ワールドパージ編をこれだけの速度で進める小説は他に無いと思います。
「っと」
見渡す限り見事な草原。
ほんま草生えるわ。いや、生えてるわ。
季節感ガン無視の日差しが降り注ぎ、風が駆け抜けていく。
…。
「そこやクソ兎ィ!」
挨拶代わりと言わんばかりに右手から『雷轟』を射出。
草むらに隠れていた兎が、丸焦げになって倒れていた。
『…えっと、ハッキングの阻止が完了されたって…』
任務が、2秒で終わった。
「え、ちょ、アンタ何したの?」
「大元ぶっ倒した」
「あ、そう。…帰っていいの?」
「ええんちゃう?」
『不思議の国のアリス』のアリスの格好をした面々が、俺の元へと集まってくる。
「あの兎は何なのだ?」
「さあ?相手のISのワンオフ…それの鍵的な?」
「つまり、それを倒したからもう終わりってこと?」
「おう」
「わたくし達が来る意味ありましたの?」
セシリーの疑問も当然や。
正味、ほんまに俺だけで良かってんけどな。万が一のことも考えて、らしいけど。
「でもでも、この衣装可愛くない?」
「あぁ、天使。可愛すぎて死んでしまいそう」
『…死んじゃ、嫌…』
「冗談やって、簪」
シャルのアリス衣装。
ありがとう敵!そこには感謝するわ!
「………ぁぁぁあ」
「…む?何か、聞こえないか?」
「あー、電脳世界ならやっぱ来るか…」
「…ぁぁあああ!」
シャルとセシリー、2人の衣装を眺めていると、上から何やら叫び声が。
この状況で、叫び声を上げながら落ちてくるやつなど、俺は1人しか知らない。
「あああああ!受け止めてや剣ちゃんんんん!」
「おっけい!バッチコイ!」
腕を広げる。
見上げれば、黒のワンピースと金色の長い髪の毛を靡かせながら、それは落ちてきていた。
「ありがとう!剣ちゃ―」
「やっぱ嘘」
「ブッ!!」
見た目10歳のそのガキンチョは、俺の手をすり抜け、見事に地面に顔面に叩きつけた。
「おいコラ剣ちゃん!何してくれとんねん!」
「いや、あの速さで受け止めれへんやん?」
「それでも10歳の子どもを普通そのままスルーするか!?」
「お前怪我せーへんやん」
「何やと!」
わーわーぎゃーぎゃーと…あいっ変わらず騒がしいなこのクソガキ。
見た目だけはそれなりやけど…などと考えていると、凄まじい表情でこちらを見る5人、空中に投影されたモニターに映る簪も含めると、6人。
「け、剣さん…?そちらのかたは?」
「お?こいつ?…おい、自己紹介しろ」
「…ったく…。ウチの操縦者やからって、無下に扱い過ぎやわほんま…」
「操縦者…?ま、まさか…」
ラウラが真っ先に、その後、波紋のように驚愕の表情か広まっていく。
やっぱ、見るのはみんな初めてか。
「ウチは『金色』っちゅうねん。知っとるとは思うけど、剣ちゃんのIS、その自我ってもんや。皆、よろしゅうなー」
にっぱー、とアホヅラ下げて笑うこいつを見て、皆が皆、面白い程の反応を見せる。
なぜか震えるモッピー、鈴。
口をぱくぱくさせるセシリー。
目を輝かせるシャル。
同じぐらいの身長に嘆くラウラ。
頭を抱える簪。
「…でも、ウチはよろしゅうするつもりは無いけどな」
しかし、そんな面々も、金ちゃんのその一言で強ばってしまう。
「おい金ちゃん」
「あかん。これだけは言わせてもらう。…今はここにおらん奴もおるけど、ウチにだって言いたいこともある。こんな機会、滅多に無いしな」
明らかに口調、トーンが変わった金ちゃんに対し、誰も、何も言えなくなっていた。
恐らく、何を言われるのか想像がついているのだろう。
「お前ら…もう、IS乗らんといてや」
「おい金!」
「分かってる!…分かってるけど、ウチだって、剣ちゃんに怪我されたくないんや…」
「…それはもう、これからはすることは無いって」
「これまでの話や!」
金ちゃんの怒号が響く。清々しい程に開放的なそこに似合わないその怒りは、留まることを知らなかった。
「過去の話は忘れられへん!ウチはIS、言わばそのAIや!一回あった事は忘れられへんねん!剣ちゃんがいったい何回死にかけた!?周りがちゃんとしてれば、剣ちゃんがそんな思いすること無かったやろ!?」
