もやしがないならじゃが丸君しかないじゃない   作:夕陽オニ

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やさぐれ気味のアノ人が登場します。


2話

「ふぅっ」

 

息を吐きながら左右の足を開脚し、上半身を前へ倒れるように屈ませる。

まだ日も昇って間もない。そんな時間に目覚めた女は一人、体が硬くなるのを防ぐために柔軟体操を行っていた。それも一段落、今度は何時も肌身離さず身に付けている武器があるか確認する。武器といってもソレは暗器と然程変わらず、戦闘よりも暗殺向けのモノだ。

ナイフでありながらも、もう一つの側面を持ち、繊細な武器である為に確認は怠らない。いざとなればいい加減とも取れる様な使い方をするのがこの女の常ではあるが。

相も変わらず相棒の光沢に惚れ惚れとしていると、足元からドタドタと足音が聞こえてくる。ソレを仕舞い込んで胡座をかくと、ちょうど少女は隠し扉から姿を現す。

 

「良かったぁ」

 

息を荒くして女を見つけると少女はへたりこむ。

 

「屋内にいないもんだから心配したよ、何をしてるんだい?こんな朝っぱらから」

 

女は人差し指を顎に当てて一考、思い付いたのか少女に簡潔に伝えるべく口を開く。

 

「鍛練や」

 

「座ってやれるモノなのかい?」

 

「せやで、それにもう終わっとる」

 

「そっか」

 

納得した素振りを見せた少女は女の横に座り込み、二つに割った内のじゃがまるくんを一つ差し出す。

女の昨夜と同じように吸い寄せられる反応を見て少女は笑う。

 

「ふふ、昨日は何も食べてなかったろう?」

 

「…ええの?」

 

「ボク逹はファミリアじゃないか」

 

胸をはって言い張る姿には見ていて心地のいいモノがあり、やはりその姿は仲間を彷彿とさせる。

見知らぬ地で、こうして女が冷静にいられるのも、少女がいるからこその節がある。

朝起きて判明した事だが、ナイフを鏡の代わりとして鏡に写すと妙な入れ墨が出来ていた。昨日の不思議な体験も手伝って、少女が女神だとは思えないが、完全に否定することも女には出来なかった。

 

「…そうやったな」

 

女は十秒とかからずじゃがまるくん1/2を完食する、少女を凝視しつつだ。さ迷う少女の視線は自分の手元にあるじゃがまるくんへと行き着き、コレなのかと目線で問えば女は首肯する。それに一時の迷いを見せるも、優しい少女は決断する。

 

「ハイっ」

 

「いらん」

 

「えぇ!?」

 

勇気ある決断が徒労に終わって項垂れた少女はじゃがまるくんをかじりつつ、女に質問する。

 

「じゃあ、なんなのさ?」

 

「食料の稼ぎ先や」

 

すると少女は思い出したと言わんばかりに自らの掌を叩く。

 

「それについてなんだけど、バイト先の店長に掛け合ってみようと思うんだ…なんだい、その顔は」

 

少女がジト目で女を睨む。すると眉をひそめた女は言葉を選ぶように発言する。

 

「そんなナリで…いや、だからこそ働けるんか」

 

「キミは一体ボクを何だと思って…」

 

「女神サマにはその大きな武器がある、わし納得。なんか困ったら相談するんやで、慰める事ぐらいならわしにだって出来る。」

 

得心いったとばかりに少女の実際豊満なバストを見た後、一人で頷く女に少女は己の身を抱き寄せて言い返す。

 

「…キミの脳内がピンク色なのは分かったよ、それに至って普通のお店さ。このままキミの妄想が逞しくなる前にそろそろバイト先に行こうと思うんだけど、どうする?」

 

「わしこの辺り余り知らんし、散策してみようと思っとる。そんな遠くまでは行かへんよ」

 

特に弁明もせず、立ち上がった少女に続いて同じように女は立つと、尻についた埃を払い、その場から消えた(・・・)

突然人が目の前から消え去ったという光景に少女が狼狽えていると、声が遠くから響いてきた。

 

「日が落ちるまでには帰るで~」

 

間延びした声に、少女は己の心配は無駄なのだと言外に告げられた気がした。

 

