もやしがないならじゃが丸君しかないじゃない   作:夕陽オニ

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雨の日に足を滑らせて携帯の画面が蜘蛛の巣になりました。
その日から始まったリチウム電池の異常発熱と充電が起動しながらだと追い付かない状態が恐いです。


4話

捌く、捌く、捌く

 

四方八方を取り囲み、縦横無尽に振るわれる蛇腹剣をリューは包丁一本で捌き続ける。

鞭には体幹が崩れぬように、緩やかな弧を描くように足を運び、僅かに体を逸らし、対処する。

刃には側面を柄で叩き、軌道に修正を余儀なくさせる狂いを生じさせる。ある時はしのぎを添えるように置き、触れてから離れるまでの刹那に刀身を傾け、軌道に乱れを蓄積させていく。それらを行うリューの動きは綻びのない糸の様に乱れを生じさせる事なく、一つ一つの動作を平行で完了させる。

 

焦りを戦う女と痛みへの恐怖と戦うリューの我慢比べは徐々に傾いていく。

 

「どうしました?」

 

じりじりと歩を進め、口を開いて訪ねるリューに対し、女はそれに反応しない、できる余裕がない。

 

「勝機を伺い続ける、良い心構えです。高みを目指す冒険者には重要な要素の一つですね。」

 

複数の金属音を背景にリューはここからが要点だと一つ息継ぎをする。

 

「ですが、もし機会が訪れないとしたら?」

 

変幻自在の刃の迷路の深部へ迫ったリューは何もない空間へ刃を地面と水平に突き出す。

すると包丁を首元で防ぐ女の姿が現れた。

 

「なっ」

 

「こんな言葉があります。新人は勿論、ベテランにも必ず守ってもらわねばならない必須事項の類いです。耳の穴をかっぽじって良く聞きなさい」

 

女は目の前でつらつらと言葉を紡ぐこちらに気をとられている。それを目線で理解したリューは包丁をーーーナイフの間接部の隙間に挟みーーー折る。

 

「しもうた」

 

戸惑いに戸惑いを重ねて呆気に取られる女。動きが完全に止まったその時、すかさずリューは膝で相手の腹部を強かに打ち付ける。空気が弾ける音の後、女は跪いた。その過程を一瞥した後、リューは告げた。

 

 

「冒険者は冒険してはいけない」

 

 

乱れる息をそのままに、女は感想をこぼす。

 

「…そんな、けったいな…」

 

「今、この状況が正しくソレを証明しています。違いますか?」

 

「………」

 

目は口ほどに物を言うらしい。一見やる気のない女の目は僅かに動き、狙う箇所を定め、ここから逆転する為の策を弄している。バレないと思っているものの、リューには確りと看破されていた。

 

「諦めない姿勢は良いですが…ここで一つ豆知識。詳しい事は省きますが、私達冒険者には発展スキルというモノがあります。その内の一つに耐異常と言うモノがありまして…」

 

そこまでを口にした時、肩が跳ね、一旦固まった女は溶けるように地面に伏せる。

 

「あ~しんど。最初から負けが決まってたもんやないか」

 

舌打ちした女と目を合わせたリューは口にする。

 

「ご理解いただけたでしょうか?」

 

「そりゃもう。機会が訪れないってのも」

 

「じゃあ…」

 

そこまで言って屈み、包丁を突き付けたリューの台詞を遮る形で女は口にする

 

「言っとくけど、わし、盗人ちゃうで」

 

「解ってます。だからファミリアの居場所を吐きなさい、直ぐに楽にしてあげます」

 

「殺しはせんって…」

 

「冒険者に次はないことが殆どです。いい勉強になりましたね?」

 

包丁が段々と近付けられ、目蓋へその切っ先が触れたその時

女にとっては聞き覚えのある声が耳朶をうつ

 

「大丈夫かい!」

 

その声にバッと振り向いたリューへと女は飛び付き、組み敷いた。ピコピコと黒髪のツインテールを揺らす姿を視界に納めると、女はあらんかぎりの力を以て少女に呼び掛ける。

 

「来るな!女神サマは家でじっとしとれ!」

 

これまで気の抜けた印象しかなかった新しいファミリアのただならぬ雰囲気に少女は慌てるも、女が組み敷いた相手を見ると少女は固まり、驚きを口にする。

 

「キミは…」

 

そこで何を思ったのか少女は突如として走りだし、ファミリアである女を突き飛ばす。

 

「いてっ」

 

予想外の一撃にこてりと倒れた女に、今度は少女が跨がり、胸ぐらを掴んで静かに問い掛ける。

 

「一体キミは何をしでかしたんだい?」

 

少女の青ざめた顔にドスの効いた声、良く分からない様子に戸惑うも女は弁明を図る。

 

「わしはなにもしとらん。屋根の上を散歩しとったら向こうから吹っ掛けて来たんや」

 

その言葉に少女は体をわなわなと震わせ、呟く

解ってない、この娘は解ってない。半ば確信めいた予想を心に浮かべた彼女の顔は焦燥と諦念に満ちていた。

 