「…それ、は…」
「…はっ、だんまりかいな…。まあええわ。もう、ウチは技術面に関して、お前らに期待はしてへんからな…っ!?痛っ!」
「言い過ぎや」
流石に言葉が過ぎる。そう判断し、とりあえず金ちゃんの頭に拳骨を叩き込む。
しかしそれでも、シャル達の顔に笑顔は戻らない。
「…でも、でもぉ!」
「お前が俺を思ってくれてるのは、『完全同調・超過』を使ってる俺が一番よう知ってる。…せやったら、皆に強く当たらんといてくれ」
「うぅ…うわああああっ!」
「汚ったね!ちょ、お前自分で種まいて勝手に泣くなボケ!」
泣きわめきながら金ちゃんが俺に抱きついてくる。
毎度思うのだが、こいつISにしては感情表現豊か過ぎひんか?空での訓練の時も、散々色々話したし。
「…あの、金、ちゃん?」
「…なんや金髪」
「…ごめんね?僕達が今まで不甲斐なかったのは確かだし、それで剣も傷ついちゃった、のも事実。…でも、これからはここにいる全員、そんなことは絶対にさせないって誓う。…それで、許してくれる?」
「……なら、お前らも死なんことも条件に入れろ。お前らが死んだら、剣ちゃんも悲しむからな」
「うんっ!約束」
ゆーびきーりげーんまーん、と金ちゃんと指切りをするシャル。
諭されてる少女と、優しいお姉さんと見ればいいのだろうが、諭されている側の中身はただの関西人である。
「…そんなことを、思わせてしまっていたのですね」
「…あぁ。ごめんセシリー、止められへんかったわ」
「むしろ、良かったですわ。客観的に、どのように見られているか分かりましたもの」
「そうね。これ以上、雑魚認定されるのはアタシが許せないし」
「もう師匠を傷つけさせん!」
「うむ、もちろんだ!」
『最初っから、そのつもり…』
金ちゃんの涙により、皆が改めて決心したようである。
正直、変な空気にならへんか心配やってんけど、大丈夫っぽいな。
「んじゃ、用もなくなったし、戻ろか」
『えっと…どうやって?』
「あー、アイツ一瞬で倒してもたから帰れへんのか…。金ちゃん何とかできる?」
「任せとき!今やこの空間は、あの兎のもんちゃう。倒したウチのもんや。やから―」
金ちゃんの全身が淡く光る。
おいお前、まさか―
「―衝撃浴びせたらショックで戻れるわ!」
「やめ―」
「『雷轟』ッ!」
―瞬間、俺たちは雷に包まれたのだった…。
◇
「っ、何すんのよ!ってあれ?」
「戻ってきたみたい…」
「…剣、さんは…。どこへ?」
「剣なら、お姉ちゃん達の補助に行った…。『雷動』で瞬間移動みたいに移動してたから…」
「大丈夫か?カナ」
「ふふっ、ありがと、剣くん。助けに来てくれて」
「おい時守、もう終わったのか?」
「は〜、流石に早いですねぇ…」
「…もう、終わったみたい」
「えぇ…」
仮想現実世界から戻ってきた鈴達。
見渡せば、そこに時守の姿は無かった。
しかし、そのほんの数秒後。楯無をお姫様抱っこした時守が入り口の扉から、千冬と真耶を引き連れて戻ってきた。
…一件落着である。
「相手は何がしたかったんだ?」
「さあなー、まあ、アメリカってことは分かってんけど」
「ちょっと、ヒヤッとしたわね。縄が切られるなんて…失態だわ…」
「まぁ、間に合うたし、終わりよければ全てよしや」
気持ちよさそうに抱き上げられる楯無の顔は、終始にやけっぱなしで、とても生徒会長のものではなかった。
「えっ、その…侵入者とかは?」
「お?俺が戻ってきた時に、『雷動』でカナんとこまで行くやろ?んで『金色』でぶっ飛ばして、またちっふー先生んとこ行って、ぶっ倒した」
「…長く苦しい戦いだったな…」
箒の呆れたような声が、アクセスルームに響く。
何はともあれ、終わったのだ。
◇
『6回の裏、山田先生チームの攻撃は、4番、ピッチャー。織斑、一夏。織斑、一夏』
「いけ一夏!お前のバットで決めろぉ!」
「嫁!優勝するのは私達のチームだ!」
少女達の声援が、バッターボックスに立つ一夏へと向かう。
