて!いよいよ両者が出てきましたぁ!!知らない人は居ないとは思いますが、ここで改めて、この公式模擬戦の対戦者の紹介をいたします!!》
白と黒、両機が出揃った所で、実況の生徒の声がアリーナを包んだ。
《まずは!世界最強を姉に持ち、その剣を受け継いだ男、織斑一夏選手です!》
アナウンスの説明が終わると同時に、観客席から溢れんばかりの黄色い声が聞こえる。
《続いて!ISにおける実力は未知数、しかし!そのボケとツッコミとスルースキルの高さはIS学園No.1!時守剣選手!今日はその実力の、本気を見せてくれるそうです!!》
「アナウンスふざけとんのかああああ!!」
アナウンスの終了と時守のツッコミの後、観客席からは黄色い声と笑い声が入り交じって聞こえる。もちろんそれは、アリーナ中央にいる2人にも聞こえていた。
「剣…」
「何も言うなや一夏。…負けて泣くなよ?」
「上等!行くぜ!」
《それでは、試合開始!!》
実況のアナウンスと共に、ブザーがなる。そのブザーを聞き、両者が動く。
「うおおおおおっ!!」
一夏は、雪片弐型を携え、前に。
「…」
時守はオールラウンドを右手に持ち、迎え撃つ。
「ぜらあああっ!」
「…ちっ…」
《織斑選手!開幕特攻での零落白夜で時守選手を攻めまくるー!そのあまりの猛攻に時守選手、手も足も出ません!》
「はあっ!」
試合開始直後、瞬時加速でクロスレンジ勝負に持ち込んだ一夏はすぐさま零落白夜を発動。そのまま一撃を入れようとしていた。…が。
《しかし!時守選手も避ける!超至近距離でのやり取り、さらに相手には零落白夜という強力な切り札があり、クロスレンジでは圧倒的不利な立場にありつつも、織斑選手の全ての攻撃を紙一重で避けています!》
「…ほっ、…よっ、と…」
「うおおおっ!」
「……はぁ」
時守は零落白夜の一閃を、全て間一髪で交わしていく。時に身体を捻り、後ろに下がり、旋回し、避けていく。一夏が数十秒の猛攻を見せ、時守をアリーナの壁まで追い詰めた。
「これでっ!」
「…あぁ、終わりや」
そのまま無防備に構える時守に、一夏は雪片弐型を振るう。
「お前の、な」
時守のその言葉と共に、一夏はアリーナの地面へと叩きつけられた。
◇
《あ、あぁーっとぉ!織斑選手、後少しの所で時守選手の『ランペイジテール』に弾き飛ばされたー!これにより、この試合のファーストヒットは時守選手が奪いましたぁ!》
「ほう、流石だな時守」
「お、織斑先生っ!?」
「ん?…おぉお前達。お前達もここで観てたのか」
「え、えぇ。まあ…」
「しっかし、なんだ?オルコット達は時守にピットから追い出されたのか?」
「そ、そういう訳ではないのですが…」
「大方時守に『この試合は集中したいから1人にさせてくれ』とでも言われたのだろう?」
「うっ…」
箒達が試合を観戦している観客席に、千冬が階段から降りてきた。なぜかいつもより饒舌な彼女は、箒らが座る一番端、楯無の隣に腰掛けた。
「よっこいせ…っと。…勝てよ、時守」
「や、やけに応援しますね…」
「当たり前だ。とあるものが賭けられているからな」
「…一夏が勝つとは、思わないんですか?」
「…思わんな。少なくとも今は。そら、今も見てみろ。ランペイジテール1本出されただけで形勢逆転しているだろう?」
《時守選手!先ほどまでの防御から打って変わって攻め続けるーっ!織斑選手も雪片弐型でなんとか守ってはいますが、それでも捌ききれない!》
千冬の視線の先では、オールラウンドを『ラグナロク』のモードで構えつつ、ランペイジテールで相手の行動を制限する時守と、そのランペイジテールの回避に手間取る一夏が、近接して戦っている。なんとか一夏が食らいつくものの、少しずつ確実に白式のSEは減っていく。
「…決まったか?」
『ぐぅっ!…このぉ!』
「一夏…」
『…ランペイジテール、追加。加え『グングニル』発動…。こっから6割や、一夏。耐えろよ?』
『…あぁ。…俺は、剣よりも弱い。この試合で良くわかった。でも!それでも俺は、この試合に勝ってみせる!』
オープンチャネルでの会話だったということもあり、一夏の宣誓がアリーナの観客席まで伝わる。それを聞いた女子達が黄色い歓声を上げる。が、その一方で千冬は1人、表情を暗くしていた。
「一夏…」
「やりおったな、一夏め…」
「え?」
「ありゃ完全に時守のスイッチを入れたな。…篠ノ之、時守はな―」
うっとりとしていた箒が呆けた声を出したのを、まるで咎めるかのような声色で千冬が呟く。そして、ここにいる7人全員に聞こえる声で、確かに告げた。
