(ハイキューじゃ)ないです。
「さぁさ、お腹も空いただろう?もう日も落ちたし、夕飯にしようじゃないか」
そういって少女はベッドに突っ伏す女をゆする。
「ココは…どこや」
寝ぼけ眼を擦って起き上がり、気怠げなのか眠いのか見分けがつかない女は目の前の少女に問い掛ける。
「まだ寝ぼけてるのかい?」
「そう…みたいやな」
少女を視認すると同時に一拍置かれて女から言葉が発される。女がベッドから降りるのを視認すると、少女は足取り軽く上機嫌に、扉を開けてソファーに座る。
一方で女の足取りは重く、先行きの見えない真っ暗な道を歩く様な錯覚に陥っていた。
「…ふぅ」
休息を取ったつもりがますます疲れが増していく現状に辟易としつつ、女はソファーに腰を下ろす。
「じゃじゃーん!」
女が纏う陰鬱とした空気を振り払うように、包装紙から顔を出すじゃがまるくんを少女は見せつけるように女の目の前へと突き出す。
「なんやコレ?コロッケ?」
無感情かつ無感動な声だが、顔と一対の瞳がじゃがまるくんに吸い寄せられる光景に満足したのか、少女はこれまた大袈裟に指を振って答える。
「ちっちっち、違うね、これはじゃがまる君っさ!」
たっぷりと勿体ぶらせて大袈裟に答えるその様はどこぞの大会でランキングを発表する司会者である。場の空気に合わせて女は少女に拍手を送る。
「おー」
パチパチパチ
むなしく拍手が鳴り響き、この空間の静けさが却って際立つ。同居人が増えたと言うのに淋しさが増すとはこれ如何に。更に突如、沈痛な表情を浮かべた少女は女へ残酷な真実を告げる。
「実はね、じゃがまるくんはここにある分しかないんだ。」
「それって、つまりは」
絶句する女を相手に少女はいたたまれない表情で口にする、じゃがまるくんは彼女の手元にある分だけ、つまりはーーーーー
「一つしか、ないんか…」
黙って首肯する少女。落胆したかのような声色に滝のような汗を流しつつ、横目に女の表情を伺えば
「しゃーない、大事に食べるんやで」
無表情だった。だが、女から発せられる暖かい言葉に少女は呆然とし、震える声で聞き返す。
「良いのかい?」
「…?なんや、アンタは他人に数少ない食料でも分け与えなきゃあかんのか。人に優しいのか厳しい習慣なのかようわからんな…」
呆気に取られるも、女の他人という単語に反応し、少女は語調を強くして女を諭すように語りかける。
「他人だなんて、そんな!キミはファミリアの一員。もう僕の立派な家族さ!」
そんなこと言わないでおくれと締め括られた言葉に女は固まる。バっと両腕を広げ、さぁ、この胸に飛び込んでくるんだ!と愛を与えようとする少女の姿は正に女神に相応しい。
だが
「さっきから…その、ファミリアってなんや」
その言葉にピシリと音をたてて少女の動きが止まる。理解が追い付かずに石像と化した少女をじっと女は見つめている。
「なんや、一体、どうしたっていうんや」
眉を僅かに八の字に寄せる女に少女は問い掛ける。少女は他ならぬ自身に祈る、コレが合っていて欲しくないと、頼むから、と。
「キミ…冒険者志願者…?」
「なんやソレ」
最終確認だ。コレが駄目ならボクはとんだ拾い物をしたことになる。どうしよう、困った。再び流れた汗は先程の比ではなく、ガタガタと震える喉を女神のプライドで押さえ付け、少女は問い掛ける。
「…オラリオって知ってるかい?」
「アメリカにそんなのがあったような…気がせぇへんでも…」
途端に少女は地面に両膝をついて項垂れた。
「お、ぉお?すまん、わし地理には疎いんや」
ーーーー学があるとかないとかそんなチャチなレベルの問題じゃない!そもそも何処だいアメリカって…
ショックを受けたように項垂れた少女を見て、取り敢えず自分に非があるのではと、咄嗟に女は謝罪した。
「いや、キミが悪い訳じゃないんだ。ちょっとビックリしちゃってね…」
「喉に詰まらせてしもうたか、ほれ、背中みせてみーや」
女はさながら子を宥めるオカンの如く背中を優しく叩き始める。
「くぅぅ…優しさが染みるぜ…」
途中から少女は涙を見せ始めた。しかし、突然の展開にも女は動揺せず、今度はあやすように背中をさすった。
「ボクが一体何をしたって言うんだ。借りを返すためにも心機一転、頑張ろうって…なのに…不甲斐ない、ボクは自分が不甲斐ないよ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうや、落ち着いたか?」
「とても落ち着いたよ。ありがとう。しかし、どうしたものやら…」
頭を床に擦り付ける勢いで謝罪を述べる少女は同時に、打開策を考え始める。そこで女は何でもないかのように口にする