対するは、ここまで無四死球無失点の好ピッチングを続ける時守。
「ぷれーいー」
「ふっ!」
「くっ…!」
「すとらーいくー」
「144km/hの膝元に食いこむ高速スライダー…!」
「流石剣ちゃん…ISの補助アリって言っても凄いわね…」
布仏本音の合図で、時守が投げる。
右バッターの一夏の身体へと向かっていたそれは、突如として起動を変え、インコース低めへと突き刺さった。
「セシリアも流石の好リード。…こりゃ一筋縄じゃいかないわね…」
「え、えっと…。織斑くーん!頑張ってくださーい!」
鈴のボヤキに焦りを隠せなくなった真耶が、それを誤魔化すかのように声援を届ける。
「すとらいくつー」
「っ、外角へのチェンジアップ…!」
「性格悪いわね…!セシリア…!」
「6回まで凰さんの内野安打1本のみ…。織斑君…」
セシリアの巧みなリードに、一夏のバットが空を切る。
6回裏。いよいよ試合も終盤に差し掛かる中で、真耶のチームは内野安打でしかヒットを出せていなかった。
「…、ボール」
「おぉ〜」
「インコースギリギリ…」
「良く見ていけ!一夏!相手も疲れているはずだ!」
「時守ィ!しっかりと締めろォ!」
「っらぁ!」
「っ!…クソ…」
「すとらーい、バッターあうとー」
ため息が、真耶ベンチを包む。
帰ってくる一夏を責めるものは、いなかった。
「どんまいです、織斑君!次は打てますよ!」
「は、はぁ…。あの、なんで野球なんですか?」
「えっ!?えっと、学園のシステムに異常が出たんですが、思いの外早く解決してしまったので。皆さんの息抜きにもいいかと」
「…なるほど」
IS学園からの緊急連絡を受け、最速で倉持技研から帰ってきた一夏を待っていたのは、体操服を抱えた千冬だった。
有無を言う間もなく着替えさせられると、そのまま試合が始まったのだ。
一夏からすれば、何が何だかさっぱりだ。
「あうとー」
「あー…、ラウラもショートゴロ…」
「理子って変なとこで凄い動きするわよねー」
「さっ、織斑君!守りですよ!頑張ってください!」
「は、はい…」
何も分からぬまま、一夏はマウンドに立つのだった。
『7回の表、織斑先生チームの攻撃は、2番、セカンド。更識、簪。更識、簪』
「いっけー!簪さーん!」
「しぶとく繋げー!」
対するは、千冬チームの技巧派セカンド、簪。
左打席に立った彼女は、クラウチング打法。しかもバットを短く持ち、繋ぐことに意識を向けていた。
「…はっ!」
「…」
「ふぁーるー」
『ファールボールに、ご注意ください』
簪がカットし、楯無のコールが場内に響く。
彼女の選球眼は、1年トップクラスのものだ。ならば、臭いところ勝負で歩かせてしまう方が…。
「ふぁーるー」
そう考えている内にも、簪はカットする。
球を受ける箒も、どこに投げれば良いのか分からない。そんなサインだった。
そんな時。
「…よっ、と」
「っ、サード!」
「嘘…!」
「更識さんがセーフティ!?」
「っ、セー!セー!」
外角への投じたストレートを、セーフティ気味に転がされた。
不意を付かれ、サード、相川清香がダッシュをかけるも間に合わず。結果として内野安打となってしまった。
「よしっ!」
「ここで、3番のシャルロットに回る…」
「出塁率7割越えの力を見せてやれー!」
苦笑いをしながら出てきたのは、千冬チームのクリーンナップの1人、シャルロット。
長打力は無いものの、確実なミート力、そして選球眼と足の速さを生かした出塁率の高さに要注意。
―っ、そこはまずいだろ、箒…。
箒が指示したのは、前のシャルロットの打席、綺麗な流し打ちでレフト線に落とされ、2点タイムリーツーベースを打たれた外角低めだった。
「…っ、なぁ!?」
少し、そのサインに不安を感じてしまった一夏は、ファウルを誘うために外角高めへと投じた。
しかし、結果は不発。左打席に立つシャルロットの流し打ちで、これまたツーベースヒットとなってしまう。
「タイム!…一夏、どうした。サインは外角低めだっただろう?」
「あぁ、悪い…。っ、ここに来て4番の剣か。…その次は、セシリア…」