「全くあの子は…」

 

元気の良い、と言うよりはマイペースな新しい家族(眷族)に対し、漏れた言葉とは裏腹に、隠しきれない喜びが笑みとなって表れていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とん、とん

 

跳ぶ。逸る内心を反映するかの様に、周りの景色を置き去りにするような速度で跳び続けた女は、人の喧騒が聞こえ始めた辺りからその速度を緩めた。

比較的大きな木造建築の一軒家の屋根に乗り、大通りと思われる道を見下ろして、女は絶句する。

 

「ァ″ァ″ア″ア″」

 

滑車に積まれた檻とソレを護るかのように鎧を着込み、囲む人々。更にその光景に群がり、囃し立てる人、人、人。ここからはそれ以上詳しくは分からないが、女は檻の中で暴れる存在から目が離せないでいた。

怒りとも取れる奇声をあげて暴れる存在。

妖魔ほど禍々しくもないが、明らかに自然界で生まれる動物の枠を逸脱しているその姿は異様なモノだった。

そのまま固まっていると、ソレと目が合う。

すると此方に憤怒を滲ませーー檻を引き裂こうとより激しく暴れながらーー訴えかけてくる。

 

ーーー出せ、ここから出せ!

 

咄嗟に女は体を伏せ、身を隠す。それは恐怖故の行動ではなく、命の危機を示す警鐘が心音となって、彼女の全身をくまなく駆け巡ったからだった。

どれくらいそうしていただろうか、自分が息を止めていた事に気づく頃には、脅威の気配は最早感じられなかった。

立ち上がり、周りの景色を一瞥する。

 

「はぁ…」

 

と一息付くも、束の間

 

「ぐぅ!」

 

防衛本能から顔の横に添えられた腕に、突如強烈な衝撃が走る。

受け身を取ることもままならず、弾丸のように露店へ突っ込む女は気付く。

背後から蹴り飛ばされた。と

抜け忍ではあるが女も忍の端くれ。そんな女の背後を取り、その上強烈な一撃を加えた謎の存在への警戒心は止まる事を知らず、上昇を続ける。

そんな女の視界に一人の変わった風貌の女が舞い込んでくる。

 

「怪物祭に乗じて空き巣を狙う盗人がいるとは予想していましたが、あっさりと的中するのも考え物ですね…」

 

薄緑色のウェーブがかかった髪に尖った耳(エルフ耳)の女。元いた場所では空想の人種の彼女が己を蹴った人物だと認識するまで数秒とかからなかった。

女は崩壊した露店から飛び出し、この場から脱出を図るも

「逃がすとお思いですか?」

 

回り込まれていた。此方を押し潰さんとする殺気に女は震える。暫く、こんなに強く殺気を叩きつけてくる者はいなかった。

咄嗟にブーツの仕掛けを、強く足で地面を叩く事で作動させ、ブーツの背面から飛び出すハンドガンのグリップの様なモノを握り、手首のスナップを効かせて仕舞われた刃を出す。

洗練された動作はここまで一息とかからなかった。だが既に相手は五歩とあった距離から蹴りの範囲内に己を捉えているーーーー

 

勢いのついた蹴りをまともに受ける訳にもいかず、かといってナイフで相手と切り結ぶにも間に合わない。

 

金属同士の打ち合う音が響いた後、女は脇腹からくの字になって撥ね飛ばされ、壁面に激突した。飛ばされた先にある一軒家の土壁には蜘蛛の巣の様な亀裂が出来上がり、威力の凄まじさを物語っていた。一方で上げた足をゆっくりと降ろすエルフの女の顔には玉の様な汗と渋面が浮かんでいた。

 

「小細工を…」

 

そう言うエルフの女の足からは血が流れ、足の前面から脛骨が見えるか見えないかと言った程度の傷が出来ていた。

 

「けほっ…」

 

蹲るのを止め、首をこきりと鳴らしながら、立ち上がるは左腕がだらりと垂れ下がった女。血の痰を吐き出し、口の端を吊り上げながらエルフの女を嬉々として睨み付ける。

 

「効いたでェ、今の」

 

