なんとか夏休み最終日の深夜に投稿(土下座)
「え…?な、何?急にどうしたの…?」
少女、五反田蘭は困惑していた。レースをしている選手達の会話と、レースの内容についての実況と解説の声が観客席のスピーカーから流れており、2周目に入ると共に時守の手によりレースが大いに動かされることを知ったのだが、視界には、突如現れた謎の蒼い蝶のようなISに、一夏達が攻撃されているという、今も信じられない光景が広がっていた。
『緊急事態発生、緊急事態発生!観客、来賓の皆さまはスタッフの指示に従い、落ち着いて避難してください!繰り返します。緊急事態発生―』
「き、緊急事態…?…ひっ…!」
何が起きているのか分からない内に、周囲の人間が慌ただしく、悲鳴を上げながら避難という名の暴走に巻き込まれかける。
「わ、私も…、きゃっ!」
周りに釣られ、自分も急いで避難しようと立ち上がったところ、足がもつれてしまい、前方に倒れそうになる。その体を、通路で指示に当たっていた楯無の手が支えた。
「大丈夫かしら?」
「は、はい…」
「全く…、困ったものね。とりあえず、今のままだと危ないから…こっち来て」
「へ、えっ?」
返事をさせてもらえないまま、蘭は楯無に引っ張られる。人波をかき分け、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた金属製の重い扉の先へと連れていかれる。
「さて、と。ごめんなさいね。おねーさん、これからやらなくちゃいけないことがあるから、誰かに何か言われたらIS学園生徒会長にここにいろ、って言われたって言ってね。じゃっ」
「あ、あのっ!…行っちゃった…」
せめて何か一言、と思ったが、その思いは口から出る事は無かった。
年や立場は違えど同じ生徒会長。それ以前に、家系の問題もあり、仕方の無い事なのだが、そんなことを知る由もない蘭は、少しの無力感に襲われた。今、自分の立場が被害者であることは間違いないのだが、それでも、少しでも行動できたはずなのだ。自分のように、躓いてしまった人もいたかもしれないし、もしかしたら怪我をした人間がいるかもしれない。
「一夏さん、大丈夫かな…。わ、私も、頑張らなくちゃ…」
想い人への心配が募ると同時に、理想と憧れ、そして義務感にも似た欲望が強くなる。
◇
「…なぁおい。お前、さっきコイツらのことなんつった?…って、んな余裕ない、か」
「クソッ!馬鹿、な…。短期間でこれ程のレベルアップなど、ありえるはずが…」
「レベルアップ…ねぇ、レベルなんざ大して上がってへんわ。ただ、戦い方を変えたらそれなりには変わるやろってこっちゃ」
『箒、そのまま『空裂』と高速機動で相手を翻弄しろ。簪はそのフォロー、箒に当てへんようにな。セシリア、一矢報いたいのは分かるけど今は我慢や。…一夏、おもっクソ『雪片弐型』でぶん殴り続けろ』
『了解っ!』
突如として現れた謎の機体―サイレント・ゼフィルス―と相対する4人に、再び指示を出す。
「つぅかよ、Ⅱって付けるんやったらもうちょいスペック上げてこいや。ちょっとちっちゃくして基本スペック上げて、んで俺のトラウマを狙ったんかは知らんけど、自爆の威力上げてって…もうちょい他にすることあったやろ」
「余裕ね、剣」
「…とは言え、正直拍子抜けだね。高速機動用の装備の僕たちでも止められるんだから」
「あ?そんなん当たり前やろ。…コイツらはただの機械やからな」
1対4の戦闘を繰り広げている5人から少し離れた場所にいる俺、鈴、シャルの3人に、一機の無人機が接近する。
「敵意向けてくる機械に与える情けなんざ、俺は持ち合わせてへんわ」
俺に向け、右手が振り上げられたのを見て、瞬時加速で背後に周り込み、右肩を外す。右肩から下が機能を停止したのを確認し、即座に右手で相手の頭を鷲掴みにし、左腕に左回し蹴りを喰らわせる。2度喰らわせたところで折れたようなので、今度は背中に右蹴りを喰らわし、前に吹き飛ばす。