「―やたらと負けず嫌いだ。それこそ自分に向けて『勝つ』などと宣言されて、はいそうですかと簡単に負けるような奴ではない。…ま、つまりはまだまだ普通の男子、ということだ」
『…お前それ本気で言うてんのかおい』
『あぁ、本気だ。俺は、剣の本気に勝つ!』
『…随分とまあ俺も舐められたもんやな。いや、でもみんなには実力知られてないからそう思われんのも仕方ないんか?』
『別に俺は舐めてなんか…』
『舐めとるやろが。…まあええわ。こっからは6割なんかじゃなくてお前のお望みどおり、全力全開の100%で行ったるわ……すぅ…』
『…来い!』
空中に浮く時守は、深く、深く息を吸い―
『『完全同調』100%』
単一仕様能力を発動させた。金の粒子が金夜叉を包むのと同時に、ランペイジテール2本が収納される。数秒間、両者が止まった時間が続いたが、その均衡は一瞬で崩れさる。
『…行くぞ』
『なぁっ!?』
まるで瞬間移動したかのような速さで、時守が一夏の懐に一瞬で潜り込む。
『……タイミング、機動、緩急、フェイク、攻め方…そしてお前自身の思考が甘すぎる』
『ぐっ、っ、がああぁぁっ!!』
「一夏!?」
「…決まったな。ま、あいつもあいつなりに思うところがあるだろう」
『…ほらまた甘い』
『くっ…そおぉぉ!!』
箒や千冬達のいる観客席からでも、2人の戦いの異常さはよく分かる。白式が異常な速さで回避しようとした先に、なぜかすでに金夜叉がいる。
速さと早さ、その両者が激突…否、早さが圧倒していた。
『…肝心な場面で瞬きするような奴に、負けんぞ?』
『ま、だまだあああ!!』
しかし、一夏もただでは負けまいと必死に抗う。スラスターを吹かし、零落白夜を発動させて時守に斬りかかり続ける。…だが、それでも
『おーらよっと』
『がっ…、は…』
時守には全く当たらない。寧ろ、試合の前半よりも簡単に避けられるようになっていた。雪片弐型を振るったそのがら空きのボディを、時守の右拳が穿つ。
「…更識、私は山田先生の所に戻る。…後は、頼んだぞ」
「かしこまりました」
教え子に圧倒される弟を尻目に、千冬は観客席を後にした。
◇
「…お前、ようそんなんで俺らに勝てるとか言うたな」
「…はぁ、…っはぁ…」
息も絶え絶えな一夏に、時守がその顔に怒りを浮かべながら言葉を投げかける。すでに白式のSEは3桁を切っており、零落白夜も発動出来ない状態である。一夏のその様子から、負けることは無いと判断した時守も、『完全同調』を解除している。
「零落白夜発動してもただ突撃してくるだけ。雪羅に至っては遠距離からバ火力でぶっぱなすだけ。…お前そんなもん『完全同調』使わんでも余裕で避けれるわ」
「……」
「そもそもな、俺に全力全開で相手して欲しかったら、俺から目を離さずに、様々な攻撃手段を匂わせておいて、かつ自分の得意分野でそれなりの強さを持っとけや。…ISに振り回されてるなんて論外や」
「…あぁ」
時守の言葉に、一夏は力無く答える。それもそのはず、一夏は時守が『完全同調』を発動させてから、1度もまともに攻撃を仕掛けることすら出来なかったのだから。
「…正直、期待はずれやったわ。全力全開で行ったるわって言ったけど、出す前に終わってもたもん。流石に同級生死なせたくはないしな」
「…だ、だ」
「あ?」
「まだだ。…まだ、終わっちゃいない」
「…お前それマジで言ってたらほんまにキレんぞ?」
「キレてくれてもいい!まだSEは残ってる!戦える限り、俺は諦めない!」
「…もうええわ。確かにお前は、プライベートの付き合いでは良い友達やとは思とったけど。…ISバトルではどうも馬が合わんな」
「ぜらああああ!!」
零落白夜すら発動出来ていない雪片弐型を構え、試合前半同様、一夏は時守に突撃する。
「剣がなんと言おうと、これが俺のスタイルだ!」
「そうかい。…んなら」
雪片弐型の刃が触れる寸前、再び時守を金色の粒子が包んだ。
「これが、俺のスタイルや」
「っ!お前!それは千冬姉のっ!」
「やからどないしてん!全世界にすでに公開されてる操縦技術に戦い方、別に誰が盗っても構わんやろが!」
「このっ!やめろ!」
「そんなんいう暇あったら止めさせてみろや!」
『完全同調』状態の時守が、現役時代の千冬の攻め方で一夏をじわりじわりと追い込んでいく。
「おいしょ、っと!」
「があああっ!」
かと思えば、一瞬でオールラウンドを展開し、『具現一閃』のエネルギー刃で一夏を吹き飛ばす。