「屋根の上を歩くのは怪しいヤツがすることさ、キミはそこんとこ…解ってるのかい?」

 

「…あー…すまん?」

 

「…そんなんだろうと思ったよ」

 

肩を落として息を吐く。そのまま恐る恐る少女はリューの方へ顔を向ける。と、意外、彼女は怒りもせず、単純に気になった様子で口を開いた。

 

「では伏せていたのは一体?」

 

その言葉にぎょっとした少女は顔を戻し、断頭台の刃が降り下ろされる時を待つ死刑囚の様な表情で女の言葉を待つ。

それに女は目を逸らし、頬を染めてぼそぼそと答える

 

「…ビビ…ったん…や」

 

呟かれた言葉を聞いてリューの思考は停止する。

ビビった?散々私と戦っておいてそれはないだろう。

有り得ない。

あんなに人間と戦うことに慣れた動きをするヤツがーーー

 

そこまで考えて彼女は思い出す。

彼女を見つけられたのは怪物祭の客引きの際に町を引き回されたモンスターが吠えたからだった。

それとは別に、この町へ来てまだ浅い、冒険者にこれからなる。女はそんなことを口にしてはいなかったか。

 

一方で少女は何かに撃ち抜かれたかの様に仰け反ると、女をはっしと抱き締める

 

「そうかいそうかい、恐かったんだね」

 

「ちが」

 

「ボクは決めたよ。キミを決してダンジョンには行かせない。家族のキミを危険な所には行かせられない。」

 

「だから」

 

「何よりも!ボクの胸がキミを心配する気持ちで張り裂けてしまうよ!」

 

一瞬、本当に一瞬の間だが女は少女の胸を見て考え込んでしまった。はち切れんばかりの胸は彼女のバイトのユニフォームと思しき服を引き裂かんが如く豊満であった。ぼんやりとそんな思考が独走しつつも、言い返す。

 

「…なら金の工面は」

 

「うっ″」

 

金。その単語が出た途端、少女は今までが嘘だったかの様に勢いを失った。しかし、彼女の愛は借りの海よりも深い、故にそれでもと彼女は引き下がる事をやめない。

 

言い合う両名を無視するリューにとって女への疑念は尽きないが、何れを取ってもクロと言いがたい。限り無くクロに近いが、目の前の無害そうな少女が彼女の主神ならば、或いは。

不安を拭いきれないリューは提案する。

 

「私にいい考えがあります」

 

 

「「?」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二人は一度教会へと戻り、取るものを取った後に別れの挨拶をしていた。勿論、リューの監視下でだ。

 

「あの女、ボク達がお金に困ってる事を良い事に…」

 

「まぁ、貧乏なのは事実やし」

 

「うっ″」

 

オブラートに包んで発言した少女の努力も空しく、女はストレートな表現で少女の心をぶっ刺す。

 

「給料がええ就職先が見付かった。ええことちゃうんか?」

 

「……」

 

これではない。

分からないなりに女は模索し、俯く少女の感情を考え、口にする

 

「…また会える」

 

少女は目を潤ませ、顔を上げた。女は手応えを感じ、舌を動かす

 

「わしら…家族やん?」

 

どうして疑問形なんだ。少女は喉元から出かかった言葉を必死に押し留め、家族への激励を口にする。

 

「行ってらっしゃい」

 

にかっと笑った少女に対し、女は両手の人差し指で自らの口角を上げ、笑顔を象る。

 

「行ってくる」

 

そこまで言い切ると女はぱたりと倒れた

 

「」

 

言葉を失った

どういう事だ。何が起こった。この場には倒れる人物を除き、二人しかいない。状況を説明出来そうな人物は戸惑う己がいなくなれば一人。当然、そこまで考えた少女の目はリューへと向けられた。

 

「効果が切れたみたいですね…」

 

「効果って……ぁ…まさか!」

 

思い当たる事があった少女は信じられないと言った様子で慌てふためく

 

「『狂乱』だなんて…そんな!」

 

「狂乱、ですか。確かにらしいですね」

 

すると少女は正にしまったと言う表情になり、自身の失言に顔を青くさせ、更に慌てる。

 

「あわわわわステイタスはみだりに口にしちゃいけないってヘファイストスにッ」

 

そこでリューからの疑り深い視線に気付いた少女はまたも自身の失言を悟らされ、ツインテールをぐるぐると回し始める。

 

「ヘファイストス…」

 

「これじゃあ借りがgあばばばばば」

 

リューは無駄に時間を費やす事なく少女から情報を聞き出せた(?)。勤務時間も近く、尋問を後回しにしようと考えていた彼女にとっては正に僥倖。

搾ったら沢山出てくるであろう事は想像に難くない。だが時間がない今はこれが精一杯。そう妥協したリューは痙攣する女を背負い、その場を後にした。

 

 

「ではまた来ます」

 

 

「ぇ」

 

 

不吉な言葉を残して




(窓硝子と包丁、どうしよう)
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