「ん、頼むわ」
「はーい」
「よっ、と」
相手が無防備で飛んでくるのに合わせ、シャルがマシンガンで敵の胴体を撃ち抜き、鈴が衝撃砲を連続で喰らわせる。その結果、ほぼ壊れかけの人形が再びこちらに飛んでくる。
「ふんっ!…お、なんか四身の拳使って悟空に負けた天津飯みたいになってる」
「的確な表現ね」
「で、どうする?こっち終わったけど、向こうに助太刀しにいく?」
俺らが飛んでいる下には、既にガラクタと化した3体の無人機の山に、先ほど俺がかかと落としで叩き落とした1機が突き刺さっていた。
最初、襲われた瞬間にシャルと鈴がこちら側に来てくれたのがありがたかった。鈴もシャルも、俺がランペイジテールで止めてるやつフルボッコにしてたしな。いやぁ…あんなんされたくないわ。
「ふっ…。誰が、ゴーレム達が4機だけだと言った?」
「…え?」
「ちっ…」
「感謝するぞ国連代表。…ここ、日本では数十年前から有名だっただろう?」
ふと、ゼフィルスの操縦者がそう言ったかと思えば、いつの間にか全8機の無人機が、こちらを見下ろしていた。
「まだあんなにいるの?」
「…待て鈴。ちょいとばかし、厄介や」
「独自のネットワークを組み、学び、理解し、実践する。そいつらは自己成長型の無人機だ」
あいつの台詞から考えていたことが的中した。外見から察するに、今まで倒した4機と外見は全く同じなのだろう。違うのは、いや、変化しているのは恐らく中身。先ほどの戦闘から俺達の弱点を見抜き、戦いを覚えていく。もしそれが真実ならば、かなり厄介になってくる。
「おい2人共」
「嫌よ」
「僕も」
「まだ何も言ってへんやん…」
俺の後ろに控えている鈴とシャルに声をかけると、内容を話してないにもかかわらず、即座に否定された。
「どうせ、アンタのことだから『こいつらは俺が片付けるから2人はあっちのサポート頼むわ』とか言うんでしょ?」
「は、はぁっ!?そ、そんなん俺、絶対言わんし?てかいつ俺がそんな感じのことした?」
「剣がした、って思ってなくても、僕達はそう感じてるの。それに、織斑先生や山田先生にも、剣がこれ以上無茶しないようにって釘を刺されてるしね。まあ、刺されてなくても僕はこうするつもりだったけどね」
新たに現れたゴーレム8機が、俺の眼前で臨戦態勢に入ったのを確認した2人は、まるで俺の盾になるかのように前に出た。
「あんたが今まで以上に傷付くのを指咥えて見てるのなんて、もうゴメンよ」
「それに、剣も前に言ってたでしょ?」
そんな2人を無視し、俺に突撃を仕掛けてきた2機のゴーレムを見逃すことなどあるはずが無く、鈴は衝撃砲、シャルはパイルバンカーをゴーレムの頭部に撃ち込んだ。ゴーレムの速度に加え、自らも加速していた2人の攻撃により、頭部は一撃で破壊され、2機のゴーレムは機能を停止して堕ちていった。敵の速攻に、シャルはほぼノールック、鈴は高速機動パッケージのせいで横を向いた状態での衝撃砲となったが、綺麗に撃ち抜いてみせた。
「『金夜叉』には一撃の火力が無いって。学習していく敵に、そんなに技を見せてたらもたないでしょ?」
「それに引き換え、アタシとシャルロットにはそれができる武装がある。適材適所ってヤツよ。…だから、今回はアンタはサポートに回って。アタシ達全員からの、お願いよ…」
「シャル…鈴…」
「鈴っ!正面と上から2機、来てるよ!」
「了解っ!」
確かに、『金夜叉』には相手を一撃で落とせる、または機能を停止させられる武装はない。…でも、それは鈴の『甲龍』やシャルの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』もさほど変わらない。衝撃砲にしても、パイルバンカーにしても、操縦者本人の動き自体を学習されてしまったら、当てることすらできなくなってしまう。