「次のバッターに集中しろっ。剣ならば、最悪歩かせてもいい。とにかく、コールドにはさせんようにな」
「分かってるよ」
箒がマウンドからホームベースへと戻っていく。
現在、7回表。5―0で、千冬チームが勝っている。
「いっけぇ!時守くーん!」
ワァワァキャアキャアと歓声が飛び交うが、時守の視線の先には監督しか写っていない。
―容赦なく、叩きのめせ。狙え。
実の弟相手に、鬼のような采配を見せる千冬だった。
「ふっ!」
「ぼーるー」
「いいぞ一夏!ナイスコースだ!」
一球目、外角低めへのストレートが外れる。
元来、そこまで野球をしてこなかった一夏が投げられる球種は多くない。ISの補助があれども、大した変化は産めない。
ならば、叩くのはファーストストライク。
「…ふっ」
一夏の腕からボールが放たれる。
軌道は、先程よりも僅かに内。
狙い、通り。
「っ―!」
快音が鳴り響き、ボールがグングンと上がっていく。
バットを放り投げる。一夏が蹲り、シャルと簪がゆっくりと歩き始める。
ライトスタンド中段へと、白球が叩き込まれた。
「っしゃらぁ!8―0!剣君の勝ち越しスリーランホームランじゃあ!」
「あっと2っ点!あっと2っ点!」
「悪いな、真耶。…私は、勝負事では負けたくないんだ」
ホームに帰ってきた時守が、簪とシャルロットに抱きしめられている。
ネクストバッターサークルに控えているセシリアとハイタッチを交わした3人が、ベンチへと戻る。
「良くやった時守。…後は」
『あぁっと!これも大きい!入るか、入るか…入ったー!二者連続ホームラーン!セシリア・オルコット、バックスクリーン直撃の特大ホームラーン!』
ウグイス嬢兼実況解説をしていた楯無の声を聞き、全員がセシリアの方を見る。
そこには、まるで外国人助っ人のようにバットを振り切った彼女がいた。
のっしのっしと一塁ベースへと向かう彼女。
白球は、バックスクリーンへと叩き込まれていた。
「…後は、最終兵器に任せておけ。審判!代打、私だ」
ユニフォーム姿でヘルメットとバットを持ってバッターボックスへと向かう千冬は、これ以上にない程に頼もしかった。
◇ ◇
「いやー、楽しかったねー」
「ほんとほんと。織斑先生の最後のホームラン、すっごかったよね」
「外角低めを引っ張ってレフトポールの最上段にぶつけるとか、凄いよねー」
ワイワイガヤガヤと、勝ち負け関係無く生徒が後片付けに励んでいる。
その光景を見ながら、千冬と真耶は2人、ベンチで話していた。
「ほんと、今日は何も起こらなくて良かったですね」
「あぁ。時守が4分半で片付けたからな。下手なカップラーメンならまだ出来上がらんぐらいだ」
「強かったですねぇ、時守君」
内容は、今日の昼にあった謎の襲撃事件。
開始から撃退完了までに、時間のかかるカップラーメンが一つ出来上がらない程に、一瞬で終わったそれは、既に記憶から薄れ始めていた。
「…そう言えば、隊長と呼ばれていた奴を拘束していたな」
「えぇっ!?大丈夫なんですか!?」
「なに、時守のISで気絶させてあるから大丈夫だ。学園の外から狙っていたやつも、時守が脅しを掛けていたからな」
「はぇ〜、何でも出来るんですねぇ、時守君…」
明らかに大丈夫ではない内容が千冬の口から飛び出るも、その淡々とした口調と真耶の性格から、彼女はあっさりと何事も無いと信じてしまった。
「…ではそろそろ、私もお暇―」
「おい真耶。…お前、賭けの内容を忘れさせたとは言わせんぞ?」
「え、エー…ナンノコトカ…」
「ほう?」
「分かりましたよぉ!今日でいいんですか!?」
「あぁ。…くぅー!久しぶりだなぁ!食べ放題じゃない焼肉は!」
「え゛ぇ゛っ!?嘘でしょ先輩!」
更衣室へと向かう生徒達を尻目に、真耶と千冬も教員用ロッカールームへと歩き出した。
この日の夜、真耶の財布から質量が消えた。
ISとは(哲学)
8巻終わりました。えぇ、終わりです。
書く内容無いのだもの!そもそもワンサマのラッキースケベのオンパレード過ぎてストレス溜まるしね!(ゲス顔)