もやしがないならじゃが丸君しかないじゃない   作:夕陽オニ

4 / 9
3話

シャリリリリ

 

 

二匹の蛇が鳴く

蛇は振るわれた双鞭の様な軌道を描いてエルフに襲い掛かる。

 

もたつく下肢に鞭打ち、エルフは後退(あとずさ)り、背中に伝わる硬い壁の感触に悟る。もう一歩も下がることは出来ない。視界で確保出来る範囲は全て鈍色の曲線が罠のように張り巡らされている。迫る二匹の蛇は次第にその速度を緩め、獲物が罠にかかる瞬間を心待ちに、或いは心身共に嬲る事を楽しんでいるかのようだ。

 

「どちらにせよ悪趣味な事ですね」

 

他人事の様に無駄口を叩くも、エルフは決して諦めた訳ではない。

彼女は考える。先ずはこの包囲網を何とか攻略しなければならない。だが、周りに人がいる以上派手に動くことも出来ない。

 

 

立ち塞がる壁を目の前にし、久々に冒険者としての血が騒ぐ事に彼女自身は気付かない。けれど、過去に経験した様々な敵との命のやり取りを彷彿とさせる今の状況は、彼女にとって疾風として名を馳せていた頃の感覚を呼び覚すには十分にすぎていた。

 

エルフは数々の化け物を打ち倒し、多くの人を葬った。そんな彼女にはーー1時は復讐の鬼となり、数多の修羅場を潜り抜けーー研磨された勘がある。

その場における答えへ最短で至る道筋(手段)を導く彼女のソレは錆び付いてはおらず、生きる為に再びその歯車を回し始める。

 

 

彼女は己の勘に従って目を瞑り、耳を澄ませる。

空気を切り裂く音を元に、彼女の瞼の裏には数多の斬撃が徐々に投影され、形状や大きさが全て曝される。

目で追い切れない、ならば耳で全てを逐次捉える。

感覚を研ぎ澄まし、極限にまで引き延ばされた一呼吸の間に、その全てを彼女はやり遂げた。

一般人は勿論、多くの冒険者にとっても余りにも無茶苦茶で、滅茶苦茶な上に荒唐無稽な芸当だ。だが、彼女は限られた存在だけが到達できる領域にいる。

元lv.4は伊達ではない

 

二匹の蛇が纏う斬撃は蛇を中心に半球状に展開されている。

その事を暴いたエルフ(リュー)は棒立ちの姿勢から初動を気取らせる事なくーー済むギリギリの力を足に籠めてーー真上へ跳ぶ。端から見れば上空に突如現れた彼女は次に体を前へ傾け、背後の壁を両足で蹴る。空中で完璧な姿勢制御を見せ、蛇の間合いである半球状の円をスレスレに沿うように跳ぶ事に彼女は成功した。成功してしまった。

 

シャリリリリ

 

涼やかな音が此方に近付く事に気付いた彼女は反射的に体を丸めて防御の姿勢を取る。すると腕は鈍色の光沢を放つ刃が頭の細い蛇に絡み取られ

 

「捕まえたで!」

 

足は地面から離れている為に、ぐんと引っ張られると共に容易く体勢は崩れ、地に叩き付けられる。

 

「落ちィや!」

 

高所から叩き付けられ、バウンドするリューは(またた)いては消える閃光の檻の中で縦横無尽に、かつ不規則に跳ね飛ばされる。

リューの服が凡そ服としての機能を果たせなくなるまで蹂躙は続いた。

そして、今までの一連の動作の終わりとでも言うように、斬撃の主が体を浮かせたリューへ、ナイフのグリップをーー横向きに回転する体に追随するようにーー横凪ぎに振り払うと、届く筈の無いナイフがその体を伸ばし、リューを打ち払った。

 

「これで終いや!」

 

彼女の姿は乱回転しながら弧を描いて飛び、豊穣の女主人と描かれた看板を引っ提げた酒場の窓を突き破り、見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

最後の一撃に相応しい威力にリューは

 

 

 

 

「…一本取られた、と言うべきでしょうか」

 

 

悠然と酒場の扉を開けて女の方へ歩を進めた。

彼女の身に出来た傷は転ぶ際に出来るよりも軽い程度のすり傷ばかり、最後の一撃を負わされた背中は血が滲むだけ。

 

即座に逃げようとするも、リューの様子に固まり、頬をヒクつかせた女を余所に、彼女は舌を動かし続ける。

 

「その身一つと、武器一つで私に対抗しようとする志、称賛に値します。ですがーーー」

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー少しオイタが過ぎたみたいね…?」

 

 

 

 

 

 

 

固唾を飲んで見届けようとしていた周りの群衆は皆動けなくなった

一般人も、職務を放棄して観戦していたギルド職員も、様々な思惑をぶつけていたファミリアの眷族達も

全員が腰を抜かしたのだ

 

だが女はニマニマと嫌らしい笑みを浮かべた。リューの二つ名と、所業と偉業の双方を知らなくとも、この場で彼女の気迫にあてられた者からすれば異様な反応である。

 

「その技術、身のこなし、大方私を暗殺する為にでも送られたのでしょう。残念でしたね?ですが、安心してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺しはしません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言に籠められた殺意の丈は如何ほどか

 

大の大人が揃って失禁するような圧力の影響下でも、女は不敵な表情を崩さない。

 

「一風変わった武器ですが、手品の種が割れた以上、もう私を傷付ける事は叶わないと知りなさい」

 

「ほぉ、そうか、そうやの」

 

リューの態度が決して驕りから来るものではない、経験と強さに裏打ちされた絶対的な自信に因るモノだと女は解っている。侮っている訳ではない、理解している上で女は笑っている。

ーーーーこのままではいずれ負けることを解っているからこそ

 

「ほしたら」

 

脈絡もなく女は話を切り出す。

 

「?」

 

リューが聞く姿勢を見せた事を認めると、女はそのまま言葉を紡ぐ。

 

「わし、此処に来て日が浅いんや。これから冒険者になる後輩の為にと思って攻略の手引きってモンを教えてはくれへんか?」

 

「はぁ…」

 

何が言いたいんです?その言葉を飲み込んでリューは聞きに徹する。

 

「ご指導ご鞭撻の程をよろしゅう頼んまっせ。センパイの冒険者としてのお手並み、期待しとるで?」

 

「……えぇ、そうね」

 

女の発言の意味を理解した瞬間からぐつぐつとリューの(はらわた)が煮えたぎる。

目の前の女は「自分を攻略してみせろ」と(のたま)い、あまつさえ力の程を見せてみろなどとほざく。

だがこのままノっても面白くない。

目には目を歯には歯を、だ。

 

「じゃあ、ハンデをあげましょう。

身の程を弁える事すら知らない赤子にはこれぐらいが調度良いわ」

 

そう言ってリューは厨房から持ってきた包丁の切っ先を持ち上げ、女に突き付ける。親切な印象を与える(煽る)為ににこりと笑う事も忘れない。

 

 

 

「ーーー後悔すんなや」

 

唯一感情を表す女の瞳すら無表情になる。

 

 

 

「ーーーぬかせ!」

 

ソレを認めるとリューは構えを取った(・・・・・・)

 

 

 

 

 




キリが良さそうなので一旦切りました。

次回、リューさんの反撃が始まる(予定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。