「おい待て、鈴!そもそもお前自身の動きが読まれてもたら意味無いぞ!」
「分かってるわよ!!けどこれ以上、アンタを戦わせるわけにいかないのよ!」
「…貴様ら。私が、国連代表の敵はゴーレムだ、と言ったことを忘れたのか?」
鈴が戦いながら怒号を上げたのに対し、一夏達と戦っている『サイレント・ゼフィルス』の操縦者が落ち着いた声で言葉を投げかけてきた。ふとそちらを見れば、時間を重ねたからなのか、近接で戦っている箒や一夏の動きはおろか、中距離で戦っている簪や、遠距離のセシリアの動きでさえ読まれているようで、全くと言っていいほど攻撃が掠っていない。4人の苦しそうな表情が良く見える。
「…どういうことよ」
「まだ分からんのか。…そのゴーレムには、戦闘を少しでも重ねた時点で、邪魔者を無視して国連代表のみをターゲットするようにプログラムされている。…もし、その邪魔者がゴーレムに照準を合わせようものなら…」
「っ!鈴!シャル!今すぐ離れろ!」
敵の言葉を聞き、何が起こるか察知した俺は、すぐさま2人に指示を出した。2人も俺と全く同じことを察したのか、ゴーレムの身体が光出すと共に瞬時加速を使って一瞬でゴーレムから離脱した。
ゴーレムが自爆して数秒後、またも、ゴーレムが八機ほど俺の元へと飛んできた。
「ほう…、流石に察知がいいな。見ての通り、国連代表以外がそいつに攻撃しようとすると自爆するようになっている」
「つまり、僕達は良いようにデータを取られただけってことになるね…」
「アンタら…、どんだけ汚いのよ!」
「戦いに汚いもクソも無い。そら、そうやって、お前達が国連代表の攻撃範囲内にいるせいで、いつまでたってもゴーレムは消えんぞ?」
「ぐっ…!」
飄々と攻撃を避けるサイレント・ゼフィルスを睨み、鈴とシャルは渋々といった表情で俺とゴーレムから離れた。…恐らく、鈴とシャルのデータが取られたのは、先ほどのパイルバンカーと衝撃砲を撃ち込んだゴーレムと、今自爆したゴーレムだろう。ISを操る、基礎となる部分が卓越しているシャルの動きを見たからだ、という仮の推測を立ててみる。…と、なると少々マズイことになるのだが、まぁなんとかなるだろう。
「剣、その…ごめんね…。僕達、何も出来なくて…」
「んなことないって。謝らんで大丈夫やで、シャル。…それより、そっちもやばそうやから早めに叩いてな」
「うん…」
謝罪の通信を入れてくるシャル。その声色はやはり優れず、ハイパーセンサーにより確認できる表情にも影が差している。
「死なないって、約束しなさい」
「もち」
そして、鈴との物騒な約束をした俺は、ゴーレムの群集の中へと飛び込んだ。
◇
「…えぇ、良く耐えたわ。最初の連携は驚いたけれど、落ち着けば貴女だけでもその7機は落ち着けば完封できるはずよ。…えぇ、そうね。国連代表が入ると流石に分が悪いわ。あの子達に任せなさい。…期待してるわよ、M」
時守達がコースでサイレント・ゼフィルスと戦闘を繰り広げている中、今は避難する人すらもいなくなった観客席の廊下に、1人の美女が立っていた。柔らかいウェーブがかかった美しい金髪、たわわに実った豊かなバスト、キュッとくびれたウエスト、引き締まりつつも、魅力を感じさせるヒップと、そこからすらりと伸びる細く、一切の汚れのない脚。その美しい身体を、ややサイズが小さめのブラックスーツが包み込んでいる。そんな男女問わず、横切る者は誰でも振り向いてしまうような美貌を持つ彼女は、現在、一夏ら7人と戦闘を行っているサイレント・ゼフィルスの操縦者、Mに通信を入れていた。
「あら、勝手に乱入しておいて、随分と酷いことを言うのね」