「…さて、と。もう終わるしええやろ。『完全同調』解除」
「剣!お前なんで千冬姉の戦い方を!」
「あの人俺のコーチやぞ?似てきて当然やろ。それにな、お前そんなこと言うんやったらもうちょい白式マシに動かせや」
話している途中に、オールラウンドを『具現一閃』から『グングニル』に変え、ランペイジテール2本を下に垂らす。
「言うちゃ悪いけど、俺の方がもうちょい上手く白式動かせるわ」
「っ!うおおぉぉぉぉおおっ!!」
「…ほんま、呆れるほど単純すぎるわ。…オールラウンドー」
「なっ!?」
突撃する一夏の下から、ランペイジテールを2本とも一夏に向けて伸ばし、その両腕に巻き付けた。
「はい、磔の出来上がりー」
「このっ!離せ!」
「試合中にそんなこと言うて通じるとでも思ってんのか。…あーあ、今ここでもし『零落白夜』が使えたら、どうなってたか分からんかってんけどなー」
「…ぐっ…」
「ま、今回のお前はまだまだやったな。評価でいうと『がんばりましょう』。10段階の2ぐらいやな。ほんじゃ、おーわりっと」
身動きが取れない一夏に、グングニルを投げつけた。これによって白式のSEが0になり、試合の終わりを告げるブザーが鳴った。…そして
《試合終了。白式、SE0。金夜叉、SE400。パーフェクトゲーム》
一夏は自分の意識が闇に沈む寸前に、無慈悲な機械的な音声により、自らの完全敗北を知った。
◆
「……んっ、…こ、…ここは?」
「っ!起きたか一夏!」
「ほう…き?…そうか、俺、負けたんだったな。…それも、剣のSEを1も減らせずに」
「一夏…」
IS学園医務室。先ほどの試合の影響で気絶していた一夏と、その見舞いに来ていた箒の姿だけが、そこにあった。
「…もっと、強くなりてぇ。曖昧な強さ何かじゃなくて、もっと具体的な強さを」
「…それは、剣のような強さか?」
「…あぁ。剣は、本当に強かった。途中から100%でやるって言ってくれてたけど、多分まだ先があると思う。…冷静になって、ようやく気づいたんだ。剣はあの試合で、自分の本当のスタイルすら出していなかったって。俺にこうして気づかせるために、わざとそうしてくれてたんじゃないかって。…箒、剣から何か聞いてないか?」
「剣からは聞いてないが、千冬さんと楯無さんは似たような事を聞いたぞ」
「…分かった。ありがとな、箒。…自分の、スタイル…か」
窓の外の夕焼けに目をやりながら、一夏は思案する。自らの進む道を。
◇
「で?お前は何が聞きたいんや?」
「…なんで、手を抜いたのよ」
「別に手ぇ抜いたわけちゃう。ただ全力ではやってなかった。あのセリフとかと組み合わせて、いわゆるブラフってやつ?」
「ふざけないでよ!」
「じゃあお前、あいつがさっき以上にボッコボコにされてメンタルやられて再起不能になってもよかったん?」
「うっ…それは…」
所変わって、とある廊下。そこには時守と鈴の姿があった。
「第一な、あいつはまだ試合やるには早すぎるわ。もっと基礎やらなあかん」
「そこから?」
「IS操縦の基礎ちゃうで?ISバトルの基礎や」
「…どういうこと?」
ベンチに隣り合うように座りながら、彼らは話を続ける。
「あいつの中にはちっふー先生に対する憧れ、んでもって剣道での変な武士道精神とかがある。…それらは邪魔や。憧れんのを止めへん限り、超える事なんて不可能やからな」
「アンタは…、剣は、千冬さんを超える気でいるの?」
「当たり前やろ」
鈴のその問に、時守は即答した。IS学園のほとんどの生徒、教員が今まで言おうともしなかったことを、実行しようとしているのだ。
「勝てばええねん。ISなんて言うたらド派手やねんから小細工なんてあんま効かへんし、自分にやれることは全部やらな」
「…意外に考えてるのね」
「そりゃな。…ま、一夏に言っといてくれ」
立ち上がり、振り返ったこういった。
「散々言うたけど、俺にはまだ教える程の余裕は無い。でもお前の周りにはお前と同じような立場の人間はいっぱいおる。自分で考えて、周りを頼れ。ってな」
「ん。了解」
「んじゃばいびー」
手をひらひらと振って、時守は自室はと帰っていった。
という訳で、前回と今回は一夏強化フラグ回でした。
後は剣ちゃんがどんぐらい強いかっていう参考?
…相当前にメッセージで、剣ちゃんとISの設定を書いてくださいという要望があったのですが、もうしばらく、お待ちください。ネタバレになってしまう設定も少しあるので、書くのは遅くなりますが、いつか必ず書きます。