ナイフをもった右腕で左腕をごきりと鳴らす。左腕の感触を確かめるように肩を回し、満足がいったのかエルフの女へ向き直る。

人間とは思えない威力の蹴りの到達に合わせ、右腕に持ったナイフの峰を左の二の腕に沿わせる様に防御を行い、相手の足に刃を食い込ませたものの、骨すら見えず、しかし女の左腕は関節が外れ、骨はぽっきり折れる体たらく。

エルフの女、金属の様な強度と言い、人間からは程遠い力と言い、彼女は未来から来た殺戮ロボットの様に化け物じみている。流石はファンタジーの住人だ、と女は場違いな感想を抱く。

 

「何か失礼な事でも考えていらっしゃいませんか?」

 

「ハハ、いや?誉めとるんよ。そんなに邪険にせんでもええやんか」

 

今までポーカーフェイスを貫いていた女の別人の様な雰囲気の変化にエルフは訝しむ。

 

足を浮かせて衝撃を逃がす試みも壁に激突しては意味がない。涼しい顔をしていようとも、その実壁に衝突した右半身はその場で痙攣を始める程の激痛で支配されていた

筈だった。

 

しかし、彼女には痛覚を遮断出来る術がある。化け物(妖魔)と相対し、屠る為に鍛えられた彼女にはソレが出来るだけの技術がある。極度の命の危機に自らを晒した時、アドレナリンの分泌を極限にまで促し、目の前に聳える、己の命を脅かす存在を排除する事だけの為に意識の全てを割くことによって、本能すら攻撃の一色に染め上げる技。

硬く閉められた蛇口は1度水を吐き出せば後は易々と捻ることが出来る。彼女の場合は理性が蛇口のハンドルの役割を担っており、流れ出す水はアドレナリンという事である。

只思わぬ強敵がハンドルを吹き飛ばしかねない勢いで回した事が急な変化の理由である。

 

「ーーーぶっ壊したる」

 

怖気の走る感覚、現役を退いたとは言え歴戦のエルフの彼女でさえ相対したことのない類いのーー明るい殺意とも取れるーー感情が向けられる。

何時までも狩人の気分では此方の足元が掬われる。

驚きはするものの、表に出さず、エルフの女は冷静に対処すべく相手の一挙手一投足に全神経を集中させる。

 

目の前の女は唐突に全身の筋肉を縮めるように震え始め、自然と猫背になる。それは所謂「溜める」動作に連なる特徴を持っていた。

 

エルフの女はそれを瞬時に隙だと理解し、それこそ疾風の如く間合いの中へと踏み込んだ。止めるには相手を一撃で仕留めるほかない。察した彼女は俯く頭をこめかみから砕くべく膝を跳ね上げてーーー

 

 

 

 

ーーー失敗した

 

 

 

 

偶然だったのかもしれない。

相手が此方に視線を交えようとさえしなければ、間違いなく此方がこの時勝っていた。だが事実、女は顔を上げ、膝蹴りは鼻を掠めただけに終わった。

 

 

「しまっーーー」

 

 

折れた鼻から血を溢れさせ、仰け反る女は声を大にして叫ぶ

 

 

「ーー大喜び!」

 

 

女を中心に、台風の如く可視化された毒々しい色合いの斥力が吹き荒れる。

先程の攻防の再現。

相違を述べるなら、立場が逆転していた事だろう。

 

「ーーーーっ」

 

脳どころか全身を揺さぶられ、肺から酸素が絞り出され、声にならない悲鳴を上げつつも、強靭な精神力が瞳に宿した光を損なわせることを良しとしなかった。

ぐらぐらと揺れる視界へ気合いに物を言わせ、幽鬼の様にぶれる相手を捉えようとするも、捉えられない。

いや、捉え切れない(・・・・・・)

 

そもそも視界は最初から揺れてなどいなかった。

 

ソレ(・・)は鈍く鋼色に光り、うねる軌跡(斬撃)を纏い、残像を残像と認識するよりも速く、速く猛然と迫り来る。

 

血を被り(かぶり)、紅く、爛々とギラつく二匹の蛇(双眸)だけがそこには在った




戦闘描写難しいです…
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