そんな彼女の背中に、とある女の声がかけられる。その正体を彼女は知っている。数少ないIS学園における危険人物の1人、ロシア代表の更識楯無のものだ。
「そうかしら。私は事実だと思うのだけれど。強い親に守られる雛鳥が7羽。…随分戦いにくそうね、彼。今こうして貴女と話している私や、雛鳥達の練習相手になってあげているMにも気を使いつつも、ゴーレム達の攻撃範囲内に彼らが入らないように立ち回っているのだし」
「剣君にそこまで警戒されていると分かっておきながら、こんなにも大きく動けるとわね。大した度胸だわ」
「怖くなんかないもの。…ふふっ、いえ、やっぱり怖いわね」
ゆっくりと振り向く彼女に、楯無は警戒を強める。今の自分は、時守剣の彼女でも、1人の少女としての刀奈でもない。ロシア代表としての、そしてIS学園生徒会長としての、更識楯無なのだ、と、自分を必死に律する。
「歳が離れていて、弱い男に興味が沸かなかった私が、心から彼を欲しているんですもの。…怖いわ、彼。もっと近づければ、彼の魅力をもっと知れるかもしれないわねぇ…」
「っ…!貴女を、貴女をそんな簡単に剣君に近づけさせる訳ないでしょう!」
律していたのだが、彼女の狂気が垣間見えた瞬間、一瞬だけ怖気付いてしまった。その目は酷く狂気で濁っており、心なしかその表情にも狂気じみた色気が感じられる。
「大丈夫よ。もうしばらくは、見てるだけでも、十分に楽しめるから。それと、安心してくれて構わないわ。…私が狂っているのは、私自身がよく分かってるから」
「…単刀直入に聞くわ、
「…そんなこと、簡単よ?敵にそんなことを聞いてしまうだなんて、更識家も落ちたものね」
「もし本気で聞いていると勘違いしたのなら落ちたのはそっちのようね、亡国機業。…大方、剣君絡みだとは思うけど」
「私も詳しくは知らないけれど、そう考えるのが妥当、といったところかしらね」
お互いの腹のうちの読み合い、それが上手くいっている証拠なのか、はたまた単に楽しんでいるからなのか、2人の口端が上がる。…最も、金髪の彼女―スコール―には、楯無から情報を抜き取れるか、などどうでも良いことなのだが。
「…貴女にも勘違いしてほしくないのだけれど、私は国連代表を殺したい、なんて思ったことは無いわよ。他でもない、私の目的のために」
「そんなことを、鵜呑みにするとでも思ってるの?」
「鵜呑みにしたい、が貴女の本音じゃないの?…まあいいわ。私達の目的や意図、そして今の言葉の意味。…彼に骨抜きにされる前の貴女なら、分かったかも知れないわね。それじゃあまた、近い将来にでも」
「なっ!くっ、しまっ…た…」
相手が論戦目当てだと決めつけてしまっていた楯無は、不意に投げられたナイフにISを展開することでしか反応できなかった。
楯無の想像通り、投げられたナイフはISのシールドに当たった瞬間に爆発。楯無のIS『ミステリアス・レイディ』を覆うほどの黒煙を巻き上げた。
「…逃げられた、わよねぇ…」
ハイパーセンサーに写る視界の端に、飛んでいく金色の機体が写る。見慣れた『金夜叉』と違うフォルムのそれは、一切の迷いなく、空へと姿を消して行った。
「…はぁ」
「おい、更識」
「っ、織斑、先生…?」
「…警戒するのは分かるが、声で判別できなかったのか?」
消えた敵のことは一旦忘れ、次に切り替えようとしていた楯無だったが、不意に背後から声をかけられ警戒態勢のまま振り返ってしまった。普段の楯無なら、声の持ち主が千冬だと言う事などすぐに分かったのだが、先ほどまでのこともあり、ほぼ敵意を剥き出しにしてしまったのだ。
「あ、あはは…、すいません。ちょっと、気を張り詰めていましたから」
「まあ無理もない。済まなかった、本来なら私が対処するべきところを。…それより、だ。打鉄を待機状態で借りてきた、ので」
「ここは先生に任せて、私は加勢に行ってこい、ということですね?」
「…ふっ、少しは冷静になれたようだな」