「決めた。わし、冒険者になるわ」
顔を即座に上げ、不可解なモノを見た気分を味わった後、少女は声を張り上げた
「えぇ!?そんな思い付きみたいに軽く…」
「おねーさんに任しとき。これでもサバイバルと腕っぷしには自信があるんや」
借金の片棒を担がされた少女に、孤児だった己の過去を重ね、妙な感慨を覚えながら、普段なら絶対に口にしない提案を女は口にした。
ーーーーこれが同情という感情か
その事に気付くも女は凡そらしくない発言を取り止めようとはしなかった。より感情を理解する事は勿論、今は会えぬ仲間は心配していない。心配することすらおこがましく思えるほどに心が強い彼女らの事だ、あれだけの濃い数年を過ごしたのだから、平気と言わずとも潰れはしまい。
一方で渡りに船の提案だが、少女は渋る。力量の程は詳しくは分からないが、彼女が最初に見せた動作は只者ではないと感じさせた。
だがそれとこれでは別である。初対面の、女神ヘスティアからすればたかが十代の少女のこれからだと言う時期にそんな重荷を押し付けていいものか。人間一人の人生を左右することがこんなにも重いモノだったなんて、女神は人に対して浅慮だったと己を恥じた。
だが、足踏みしていられるほど余裕が無いことも事実。自らの義務感と欲望に板挟みになる少女女神は葛藤し、決意する。
「うん…じゃあ、うつ伏せになって」
光るモノがあろうとなかろうと、ペーペーの冒険者逹の間に差は大して存在しない。数値の事だけを告げて、キミには冒険者としての才能がない。そう言おう。
騙すようで余り良ろしくはないが、そう危険な道から外れるように諭すのも女神の役目だと考え、少女は実行する。
一緒に働くのも悪くない、そう考えながら。
「服も脱ぐんだ…」
少女に跨がれて体が起こせない女は両腕を伸ばしてにょろにょろと全身をくねらせ、服を脱ぐ。
少女は思わず息を飲む。十代と言ったが、明らかにそれ以上でもお目にかかれないほどの暴力的なまでの艶やかさを放つ肉体に跨がり、背中につつ、と人指し指を走らせる。
「ん…」
熱く湿った吐息はただそれだけであるはずなのに、色っぽい。女に女がどぎまぎするってのは可笑しいんじゃないのかい?そう自分に言い聞かせ、少女は一旦戻した人指し指を針でつく。
先程の行為で感覚が鋭敏になっていた指を傷つける事による痛みよりも、自分が年下の同姓の女体に熱中していた現実を突きつけられた事に対する恥辱に顔を顰める。
一方で女は自分の肌を伝う、ぬるりとした感触と嗅ぎ慣れた臭いに瞬時に結論を出すと共に、背中に跨がる少女へ目を向ける。注視すれば、指先から血が出ていた事が分かる。
「大丈夫なんか」
「へ?ヘーキさ、これぐらい!」
女からすれば下らない強がりにしかみえない。だが少女からすれば己の女神としての威信をかけた一大事である。そもそも気にする点がそれぞれ違うのだが。
唐突に弛緩していた空気が引き締まる。
少女の怪訝に細められた目は段々と開かれ、受け入れがたい、目を背けたくなるような事実を焼き付けるように極限にまで開かれる。
「…どないしたんや」
「ぁ…何でもないさ、特に大した事は無かったよ。さ、もう夜も更けたし寝ようか。明日から二人で頑張ろう!」
そう意気込んで背中から降りた後、少女は女の手を引いてベッドの方へと向かった。手は目の前の子供が迷わないようにと、手放したくはないと固く握りしめられていた。
「……」
「……」
ベッドへと潜り、互いに自然と顔を突き合わせるような姿勢になる。瞼を閉じようとも強く感じる視線に反応して薄く開けると
「……」
「…どうしたんだい、眠れないのかい?」
剣呑な光を宿した一対の瞳が少女を捉えていた。
「……」
「……ボクはもう寝るよっ、お休み!」
無言の追求から逃れる様に背を向ける。が、背筋が冷たい感覚と共に舐められた様な錯覚を覚え、全身の肌が粟立つ。どうあってもボクをにがすつもりはないらしい。まるで蛇のように粘つく視線と、体を締め付けるような圧迫感がそれを証明していた。
それでも、それでもボクは…
不規則な呼吸に喘ぐ少女はひたすらに耐える。家族を失いたくはないからと、そう自らに言い聞かせて。
女にとっては数分、少女にとっては途方もない時間が流れた。
ふ、と体が軽くなったと思えば、背中からくすぐったい吐息が少女にかかる。どうやら寝息を立てているらしい。
「…キミの気持ちを反故にしたくはない、でもボクは…」
少女女神は傍らに眠る女を肩越しに見つめ、堂々巡りの思考を張り巡らす。ぐるぐると回る考えは出口と入口を同じくした路をただひたすらに走るだけ。
中々難しいねんな…似非関西弁許して!