「えぇ。もちろん、織斑先生が来てくださったというのもありますが」
言葉を1度切り、楯無は視線をレース会場へと向ける。千冬のそれも、楯無に釣られて会場へと向く。そこに写るのは、依然として激しい攻撃を繰り返し、なんとか敵に一撃を当てようと奮闘している6人と、いつの間にか20機以上のゴーレムに囲まれている1人がいた。
「まだ、皆が頑張ってますから」
「そうだな。…更識、時守を助けたい、という気持ちは分からんでもないが、お前もあの通信を聞いていただろう?」
「はい。全く…、ここまで徹底した剣くん対策を取ってくるなんて…」
「考えるのは後だ。そら、さっさとあの6人のところへ行ってこい」
「分かりました」
この場を千冬に任せ、楯無は駆けていく。
「…はぁ。打鉄、か…」
その背後で、手の中にある打鉄の待機状態を、寂しそうに眺める千冬に気づくことなく―
◇
「お前っ!何が目的でそこまでして剣を狙うんだ!」
「さぁな。私が教えてやれることはもう全て教えてやった。あとは、自分で気づけ!」
「ぐっ…!」
一夏達6人は、6対1という数でいえば圧倒的な優位に立っておきながらも、サイレント・ゼフィルスの操縦者、Mに対して苦戦を強いられていた。
理由はただ一つ。高速機動用に機体を調整したせいで、一部の機能が制限、または封印されているからだ。その最たる例が―
「ふんっ。今のお前など、最早なんの驚異でもない。その後ろで待機している、お前達もだ」
「くそっ…!零落白夜さえ使えれば…!」
「これほどまでにやりづらいとはな…!」
「これ以上は…、ダメ…。攻撃の手段が、ない…」
―白式の零落白夜と雪羅、シュヴァルツェア・レーゲンのAIC、打鉄弐式の武装の数だ。
それぞれが高速機動用の調整といって、制限をかけた強力な武装が、この奇襲への反撃を成功させるには必要だった。
「鈴!衝撃砲は無理なのか!?」
「無理よ!今のままじゃ真正面に撃てないの!」
「ぐっ…!っ、箒…。箒!絢爛舞踏は使えないのか!?」
「先ほどから試してはいるがまだだめだ…、すまん…」
一夏が幼なじみ2人に問うが、返ってくるのは望んでいたものではなかった。
『皆っ!もう少しだけ耐えて!あと少しでそっちに行けるわ!』
「お姉ちゃん…」
「ちっ…!ロシア代表か…」
だが、ふと予想だにしていなかったところで、思わぬ吉報が訪れた。ロシア代表でありIS学園生徒会長、つまりIS学園生徒最強の座に君臨する更識楯無の加勢。これにより、戦いの勢いは一気にIS学園側へと流れる―
「…なら、そっちを潰すか」
―ことなどなかった。
現在、時守が相手をしているゴーレム達が自爆するスイッチは『時守剣以外のIS操縦者にロックされること』。これは、今彼の周りにいる20機余りのゴーレム全てに適応されることであり、かつ、『敵味方関係無く』ロックされた瞬間に、自爆するのだ。
その機能を利用するべく、Mは瞬時にゴーレム20機余りを、一気にロックした。
「しまっ…!」
「剣君っ!!」
一夏達と、これから加勢に行こうとしていた楯無の視線が、時守に向く。角度の問題から彼の顔は8人からは見えず、周囲のゴーレム達が光り出していることだけが、明確に分かった。
「いや、やっぱ―」
何かを言おうとした時守だったが、その声は爆音にかき消され、彼のその姿も爆炎に包まれた。
Mは愉悦による笑みを浮かべ、その様子を見ることしかできなかった8人は、それぞれが複雑な表情を浮かべ―
「―お前、アホやろ」
―一本の棒が、Mの顎を打ち上げた。
「ガッ…、…な、何…が…」
「この光景見てもまだ理解できひんのか。俺が、お前を、ぶち抜いた。…それだけや」
「き、貴様は今、自爆に巻き込まれて…」
「あんな見え透いた自爆、ガードできるに決まってるやろ。こないだは味方を守るためやったけど、今回は明らかに自分を狙ってきてるの分かってんもん。…ま、ランペイジテール二本とも逝ってもたけどな」
先ほどまでの笑みは無く、Mは目の前に佇む時守を睨む。ウィンドウから送られてくる情報を見る限り、相手に大したダメージは与えられておらず、特殊武装、それも『完全同調』発動時には邪魔になってしまう程度の物を二本、機能停止にできただけに終わってしまったからだ。
「一夏、ちょっと武装パージするからちょいと時間稼いでくれ」
「っ!分かった!」
「あと、セシリア」
「…はい」
「前にも言った偏向射撃やけどな、簡単や、信じろ。深く考えるな。…できる、理論上可能なら?」
「…ビット適正トップの、わたくしに出来ない訳が無いですわ」
「せや。…まぁ、信じていいのは、自分だけちゃうけどな」
「はい?……はっ!そ、そういうことでしたのね!」
「ようやく分かったんか…。んなら、一夏、セシリア!」
「おう!!」
「はい!」
一夏とセシリア、2人と一言二言交わし、時守は下がっていった。その彼の脇を、どこか晴れ晴れとした表情の一夏と、セシリアが駆けていった。
◇
「おいしょ、と」
「け、剣!ほんとに大丈夫なの!?」
「ん?おぉ。今んとこは、な」
「…でも、今まで7人で上手く攻められなかったのに、一夏とセシリアだけで大丈夫なの?」
「大丈夫やって」
楯無、簪、シャルロット、ラウラ、鈴、箒の元へと戻った俺は、一息付きながら使い物にならなくなった武装を、迷うことなくパージした。そんな悠長なことをしているのを見かねたのか、身体の安否を問うシャルロットが物凄い剣幕で一気に近づき、采配の意味を聞くために鈴が問いかけてきた。
身体の安否については、一旦置いておくとして、采配については問題ないやろ。…現に、ほら。
「あいつ攻めあぐねてるやん」
「ほんとだ…。でも、なんで…」
「恐らく、一夏くん本来の良さ。…まあ、思い切りの良さだったり、今まで出来ていなかったことが本番でできる凄まじいセンスが生かされるようになったから、ね」
「…まぁ、セシリーが偏向射撃できるように…なってるやん…。あんなクソテキトーなアドバイスで…」
「…あの説明で出来るなら、なぜもっと早くできなかったのだ?」
ラウラの疑問も正しいだろう。俺はただ、『自分以外も信じてみろ』と言っただけである。それで偏向射撃できるようになったら誰も苦労せーへんって。
「ま、多分『ブルー・ティアーズ』がセシリーに答えてあげたいって思ったからやろ」
「…どういうことだ?」
「こういう強い武装とかってな、自分の努力だけやったら発現せーへんねん。ISのことを信じて、かつISに信じられて、初めて出てくんねん。セシリーはISに十分信じられるぐらいの付き合いはあったけど、ずっと自分1人でやろうとしてた。…それを変えたから、『ブルー・ティアーズ』が偏向射撃って形で答えただけや」
「…なるほど」
「いや絶対モッピー分かってへんやろ」
俺の言ったことは、単一仕様能力であったり、第二形態移行にも必要なことである。まあ俺はそのへんのことを金夜叉から聞けるので、せこいと言われちゃ終わりである。
「…あ、敵が…」
「いいわよ、簪ちゃん。今の目的は敵の撃退。確保じゃないわ」
「それはちゃんと2人にも言ってるし…あ、戻ってきた」
俺が解説をしている間に、敵、Mは退散していった。…てか遠目から見てたけどワンサマ今のやつ絶対怖いって。近距離でやりあってる背後から、曲がってくるとはいえビーム飛んでくんねんで?自分に当たらんと思ってても流石に怖いやろ…。
「ま、今回こそは、誰1人怪我人無く終われたな」
「アンタは常に怪我してるじゃない」
俺達の戦いの最後は、全員の苦笑いという結果で終わった。お前のせいやからな!鈴!
所々微妙な所は次への伏線だと思ってくだせぇ…。わ、忘れないことを祈ってて(震え声)